• 著者: Robert J. Motzer, Bernard Escudier, David F. McDermott, Saby George, Hans J. Hammers, Sandhya Srinivas, et al.
  • Corresponding author: Robert J. Motzer (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-09-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26406148

背景

転移性淡明細胞型腎細胞癌 (clear-cell RCC) は、世界中で年間約338,000例が新たに診断され、約30%の患者が診断時に転移性疾患を呈すると報告されている Ferlay et al. IntJCancer 2015。この疾患は、血管内皮増殖因子 (VEGF) シグナル異常を背景とした血管新生腫瘍として特徴づけられ、一次治療としてVEGFR-TKI (sunitinib、pazopanib等) が長年標準治療であった。しかし、これらの標的療法は、疾患の治療成績を向上させたものの、薬剤耐性獲得後の全生存期間 (OS) 延長効果は限定的であった。例えば、VEGFR-TKI治療後の二次治療として承認されていたmTOR阻害薬everolimusのOS中央値は約15ヶ月、奏効率 (ORR) は約5%に留まっていた。このように、既存の標的療法では十分な治療効果が得られない患者が多く、新たな治療選択肢の確立が強く求められていた。

腎細胞癌は、歴史的に高用量インターロイキン-2 (IL-2) やインターフェロン-α (IFN-α) で一部の患者に長期生存が認められるなど、免疫原性が高い癌腫として知られている。近年、免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体nivolumabが、活性化T細胞上に発現するPD-1と、免疫細胞や腫瘍細胞上に発現するPD-1リガンド1 (PD-L1) およびPD-1リガンド2 (PD-L2) との相互作用を選択的に阻害することで、抗腫瘍免疫応答を回復させることが示された Brahmer et al. JClinOncol 2010Topalian et al. NEnglJMed 2012。PD-L1の発現は、腎細胞癌において免疫抑制機能により予後不良と関連することが報告されており、PD-1/PD-L1シグナル伝達の阻害が抗腫瘍免疫を回復させ、OSを改善する可能性が示唆されていた。しかし、PD-L1発現と治療効果の明確な関連性については、腎細胞癌においてはいまだ未解明な点が残されていた。

先行する第1/2相試験 (CheckMate 010) では、既治療の転移性腎細胞癌患者において、nivolumab単剤のORRが20〜27%であり、OS中央値が18.2〜25.5ヶ月と有望な結果が報告され、忍容性も良好であった (Motzer et al. J Clin Oncol 2015)。これらの結果に基づき、VEGF経路阻害薬による治療後に進行した進行淡明細胞型腎細胞癌患者に対する二次治療として、nivolumabがeverolimusと比較してOSを延長するかを検証する大規模なランダム化第III相試験CheckMate 025が計画された。これまでの標的治療ではOSの有意な延長が示されておらず、特に二次治療におけるOS延長効果が不足していたため、新たな治療選択肢の確立が強く求められていた。本研究は、既治療の進行腎細胞癌における治療ギャップを埋めることを目指した。

目的

本研究の目的は、抗血管新生療法を1〜2レジメン受けた後に進行した、進行・転移性淡明細胞型腎細胞癌患者において、PD-1免疫チェックポイント阻害薬であるnivolumab単剤が、mTOR阻害薬everolimusと比較して全生存期間 (OS) を有意に延長するかを検証することである。主要評価項目はOSとし、副次評価項目として客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、安全性プロファイル、および疾患関連症状に関するQOL (FKSI-DRS) を評価した。また、腫瘍におけるPD-L1発現と治療効果の関連性についても探索的に検討し、nivolumabが既治療進行腎細胞癌の新たな標準治療となり得るかを評価することを目的とした。本試験は、既存の治療法ではOS延長が限られていた既治療進行腎細胞癌に対する新たな治療パラダイムを確立することを目指した。

