- 著者: Ribas A
- Corresponding author: Antoni Ribas, MD, PhD (Division of Hematology-Oncology, UCLA, Los Angeles, CA, USA)
- 雑誌: New England Journal of Medicine
- 発行年: 2012
- Epub日: 2012-06-02
- Article種別: Editorial / Commentary
- PMID: 22658126
背景
がん免疫療法は長年にわたり追求されてきた治療戦略である。不活化腫瘍ワクチンや細菌産物の腫瘍内注射による局所炎症誘発、抗腫瘍免疫応答の誘導といった初期の試みは、散発的な成功に留まっていた。その後、免疫系の活性化メカニズムに関する知見の深化と組換えDNA技術の進歩により、インターフェロンやインターロイキンなどの免疫刺激性サイトカインの臨床試験が可能となった。これらの試験は、黒色腫や腎細胞癌(RCC)といった特定の癌種において、重篤な毒性を伴いながらも低頻度で持続的な腫瘍応答をもたらすことを示した。樹状細胞が癌に対するT細胞応答を組織化する上で中心的な役割を果たすという発見は、樹状細胞ベースワクチンの多数の臨床試験につながったが、これもまた一部の患者において散発的な腫瘍応答を示すに過ぎなかった Ribas et al. J Clin Oncol 2003。
免疫系は過剰な活性化が健康な組織に損傷を与えることを避けるため、免疫応答の過剰な発動を抑制する機構を備えている。癌細胞はこの機構を悪用し、自己免疫を回避するために進化した一連の免疫回避メカニズムを利用して免疫系から身を隠す。これらのメカニズムの中には、T細胞活性化時に誘導される免疫細胞内在性のチェックポイントの乗っ取りが含まれる Pardoll et al. Nat Rev Cancer 2012。
これらのチェックポイントの一つである細胞傷害性Tリンパ球関連抗原4(CTLA-4)の阻害は、転移性黒色腫患者の治療において全生存期間(OS)の改善を示す最初のエビデンスを提供した Hodi et al. NEnglJMed 2010、Robert et al. NEnglJMed 2011。CTLA-4は、T細胞の初期活性化段階(プライミングフェーズ)を主に制御する共抑制受容体であり、抗原提示細胞(樹状細胞など)が発現するCD80(B7-1)およびCD86(B7-2)との結合をめぐってCD28共刺激受容体と競合することで機能する。CTLA-4はT細胞活性化後約48時間で発現し、優性な負のシグナル伝達を提供する。イピリムマブやトレメリムマブなどの阻害抗体によるCTLA-4阻害は、転移性黒色腫患者において10〜15%の客観的奏効率(ORR)をもたらすが、20〜30%の患者で臨床的に有意な炎症性または自己免疫性毒性を伴うことが課題であった。
このような背景から、既存の免疫療法では治療が困難であった非小細胞肺癌(NSCLC)や腎細胞癌(RCC)などの固形腫瘍に対し、より効果的かつ安全性の高い新たな免疫チェックポイント阻害戦略の開発が強く求められていた。特に、従来の免疫療法ではORRが10〜15%程度に留まることが多く、この壁を突破する治療法の確立が喫緊の課題として認識されていた。
目的
本Editorialは、2012年6月2日号のNew England Journal of Medicineに同時掲載された、抗PD-1抗体(BMS-936558、ニボルマブ)の第1相試験(Topalian et al. NEnglJMed 2012)および抗PD-L1抗体(BMS-936559)の第1相試験(Brahmer et al. NEnglJMed 2012)の科学的および臨床的意義を詳細に解説することを目的とする。具体的には、PD-1/PD-L1経路阻害という新たな免疫療法アプローチが、従来のCTLA-4阻害薬と比較してどのような作用機序の差異を有し、それが臨床的有効性および安全性プロファイルにどのように影響するかを考察する。また、これまで免疫療法に抵抗性であると考えられてきた非小細胞肺癌(NSCLC)などの固形腫瘍における客観的かつ持続的な奏効が、がん免疫学のパラダイムにどのような変革をもたらすかを論じる。さらに、PD-L1発現が奏効予測バイオマーカーとして機能する可能性と、それに伴う課題についても検討し、個別化医療への道筋を提示する。
結果
本稿はEditorialであるため、新たな実験結果や臨床試験データは提示されていない。しかし、著者はTopalian et al. NEnglJMed 2012およびBrahmer et al. NEnglJMed 2012の2つの主要な臨床試験から得られた画期的な結果を詳細に引用し、その意義を解説している。
PD-1/PD-L1阻害薬の広範な抗腫瘍活性と持続的奏効: Topalian et al. NEnglJMed 2012による抗PD-1抗体(BMS-936558)の第1相試験では、転移性黒色腫、非小細胞肺癌(NSCLC)、腎細胞癌(RCC)を含む複数の固形腫瘍において、客観的かつ持続的な腫瘍退縮が報告された。特に、黒色腫患者ではORRが28%(n=94)、RCC患者ではORRが27%(n=33)、NSCLC患者ではORRが18%(n=76)であった。これらの奏効は、過去30年間に臨床で試みられた多くの免疫療法アプローチにおける10〜15%という持続的腫瘍応答率の「天井」を打ち破るものであった。さらに、奏効を示した患者の大多数(31例中20例、65%)が1年以上の持続奏効を達成しており、これは免疫記憶による長期的な疾患制御を示唆する。
