• 著者: Brian G. Till, Michael C. Jensen, Jinjuan Wang, Xiaojun Qian, Ajay K. Gopal, David G. Maloney, Catherine G. Lindgren, Yukang Lin, John M. Pagel, Lihua E. Budde, Andrew Raubitschek, Stephen J. Forman, Philip D. Greenberg, Stanley R. Riddell, Oliver W. Press
  • Corresponding author: Brian G. Till (Fred Hutchinson Cancer Research Center, Seattle, WA)
  • 雑誌: Blood
  • 発行年: 2012
  • Epub日: 2012-02-03
  • Article種別: Original Article (Pilot Clinical Trial)
  • PMID: 22308288

背景

CD20抗原はB細胞非ホジキンリンパ腫 (B-NHL) の確立した免疫療法標的であり、リツキシマブをはじめとする抗CD20抗体による複数のランダム化試験でアウトカム改善が示されている。非ホジキンリンパ腫、特に低悪性度B細胞リンパ腫とマントル細胞リンパ腫 (MCL) は、同種幹細胞移植後の長期寛解例から明らかなようにT細胞免疫効果への感受性が高く、CAR-T細胞療法の有力標的である。

先行試験 Till et al. Blood 2008 では、第1世代CD20特異的CAR (chimeric antigen receptor)-T細胞(共刺激ドメインなし: scFv-CD3ζのみ)が安全性を示したものの、in vitroでの拡大効率が低く、in vivo持続性は2ヶ月程度と限定的で、明確な抗腫瘍活性は得られなかった。この課題を克服するため、CD28・4-1BB・OX40等の共刺激ドメインを付加した「第2世代」CARが設計され、CD28やCD137が細胞増殖・持続・サイトカイン産生を向上させることが複数の前臨床研究で示されていた。例えば、CD28共刺激ドメインを含むCAR-T細胞は、in vivoでの増殖と持続性において優れていることが報告されている Savoldo et al. JClinInvest 2011。また、4-1BBドメインを組み込んだCAR-T細胞も、強力な抗白血病効果を示すことが示されている Porter et al. NEnglJMed 2011

さらに、2つの共刺激ドメインを組み合わせた「第3世代」CARでは、in vitroおよびNSGマウスモデルで第2世代を上回る活性が確認されていた Carpenito et al. ProcNatlAcadSciUSA 2009。しかし、これらの第3世代CARのヒト臨床における安全性、実行可能性、抗腫瘍活性、およびin vivo持続性については、まだ十分に確立されておらず、多くの点が未解明であった。特に、エレクトロポレーション法を用いた遺伝子導入の効率や、長期培養がT細胞機能に与える影響、そして宿主の免疫応答の有無など、臨床応用における具体的な課題が残されていた。著者らはin vitroスクリーニングで増殖・サイトカイン産生において最も優れたCD28と4-1BBの組み合わせ(αCD20-28-BBζ)を選択し、ヒト臨床試験へと進めた。この第3世代CAR-T細胞の臨床的安全性と有効性に関するデータは不足しており、その評価が急務であった。

目的

再発・難治性CD20陽性B細胞リンパ腫(主にマントル細胞リンパ腫 (MCL) および低悪性度B細胞リンパ腫)患者を対象に、αCD20-28-BBζ第3世代CAR-T細胞(NCT00621452)の安全性、実行可能性、抗腫瘍活性、およびin vivo持続性を評価することを目的とした。具体的には、この新規CAR-T細胞が患者に忍容されるか、細胞製造が臨床的に成功するか、客観的な腫瘍縮小効果が得られるか、そして輸注されたCAR-T細胞が体内でどの程度の期間存続し、腫瘍部位にホーミングするかを検証する。また、治療に伴うサイトカイン動態や宿主の免疫応答についても詳細に解析し、今後のCAR-T細胞療法開発のための基礎的データを提供することを目指した。本研究は、エレクトロポレーション法によるCAR遺伝子導入の効率と、長期ex vivo培養がT細胞機能に与える影響を評価することも重要な目的とした。

