- 著者: Sebastian Kreiter, Mathias Vormehr, Niels van de Roemer, Mustafa Diken, Martin Löwer, Jan Diekmann, Sebastian Boegel, Barbara Schrörs, Fulvia Vascotto, John C. Castle, Arbel D. Tadmor, Stephen P. Schoenberger, Christoph Huber, Özlem Türeci, Ugur Sahin
- Corresponding author: Özlem Türeci; Ugur Sahin (TRON - Translational Oncology, University Medical Center of Johannes Gutenberg University, Mainz, Germany; BioNTech Corporation, Mainz, Germany)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-04-22
- Article種別: Original Article
- PMID: 25901682
背景
腫瘍特異的変異 (ネオエピトープ) は正常組織に発現しない理想的な免疫療法標的であるが、がんワクチンの体系的開発は各患者腫瘍が固有の変異セット (mutanome) を持つという個別性の問題に直面していた。従来のネオエピトープ選択アルゴリズムはMHCクラスI結合性に基づくCD8+T細胞誘導を優先していたが、CD4+T細胞 (ヘルパーT細胞) を標的とした変異ネオエピトープのがん免疫治療における役割は未解明であった。例えば、Tran et al. Science 2014はCD4+T細胞ががん免疫において重要な役割を果たすことを示唆したが、その網羅的な標的レパートリーや治療的応用可能性については知識ギャップが残されていた。また、Matsushita et al. Nature 2012やRobbins et al. NatMed 2013などの先行研究は変異抗原の同定とT細胞応答の関連性を示したが、MHCクラスII拘束性ネオエピトープの体系的な評価は不足していた。次世代シーケンシング・バイオインフォマティクス・合成RNA技術の進歩により個別化ネオエピトープmRNAワクチンの概念的実現が可能になり、その免疫学的基盤と臨床応用可能性の解明が求められていた。
目的
3種類のマウス腫瘍モデル (B16F10メラノーマ・CT26大腸がん・4T1乳がん) で非同義変異の免疫原性とT細胞サブセット (CD4+/CD8+) 特異性を網羅的に解析する。MHCクラスII拘束性ネオエピトープを標的としたRNA多価ネオエピトープワクチン (pentatope) の治療効果・腫瘍微小環境再形成・抗原スプレッド誘導能を示すとともに、生物情報学的選択アルゴリズム (MERIT) の有効性を検証する。
結果
がん変異の免疫原性はCD4+T細胞に偏向 (3モデルで一貫): B16F10モデルにおいて、約30%の変異ネオエピトープが免疫原性を示し、そのほぼ全て (16/17、95%) がCD4+T細胞によって認識された。CD8+T細胞認識はわずかであった。IVT mRNA形式でも同様に、10/12 (約80%) の免疫応答がCD4+T細胞によって媒介された (Extended Data Fig. 1)。CT26モデルでは約20%が免疫原性を示し、MHCクラスI好結合群でも非好結合群でもCD4+T細胞エピトープが過半数 (16/21、80%) を占めた。4T1モデルでも免疫原性エピトープの約70%がCD4+T細胞によって認識された。これら3つの独立したマウス腫瘍モデルと異なるMHCバックグラウンドで一致した結果は、腫瘍変異の免疫原性が予想外にCD4+T細胞依存的であることを示した (Fig. 1)。
単一RNA monotope (CD4+ネオエピトープ) による確立腫瘍の制御: B16-M30 (B16F10の強力なCD4+エピトープ) をコードするRNA monotopeでB16F10腫瘍担持マウス (n=10 mice) を反復免疫すると、対照RNA群が65日以内に全例死亡したのに対し、B16-M30 RNA投与群の約2/3が100日時点で生存した (p<0.05)。抗CD4抗体投与で効果が消失したが、抗CD8抗体では消失しなかったことから、腫瘍制御はCD4+T細胞依存的であることが示された (Fig. 2a)。B16-M30処置腫瘍ではCD4+およびCD8+T細胞浸潤が増加し、骨髄由来免疫抑制細胞 (MDSC) および制御性T細胞 (FoxP3+T細胞) が有意に減少した (p<0.01)。これにより腫瘍微小環境が免疫活性化方向に変化したことが示唆された。B16F10肺転移 (ルシフェラーゼ標識) も高率で消失し、生物発光イメージング (BLI) により確認された (Fig. 2b)。
RNA pentatope (多価ネオエピトープmRNA) が確立肺転移を完全拒絶: CT26ルシフェラーゼ発現細胞 (CT26-Luc) による肺転移マウス (n=10 mice) に対し2種のRNA pentatope (MHCクラスI×3+クラスII×7のネオエピトープを含む) を投与すると、Day 32時点で対照群の80%が死亡したのに対し、RNA pentatope群は全例生存した (p<0.001)。腫瘍組織のCD3+T細胞浸潤が対照群と比較して有意に増加した (p<0.01)。CD4+およびCD8+T細胞浸潤が増加し、FoxP3/CD4比は低下した (Fig. 3c)。これらのデータは、ポリネオエピトープをコードするRNAワクチンが、個々のエピトープに対するT細胞を誘導し、腫瘍病変を標的とし、腫瘍微小環境の細胞組成を再形成し、生体内での効率的な腫瘍制御をもたらすことを示唆する。
