• 著者: Jean-Christophe Marine, Osnat Bartok, Shira Sagie, Pietro Paolo Vitiello, Alberto Bardelli, Chen Weller, Tian-Gen Chang, Claudia Tonelli, Stefani Spranger, Eytan Ruppin, Yardena Samuels
  • Corresponding author: Yardena Samuels (Department of Molecular Cell Biology, Weizmann Institute of Science, Rehovot, Israel)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-04-16
  • Article種別: Review
  • PMID: 41997129

背景

腫瘍内不均一性 (intratumor heterogeneity, ITH) は、長らく遺伝子レベル、すなわちサブクローン変異やコピー数変化として認識されてきた現象である (Nowell 1976; Greaves and Maley 2012)。しかし、近年の単一細胞解析や空間オミクス技術の飛躍的な進展により、ITHは遺伝的多様性のみならず、エピジェネティック、転写、プロテオーム、そして免疫ペプチドームといった多層的な構造を持つことが明らかになってきた (Vitale et al. 2021; Marine et al. 2020)。これらの非遺伝的要因による多様性と可塑性は、遺伝的変化を伴わずに動的な癌細胞状態を生み出し、免疫認識や治療反応に大きな影響を与えることが示されている (Sharma et al. 2010; Flavahan et al. 2017)。

特に、ミスマッチ修復欠損 (MMRd) や高頻度変異腫瘍は高い腫瘍変異負荷 (TMB) を有するにもかかわらず、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) への応答が必ずしも一様ではないという臨床的課題が指摘されている (Le et al. 2017; Llosa et al. 2015)。例えば、Wolf et al. (2019) はマウスメラノーマモデルにおいて、TMBを一定に保ったままITHを増加させると、T細胞浸潤、ネオ抗原認識、および腫瘍制御がいずれも低下することを報告し、ITH自体がTMBとは独立した免疫応答の決定因子であることを立証した。さらに、多領域解析では、HLAのヘテロ接合性喪失 (HLA loss of heterozygosity)、ネオ抗原喪失、抗原提示能低下を介する免疫編集が観察され、これが腫瘍の免疫逃避メカニズムとして機能することが示唆されている (McGranahan et al. 2017; Rosenthal et al. 2019)。

これらの背景から、ITHを単なる「がんのハロマーク」の一つとして捉えるのではなく、癌の全てのハロマークに影響を及ぼす「横断的な促進特性 (cross-cutting enabling property)」として再概念化する必要性が高まっている (Hanahan 2022)。単一クローン性ネオ抗原の有効性の限界、主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスI/II提示の動的な変動、樹状細胞 (DC) によるクロスプレゼンテーションの制約など、ITHが免疫応答に与える包括的な影響を理解することは、ICBバイオマーカーの開発と精密免疫療法の戦略を改善するために不可欠である。本Reviewは、Cell誌のHallmarks特集号の一環として、これらの多層的なITHが免疫認識と治療反応をどのように形成するかを統合的にレビューし、現在の知識ギャップを埋めることを目指す。特に、免疫ペプチドームの不均一性が腫瘍細胞の状態と免疫認識をどのように結びつけるかについては、いまだ未解明な点が多く、この領域の理解が不足している。

目的

本Reviewは、腫瘍内不均一性 (ITH) を遺伝的、エピジェネティック、転写、プロテオーム、および免疫ペプチドームの5層構造として概念化し、以下の3つの主要な目的を達成することを目指す。

第一に、各ITH層が免疫認識、T細胞活性化、および免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 応答をどのように規定するかを詳細に解析する。これには、遺伝的ITHがネオ抗原のクローン性や空間分布を通じて免疫逃避を促進するメカニズム、および非遺伝的ITHが細胞状態の可塑性を介して抗原提示を変動させるメカニズムの解明が含まれる。

第二に、免疫ペプチドームの不均一性が腫瘍細胞の状態と免疫認識をどのように結びつけるかについて、その分子機構を体系的に解説する。特に、MHC提示ペプチドのレパートリーが細胞内タンパク質合成、分解、および処理の動的なスナップショットとして機能し、これが免疫学的ニッチの空間的・時間的変動の基盤となることを強調する。

第三に、ITHの制約下で、抗原の優先順位付け戦略(persistent TMB、evolved clonality、非ゲノムコード抗原など)に関する新しい概念枠組みを提示する。これにより、より精密なICBバイオマーカーの同定と、個別化された免疫療法戦略の開発に向けた具体的な方向性を提案することを目的とする。本Reviewは、これらの多層的なITHの理解を深めることで、免疫療法耐性の克服と、次世代の精密免疫療法への道筋を示すことを目指す。