結果

細胞製造の成否と患者背景: 本試験には計4例の患者が登録され(MCL 3例、FL 1例)、全例がstage IVであった。2例は既往の自家幹細胞移植 (ASCT) 歴があり、全例が少なくとも2ライン以上の前治療歴を有していた (Table 1)。4例中3例(UPN-02: MCL 80歳、UPN-03: MCL 62歳、UPN-04: FL 28歳)で目標細胞数を達成し、CAR-T細胞の輸注が完了した。UPN-01(MCL 65歳)はエレクトロポレーション法による2回の拡大試行でいずれも目標細胞数に達せず、患者の希望により試験から離脱した。これにより、細胞製造の失敗率は25% (1/4例) であった。先行試験 Till et al. Blood 2008 を含めた全13例での製造失敗率は4/13例 (31%) であり、エレクトロポレーション法の技術的限界が明確に示された。培養産物は主にCD3+CD45RO+CXCR3+CD25+の活性化エフェクター表現型を示したが、一部にCD27+、CD57-のエフェクターメモリー様特徴も認められた (Figure 2A-B)。CD4:CD8比はUPN-02が93% CD4+に偏り、UPN-03・UPN-04は主にCD8+であった。テロメア長はアフェレーシス採取時のCD3+細胞と比較して全例で有意に短縮しており (paired t test, p<0.05)、長期ex vivo培養によるT細胞老化が示唆された (Figure 2C)。

CAR発現の低さとその意義: CAR発現はPCRで検出されたものの、フローサイトメトリーおよびWestern blottingでは検出限界以下であった。この低発現の原因として、エレクトロポレーションによる非効率な遺伝子導入、CAR遺伝子とネオマイシン耐性遺伝子のプロモーターが異なるためG418選択が必ずしもCAR高発現細胞を選択しないこと、および培養中のCD20陽性フィーダー細胞との接触によるCAR高発現細胞のアポトーシス誘導の可能性が考えられた。しかし、少なくとも3つのTCR-pMHC複合体でT細胞殺傷が誘導可能という既報と一致して、低CAR発現でも高CD20発現リンパ腫細胞に対してはin vitroでの細胞傷害活性が維持されていた(ChromiumリリースアッセイでGranta、Daudi、EL4-CD20への特異的傷害活性を確認)(Figure 1D)。

安全性プロファイルと有害事象: 治療は概ね忍容性が良好であった (Table 2)。UPN-02は第2輸注後にグレード2の発熱 (39.2°C) と起立性低血圧、第3輸注後にグレード3の低酸素血症 (酸素飽和度90%、補足酸素投与) を経験したが、いずれも翌朝には自然回復した。主要な毒性はCYに関連した骨髄抑制(グレード4白血球減少、リンパ球減少、好中球減少が各1例)および脱毛・疲労であった。UPN-04はリンパ節生検部位の蜂窩織炎(グレード3の重篤な有害事象 [SAE])を発症し、静脈内抗生剤投与後に回復した。液性・細胞性免疫応答は全例で検出されず、宿主による抗CAR T細胞免疫応答は認められなかった。

リンパ球除去とIL-2の効果: CY 1,000 mg/m²投与後、CD3+ T細胞はnadir時点で77〜93%減少した。Treg (CD4+FoxP3+) は79〜96%減少、B細胞は59〜85%減少した (Figure 6A-C)。リンパ球減少は約12日で回復した。IL-2投与中はリンパ球が基準値以上に増加したが、UPN-02・UPN-04ではTregの優先的拡大も観察され(Treg/CD4+比・Treg/CD8+比の増加)、UPN-04では少なくとも1年間持続した (Figure 6B)。血清サイトカイン(IL-2/IL-4/IL-6/IL-7/IL-10/IL-12p70/IL-15/IL-17/IL-21/IFN-γ/TNF-α)は、UPN-02では輸注・リンパ球除去と相関して、UPN-03・UPN-04ではIL-2注射と相関して上昇した (Figure 6D)。

