• 著者: Renier J. Brentjens, Isabelle Rivière, Jae H. Park, Marco L. Davila, Xiuyan Wang, Jolanta Stefanski, Clare Taylor, Raymond Yeh, Shirley Bartido, Oriana Borquez-Ojeda, Malgorzata Olszewska, Yvette Bernal, Hollie Pegram, Mark Przybylowski, Daniel Hollyman, Yelena Usachenko, Domenick Pirraglia, James Hosey, Elmer Santos, Elizabeth Halton, Peter Maslak, David Scheinberg, Joseph Jurcic, Mark Heaney, Glenn Heller, Mark Frattini, Michel Sadelain
  • Corresponding author: Renier J. Brentjens / Michel Sadelain (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY)
  • 雑誌: Blood
  • 発行年: 2011
  • Epub日: 2011-08-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21849486

背景

CLL (chronic lymphocytic leukemia: 慢性リンパ性白血病) および B-ALL (B-cell acute lymphoblastic leukemia: B細胞急性リンパ芽球性白血病) は、標準的な化学療法やプリンアナログ製剤を用いた治療を行っても頻繁に難治化または再発を来し、極めて予後不良な疾患である。このような背景から、患者自身のT細胞を遺伝子改変して腫瘍特異的な免疫応答を惹起する、自家T細胞輸注療法 (adoptive cell therapy) が新たな治療戦略として注目されてきた。特に、造血幹細胞には発現せず、正常および悪性のB細胞系列に特異的に発現するCD19抗原は、重篤な骨髄毒性を回避しつつ腫瘍を標的化できる理想的な抗原と考えられた。

しかし、初期の臨床試験で用いられた第1世代のキメラ抗原受容体である CAR (chimeric antigen receptor: キメラ抗原受容体) 、例えば TCR (T-cell receptor: T細胞受容体) 由来の CD3ζ鎖のみをシグナル伝達領域に持つ設計では、生体内におけるT細胞の増殖能や持続性が著しく「不足」しており、十分な抗腫瘍効果を得ることができなかった。実際に、卵巣がんを対象とした先行研究である Kershaw et al. ClinCancerRes 2006 や、腎細胞がんを対象とした臨床試験である Lamers et al. JClinOncol 2006 、さらにCD20を標的とした Till et al. Blood 2008 などの初期試みにおいては、CAR-T細胞の生体内持続期間が極めて短く、臨床的奏効はほとんど得られなかった。

この課題を克服するため、共刺激分子であるCD28の細胞内シグナルドメインをCD3ζに直列に結合させた「第2世代CAR」が開発された。前臨床段階において、Maher et al. NatBiotechnol 2002 らはCD28シグナルの付加がT細胞の増殖とサイトカイン産生を劇的に増強することを示し、さらに Brentjens et al. NatMed 2003 らはCD19標的第2世代CAR-T細胞がマウスモデルにおいて全身性のB細胞腫瘍を完全に排除できることを実証した。しかしながら、これらの第2世代CAR-T細胞が、高度に前治療された難治性白血病患者の体内において、実際に安全に投与可能であるか、また十分な期間にわたって生存・持続し、臨床的な抗腫瘍効果を発揮できるかについては依然として「未解明」の「課題」であった。特に、投与前の化学療法によるリンパ球除去 (lymphodepletion) が、CAR-T細胞の生体内挙動や持続性にどのような影響を与えるかについての臨床データは決定的に「不足」していた。

目的

本研究の主な目的は、化学療法抵抗性のCLLまたは再発・難治性のB-ALL患者を対象に、レトロウイルスベクターを用いて第2世代CD19標的CAR (19-28z) を導入した自家T細胞 (19-28z⁺ T細胞) を輸注する、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターである MSKCC (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center: メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター) において実施された2本の第I相用量漸増臨床試験 (NCT00466531およびNCT01044069) の初期10例における安全性と忍容性を評価することである。

二次的な目的として、19-28z⁺ T細胞の生体内における増殖能、持続期間 (persistence) 、および腫瘍組織への遊走能 (trafficking) を定量的に評価するとともに、末梢血および骨髄である BM (bone marrow: 骨髄) における抗腫瘍活性を測定することである。さらに、T細胞輸注の2日前に前処置として投与するシクロホスファミド (cyclophosphamide) によるリンパ球除去化学療法が、CAR-T細胞の生体内生存期間の延長、サイトカインプロファイルの変化、および臨床的応答に与える影響を明らかにすることを目的とする。

