• 著者: Samra Turajlic, Kevin Litchfield, Hang Xu, Rachel Rosenthal, Nicholas McGranahan, James L Reading, Yien Ning S Wong, Andrew Rowan, Nnennaya Kanu, Maise Al Bakir, Tim Chambers, Roberto Salgado, Peter Savas, Sherene Loi, Nicolai J Birkbak, Laurent Sansregret, Martin Gore, James Larkin, Sergio A Quezada, Charles Swanton
  • Corresponding author: charles.swanton@crick.ac.uk
  • 雑誌: The Lancet. Oncology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-07-07
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28694034

背景

腫瘍変異は抗腫瘍免疫応答の主要な基盤であり、これまで主にSNV (一塩基変異) が腫瘍特異的ネオアンチゲンの生成に果たす役割に焦点が当てられてきた。しかし、小規模挿入欠失変異 (indel) の免疫学的意義については、その特性が十分に解明されていなかった。チェックポイント阻害薬の奏効率は腫瘍変異負荷、特に非同義SNV (nsSNV) 数と相関することが複数の研究で示されているが、腎明細胞癌 (renal clear cell carcinoma; RCC) はnsSNV負荷が低いにもかかわらず (黒色腫の約1/10)、チェックポイント阻害薬に対する反応性が高いという臨床的矛盾が指摘されていた。この矛盾を説明するメカニズムとして、フレームシフトindelが着目されていた。フレームシフトindelは、ノベルオープンリーディングフレームを生成し、自己タンパク質とは大きく異なる多量のネオアンチゲンペプチドを産生しうるため、これがRCCの免疫応答性の背景にある可能性が示唆されていた。例えば、Le et al. NEnglJMed 2015Rizvi et al. Science 2015などの先行研究では、変異負荷と免疫療法応答の関連が報告されているが、indel変異に特化したpan-cancer規模での網羅的な評価はこれまで行われていなかった点が、この分野における重要な知識ギャップであった。特に、indel変異の分布、免疫原性、および臨床的意義に関する系統的な解析が不足しており、その全容は未解明であった。本研究は、この不足している情報を補完し、indel変異が腫瘍免疫応答に与える影響を包括的に評価することを目的とした。具体的には、腫瘍特異的ネオアンチゲン解析の焦点は大部分がSNVに置かれており、indelの寄与は十分に特徴付けられていなかった。しかし、indel変異、特にフレームシフトindelは、新規のオープンリーディングフレームを生成し、自己とは大きく異なる大量の変異ペプチドを産生する可能性があり、これが免疫原性表現型に寄与する可能性が仮説として立てられていた。この仮説は、腫瘍特異的T細胞応答が一部の患者に存在し、免疫調節メカニズムによって厳密に制御されているというチェックポイント阻害薬療法の成功によって裏付けられている。これまで、チェックポイント阻害薬はメラノーマ、メルケル細胞癌、腎明細胞癌、非小細胞肺癌、膀胱癌、頭頸部扁平上皮癌、およびマイクロサテライト不安定性高 (MSI-H) 腫瘍に承認されている。これらの腫瘍では、ネオアンチゲン負荷がnsSNV負荷と密接に関連しており、癌種間で大きく異なることが示されている。しかし、腎明細胞癌は比較的低いnsSNV負荷(メラノーマの約1/10)にもかかわらず、高いレベルの腫瘍浸潤免疫細胞を特徴とし、インターフェロン-α、高用量インターロイキン-2、そして最近ではチェックポイント阻害薬に反応することが示されているが、これらの応答の変異および抗原決定因子は不明であった。