抗腫瘍効果: UPN-02 (MCL) は大型頸部リンパ節の生検後に評価可能病変なしと判断され、輸注後12ヶ月まで無増悪であった。UPN-03 (MCL) も生検後に評価可能病変なしと判断され、輸注後24ヶ月まで無増悪であった。これら2例は「評価可能病変なし」であったため、MCLの再発後中央無増悪生存期間が約6ヶ月であるという文脈において、CAR-T細胞の寄与を解釈するには限界があった。UPN-04(リツキシマブ難治性FL、28歳)は輸注直後に明確な奏効はなかった。しかし、輸注後3.5ヶ月の時点で3 cmの頸部リンパ節が1〜2週間で急速に消失し(PET-CT・CT確認)、6ヶ月CTで部分奏効 (PR) を確認した (Figure 4A-C)。このPRは12ヶ月後のCTで増悪が確認された。7部位のリンパ節の個別応答は不均一であり、完全消失したリンパ節と不応答のリンパ節が混在した (Figure 4D)。B細胞アプラジアは本試験で期待された所見であったが観察されず(3例全例で末梢B細胞の有意な減少なし)、低CAR発現では低密度の循環B細胞への応答が不十分な可能性が示唆された。

CAR-T細胞のin vivo動態と持続性: 定量PCRにより、αCD20-28-BBζ CAR導入遺伝子は末梢血でUPN-02・UPN-03で12ヶ月、UPN-04で9ヶ月まで検出された(全期間を通じて<1%の低レベル)(Figure 3A-B)。ピーク時の末梢血中CAR+細胞割合は、UPN-02で3.2%、UPN-03で3.0%、UPN-04で1.0%であった。先行試験 Till et al. Blood 2008(第1世代CAR: 2ヶ月のみ検出)と比較して、持続性が著明に改善された。腫瘍浸潤については、最終輸注後24〜48時間で実施したリンパ節生検で3例全員のリンパ腫リンパ節にCAR+細胞が検出され、3例中2例の骨髄でも確認された (Figure 3C-D)。UPN-03では輸注1ヶ月後の骨髄にも低レベルで検出された。

考察/結論

新規性: 本試験は、CD28と4-1BBの二重共刺激ドメインを持つ第3世代CAR-T細胞のヒトへの最初期の臨床適用として、再発MCL・低悪性度B細胞リンパ腫における安全性と限定的ながら示唆される有効性を示した重要な概念実証報告である。本研究で初めて、エレクトロポレーション法で製造された第3世代CAR-T細胞が、低発現ながらも抗腫瘍活性を示し、末梢血中で最長12ヶ月間持続することが確認された。

先行研究との違い: 先行第1世代CAR試験 Till et al. Blood 2008 のCAR-T細胞が2ヶ月程度の持続性であったのに対し、本研究の第3世代CAR-T細胞は12ヶ月まで検出され、持続性が著明に改善された。これはCD28と4-1BBの二重共刺激ドメインの寄与、またはCYリンパ球除去の寄与、あるいはその両方によるものと考えられるが、本試験はこれを分離するようにデザインされておらず、寄与の割合は不明である。また、Kalos et al. SciTranslMed 2011 で報告されたような、より堅牢なCAR-T細胞の生着と高いCAR発現が強力な臨床応答に繋がる可能性と対照的であり、本研究の低CAR発現での効果は注目に値する。

有効性の評価と臨床的意義: UPN-04で観察された3.5ヶ月後の部分奏効 (PR) は、T細胞介在性の遅延型抗腫瘍効果を示唆する。CAR+ T細胞は輸注後24時間でリンパ節で検出されており、応答時点でも末梢血で低レベルながら検出されていたことから、腫瘍部位でのCAR-T細胞活性化が遅延型応答を引き起こした可能性が高い。ただし、自然寛解は否定できない。異なるリンパ節間での不均一な応答は、腫瘍微小環境(Treg、TGF-β、IL-10等)の不均一性や、局所でのCAR活性化閾値(低CAR発現に起因する抗原感度の低下)が関与している可能性がある。この知見は、CAR-T細胞療法における腫瘍微小環境の重要性を示唆し、今後の臨床応用において治療効果の予測因子や治療戦略の個別化に繋がる可能性がある。

