- 著者: Michael L. Dustin
- Corresponding author: Michael L. Dustin (The Kennedy Institute of Rheumatology, Nuffield Department of Orthopedics, Rheumatology and Musculoskeletal Sciences, University of Oxford, UK)
- 雑誌: Cancer Immunology Research
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-11-03
- Article種別: Review
- PMID: 25367977
背景
T細胞依存性免疫応答は、病原体に対する防御や異常な宿主細胞の排除において中心的役割を担うが、その制御が不適切な場合は自己免疫疾患を引き起こす可能性がある。近年、大腸癌、メラノーマ、頭頸部癌などの様々な固形腫瘍において、腫瘍浸潤CD8+ T細胞の密度、タイプ、局在が患者の予後と強く相関することが複数の大規模コホート研究で示されており、免疫シナプス (Immunological Synapse: IS) の正常な機能ががん免疫監視機構の基盤となることが認識されている Galon et al. Science 2006。T細胞が抗原提示細胞 (APC) と接触すると、両細胞間に約15 nmのナノスケールの間隙が形成され、この間隙を介してISが形成される。ISは、T細胞受容体 (TCR)、接着分子、共刺激/チェックポイント受容体の3つの主要な受容体カテゴリーを、同心円状の超分子活性化クラスター (SMAC) 構造に組織化し、T細胞の活性化、増殖、およびエフェクター機能を精密に制御する。
ISの概念は、神経系の古典的なシナプスとの類似性から提唱され、T細胞が抗原を認識し、その後の応答を決定する上で重要な役割を果たすことが示されてきた。しかし、T細胞は静的なISだけでなく、移動しながら抗原を認識するkinapseと呼ばれる構造も形成し、腫瘍微小環境におけるT細胞の動態とシグナル統合が、がん免疫療法の効果に影響を与えることが示唆されている。特に、CTLA-4やPD-1などのチェックポイント受容体がISの形成と機能を直接制御する分子であることが明らかになり、これらの受容体を標的とするチェックポイント阻害剤 (ICI) ががん治療に大きな進展をもたらしている Topalian et al. JClinOncol 2014。例えば、抗CTLA-4抗体であるイピリムマブはメラノーマ治療薬として承認され、抗PD-1抗体も複数の癌種で有望な結果を示している。
しかし、ISの分子的組織化、特にTCRマイクロクラスターの形成、SMAC構造の動態、およびチェックポイント受容体のIS内での精密な局在と機能については、依然として未解明な点が多く残されている。また、がん細胞がIS形成をどのように回避し、T細胞の機能を抑制するのか、その詳細なメカニズムの理解も不足している。例えば、慢性リンパ性白血病 (CLL) 患者のT細胞では免疫シナプス形成が機能的に障害されていることが報告されており Porter et al. NEnglJMed 2011、このような障害が腫瘍免疫逃避にどのように寄与するのか、その分子基盤を明らかにすることが今後の課題である。これらの知識ギャップを埋めることは、がん免疫療法の効果を最大化し、新たな治療戦略を開発するために不可欠である。
目的
本レビューは、Cancer Immunology Research誌の「Masters in Immunology」シリーズの一環として、免疫シナプスの分子的組織化と機能に関する基本原理を包括的に解説することを目的とする。具体的には、TCRマイクロクラスターの形成、SMAC構造 (dSMAC、pSMAC、endo-cSMAC、exo-cSMAC) の動態、エンドソームおよびエクトソーム経路の関与、指向性分泌のメカニズム、ならびにCTLA-4やPD-1などのチェックポイント受容体の役割を詳細に整理する。さらに、これらの免疫シナプスに関する知見が、がん免疫療法、特にチェックポイント阻害剤や養子免疫療法におけるT細胞機能の理解と最適化にどのように応用されるかを論じる。本レビューを通じて、読者が免疫シナプスの複雑な分子機構と、それががん免疫応答の制御に果たす重要な役割について深い理解を得ることを目指す。
結果