目的

本研究の目的は、以下の4点にわたる包括的な解析を実施することである。(1) TCGA (The Cancer Genome Atlas) の全固形腫瘍コホートにおいて、indel変異の癌種間分布をpan-cancer規模で系統的に評価し、その特徴を明らかにすること。(2) nsSNVと比較して、indel変異、特にフレームシフトindel由来のMHCクラスI結合性ネオアンチゲンの量的および質的特性を詳細に解析し、その免疫原性の違いを明らかにすること。(3) 腎明細胞癌において、フレームシフトネオアンチゲン負荷と腫瘍内免疫遺伝子発現との相関を検証し、免疫応答性との関連を明らかにすること。(4) 複数のチェックポイント阻害薬治療コホートにおいて、フレームシフトindel負荷が治療応答と関連するかを評価し、新たなバイオマーカーとしての可能性を検討すること。これらの目的を達成することで、indel変異が抗腫瘍免疫応答において果たす役割をより深く理解し、腎明細胞癌の免疫原性の特異な性質を説明し、ひいては免疫療法の最適化に貢献することを目指した。

結果

indel変異のpan-cancer分布: 全5,777例を通じて、indel割合の中央値は0.05、絶対数の中央値は4であった。癌種別の比較において、腎明細胞癌が最も高いindel割合 (中央値0.12;全他癌種との比較 p<2.2×10⁻¹⁶) を示し、pan-cancer平均の2.4倍であった。この結果は、Sato et al. (中央値0.10) およびGerlinger et al. (中央値0.12) の2つの独立したコホートで再現された (Figure 1A)。腎乳頭型細胞癌 (絶対数中央値10) と腎嫌色素細胞癌 (8) が絶対indel数でも上位を占め、腎臓に特有の組織特異的変異プロセスの存在が示唆された (Figure 1B)。腎明細胞癌でVHL/PBRM1/SETD2/BAP1/KDM5Cといった特徴的な腫瘍抑制遺伝子 (TSG) 変異を除外しても、indel割合は0.12のままで不変であった。多領域シーケンスデータを用いた解析では、110個のフレームシフトindelのうち53例 (48%) がクローナル (全腫瘍領域に存在) であることが確認された。NMDの全体的な効果は、indel変異遺伝子の発現を14%減少させると推定され、一部の転写産物でNMDが機能していることを示唆した。

ネオアンチゲン量・質のindel vs nsSNV比較: nsSNV 335,594変異からは214,882個の高親和性バインダーが予測され、1変異あたり0.64ネオアンチゲンであった。一方、フレームシフトindel 19,849変異からは39,768個の高親和性バインダーが予測され、1変異あたり2.00ネオアンチゲンであった (対nsSNV比 3.13倍)。変異特異的バインダー (野生型は強結合しない) は、1変異あたりnsSNV 0.22に対してフレームシフトindel 2.00であり、8.94倍の濃縮が確認された (Table)。チェックポイント阻害薬承認済み癌種 (黒色腫、NSCLC、頭頸部扁平上皮癌、膀胱癌、腎明細胞癌など) は、いずれも平均以上のフレームシフトネオアンチゲン数を示し、承認済み癌種と未承認癌種の間で有意差が認められた (p<2.2×10⁻¹⁶)。pan-cancer解析でフレームシフト変異数が多い遺伝子として、TP53、ARID1A、PTEN、KMT2D、KMT2C、APC、VHLなど古典的腫瘍抑制遺伝子が上位を占め、上位15遺伝子では500サンプル以上、2400以上の高親和性ネオアンチゲンが同定された (Figure 2)。これらの結果は、フレームシフトindelがnsSNVよりも高い免疫原性を持つ可能性を示唆している。