残された課題と今後の方向性: エレクトロポレーション法は、(1) 製造失敗率25% (先行試験合算31%)、(2) 低CAR発現(フローサイトメトリー/Western blottingで検出不能)、(3) 長期培養(≥69日)によるテロメア短縮・細胞傷害活性低下・T細胞消耗という3つの根本的問題を抱えている。これは、より堅牢なCAR-T細胞の生着と高いCAR発現が強力な臨床応答に繋がる可能性と対照的である。今後の検討課題として、レンチウイルスベクターへの切り替えと短縮化ex vivo培養期間(新鮮T細胞の優先的使用)により、CAR発現向上・T細胞機能保持・製造効率改善を目指す方針が提示された。この提言は後続の臨床試験でほぼ標準的に採用された。また、本試験は4例という小規模であり、有効性についての統計的推論は困難であるというlimitationがある。しかし、第3世代CD20 CAR-T細胞のヒト投与という先駆的な知見として、安全性、持続性、腫瘍浸潤の観点から後続の臨床試験設計に重要な情報を提供した。特に、リンパ球除去がTregを含むT細胞サブセットを効果的に減少させること North et al. JExpMed 1982 や、低用量IL-2がT細胞の持続性を延長する一方でTregの拡大も促進する可能性など、今後の治療最適化に向けた臨床的含意が示された。宿主免疫応答が検出されなかったことは、免疫抑制状態にあるリンパ腫患者の特性を反映している可能性があるが、将来的には免疫原性最小化のためヒト化抗体の使用が推奨される。

方法

患者選択と試験デザイン: 本臨床試験(NCT00621452)は、フレッドハッチンソンがん研究センターの治験審査委員会、ワシントン大学の機関バイオセーフティ委員会、および米国国立衛生研究所の組換えDNA諮問委員会によって承認された。患者選択基準は、病理学的に確認されたCD20陽性MCLまたは低悪性度B細胞リンパ腫で、少なくとも1ライン以上の化学療法後に再発または難治性であり、同種幹細胞移植 (SCT) の適応外または拒否した患者であった。また、エプスタイン・バーウイルス (EBV) 曝露の血清学的証拠も必要とされた。除外基準には、フルダラビンまたはクラドリビン投与後2年以内、最終抗CD20抗体または化学療法から4週間未満、5 cmを超えるリンパ節または末梢血リンパ腫細胞5,000/μL超、既往の同種SCT、およびヒト抗マウス抗体 (HAMA) 陽性が含まれた。

細胞製造: アフェレーシスで採取した末梢血単核球 (PBMC) をOKT3およびIL-2で活性化し、4日後にL29.19.1プラスミドをエレクトロポレーションで導入した。このプラスミドは、Leu16抗CD20 scFv、ヒトIgG1 CH2-CH3ヒンジ、CD4膜貫通ドメイン、細胞内CD28(ジロイシンモチーフ変異)、4-1BB共刺激ドメイン、およびCD3ζをコードするαCD20-28-BBζ CARと、SV40プロモーター制御下のネオマイシン耐性遺伝子を含んでいた。トランスフェクトされた細胞は、rapid expansion protocol (REP) を用いて12〜15日サイクルで再刺激され、第1、第3、第4刺激サイクルでG418選択が実施された。培養期間は最低69日であった。

リリース基準: 製造されたT細胞は、無菌・真菌・マイコプラズマ陰性、グラム染色陰性、エンドトキシン<5 U/kg、生存率>70%、CD3陽性TCRαβ陽性細胞の確認、IL-2依存的増殖、およびCD20特異的傷害活性>20% lysis (E:T=100:1) の基準を満たす必要があった。

治療レジメン: 患者には、リンパ球除去のためシクロホスファミド (CY) 1,000 mg/m²がday -2に静脈内投与された。その後、day 0、+2〜5、+4〜10に3回に分けてαCD20-28-BBζ CAR-T細胞が段階的用量 (10⁸、10⁹、3.3×10⁹細胞/m²) で輸注された。最終輸注後14日間は、皮下低用量IL-2 (250,000 IU/m²、1日2回) が投与された。最終T細胞輸注後24〜48時間以内に、触知可能なリンパ節の生検と骨髄生検が実施された。

評価項目と統計解析: 安全性はNCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) version 3.0に従って評価された。臨床効果はInternational Working Group基準25に従って評価された。CAR遺伝子導入T細胞のin vivo動態は、末梢血、リンパ節、骨髄における定量PCRによって評価された。フローサイトメトリーにより、表面マーカーとCAR発現が解析された。テロメア長は定量PCRで測定された。液性および細胞性免疫応答は、ELISAおよびフローサイトメトリーアッセイで評価された。血清サイトカインレベルはLuminexアッセイで測定された。統計解析には、テロメア長の比較に1側性のpaired t testが用いられた。