結果

患者背景: ランダム化された821例の患者背景は、両治療群間で良好にバランスが取れていた (Table 1)。年齢中央値は62歳 (範囲 18-88歳)、男性が約75%を占めた。MSKCCリスク分類では、良好36%、中間49%、不良15%であった。前治療の抗血管新生療法レジメン数は、1レジメンが72%、2レジメンが28%であった。最も一般的な転移部位は肺 (67%) であり、肝転移は23%、骨転移は18%であった。

主要評価項目である全生存期間 (OS) の延長: Nivolumab群はeverolimus群と比較して、全生存期間 (OS) を有意に延長した。OS中央値はnivolumab群で25.0ヶ月 (95% CI, 21.8ヶ月〜推定不能) であったのに対し、everolimus群では19.6ヶ月 (95% CI, 17.6〜23.1ヶ月) であった。ハザード比 (HR) は0.73 (98.5% CI, 0.57-0.93; P=0.002) であり、事前規定された優越性の基準 (P≤0.0148) を満たしたため、中間解析で試験は早期中止された (Figure 1)。このOSの延長効果は、地域、MSKCC予後スコア、前治療の抗血管新生療法レジメン数など、事前に規定されたすべてのサブグループで一貫して観察された。

客観的奏効率 (ORR) と奏効持続期間: Nivolumab群のORRは25% (95% CI, 21-29%) であったのに対し、everolimus群では5% (95% CI, 3-8%) と、nivolumab群で有意に高かった (オッズ比 5.98; 95% CI, 3.68-9.72; P<0.001)。完全奏効 (CR) はnivolumab群で1% (4例)、everolimus群で<1% (2例) に認められた。部分奏効 (PR) はnivolumab群で24% (99例)、everolimus群で5% (20例) であった。奏効までの期間中央値は、nivolumab群で3.5ヶ月、everolimus群で3.7ヶ月であった。奏効持続期間中央値は、両群ともに12.0ヶ月であったが、データカットオフ時点でnivolumab群では48%の患者で奏効が継続しており、everolimus群の45%と比較して、より多くの患者で持続的な奏効が認められた。

無増悪生存期間 (PFS): PFS中央値はnivolumab群で4.6ヶ月 (95% CI, 3.7-5.4ヶ月)、everolimus群で4.4ヶ月 (95% CI, 3.7-5.5ヶ月) であり、統計学的な有意差は認められなかった (HR 0.88; 95% CI, 0.75-1.03; P=0.11) (Figure 2B)。PFS曲線には、初期段階ではeverolimus群が優位に見えるが、その後nivolumab群が優位となる典型的な「crossing curves」パターンが観察された。6ヶ月時点で疾患進行または死亡がなかった患者を対象とした感度分析では、nivolumab群のPFS中央値は15.6ヶ月 (95% CI, 11.8-19.6ヶ月) であり、everolimus群の11.7ヶ月 (95% CI, 10.9-14.7ヶ月) と比較して有意に延長していた (HR 0.64; 95% CI, 0.47-0.88)。

PD-L1発現とOSの関連: ランダム化された患者821例中756例 (92%) で、前治療検体における腫瘍PD-L1発現が定量可能であった。PD-L1発現が1%以上の患者群では、nivolumab群のOS中央値は21.8ヶ月 (95% CI, 16.5-28.1ヶ月) であり、everolimus群の18.8ヶ月 (95% CI, 11.9-19.9ヶ月) と比較して延長傾向を示した (HR 0.79; 95% CI, 0.53-1.17) (Figure 3A)。PD-L1発現が1%未満の患者群でも、nivolumab群のOS中央値は27.4ヶ月 (95% CI, 21.4ヶ月〜推定不能) であり、everolimus群の21.2ヶ月 (95% CI, 17.7-26.2ヶ月) と比較して有意なOS延長が認められた (HR 0.77; 95% CI, 0.60-0.97) (Figure 3B)。これらの結果は、PD-L1発現レベルにかかわらずnivolumabのOS延長効果が維持されることを示唆している。