腎明細胞癌における免疫遺伝子発現との相関: TCGA腎明細胞癌392例のRNAseqデータを用いた免疫遺伝子シグネチャー解析では、フレームシフトネオアンチゲン高負荷群 (>10フレームシフト/症例、n=32 patients) と低負荷群を比較した。フレームシフトネオアンチゲン高群では、MHCクラスI抗原提示、CD8陽性T細胞活性化、細胞傷害活性といった免疫シグネチャーが特異的に上昇した。これに対し、SNV由来ネオアンチゲン高群 (n=32 patients) では同様のパターンは認められなかった (Figure 5A)。フレームシフトネオアンチゲン高群内での相関解析では、CD8陽性T細胞シグネチャーとMHCクラスI抗原提示遺伝子の間に強い正相関 (r=0.78) が、また細胞傷害活性との間にも強い相関 (r=0.83) が確認された (Figure 5B)。NMD (ナンセンス介在mRNA分解) の影響は、腫瘍純度補正後で14%の発現低下に留まり、フレームシフトindel変異転写産物の相当部分がNMDを回避して翻訳・抗原提示されている可能性が示唆された。これは、フレームシフトindelが実際に腫瘍免疫応答を活性化する能力を持つことを示唆する。

チェックポイント阻害薬応答との関連: Hugo et al.コホート (抗PD-1黒色腫 n=38 patients) において、nsSNV数 (p=0.27) およびインフレームindel数 (p=0.19) は応答と無関連であったが、フレームシフトindel数は有意に抗PD-1応答と関連した (p=0.023)。フレームシフトindel最高四分位群では88% (8例中7例) が応答したのに対し、下位3四分位群では43% (26例中11例) にとどまった (オッズ比 9.5 [95% CI 1.02-89.23])。この関連は、Snyder et al.コホート (抗CTLA-4黒色腫 n=62 patients;ハザード比 [HR] 3.4 [95% CI 1.05-11.27];p=0.0074) およびVan Allen et al.コホート (抗CTLA-4黒色腫 n=100 patients;HR 2.9 [95% CI 1.15-7.55];p=0.032) でも再現された (Figure 4A)。3コホートのメタ解析では、フレームシフトindel数がチェックポイント阻害薬応答と有意に関連することが確認され (p=4.7×10⁻⁴)、nsSNV数 (p=4.8×10⁻³) よりも強い関連性を示した。クローナルフレームシフトindelは、全フレームシフトindel (クローナル+サブクローナル混合) よりもさらに強い予測能を有した。NSCLC (Rizvi et al. n=31 patients) では有意差を認めなかった (p=0.23) が、これはサンプル数が小さいため、結論は留保された。非小細胞肺癌の別のコホート (Jamal-Hanjani et al. n=100 patients) では、フレームシフトindel高負荷群で無再発生存期間の改善が認められた (HR 0.25 [95% CI 0.06-1.08]; p=0.045)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、indel変異を対象としたpan-cancer規模での初めての網羅的解析であり、腎明細胞癌が癌種横断的に最高のindel変異割合と数を有することを複数コホートで確認した点で新規性がある。この結果は、Motzer et al. NEnglJMed 2015などで示された腎明細胞癌の免疫療法への高い感受性を、低いnsSNV負荷という従来の知見と対照的に、indel変異の観点から説明するものである。生物学的な説明として、腎尿細管が大量の腎濾液再吸収と代謝老廃物・毒素排泄を担うことから、アリストロキン酸やオクラトキシンAなどの環境毒素によるDNA二本鎖切断と、それに続く誤りやすい非相同末端結合修復がsmall indel蓄積の原因となりうると考えられる。BRCA1欠損がNHEJの誤りやすさを増強することと、BRCA1変異型トリプルネガティブ乳癌でのindel高負荷が一致する点も、この仮説を支持する。

新規性: 免疫学的意義として、フレームシフトindelは、量的に3倍多いネオアンチゲンと、質的に9倍多い変異特異的バインダーを生成し、しかもTP53やVHLなどの腫瘍抑制遺伝子の機能喪失型創始変異を通じてクローナル性が高い点で、nsSNVを超える免疫原性を発揮しうることが本研究で初めて示された。これは、Wherry et al. NatRevImmunol 2015が指摘するT細胞疲弊のメカニズムを考慮すると、より効果的な免疫応答を誘導する可能性を示唆する。腎明細胞癌が低nsSNV負荷にもかかわらずチェックポイント阻害薬に感受性を示す理由として、黒色腫やNSCLCと同等のフレームシフトネオアンチゲン負荷が機能的な抗腫瘍免疫を維持している可能性が提案された。

