- 著者: Robert J. North
- Corresponding author: Robert J. North (Trudeau Institute, Saranac Lake, NY, USA)
- 雑誌: Journal of Experimental Medicine
- 発行年: 1982
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 6460831
背景
養子免疫療法によるT細胞移入は、腫瘍移植後早期の免疫付与には有効であるものの、確立した進行性腫瘍に対する治療効果の実証は長らく困難な課題であった (Rosenberg and Terry 1977)。North研究室の先行研究 (Berendt and North 1980; Dye and North 1981) では、免疫原性腫瘍の進行性増殖が宿主においてT細胞介在性の免疫抑制機構を誘導することが示されていた。この免疫抑制機構の存在は、以下の2点から示唆された。第一に、胸腺摘除と放射線照射によりT細胞欠損状態にしたマウスでは、養子移入された腫瘍感作T細胞が確立した腫瘍を完全に退縮させるのに対し、正常マウスでは効果が認められなかった。第二に、腫瘍担持マウスの脾臓T細胞をT細胞欠損マウスに先行して輸注すると、養子移入T細胞による腫瘍退縮効果が無効化された。これらの知見に基づき、著者は「免疫原性腫瘍の進行性増殖は、随伴免疫 (concomitant immunity) の発生と同時に、それを負に制御するサプレッサーT細胞の生成を促す」という仮説を提唱した (North et al. 1981)。この仮説は、腫瘍が十分に破壊される前にエフェクターT細胞の機能が抑制されることを示唆するものであった。
一方、シクロホスファミド (cyclophosphamide) は、複数の抗原応答においてサプレッサーT細胞を選択的に排除することで細胞性免疫を増強することが知られていた (Glaser 1979; Rollinghoff et al. 1977)。この薬剤がサプレッサーT細胞の前駆細胞を排除するメカニズムは、接触過敏症や遅延型過敏症のモデルで報告されていた (Sy et al. 1979; Sy et al. 1980)。しかし、確立した腫瘍に対する養子免疫療法の文脈において、シクロホスファミドが腫瘍誘導性のサプレッサーT細胞を直接除去し、それによって養子移入T細胞の抗腫瘍機能を回復させるという直接的な証拠は、当時まだ十分に確立されていなかった。特に、腫瘍の進行に伴って分化したサプレッサーT細胞が、養子免疫療法の主要な障害となっている可能性が指摘されていたものの、その詳細な機序には未解明な点が残されていた。本研究は、この知識のギャップを埋め、シクロホスファミドが養子免疫療法の効果を促進する具体的なメカニズムを解明することを目的とした。特に、腫瘍誘導性のサプレホスファミド感受性サプレッサーT細胞の排除が養子免疫療法の成功を阻害する主要な要因であるという仮説を直接的に検証することが不足していた。
目的
本研究の目的は、シクロホスファミド前処置が確立したメチルコラントレン誘発Meth A線維肉腫に対する養子免疫療法の効果を促進するかどうかを検証することである。具体的には、シクロホスファミドが腫瘍誘導性のサプレッサーT細胞を選択的に除去することで、養子移入された腫瘍感作T細胞が確立した腫瘍を退縮させる能力を獲得できるかを評価する。さらに、この治療効果がシクロホスファミド感受性のサプレッサーT細胞の存在に依存することを直接的に示すことを目指す。これにより、養子免疫療法の成功における免疫抑制解除の重要性を明確にし、その機序を解明する。本研究は、シクロホスファミド単独または免疫T細胞の養子移入単独では効果が限定的であるのに対し、両者の併用が完全かつ永続的な腫瘍退縮を誘導できることを示すことを意図している。また、この併用療法の効果が、腫瘍担持マウスから得られたシクロホスファミド感受性サプレッサーT細胞の移入によって完全に阻害されることを実証し、これらのサプレッサーT細胞がシクロホスファミド処理により脾臓から除去されることを確認する。
結果