安全性プロファイル: Grade 3または4の治療関連有害事象の発生率は、nivolumab群で19% (76/406例) であったのに対し、everolimus群では37% (145/397例) と、nivolumab群で有意に低頻度であった (Table 2)。Nivolumab群で最も多く見られた治療関連有害事象 (全グレード) は、疲労 (33%)、悪心 (14%)、掻痒症 (14%) であった。Grade 3または4の有害事象で最も多かったのは疲労 (2%) であった。Everolimus群で最も多く見られた治療関連有害事象 (全グレード) は、疲労 (34%)、口内炎 (29%)、貧血 (24%) であった。Grade 3または4の有害事象で最も多かったのは貧血 (8%) であった。治療関連有害事象による治療中止は、nivolumab群で8% (31/406例)、everolimus群で13% (52/397例) であった。Nivolumab群では治験薬毒性による死亡は報告されず、everolimus群では2例の死亡 (敗血症性ショック1例、急性腸管虚血1例) が報告された。

QOL評価: FKSI-DRSスコアを用いたQOL評価では、nivolumab群でベースラインからのスコアが有意に改善または維持され、everolimus群では低下傾向が認められた。このQOLの改善は、試験期間を通じて一貫して観察され、両群間で統計学的に有意な差が認められた (P<0.05)。

考察/結論

CheckMate 025試験は、既治療の進行淡明細胞型腎細胞癌患者において、nivolumabがeverolimusと比較して全生存期間 (OS) を有意に延長し、客観的奏効率 (ORR) を改善し、かつ忍容性の高い安全性プロファイルを示すことを明確に示した画期的な第III相試験である。OS中央値25.0ヶ月という結果は、これまでの二次治療におけるデータ (axitinib、everolimus) を大きく上回るものであり、本研究は抗PD-1抗体が腎細胞癌の新たな標準治療となる基盤を築いた。

先行研究との違い: これまでの腎細胞癌に対する標的療法は、無増悪生存期間 (PFS) の延長を示すものが多かったが、OSの有意な延長を示すものは限られていた。本研究は、免疫チェックポイント阻害薬であるnivolumabが、PFSだけでなくOSにおいても明確な優位性を示した点で、これまでの治療パラダイムと異なる画期的な成果である。また、PFS曲線に観察された「crossing curves」現象は、メラノーマや非小細胞肺癌における抗PD-1抗体試験と同様のパターンであり、免疫療法の遅延奏効と持続的な効果を反映している。

新規性: 本研究で初めて、既治療の進行腎細胞癌において、PD-1阻害薬がmTOR阻害薬に対してOSの優位性を示すことが実証された。特に、PD-L1発現レベルにかかわらずnivolumabのOS延長効果が認められた点は新規の知見である。これは、腎細胞癌特有のネオアンチゲン環境 (VHL不活化に由来する高変異負荷) や、PD-L1以外の免疫抑制経路 (骨髄由来抑制細胞 (MDSC) や制御性T細胞 (Treg) など) への作用が関与している可能性を示唆する。この「PD-L1陰性でも効果あり」という知見は、腎細胞癌における免疫チェックポイント阻害薬の適応拡大の重要な根拠となった。

臨床応用: 本研究の結果は、2015年11月に米国FDAがnivolumabを既治療進行腎細胞癌に対して承認する直接的な根拠となった。これにより、進行腎細胞癌の治療戦略に大きな変革がもたらされ、免疫チェックポイント阻害薬が標準治療として確立された。その後、未治療設定ではCheckMate 214試験 (nivolumab + ipilimumab vs sunitinib) で併用療法の優位性が示され、さらにCheckMate 9ER (nivolumab + cabozantinib) やKEYNOTE-426 (pembrolizumab + axitinib) などの免疫チェックポイント阻害薬とVEGFR-TKIの併用療法が一次治療として承認されるなど、腎細胞癌治療は免疫チェックポイント時代へと完全に移行した。本研究は、これらの進展の礎を築いた臨床的意義の大きい成果である。