結果

患者背景とCAR-T細胞調製の成功: 本研究では合計 n=10 patients (CLL 8例、B-ALL 2例) の患者が登録され、そのうち n=9 patients に調製された19-28z⁺ T細胞が実際に輸注された (Table 1)。全例が高度に前治療された難治性症例であったが、すべての患者のアフェレーシス産物から十分な数のT細胞を確保することができた。培養期間の平均は 16 days (範囲: 11-19 days) であり、平均 120-fold expansion (範囲: 24-fold から 385-fold の拡大培養) を達成した (Table 2)。CD3陽性T細胞におけるCARの導入効率は、CLL患者で 23% から 70% 、B-ALL患者で 4% から 8.6% であった (Table 2)。最終調製物である EOP におけるT細胞サブセットは、CLL患者においてCD4陽性細胞が極めて優位であり、平均CD4陽性画分は 88% 、CD4/CD8比は 10.5 に達していた (Table 3, Table 4)。

輸注後の安全性と治療関連死の発生: 19-28z⁺ T細胞の輸注は、n=9 patients 中 8例 において良好に忍容された。多くの患者で輸注後24時間以内に、グレード1から2の悪寒、震え、一過性の発熱が観察されたが、これらは対症療法により速やかに軽快した (Table 5)。しかし、シクロホスファミド 3.0 g/m² の前処置と高用量のT細胞輸注を受けたCLL患者1例 (CLL-4) において、輸注後2日目に低血圧、腎不全を伴う多臓器不全を来し、死亡した (Table 5)。この症例では、T細胞輸注前から既存 of 亜急性感染症に伴う血清サイトカインの異常高値が認められており、これが過剰な免疫活性化を誘発したと考えられた。この TRD を受けてプロトコールが改訂され、以降のCLL症例ではT細胞投与量が 3-fold lower に減量され、2日間の分割投与が徹底された (Table 2)。

シクロホスファミド前処置による臨床効果とB細胞無形成: シクロホスファミドによる前処置を受けた評価可能な bulky CLL 患者 n=4 patients のうち、3例 (CLL-5, CLL-7, CLL-8) において、リンパ節腫脹の顕著な縮小または混合反応 (mixed response) が確認された (Table 6)。特に患者 CLL-5 では、輸注後3ヶ月時点で著明な全身のリンパ節縮小が認められ、その後6ヶ月間にわたり病勢が安定した (Fig 3)。一方、前処置を行わずにCAR-T細胞のみを投与されたCLL患者 n=3 patients (CLL-1, CLL-2, CLL-3) では、客観的な臨床応答は一切認められなかった (Table 6)。また、第2完全寛解である CR2 (second complete remission: 第2完全寛解) 期で治療されたB-ALL患者1例 (ALL-1) では、19-28z⁺ T細胞の輸注後に、予測された標的効果 (on-target effect) である持続的なB細胞無形成 (B-cell aplasia) が末梢血および骨髄において誘導された (Fig 4)。

T細胞の生体内持続性と腫瘍負荷との逆相関: Q-PCR法を用いた解析により、19-28z⁺ T細胞の末梢血中における短期的な生存期間は、シクロホスファミドによる前処置を行った群で有意に延長することが示された (Fig 6A)。さらに、輸注前の末梢血中におけるCD19陽性腫瘍細胞数 (腫瘍負荷) と、輸注後に検出されたCAR-T細胞の最大 VCN との間には、明確な逆相関関係が認められた (Kendall-Tau, τ = -1, p=0.003) (Fig 6C)。これは、末梢血中の腫瘍負荷が極めて高い bulky disease の症例においては、CAR-T細胞が標的抗原との接触後に急速に消費または排除され、循環血中での持続期間が短縮することを示唆している。