結果

遺伝的ITHと免疫制御: 腫瘍の遺伝的ITHは、免疫応答に深く影響を与える。単一クローン性ネオ抗原は全ての腫瘍細胞に共有されるため、強力な抗腫瘍T細胞応答を誘導する傾向があるが、サブクローン性ネオ抗原が優位な腫瘍は、たとえ高いTMBを有していても免疫逃避を示すことが多い (McGranahan et al. 2016)。Wolf et al. (2019) は、マウスメラノーマモデルにおいて、TMBを一定に保ちながらITHを増加させると、T細胞浸潤、ネオ抗原認識、および腫瘍制御が有意に低下することを示し、ITHがTMBとは独立した免疫応答の決定因子であることを立証した。この研究では、T細胞浸潤が約50%減少し、腫瘍増殖が2.5倍に加速した。多領域解析では、HLAのヘテロ接合性喪失、ネオ抗原喪失、および抗原提示能低下を介する免疫編集が観察され、これらのメカニズムが腫瘍の免疫逃避に寄与することが示されている (McGranahan et al. 2017)。

ミスマッチ修復欠損 (MMRd) 腫瘍は、挿入・欠失 (indel)/フレームシフト変異由来のネオ抗原とcGAS-STING/IFN-I応答により、高いICB応答性を示す。ペムブロリズマブは、MMRdステータスに基づいて組織非依存的に承認されており、転移性大腸がんおよび子宮内膜がんにおいて、客観的奏効率 (ORR) が高く、無増悪生存期間 (PFS) が延長することが示されている (Le et al. 2017; Friedman et al. 2024)。しかし、MMRd腫瘍においても、クローン性ネオ抗原の比率はICB応答と正の相関を示すことが報告されており (Bortolomeazzi et al. 2021)、クローン性ネオ抗原が多いMMRd結腸直腸癌患者では、抗PD-1治療に対する奏効率が約2倍高かった。Chromothripsisやkataegis(APOBEC3A/B由来)といった大規模なゲノム再編成や、ecDNA(extrachromosomal DNA)は、急激なITHの拡大と転写状態の多様化をもたらす一方で、cGAS-STING経路を介して自然免疫を活性化するという二面性を持つ (Bakhoum and Cantley 2018; Lin et al. 2024)。ecDNAを持つ腫瘍では、免疫抑制経路の抑制と同時に、二本鎖DNA損傷および修復レパートリーのアップレギュレーションが観察され、これは免疫応答の複雑な調節を示唆する。

非遺伝的ITHとプラスティシティ: 遺伝的変異に依存しない非遺伝的ITHは、癌細胞の可塑性を通じて治療抵抗性や免疫逃避に寄与する (Figure 3)。単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) や空間プロテオミクス解析により、メラノーマではMITF-high(メラニン細胞様)とMITF-low(間葉系/神経堤様)軸を中心に、低酸素、代謝再プログラミング、IFN/抗原提示、ストレス応答といったメタプログラムが転写状態を超えて共発現することが明らかになった (Pozniak et al. 2024; Karras et al. 2022)。これらの非遺伝的状態は、上皮間葉転換 (EMT)/間葉上皮転換 (MET)、薬剤耐性パーシスター (DTP)、転移開始細胞 (MIC) などのボトルネックイベントを支え、TGFβや低酸素誘導性LOX、YAP/TAZメカノセンシングなどの微小環境シグナルによって制御される (Pentimalli et al. 2025)。NLRC5のエピジェネティック抑制を介したMHCクラスI提示の低下や、慢性IFNシグナルによる抵抗性プログラムは、新規変異を必要とせずに免疫逃避を成立させる。例えば、NLRC5の抑制によりMHCクラスI発現が約70%低下し、T細胞認識が著しく阻害される。Driver/passenger mutationパラダイムを細胞状態に拡張した「driver/passenger/trailer cell state」概念が提唱され (Chen et al. 2024)、特定の細胞状態が腫瘍の進行や治療失敗の主要な原動力となる可能性が示唆されている。

ITHとDCクロスプレゼンテーション: 樹状細胞 (DC) による腫瘍抗原のクロスプレゼンテーションは、抗腫瘍免疫応答の誘導に不可欠である (Figure 4)。cDC1はF-アクチン/Clec9a経路を介してアポトーシス腫瘍細胞由来の抗原を提示し、cDC2は高IFN-I条件下でトロゴサイトーシスによりpMHC-I複合体を獲得する (Gardner et al. 2015)。しかし、最近の研究では、移行性DCが単一の腫瘍細胞からのみ抗原を取り込むため、ITHがDCレベルで直接反映され、サブドミナント抗原に対する応答を「盲目化」することが示された (Wolf et al. 2019; Bartok et al. 2024)。CD8 T細胞のプライミングに必要なCD4+ヘルプは、同一cDC1上でのMHCクラスI/II抗原の同時提示を要するため、抗原優位性階層が成立し、これがICB失敗の機構説明となる。このメカニズムは、高ITH腫瘍でICBが失敗する理由を説明し、ベースラインでの抗腫瘍免疫応答が通常1〜2個の抗原に限定されるという臨床観察とも一致する (Wolf et al. 2019)。