臨床応用: 本研究の知見は、フレームシフトindelが腫瘍免疫療法の新規バイオマーカーとして、また腫瘍抑制遺伝子由来のクローナルフレームシフトネオアンチゲンがワクチンや細胞療法の標的として活用される可能性を提示する点で、臨床応用への大きな含意を持つ。特に、クローナルネオアンチゲンは、腫瘍の進化を通じて維持されやすく、免疫回避のリスクが低いことから、より効果的な治療標的となりうる。

残された課題: 残された課題としては、RNAseq解析が腫瘍免疫活性化の間接的証拠に留まる点、および腎明細胞癌におけるindel負荷と治療応答の直接的な関連を確立するためには、将来の前向き研究による検証が必要である点が挙げられる。また、バイオインフォマティクスにおけるindelバリアントコールの課題も存在し、厳格な品質管理手順によって偽陽性率は低減されるものの、真のindel変異率が過小評価される可能性もlimitationとして考慮すべきである。

方法

本研究では、TCGA由来の5,777例、19癌種の固形腫瘍全エクソームシーケンス (WES) データをBroad Institute GDAC Firehoseリポジトリから取得し、解析に用いた。indel割合は、indel数 / (全SNV + 全indel) として定義された。腎明細胞癌 (TCGA n=392、Sato et al. n=106、Gerlinger et al. n=10) の独立した再現コホートでも同様の解析を実施し、結果の頑健性を確認した。MHCクラスIネオアンチゲン結合親和性予測は、4,592例のサブセットで実施された。まず、POLYSOLVER (POLYmorphic loci reSOLVER) を用いてHLA 4桁型を決定し、その後NetMHCpan v2.4を用いて9-merおよび10-merペプチドの結合親和性を評価した。高親和性バインダーはIC₅₀ <50 nMと定義され、変異特異的バインダーは変異型IC₅₀ <50 nMかつ野生型IC₅₀ >50 nMと定義された。

チェックポイント阻害薬応答コホートとして、抗PD-1投与黒色腫 (Hugo et al. n=38)、抗CTLA-4投与黒色腫2コホート (Snyder et al. n=62、Van Allen et al. n=100)、および抗PD-1投与非小細胞肺癌 (NSCLC) (Rizvi et al. n=31) の計4つのコホートを用いた。これらのコホートでは、元の研究で利用可能な最終的な変異アノテーションファイルがなかったため、生BAMファイルから標準化されたバイオインフォマティクスパイプラインを用いてバリアントコールを行った。具体的には、Picard tools (version 1.107) SamToFastqでFASTQ形式に変換後、bwa mem (bwa-0.7.7) を用いてhg19ゲノムアセンブリにアラインメントした。SAMtools mpileup (version 0.1.19) を用いて非参照位置を特定し、VarScan2 somatic (version 2.3.6) で体細胞変異を同定した。MuTect (version 1.1.4) もSNV検出に用いられた。

NMD (ナンセンス介在mRNA分解) 効率は、TCGA GDAC Firehoseリポジトリから取得したRNAseq発現データ (transcripts per kilobase million; TPM) を用いて推定された。変異を有するサンプルと変異のないサンプルにおけるmRNA発現を比較することで、NMD指数を算出した。クローン性解析には、PyCloneおよびASCATが用いられ、変異コールとコピー数、腫瘍純度、バリアントアレル頻度を統合して変異のクローン状態を決定した。統計解析はR (version 3.0.2) で実施され、Mann-Whitney U検定、Fisherのメタ解析法、Cox比例ハザードモデルが用いられた。p値が0.05以下を統計的に有意と判断した。