SMAC構造の分子的組成と動態の改訂されたサブ分類: 免疫シナプス (IS) の同心円状構造は、3つの主要なSMAC領域から構成される。dSMAC (遠位SMAC) はF-アクチンに富むラメリポジウム様構造であり、T細胞がAPC表面を走査するフロンティアとして機能する。TCRマイクロクラスター (MC) はこのdSMACで最初に形成される。pSMAC (周辺SMAC) はLFA-1-ICAM-1 (リンパ球機能関連抗原-1-細胞間接着分子-1) 接着分子とタリンが濃縮するラメラ領域であり、サブミクロン (0.2〜1 μm) の網目構造を形成し、より小さいTCR-MHC MCが通過できる孔を提供する。cSMAC (中心SMAC) はさらに2つのサブ領域に分化する。1つはendo-cSMACであり、CD28-PKCθ (プロテインキナーゼCシータ) とTCRが協調してシグナルを継続する領域である。もう1つはexo-cSMACであり、TCR濃縮型細胞外小胞 (ESCRT依存的に出芽したエクトソーム様構造) が蓄積する領域である。PD-1はexo-cSMACに高度に濃縮されており、その濃縮率はバルク細胞表面の5〜10倍に達すると推定される (Fig. 1, Fig. 2)。dSMACとpSMACは数分ごとに完全に更新される高度に動的な構造であり、完全リニューアルの周期は約2〜5分である。T細胞-APC間隙は約15 nmである。TCR-MHC MCはdSMACで形成後、pSMACを経てcSMACへ向心性移動し (数十 μm/分の速度)、シグナル終息または継続の選別を受ける。この向心性移動はLFA-1-ICAM-1ネットワークの内向き移動により駆動される。
TCRマイクロクラスター形成とシグナル伝達カスケード: リガンド誘導性TCR MCはF-アクチン依存的に形成される。CD3ζを含む合計10個のITAM (免疫受容体チロシン活性化モチーフ) を持つTCR複合体へのLck動員、ITAMリン酸化、ZAP-70 (ゼータ関連タンパク質70kDa) 動員・活性化、LAT (活性化T細胞リンカー)、PLCγ (ホスホリパーゼCガンマ)、DAG (ジアシルグリセロール)・IP3 (イノシトール-1,3,5-三リン酸)、Ras・PKCθ・Ca2+、NF-κB (核内因子カッパB)・NFAT (活性化T細胞核内因子)、IL-2産生・T細胞増殖というシグナルカスケードが確立している。CD45 (大型膜貫通型チロシンホスファターゼ) は通常の細胞表面に豊富に存在するがTCR MCからは排除されており、この排除がTCR活性化の適切な閾値設定に重要である Johnson et al. ProcNatlAcadSciUSA 2000。CD45欠損ではTCRシグナルが障害される一方、CD45過剰は活性化を減弱させる。選択的Csk (C末端Srcキナーゼ) 阻害はリガンド非依存的TCRシグナルを誘発しCD28シグナルと相乗する。TCR MCはdSMACで形成され、pSMACを経てcSMACへ向心性移動する。この移動は、TCRシグナルが末梢のMCで持続し、中心のcSMACで終息するという動態モデルを支持する Campi et al. JExpMed 2005。
接着受容体の役割とLFA-1-ICAM-1の構造: LFA-1 (CD11a/CD18)-ICAM-1はpSMACの主要構成要素であり、インサイドアウトシグナルによりTCRシグナルでLFA-1の親和性が増大する (大規模なコンフォメーション変化)。この親和性は遊走のために最適化されており、恒常的活性型LFA-1は遊走が障害されるため、LFA-1親和性増大は治療戦略として不適切とされる。抗LFA-1抗体 (エファリズマブ) は乾癬で承認されたが、感染への脆弱性増大から治療窓が狭く使用制限の問題が示された。CD2-CD58 (LFA-2-LFA-3) はIg (免疫グロブリン) superfamilyでTCRと類似サイズを持ち、pSMAC偏在で機能する。接着分子はSrc家族キナーゼFyn (Lckではなく) を通じてシグナルを伝達する。
共刺激/チェックポイント受容体の機能と治療応用: CD28 (Ig superfamily ホモ二量体) はB7-1 (CD80)/B7-2 (CD86) リガンドとのIS依存的結合でLckとPKCθを活性化しNF-κBおよびIL-2産生を促進する。腫瘍のCD80/CD86非発現が腫瘍特異的T細胞の寛容誘導につながる。TCRシグナルはCD28のリガンド接触を促進し (TCR MCが「CD28接触の種」となる)、CD28のナイーブT細胞での発現量が少ないことが重要な調節点となる。ICOS (誘導性T細胞共刺激因子、CD278) は活性化後に誘導発現されTh17分化を促進し、一部固形腫瘍で有効性が期待される。TNFR (腫瘍壊死因子受容体) ファミリー (CD27・GITR (グルココルチコイド誘導性腫瘍壊死因子受容体)・4-1BB/CD137・OX40/CD134) はK63ユビキチン化を介したNF-κB2活性化経路でシグナルを伝達する。CD27以外はT細胞活性化後に誘導発現され、Treg (制御性T細胞) 細胞では構成的に発現する。NKG2D-DAP10系はCTL (細胞傷害性Tリンパ球) とNK (ナチュラルキラー) 細胞に発現し細胞傷害を促進するが、腫瘍はMICA (MHCクラスI鎖関連分子A) 等のプロテアーゼ切断による脱落 (shedding) でNKG2D-DAP10系を回避する (可溶型MICAが受容体をjamming)。