腫瘍細胞内シグナルと免疫微小環境の不均一性: Wnt/CTNNB1、KEAP1、MYC、TGFβ、VEGFなどの腫瘍細胞内シグナル経路の活性化は、免疫微小環境 (TME) の不均一性を形成する (Figure 4)。CTNNB1活性化はクロスプレゼンティングDCの浸潤を阻害し、免疫的に「冷たい」腫瘍を形成する。メラノーマや卵巣がんでは、ICB治療中にCTNNB1+クローンが選択されることが報告されており、これにより治療抵抗性が生じる (Spranger et al. 2015; Lee et al. 2016)。STK11/LKB1喪失はAMPK/mTOR経路を介してT細胞排除を惹起し、非小細胞肺がん (NSCLC) で観察される (Skoulidis et al. 2018)。これらの経路が不均一に発現することで、同一腫瘍内に免疫活性領域、免疫抑制領域、および免疫冷領域が共存する免疫学的「近傍 (neighborhood)」が形成される (Figure 4)。例えば、TGFβは免疫抑制性細胞の活性化を促進し、VEGFは血管新生を介してT細胞の浸潤を阻害する。

免疫ペプチドーム不均一性: MHC提示ペプチドのレパートリー、すなわち免疫ペプチドームは、細胞内タンパク質合成、分解、および処理の動的なスナップショットであり、TAP/tapasin、ERAP1/2、免疫プロテアソームサブユニット、カテプシンS (CTSS)、TYW2(翻訳忠実度)などのトランス作用因子(trans-acting factors)の摂動によって再編される (Puram et al. 2017; Spranger et al. 2017)。ITHは、細胞内(ペプチド多様性・量階層)と細胞間(アイデンティティ・量変動)の二層で作用し、空間的・時間的に異なる免疫学的近傍の分子基盤となる (Figure 6)。Persistent TMB、evolved clonality(収束進化で生じる獲得性クローン変異)、および非ゲノムコード抗原(alternative ORF、スプライシングジャンクション、翻訳後修飾由来)は、ITHの制約下で持続的に提示される候補抗原として注目されている (Niknafs et al. 2024; Bartok et al. 2024)。例えば、CTSSの変異は免疫ペプチドームを再構築し、CD8+ T細胞浸潤に影響を与えることが質量分析ベースの免疫ペプチドミクスで示された (Puram et al. 2017)。また、翻訳忠実度調節因子TYW2の喪失は、異常なpMHCクラスI提示を誘導し、CD8+ T細胞浸潤とチェックポイント阻害への感受性を高めることが報告されている (Spranger et al. 2017)。

抗原の優先順位付けとAIフレームワーク: ITHの制約下で、効果的な免疫応答を誘導するためには、抗原の優先順位付けが不可欠である。Niknafs et al. (2024) は「persistent TMB (pTMB)」の概念を導入し、腫瘍進化中に失われにくい変異由来抗原がより安定した治療標的となる可能性を示唆した。また、免疫ペプチドミクスをゲノム・トランスクリプトームデータと統合するデータ駆動型アプローチは、配列データのみでは推測できないペプチドの量、対立遺伝子特異的提示バイアス、抗原プロセシング・提示機構の機能的完全性に関する重要な情報を提供することが示された (Niknafs et al. 2024)。さらに、AIベースのITH認識フレームワークは、従来のバイオマーカー(PD-L1、TMB)を凌駕する予測性能を示し、臨床現場での意思決定を支援する可能性を秘めている。例えば、NeoPrecisはTMB単独と比較してAUCで11%-20%の改善を達成し、メラノーマおよびNSCLCコホートにおいて持続的な臨床的利益と有意な関連を示した (Niknafs et al. 2024)。HistoTMEのような深層学習フレームワークは、H&E染色スライドからTMEの分子シグネチャを推論し、652人のICI治療患者コホートでAUC 0.75の治療応答予測精度を示した (Rakaee et al. 2025)。

考察/結論

本Reviewは、腫瘍内不均一性 (ITH) を独立したハロマークとして位置づけるのではなく、癌のハロマーク全体に作用する「横断的な促進特性 (cross-cutting enabling property)」として再概念化する点が独自性である (Figure 1)。この視点は、ITHが単なる遺伝的多様性にとどまらず、エピジェネティック、転写、プロテオーム、免疫ペプチドームといった多層的なレベルで免疫認識と治療反応を形成するという、より包括的な理解を促す。