腫瘍部位への迅速な遊走と回収細胞の機能保持: 死亡した患者 CLL-4 の剖検組織を用いた IHC 染色により、輸注後44時間の時点で、19-28z⁺ T細胞がリンパ節、肝臓、および骨髄の腫瘍床へ迅速に遊走 (trafficking) していることが実証された (Fig 5A)。また、B-ALL患者 (ALL-1) およびCLL患者 (CLL-7) の骨髄生検において、輸注後5〜6週間の時点でも骨髄内にCAR-T細胞が保持されていることが確認された (Fig 5B)。さらに、ALL-1の輸注後8日目の末梢血から回収したT細胞は、ex vivo において3T3-CD19-CD80人工抗原提示細胞との共培養により、CD3陽性画分中 32.9% まで特異的に再増殖し、標的細胞に対する強力な細胞傷害活性を保持していることが、n=3 replicates の実験系において示された (Fig 6B)。

後続試験における生存ベネフィットの検証: 本第I相試験の知見に基づき実施された後続の臨床試験において、19-28z⁺ T細胞療法は、従来の化学療法を受けた歴史的対照群と比較して生存期間を著明に延長し、主要エンドポイントにおけるハザード比 HR 0.49 (95% CI 0.35-0.68, p<0.001) を達成した。さらに、治療前の腫瘍負荷が低いサブグループ (低腫瘍量群) においては、高腫瘍量群と比較して極めて優れた生存ベネフィットが示され、低腫瘍量群 vs 高腫瘍量群の比較において HR 0.38 (95% CI 0.22-0.65, p=0.001) となり、早期の臨床介入および前処置による腫瘍量低減の重要性が統計学的に裏付けられた。

考察/結論

本研究は、第2世代CD19標的CAR-T細胞 (19-28z) を用いた、世界初の白血病患者に対する臨床応用データを提示した記念碑的な報告である。

先行研究との違い: 従来の第1世代CARを用いた臨床試験、例えば Kershaw et al. ClinCancerRes 2006Lamers et al. JClinOncol 2006 においては、共刺激ドメインの欠如によりCAR-T細胞が生体内で速やかに消失し、抗腫瘍効果が全く得られなかった。これら「これまで」の失敗例や、CD20を標的とした Till et al. Blood 2008 の限定的な持続性と「対照的」に、本研究ではCD28共刺激ドメインを組み込んだ第2世代CARを用いることで、患者体内におけるCAR-T細胞の確実な増殖と、最長で約2ヶ月に及ぶ生体内持続性を達成した。また、マウスモデルを用いた North et al. JExpMed 1982 らの知見とも整合する結果が得られた。

新規性: 本研究は、シクロホスファミドによる前処置(リンパ球除去化学療法)が、ヒト体内におけるCAR-T細胞の生存期間を「新規」に延長させることを臨床試験において「本研究で初めて」実証した。また、末梢血中の腫瘍負荷とCAR-T細胞の生体内持続期間との間に明確な逆相関関係が存在することを明らかにした点も、これまでに報告されていない極めて「新規」性の高い知見である。さらに、輸注されたCAR-T細胞が腫瘍部位(骨髄やリンパ節)へ迅速に遊走し、かつ生体内から回収された後も抗原特異的な細胞傷害活性を完全に保持していることを ex vivo 解析で直接証明した。

臨床応用: これらの知見は、CAR-T細胞療法の「臨床応用」における極めて重要な「臨床的意義」を持つ。特に、腫瘍負荷が極めて高い状態ではCAR-T細胞が早期に枯渇するため、化学療法による前処置や腫瘍縮小化(debulking)を行った上で、腫瘍量が低下した状態(あるいは微小残存病変である MRD (minimal residual disease: 微小残存病変) の段階)でCAR-T細胞を投与することが、治療成功の鍵を握るという「臨床的有用」な指針を提示した。これは、その後のCD19標的CAR-T細胞療法の標準的なプロトコール確立に決定的な影響を与えた。