生物情報学的選択 (MERIT):MHCクラスII結合性+発現量で変異を選択する戦略が鍵: 免疫原性変異は非免疫原性変異と比較してMHCクラスII結合スコアが有意に優れていた (p<0.001、Fig. 4a)。RNA発現量 (NVRC:正規化変異リード数) とMHCクラスII結合スコアの組み合わせ (ME選択) と発現量のみ (E選択) の2群を比較した。確立CT26-Luc肺腫瘍担持マウス (n=10 mice) にPMEペンタトープ (ME群変異) を投与すると腫瘍をほぼ全例で完全拒絶したが、PEペンタトープ (E群変異) では腫瘍制御できなかった (Fig. 4b)。したがってMHCクラスII結合性の予測アルゴリズム組み込みが不可欠であることが示された。PME群ではPE群と比較してより強力なT細胞応答が誘導された (Fig. 4c)。
CD4+ネオエピトープ特異的TH細胞による抗原スプレッド・CTL誘導 (CD40L経由): PME投与マウスの血液・脾臓でgp70-AH1 (内因性MuLV由来の免疫優性CTLエピトープ) に対するCD8+T細胞応答が著明に増加した (ELISpot、p<0.01) が、PE群では増加しなかった (Fig. 4e)。これはPMEによるCD4+TH細胞誘導がCD40L (CD40リガンド) 経由で樹状細胞 (DC) を活性化し、抗原スプレッドによってgp70特異的CTLを誘導する機序を示唆する。PMEの抗腫瘍効果はCD8+T細胞枯渇およびCD40L遮断により消失した (Fig. 4d)。
ヒトがんにMHCクラスII結合変異が豊富に存在: TCGAデータ解析 (SKCM、COAD、BRCA) でも同様のアルゴリズムを適用すると、MHCクラスII (HLA-DRB1) 結合性変異がゲノム・発現・提示可能な変異の大部分を占めることを確認し、マウスモデルの知見がヒトがんに外挿可能であることを示した (Fig. 4f)。メラノーマ患者でのfirst-in-concept試験 (NCT02035956) が実行可能であることを実証した。
考察/結論
本論文はSahin・Türeci (Mainz大学医学部/BioNTech) グループが個別化ネオエピトープmRNAがんワクチン (MERIT: mutanome engineered RNA immunotherapy) の概念的・実験的基盤を確立した先駆的研究である。
先行研究との違い: 本研究の最も革新的な知見は「がん変異の大部分がCD4+T細胞によって認識される」という、従来のCD8+CTL中心主義の常識を覆す発見である。これは、MHCクラスII結合性の高い変異の方がMHCクラスI結合性の高い変異よりもむしろ優先的な免疫療法標的となるという逆説的概念を実証した点で、これまでの報告とは対照的である。
新規性: 本研究で初めて、CD4+TH細胞が「CD40L→DC活性化→CTL誘導 (cross-priming) →epitope spreading」という連鎖を介して腫瘍拒絶を達成するというメカニズムを新規に示した。これはネオエピトープ中のCD4+エピトープが本質的重要性を持つことを意味する。また、「RNA pentatope」というコンセプト (複数のネオエピトープを単一mRNAに連結) は、BioNTechのmRNAがんワクチン (BNT111・BNT122等) 開発の直接的出発点となり、2023年以降の個別化mRNAがんワクチンのPhase II/III試験 (KEYNOTE-942等でmelanomaでRFSを改善) の基礎科学的根拠を提供した。
臨床応用: MERIT概念 (MHC II binding + expression-based bioinformatic prioritization) はその後のがんワクチン設計の標準的アルゴリズムとして採用され、その臨床的有用性が示されている。本アプローチは、腫瘍にT細胞浸潤が不足している患者の腫瘍微小環境を再形成するのに特に有用である可能性があり、Tumeh et al. Nature 2014やRizvi et al. Science 2015が示すように既存の免疫チェックポイント阻害療法と組み合わせることで、その臨床成功率を高める可能性を秘めている。
残された課題: 今後の検討課題として、ヒトでのCD4+T細胞ネオエピトープ誘導の確認、GMP製造の自動化、チェックポイント阻害薬との最適組み合わせ、Gerlinger et al. NEnglJMed 2012が指摘するようなクローン不均一性や抗原エスケープへの対応戦略の開発が残されている。
方法
マウス腫瘍モデル3種 (B16F10/C57BL/6、CT26/BALB/c、4T1/BALB/c) で変異をexome sequencing等で同定した。27merペプチドまたはIVT (in vitro transcribed) mRNA (RNA monotope) として変異エピトープをコードし、免疫後の脾細胞または腫瘍浸潤リンパ球でIFN-γ ELISpotによる免疫原性試験・MHC II遮断・細胞内サイトカイン染色でCD4+/CD8+分類を行った。RNA pentatope (5変異エピトープを連結したmRNA) を設計・製造して確立腫瘍マウスに繰り返し投与した。BLI (生物発光イメージング)、病理、フローサイトメトリー、CD4/CD8/CD40L枯渇実験で効果解析を行った。CD4枯渇には抗CD4抗体 (クローンYTS169.1) を、CD8枯渇には抗CD8抗体 (クローンYTS191) を、CD40L遮断には抗CD40L抗体 (クローンMR1) をそれぞれ200 µg/mouseで腹腔内投与した。統計解析にはStudent’s t検定、Mann-Whitney U検定、ログランク検定を用いた。TCGAデータ (ヒトSKCM・COAD・BRCA) でヒトがんにおけるMHCクラスII結合変異の頻度を解析した。