シクロホスファミド単独または免疫細胞単独では腫瘍退縮効果が限定的: シクロホスファミド単独投与では、確立したMeth A線維肉腫に対する治療効果は限定的であった。図1に示すように、腫瘍移植後6日目または9日目に160 mg/kgのシクロホスファミドを静脈内投与した場合、腫瘍は数日間わずかに退縮したものの、その後元の速度で再増殖した。全身放射線照射 (650 rad) を腫瘍細胞移植直前に行ったマウスにおいても、シクロホスファミドの抗腫瘍効果は同程度であり、この結果はシクロホスファミドの抗腫瘍効果が直接的な腫瘍細胞傷害によるものであり、免疫応答の増強によるものではないことを示唆した。ルーチン実験で使用された100 mg/kgの用量では、腫瘍増殖が数日間プラトーに達するのみで、明確な腫瘍退縮は認められなかった。この用量では、腫瘍サイズは治療後も有意に減少しなかった (p>0.05)。
免疫脾細胞単独では確立腫瘍に対する効果なし: 腫瘍免疫ドナーマウス由来の免疫脾細胞1.5×10⁸ cellsを静脈内輸注する単独療法では、4日目腫瘍の増殖に全く影響を与えなかった (図2)。腫瘍細胞移植後1時間以内に免疫細胞を輸注した場合でも、わずかな抑制効果しか観察されず、この標準的な数の免疫脾細胞 (n=5 mice per group) では、腫瘍移植の増殖を阻止することさえ困難であることが示された。腫瘍増殖曲線は、未治療の対照群と統計的に有意な差を示さなかった (p>0.1)。
シクロホスファミドと免疫細胞の併用療法による完全な腫瘍退縮: シクロホスファミドと免疫脾細胞の併用療法は、確立したMeth A線維肉腫に対して顕著な治療効果を示した。腫瘍移植後4日目に100 mg/kgのシクロホスファミドを静脈内投与し、その1時間後に1.5×10⁸ immune spleen cellsを静脈内輸注したところ、全てのレシピエントマウス (n=5 mice) で完全な腫瘍退縮が観察され、60日間の観察期間中に再発は認められなかった (図3)。対照的に、シクロホスファミド単独ではわずかな効果しかなく、免疫細胞単独では全く効果がなかった。正常脾細胞を免疫脾細胞の代わりに輸注した場合には、併用効果は認められなかった。この併用療法群の腫瘍退縮は、単独療法群と比較して統計的に極めて有意であった (p<0.001)。
併用療法は様々なサイズの確立腫瘍に有効: この併用療法は、比較的大きな腫瘍に対しても有効であった。腫瘍移植後3日目、6日目、さらには9日目の腫瘍に対しても、シクロホスファミド前処置と免疫脾細胞の輸注により完全な腫瘍退縮が誘導された (図4)。特に9日目腫瘍は正常足底の約3倍のサイズであったが、このサイズの腫瘍に対しても併用療法は成功した。この結果は、併用療法の成功がシクロホスファミドによる腫瘍サイズの直接的な減少に依存するのではなく、免疫介在性のメカニズムによるものであることを強く示唆している。9日目腫瘍に対する治療後も、腫瘍サイズは治療前と比較して約3-foldの減少を示し、最終的に完全に退縮した。
併用療法による腫瘍退縮は、腫瘍誘導性サプレッサーT細胞の輸注により完全に阻害される: シクロホスファミドと免疫細胞の併用療法によって誘導された腫瘍退縮は、確立した腫瘍を担持するドナーマウス由来の脾細胞を輸注することで完全に阻止された。併用療法を4日目腫瘍に対して実施し、その24時間後に12日目腫瘍担持ドナー由来の脾細胞1.5×10⁸ cellsを静脈内輸注すると、腫瘍はシクロホスファミド単独投与時と同様の一時的な退縮後に再増殖する挙動を示した (図5)。正常ドナー由来の脾細胞を輸注した場合には、併用療法の効果に影響はなかった (p>0.05)。この抑制効果は、BALB/c同系マウスモデルでも再現され (図7)、半同系CB6F1マウスモデルに特異的な現象ではないことが確認された。
サプレッサー細胞はThy-1陽性T細胞である: この抑制作用を担う脾細胞がT細胞であることは、抗Thy-1.2抗体と補体による処理によって示された。図6に示すように、12日目腫瘍担持ドナー由来の脾細胞を抗Thy-1.2抗体と補体で処理すると、そのサプレッサー機能は完全に消失した。処理後の細胞を輸注した群では、腫瘍退縮が再開し、未処理のサプレッサー細胞を輸注した群と比較して有意な差が認められた (p<0.01)。この結果は、腫瘍誘導性の免疫抑制がThy-1陽性T細胞によって媒介されることを明確に実証した。
サプレッサーT細胞はシクロホスファミド感受性であるが、免疫T細胞は抵抗性である: シクロホスファミドがサプレッサーT細胞を選択的に排除するという仮説を検証するため、12日目腫瘍担持ドナーマウス (n=5 mice) に100 mg/kgのシクロホスファミドを24時間前に投与した後、脾細胞を採取した。これらの脾細胞をレシピエントマウスに輸注したところ、通常の3倍量 (3 spleen equivalents; 約4.5×10⁸ cells) を輸注しても、サプレッサー機能は完全に消失していた (図8)。これは、シクロホスファミドが腫瘍誘導性のサプレッサーT細胞を効果的に破壊することを示している。輸注された脾細胞による腫瘍抑制効果は認められず (p>0.1)。