残された課題: 一次治療で免疫チェックポイント阻害薬とVEGFR-TKIの併用療法が標準となった現在、nivolumab単剤の治療における位置付けは二次治療以降となる。今後の検討課題として、非淡明細胞型腎細胞癌 (乳頭状、嫌色素性など) における有効性の評価、免疫チェックポイント阻害薬治療後に進行した症例に対するサルベージ戦略の確立、PD-L1以外のバイオマーカー (angiogenesis/immune signature、MiTF、BAP1変異など) による治療の個別化、および脳転移を有する患者に対する最適な治療戦略の確立などが残されている。また、長期的な安全性プロファイルや、免疫関連有害事象の管理に関するさらなる知見の蓄積も重要である。Limitationとして、本研究ではPD-L1発現とOSの関連性について探索的な検討に留まっており、より詳細なバイオマーカー研究が必要である。

方法

試験デザイン: 本研究は、多施設共同、ランダム化、非盲検の第III相試験 (CheckMate 025、NCT01668784) として実施された。独立データモニタリング委員会が試験の有効性と安全性を監視した。

対象患者: 18歳以上の進行または転移性淡明細胞型腎細胞癌患者で、RECIST v1.1に基づき測定可能な病変を有し、1〜2レジメンの抗血管新生療法による前治療後に疾患が進行した患者が対象とされた。全身療法は合計3レジメン以内であり、Karnofsky Performance Status (KPS) が70%以上であることが必須であった Schag et al. JClinOncol 1984。主要な除外基準には、中枢神経系転移、mTOR阻害薬による前治療歴、およびグルココルチコイド治療 (プレドニゾン10mg/日超相当) が含まれた。

ランダム化と層別化: 合計821例の患者が、nivolumab群 (3 mg/kgを2週間ごとに静脈内投与、n=410) とeverolimus群 (10 mgを1日1回経口投与、n=411) に1:1の割合でランダムに割り付けられた。ランダム化は、地域 (米国/カナダ、西ヨーロッパ、その他)、MSKCC予後リスク分類 (良好、中間、不良)、および前治療の抗血管新生療法レジメン数 (1または2) に基づいて層別化された。MSKCC予後リスクは、貧血、高カルシウム血症、不良なパフォーマンスステータスの3つの予後因子のうち、0個 (良好)、1個 (中間)、2〜3個 (不良) の存在に基づいて定義された (Motzer et al. J Clin Oncol 2004)。

評価項目:

  • 主要評価項目: 全生存期間 (OS) と定義され、ランダム化からあらゆる原因による死亡までの期間とした。
  • 副次評価項目: 客観的奏効率 (ORR、RECIST v1.1に基づき治験責任医師が評価) Eisenhauer et al. EurJCancer 2009、無増悪生存期間 (PFS、RECIST v1.1に基づく疾患進行またはあらゆる原因による死亡までの期間)、安全性 (NCI-CTCAE v4.0に基づき評価)、およびQOL (FKSI-DRS (Functional Assessment of Cancer Therapy Kidney Symptom Index-Disease-Related Symptoms) スコアを用いて評価) が含まれた。腫瘍組織におけるPD-L1膜発現 (≥1% vs <1%、および ≥5% vs <5%) も中央検査室で評価された。

統計解析: 事前規定された中間解析は、最終解析に必要な死亡イベント数569件のうち398件 (70%) が発生した時点で実施された。O’Brien-Flemingのα消費関数に基づく早期中止基準が設定され、OSの優越性を示すための有意水準はP≤0.0148とされた。OSおよびPFSの推定にはKaplan-Meier法が用いられ、群間比較には層別ログランク検定が、ハザード比 (HR) の算出には層別Cox比例ハザードモデルが用いられた。奏効率の比較にはCochran-Mantel-Haenszel法が用いられた。QOL評価にはWilcoxon-Mann-Whitney検定が用いられた。本試験は、独立データモニタリング委員会による評価の結果、OSに関する主要評価項目を達成したため、2015年7月に早期中止された。