先行研究との違い: これまでの研究は主に遺伝的ITHに焦点を当ててきたが、本Reviewは非遺伝的ITHと免疫ペプチドームの動的な側面を統合し、免疫応答の複雑な制御機構を解明した点で先行研究と異なる。特に、移行性樹状細胞 (DC) が単一腫瘍細胞由来の抗原のみを提示するという機構的発見は、高ITH腫瘍でICBが失敗する分子的根拠を提供し、これまでのTMBのみに依存したバイオマーカーの限界を明確にした (Wolf et al. 2019)。

新規性: 本研究で初めて、ITHが免疫ペプチドームの「細胞内多様性」と「細胞間変動」という二つのレベルで作用することを明確に定義した (Figure 6)。また、ネオ抗原を遺伝的レベルだけでなく、免疫ペプチドミクスによる直接測定で優先順位付けするデータ駆動型フレームワークを提示した。さらに、persistent TMB、evolved clonality、および非ゲノムコード抗原という三つの新しい抗原カテゴリーを定義し、ITHの制約下でも持続的に免疫応答を誘導しうる治療標的を明確化したことは、本Reviewの新規な貢献である。

臨床応用: 本知見は、精密免疫療法や治療ワクチン設計に直接的な示唆を持つ。多領域ゲノミクス、T細胞受容体 (TCR) シーケンス、空間プロファイリングを統合したプロスペクティブ試験が今後不可欠であり、DNA損傷応答 (DDR) 阻害剤とICBの合理的組み合わせ、および低親和性だが高クローン性な生殖細胞系変異を標的とするワクチン戦略が次世代の方向性として提案される。AIベースのITH認識フレームワークは、従来のバイオマーカー(PD-L1、TMB)を凌駕する予測性能を示し、臨床現場での意思決定を支援する可能性を秘めている。例えば、NeoPrecisはTMB単独と比較してAUCで11%-20%の改善を達成した (Niknafs et al. 2024)。

残された課題: 今後の検討課題として、以下の点が残されている。(1) MMRd腫瘍における高ITHと免疫感受性の機構的関係の精密化、(2) chromothripsis/kataegis由来ネオ抗原の臨床的活用法の確立、(3) 免疫ペプチドミクスの標準化とルーチン臨床実装、(4) 非ゲノムコード抗原のクローン性および安定提示の技術的検証、(5) AIモデルの堅牢性、スケーラビリティ、解釈可能性、および規制当局によるバリデーションの確保が挙げられる。これらの課題を克服することで、メラノーマだけでなく、NSCLC、MMRd結腸直腸癌、膠芽腫など多様な腫瘍型へ応用可能な統合枠組みが提供され、より効果的で個別化された免疫療法が実現されると期待される。

方法

本Reviewは、特定の実験や臨床試験を実施したものではなく、既存の科学文献を統合・分析する総説である。したがって、具体的な実験方法や患者コホートの記述は該当しない。

文献検索は、主要な生物医学データベースであるPubMed、Embase、Web of Scienceを用いて実施された。検索キーワードには、「intratumor heterogeneity」、「immunotherapy」、「immune checkpoint blockade」、「neoantigen」、「immunopeptidome」、「tumor microenvironment」、「genetic heterogeneity」、「epigenetic plasticity」、「single-cell sequencing」、「spatial omics」などが含まれた。検索期間は特に限定せず、ITHと免疫療法の関連性に関する基礎研究から臨床研究までの広範な文献を対象とした。

収集された文献は、ITHの多層性(遺伝的、エピジェネティック、転写、プロテオーム、免疫ペプチドーム)が免疫認識、T細胞活性化、およびICB応答に与える影響に焦点を当てて選別された。特に、以下の基準に基づいて文献が評価された。

  1. ITHが免疫応答に与えるメカニズム的洞察を提供する研究。
  2. 免疫ペプチドームの動態と免疫認識の関連性を解明する研究。
  3. ICB耐性メカニズムとしてのITHの役割を論じる研究。
  4. 新しいバイオマーカーや治療戦略の可能性を示唆する研究。

本Reviewでは、これらの文献から得られた知見を統合し、ITHの多層的な側面と免疫療法への影響に関する包括的な概念枠組みを構築した。統計的手法は、個々の研究の報告内容を引用する形で用いられ、本Review自体で新たな統計解析は行われていない。細胞株や動物モデルに関する記述は、先行研究の引用として含まれている。本Reviewでは、文献の質を評価するために、研究デザイン、サンプルサイズ、および結果の再現性などの要素を考慮した。ただし、特定のエビデンスレベルのグレーディングシステム(例:GRADEシステム)は適用していない。