対照的に、腫瘍免疫ドナーマウスに100 mg/kgのシクロホスファミドを24時間前に投与しても、その脾細胞の抗腫瘍能には全く影響がなかった (図9)。シクロホスファミド処理された免疫ドナー由来の脾細胞は、1 spleen equivalent (5×10⁷ cells) または3 spleen equivalents (1.5×10⁸ cells) のいずれの量でも、シクロホスファミド前処置レシピエントにおいて腫瘍退縮を誘導した。この結果は、腫瘍免疫ドナーから得られた免疫T細胞 (おそらくメモリーT細胞やヘルパーT細胞といった非増殖性の細胞) がシクロホスファミドに対して抵抗性であることを示唆している。これにより、シクロホスファミドがサプレッサーT細胞を選択的に排除し、免疫エフェクターT細胞の機能を温存することで、養子免疫療法の効果を促進するというメカニズムが強く支持された。シクロホスファミド処理した免疫細胞の治療効果は、未処理の免疫細胞群と比較して統計的に差がなかった (p>0.05)。
考察/結論
本研究は、シクロホスファミド前処置養子免疫療法の機序を明確に解明した。確立した免疫原性腫瘍であるMeth A線維肉腫は、進行性増殖中にT細胞介在性の随伴免疫と、それを負に制御するシクロホスファミド感受性サプレッサーT細胞の両方を誘導することが示された。養子移入された免疫T細胞のエフェクター機能は、このサプレッサーT細胞によって阻害されるため、シクロホスファミドによるサプレッサーT細胞の選択的除去が養子免疫療法を成功させるための必須条件であることが実証された。この治療効果は、腫瘍サイズの減少(バルク縮小)ではなく、免疫抑制の解除がシクロホスファミド前処置の主要な機序であることを示唆する。
先行研究との違い: 接触過敏症や遅延型過敏症における先行研究 (Sy et al. 1979; Sy et al. 1980) は、シクロホスファミドがサプレッサーT細胞の前駆細胞を排除することを示唆していた。しかし、本研究は、腫瘍担持マウスから得られたサプレッサーT細胞が、正常ドナー由来のT細胞とは異なり、養子免疫療法の効果を直接的に抑制することを示した。このことは、シクロホスファミドが「サプレッサー前駆細胞」ではなく、「抗原によって分化したサプレッサーT細胞」を直接除去することが、確立した腫瘍に対する治療効果に必須であることを示した点で新規性がある。正常T細胞輸注では抑制効果が消失しないが、腫瘍担持動物由来T細胞のみが抑制するという知見がこの区別を支持する。
新規性: 本研究で初めて、確立した免疫原性腫瘍に対する養子免疫療法の成功が、腫瘍によって誘導されるシクロホスファミド感受性サプレッサーT細胞の排除に依存することを直接的かつ定量的に実証した。特に、シクロホスファミドが免疫エフェクターT細胞の機能に影響を与えずにサプレッサーT細胞を選択的に除去できるという知見は、当時の腫瘍免疫療法における重要な進展であった。この選択的排除のメカニズムは、養子免疫療法の効果を最大化するための戦略を設計する上で極めて重要な情報を提供する。
臨床応用: 本研究の知見は、現代の腫瘍免疫療法、特にCAR (chimeric antigen receptor)-T細胞療法やTIL (tumor-infiltrating lymphocyte) 療法におけるリンパ球除去前処置 (lymphodepleting pre-conditioning) の理論的基盤を提供するものである。シクロホスファミドやフルダラビンを用いたリンパ球除去は、これらの細胞療法においてエフェクターT細胞の生着と抗腫瘍効果を増強するために広く用いられている。本研究は、この前処置が腫瘍誘導性の免疫抑制性細胞、特にサプレッサーT細胞を排除することで、養子移入されたエフェクターT細胞がその抗腫瘍機能を十分に発揮できる環境を整えるという概念を確立した。Fefer (1972) のMSV (murine sarcoma virus) 肉腫モデルやGreenberg et al. (1981) のFriendウイルス白血病モデルと共に、シクロホスファミド前処置と養子T細胞輸注が播種性腫瘍にも有効であることを示した先駆的研究であり、現代のTreg枯渇戦略 (例: 抗CD25抗体、低用量シクロホスファミド) の萌芽的証拠となる。これらの知見は、臨床現場での免疫療法効果の最適化に直結する臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題として、サプレッサーT細胞のより詳細な細胞表面マーカーの同定が挙げられる (本研究当時、CD25やFoxP3は未発見であったため、現代ではTregが主要なサプレッサー候補となる)。