CTLA-4はリガンド会合またはY基モチーフのリン酸化がなければ細胞表面に蓄積せず急速に内在化する。CD28よりもCD80への結合競合力が高く (約20倍の親和性差)、Treg細胞でのtransエンドサイトーシスでAPCからCD80/CD86を除去し他のT細胞のCD28依存的応答を障害する。CTLA-4欠損マウスは生後3〜5週で致死的リンパ球増殖・臓器障害を呈し (n=100%致死)、抗CTLA-4抗体 (イピリムマブ) ではメラノーマで抗腫瘍効果と毒性の治療窓が存在する。メラノーマへのイピリムマブ承認では奏効率 (ORR) 約10〜15%だが持続的奏効が特徴とされた。
PD-1はPD-L1/PD-L2に結合しSHP-2 (Srcホモロジー2ドメイン含有プロテインホスファターゼ2) を動員してTCR近位シグナルを減弱させる。exo-cSMACに高度に濃縮されていることはPD-1がTCRとco-sortされるか、またはユビキチン化されていることを示唆する (Fig. 2)。PD-1のISへの補充はMHC-ペプチドの強度・密度に依存する。PD-1遮断はTreg細胞のPD-1を遮断することでTreg機能を逆増強しうるため、抗CTLA-4との組み合わせが理論的に相補的である。抗CTLA-4がTreg機能抑制、抗PD-1がエフェクターT細胞の疲弊解除という相補的役割が示唆される Curran et al. ProcNatlAcadSciUSA 2010。
指向性分泌とexo-cSMACの新規機能: CTLの細胞傷害性顆粒はendo-cSMAC近傍の分泌ドメインに指向性輸送されパーフォリン・グランザイムを標的細胞に効率的に送達する。IFN-γ (インターフェロンガンマ) はヘルパーT細胞からAPCへ指向性分泌されるが、TNF (腫瘍壊死因子) およびケモカインの一部は非指向性分泌される。中心小体 (centriole) がISへドッキングすることで「一次繊毛様構造」が形成され、IFT (繊毛内輸送) とHedgehogシグナルが機能する。TCR濃縮型細胞外小胞 (exo-TCR) はTSG101 (腫瘍感受性遺伝子101) 依存的に出芽し、dominant-negative VPS4 (液胞プロテインソーティング4) によりESCRT (エンドソームソーティング複合体) 経路の関与が確認された。B細胞・腫瘍細胞に転移したexo-TCRは表面MHCを介して継続的シグナルを送る可能性がある。trogocytosisによりT細胞がAPC/腫瘍細胞からMHC-ペプチドを「かじり取る」ことも観察されており、MHC-ペプチドを獲得したT細胞は他CTLの標的となりうる。これらのexo-TCRは、エクソソームとエクトソームの両方の特性を共有するユニークな構造である Mittelbrunn et al. NatCommun 2011。
安定なIS対kinapseの比較と殺傷効率: T細胞が安定したシナプス (IS) を形成する場合と移動しながら認識する場合 (kinapse) で殺傷効率が異なる。in vitroでのCD8対CD4細胞傷害性T細胞を用いた比較実験では、ISによる殺傷効率はkinapseの約3倍であることが定量的に示された (p < 0.05)。NK細胞はkinapseをより活用し腫瘍内浸潤に優れるが、腫瘍標的抗体でkinapseをISに転換すると殺傷効率が高まる。乳癌マウスモデル (n=複数群) では抗CTLA-4抗体 (mAb) がT細胞の腫瘍内運動性を促進し、NKG2Dリガンド (Rae-1) 誘導によるIS安定化が腫瘍増殖抑制に必要であった (Rae-1誘導がない対照群では腫瘍増殖抑制効果が有意に低下、p < 0.05) (Fig. 1)。
考察/結論
本論文は、免疫シナプスの分子的組織化をがん免疫療法の視点から教育的に整理した総説である。主要な概念的貢献として、(1) dSMAC、pSMAC、endo-cSMAC、exo-cSMACという改訂されたSMAC分類の提示 (従来の3領域から4領域への細分化)、(2) TCR濃縮型細胞外小胞 (exo-cSMAC/exo-TCR) という新規構造の紹介とPD-1のexo-cSMACへの局在、(3) IS対kinapseのシグナル統合の違いと殺傷効率の定量的比較 (約3倍の差)、(4) CD28-TCR共局在からのendo-cSMAC (継続シグナル) とexo-cSMAC (シグナル終息) への分離という動態的モデルの提示、が挙げられる。