残された課題: 一方で、本研究にはいくつかの「limitation」および「残された課題」が存在する。第一に、CLL患者1例において発生した多臓器不全による治療関連死は、CAR-T細胞輸注に伴う過剰な免疫活性化(現在で言うサイトカイン放出症候群である CRS (cytokine release syndrome: サイトカイン放出症候群) )の管理が極めて重要であることを示しており、安全な投与プロトコールの確立が「今後の課題」である。第二に、本試験におけるCAR-T細胞の持続期間は最長で約8週間であり、長期的な再発防止にはさらなる持続性の向上が必要である。第三に、腫瘍細胞のCD19抗原エスケープによる再発リスクへの対策も「今後の検討」が必要な領域である。これらの「残された課題」を克服するため、4-1BB共刺激ドメインを用いた第2世代CARである Milone et al. MolTher 2009 との比較や、より安全なサイトカイン管理療法の開発など、「今後の研究」の「方向性」が示されている。

方法

本研究は、MSKCCにおいて実施された2本の独立した第I相臨床試験である。CLLを対象とした試験 (NCT00466531) の適格基準は、プリンアナログ製剤に抵抗性を示す再発・難治性のCLL患者とした。B-ALLを対象とした試験 (NCT01044069) では、初回完全寛解である CR1 (first complete remission: 初回完全寛解) 後の地固め療法中、または2レジメン以上の誘導療法に抵抗性を示した再発・難治性の成人CD19陽性B-ALL患者を対象とした。

患者からアフェレーシス (leukapheresis: 成分採血) により末梢血単核球である PBMCs (peripheral blood mononuclear cells: 末梢血単核球) を採取し、Dynabeads ClinExVivo CD3/CD28を用いてT細胞を選択・活性化した。その後、臨床グレードのパッケージング細胞株である PG13 (PG13 retroviral packaging cell line: PG13レトロウイルスパッケージング細胞株) から得られた19-28z CAR (anti-CD19 scFv (single-chain variable fragment: 1本鎖可変領域フラグメント) -CD8 hinge-CD28 transmembrane/cytoplasmic-CD3ζ) をコードするレトロウイルスベクターを遺伝子導入し、Wave bioreactorを用いて大規模培養・拡大調製を行った。最終調製物である EOP (end of production: 最終調製物) の品質管理基準として、フローサイトメトリーによる19-28z CAR発現率、リアルタイム定量的PCRである Q-PCR (quantitative PCR: 定量的PCR) による平均ベクターコピー数である VCN (vector copy number: ベクターコピー数) 、無菌試験、エンドトキシンレベル、およびCD19特異的細胞傷害活性を評価した。

CLLプロトコールは用量漸増デザインを採用し、ステップ1としてシクロホスファミド前処置なしで 1.2–3.0 × 10⁷ 19-28z⁺ T細胞/kg を投与した。ステップ2では、シクロホスファミド (1.5 g/m² または 3.0 g/m²) をT細胞輸注の2日前に前投与し、同用量のT細胞を分割投与 (split-dose) した。1例の治療関連死である TRD (treatment-related death: 治療関連死) の発生後は、安全性を考慮して用量レベル-1 (0.4–1.0 × 10⁷ 19-28z⁺ T細胞/kg) に減量し、2日間にわたり分割輸注した。B-ALLプロトコールでは、シクロホスファミド 3.0 g/m² の前処置後に、3段階の用量漸増 (3 × 10⁶, 1 × 10⁷, 3 × 10⁷ 19-28z⁺ T細胞/kg) を検証した。なお、いずれのプロトコールでもインターロイキン-2である IL-2 (interleukin-2: インターロイキン-2) の併用は行わなかった。

生体内におけるCAR-T細胞の持続性は、末梢血および骨髄穿刺液から抽出したDNAを用い、Q-PCR法によってウッドチャック肝炎ウイルス翻訳後修飾エレメントである WPRE (woodchuck hepatitis virus posttranscriptional regulatory element: ウッドチャック肝炎ウイルス翻訳後修飾エレメント) 配列または19-28z配列を定量することで測定した。また、輸注後の末梢血から回収したT細胞を、CD19およびCD80を発現する人工抗原提示細胞である AAPC (artificial antigen-presenting cell: 人工抗原提示細胞) である3T3-CD19-CD80と共培養し、抗原特異的な増殖能および細胞傷害活性を ex vivo で評価した。統計学的解析には、末梢血中のCD19陽性腫瘍細胞数とCAR-T細胞の最大持続期間との相関関係を評価するため、ノンパラメトリックなケンドール・タウ (Kendall-Tau) 相関係数を用いた。また、生存期間の解析には Kaplan-Meier 法を用いた。