また、細胞傷害性エフェクターT細胞がシクロホスファミド感受性であるか抵抗性であるかの直接的な検討は未実施であり、この点も今後の研究で明らかにする必要がある。さらに、サプレッションの具体的な機序 (サイトカイン依存性か細胞接触依存性かなど) の解析や、他の腫瘍モデル (非免疫原性腫瘍など) への本知見の一般化可能性も残された課題である。これらのlimitationを克服することで、より広範な腫瘍に対する効果的な免疫療法戦略の開発に繋がるだろう。
方法
マウスおよび腫瘍モデル: 特定病原体フリー (SPF) のBALB/cおよびCB6F1 (BALB/c × C57BL/6) マウスをTrudeau Institute Animal Breeding Facilityから入手した。使用した腫瘍は、メチルコラントレン誘発Meth A線維肉腫であり、BALB/cマウスに同系である。この腫瘍はDr. Lloyd J. Oldより提供され、BALB/cマウスの腹腔内で腹水腫瘍として継代された。実験には、凍結保存された腫瘍細胞を解凍後、PBSで洗浄し、10⁶または2×10⁶個の腫瘍細胞を右後肢足底に0.5 mlのPBSに懸濁して皮下注射した。腫瘍の増殖は、ダイヤルキャリパーを用いて足底の厚さの変化を測定することで経時的にモニターした。
養子免疫化: ドナーマウスは、2×10⁵個のMeth A細胞と100 μgのホルマリン不活化Corynebacterium parvum (C. parvum) を皮内注射することで免疫化した。この方法により、9日間の腫瘍増殖後に完全な腫瘍退縮が起こることが知られている (Dye et al. 1981)。免疫化されたマウスは、腫瘍退縮後3〜4週間でドナーとして使用された。脾臓は細かく刻まれ、PBSを用いて60メッシュのステンレススクリーンを通して細胞懸濁液が調製された。細胞懸濁液は凝集塊をほぐすためにパスツールピペットでトリチュレートされ、6層の滅菌外科用ガーゼを通して濾過された後、PBSに再懸濁され、レシピエントマウスに静脈内投与された。レシピエントマウスには、通常1.5×10⁸個の脾細胞が0.5 mlの容量で投与された。
シクロホスファミド処理: シクロホスファミド (Cytoxan) はMead Johnson & Co.から購入し、滅菌水に溶解して使用した。特に明記しない限り、100 mg/kgの用量で静脈内注射された。一部の実験では160 mg/kgの用量も使用された。
抗Thy-1.2抗体処理: 脾細胞は、Accurate Chemical & Scientific Corp.から供給されたモノクローナルIgM抗Thy-1.2抗体 (1:1,000希釈) とともに10°Cで30分間、5×10⁷ cells/mlの濃度でインキュベートされた。その後、細胞はPBSで洗浄され、同じ供給元からのウサギ血清 (補体源として1:15希釈) とともに37°Cで30分間インキュベートされた。さらにPBSで洗浄後、細胞は静脈内輸注のために再懸濁された。この処理により、Thy-1陽性T細胞が除去され、サプレッサー細胞がT細胞であることを証明するために用いられた。
統計解析: 各実験群は通常n=5 miceで構成され、腫瘍増殖の経時変化は群間の平均足底厚を比較することで評価された。統計的な有意差の評価には、Studentのt検定が用いられた。
主要実験デザイン:
- 単独療法と併用療法の比較: シクロホスファミド単独、免疫脾細胞単独、および両者の併用療法が確立した腫瘍の増殖に与える影響を比較した。
- 腫瘍サイズと併用療法の効果: 腫瘍移植後3日目、6日目、9日目の異なるサイズの腫瘍に対する併用療法の効果を評価した。
- サプレッサー細胞の機能評価: 12日目腫瘍担持ドナーマウス由来の脾細胞を、併用療法を受けたレシピエントマウスに輸注し、そのサプレッサー機能を評価した。
- シクロホスファミドによるサプレッサー細胞の排除: 12日目腫瘍担持ドナーマウスにシクロホスファミドを前処置した後、脾細胞を採取し、そのサプレッサー機能が消失するかを検証した。
- シクロホスファミドに対する免疫細胞の抵抗性: 免疫ドナーマウスにシクロホスファミドを前処置した後、脾細胞を採取し、その抗腫瘍能が維持されるかを評価した。
これらの実験を通じて、シクロホスファミドが養子免疫療法の効果を促進するメカニズムが、腫瘍誘導性のサプレッサーT細胞の排除に依存することを直接的に示すことを目指した。