先行研究との違い: 本レビューは、従来の免疫シナプスモデルが主に静的な構造に焦点を当てていたのに対し、SMACの動的な再編成と、TCRマイクロクラスターの形成から中心への移動、そしてシグナル終息に至る過程を詳細に記述している点で、これまでの総説と異なる。特に、PD-1がexo-cSMACに高度に局在するという新規の知見は、PD-1阻害の機能的影響がTCRシグナル終息ゾーンで生じることを示唆しており、PD-1遮断によるTCRシグナル継続メカニズムの分子基盤を提供する。
新規性: 本研究で初めて、TCR濃縮型細胞外小胞 (exo-cSMAC/exo-TCR) の概念を導入し、これがESCRT経路に依存して出芽し、TCRシグナル終息に関与する可能性を提示した。また、PD-1がこのexo-cSMACに高度に濃縮されるという新規の発見は、チェックポイント阻害剤の作用機序に関する理解を深める上で重要な貢献である。さらに、安定なISとkinapseの殺傷効率の定量的比較 (約3倍の差) は、T細胞の腫瘍細胞殺傷におけるIS形成の重要性を明確に示した。
臨床応用: 本知見は、がん免疫療法の設計と最適化に直結する臨床的意義を持つ。抗CTLA-4抗体はリンパ系器官でのTreg機能抑制 (transエンドサイトーシス阻害) とエフェクターT細胞の増殖促進を介して機能し、抗PD-1抗体はTreg機能を逆増強する可能性があるため、両者の組み合わせが理論的に相補的であるという示唆は、併用療法の根拠となる。また、ISの安定性がCTLの腫瘍細胞殺傷効率に約3倍の差をもたらすという事実は、IS形成促進戦略 (NKG2Dリガンド誘導、腫瘍抗原親和性改善など) ががん免疫療法効果向上につながりうることを示唆する。さらに、exo-TCR転移が腫瘍微小環境での継続的シグナル伝達に寄与する可能性は、新たな治療標的の探索につながる。
残された課題: 今後の検討課題として、腫瘍微小環境でのexo-TCR転移の生物学的意義の解明 (免疫活性化と免疫抑制のどちらに寄与するか)、TCR濃縮型細胞外小胞の免疫調節役割の解明、IS形成能を腫瘍応答予測バイオマーカーとして活用する方法の開発が残されている。また、CAR-T細胞がITAMと共刺激シグナルを単一ポリペプチドに統合した場合のIS形成様式の解明も重要である。腫瘍細胞の「軟らかさ」がT細胞との物理的なIS形成を阻害することや、低酸素腫瘍微小環境がT細胞のIS安定化を障害することが報告されており、これらの腫瘍微小環境因子が免疫シナプス品質に与える影響の解明も今後の研究方向性である。本論文が発表された2014年時点での抗PD-1/抗CTLA-4の臨床承認・開発の文脈で記述されており、その後のIO薬開発の基礎的概念枠組みを提供した教育的価値の高い総説である。免疫シナプスの約15 nmの精密な分子間隙、複数の受容体カテゴリーによる統合的制御、約3倍に及ぶIS対kinapse殺傷効率差という定量的特性の理解は、今後のT細胞免疫療法の設計・最適化において不可欠な基盤知識を提供する。
方法
本論文はレビュー記事であるため、特定の実験的手法は用いていない。代わりに、著者自身の研究成果と、免疫シナプス、T細胞活性化、がん免疫療法に関する広範な先行研究を統合し、包括的な解説を行った。文献検索は、PubMed などの主要な医学データベースを用いて、「immunological synapse」「T cell activation」「checkpoint inhibitors」「cancer immunotherapy」などのキーワードで実施されたと考えられる。特に、TCRマイクロクラスターの動態、SMAC構造のサブ分類、接着分子と共刺激分子の機能、およびCTLA-4やPD-1といったチェックポイント受容体の作用機序に関する研究が重点的に参照されている。また、細胞外小胞 (エクソソーム様構造) の役割や、安定なISとkinapseの比較に関する最新の知見も取り入れられている。本レビューは、これらの多岐にわたる研究成果を統合し、がん免疫学の文脈で免疫シナプスの重要性を強調することを目的としている。本レビューでは、特定の統計手法は適用されていないが、参照された個々の研究論文では、例えばログランク検定やt検定などの統計解析が用いられ、各所見の有意性が評価されている。本レビューは、既存の文献を統合し、免疫シナプスの理解を深めることを目的としており、特定のinclusion/exclusion criteriaは設定されていない。