「免疫療法抵抗性」概念の覆し: 本Editorialで著者が最も強調するのは、NSCLCおよびRCCへの奏効という「衝撃的な事実」である。NSCLCは、CTLA-4阻害薬やワクチンなどの既存の免疫療法に対して「悪名高い抵抗性(notoriously resistant)」を示すとされてきた。しかし、Topalian et al. NEnglJMed 2012の試験ではNSCLC患者(n=76)でORR 18%という有意な奏効率が示された。これは、腫瘍の免疫応答性が癌の組織型に固有のものではなく、免疫チェックポイントの種類と経路に依存するという概念転換を示すと論じられた。また、同日掲載のBrahmer et al. NEnglJMed 2012による抗PD-L1抗体(BMS-936559)の試験においても、NSCLCでORR 10%(n=49)、RCCでORR 12%(n=17)と、独立した試験で同様の知見が得られたことが強調された。
安全性プロファイルとCTLA-4阻害薬との比較: Topalian et al. NEnglJMed 2012の抗PD-1抗体試験では、グレード3または4の有害事象(AE)の発生率は14%であった。これは、CTLA-4阻害薬であるイピリムマブで報告されている20〜30%のグレード3/4 AEと比較して低い数値であり、PD-1阻害がより腫瘍選択的な免疫活性化を誘導し、全身性の自己免疫毒性が少ない可能性を裏付けるものとされた。PD-1は主に腫瘍微小環境において活性化T細胞のエフェクター機能を抑制する「末梢的チェックポイント」として機能するため、CTLA-4がリンパ節におけるT細胞のプライミング段階を抑制する「中枢的チェックポイント」であることと対照的である(図1)。
PD-L1発現の予測バイオマーカーとしての可能性: Topalian et al. NEnglJMed 2012の探索的解析では、PD-L1陽性腫瘍(免疫組織化学染色で5%以上の細胞が染色される場合)の患者(n=25)ではORRが36%(9/25例)であったのに対し、PD-L1陰性腫瘍の患者(n=17)ではORRが0%(0/17例、p=0.006)という予備的な相関が示された。この知見は、PD-L1発現がPD-1軸阻害薬に対する奏効を予測するバイオマーカーとして機能する可能性を示唆するものであり、患者選択や個別化医療の進展に大きな機会をもたらすと評価された。しかし、評価可能例が42例と限定的であるため、確定的な結論には至らないことも指摘されている。
考察/結論
CTLA-4とPD-1の作用機序の差異と臨床的意義: 著者は、CTLA-4とPD-1の作用機序の違いが臨床結果に与える影響を詳細に考察する。CTLA-4はリンパ節においてT細胞の初期活性化段階(プライミングフェーズ)を抑制する「中枢的チェックポイント」として機能するのに対し、PD-1は末梢組織や腫瘍微小環境において活性化T細胞のエフェクター機能を抑制する「末梢的チェックポイント」として機能する。この作用点の違いにより、PD-1/PD-L1軸阻害では、CTLA-4阻害と比較してより腫瘍選択的な免疫活性化と、より少ない全身性自己免疫毒性が期待される。Topalian et al. NEnglJMed 2012の試験で報告されたグレード3-4の有害事象が14%と、CTLA-4阻害薬よりも低い割合であったことは、この作用機序の差異を裏付けるものであり、PD-1阻害薬の安全性プロファイルの優位性を示す。
「免疫療法抵抗性」概念の覆しと新規性: 本Editorialで最も強調されるのは、非小細胞肺癌(NSCLC)および腎細胞癌(RCC)といった、これまで免疫療法に「悪名高い抵抗性」を示すとされてきた癌種において、PD-1/PD-L1阻害薬が客観的奏効を示したという新規性である。Topalian et al. NEnglJMed 2012ではNSCLCでORR 18%(n=76)、RCCでORR 27%(n=33)が示され、Brahmer et al. NEnglJMed 2012でもNSCLCでORR 10%(n=49)、RCCでORR 12%(n=17)と、独立した試験で同様の知見が得られた。これは、腫瘍の免疫応答性が癌の組織型に固有のものではなく、免疫チェックポイントの種類と経路に依存するというパラダイム転換を示唆するものであり、これまでの免疫腫瘍学の常識と異なる画期的な発見である。
ORR上限の突破と持続応答の臨床的意義: 過去10〜15年にわたり、高用量IL-2やイピリムマブなどの免疫療法の客観的奏効率(ORR)はおおむね10〜15%が上限とされてきた。しかし、Topalian et al. NEnglJMed 2012では黒色腫でORR 28%、RCCでORR 27%という高い数値が示された。さらに重要なのは、奏効例31例のうち20例(65%)が1年以上の持続奏効を達成したという事実である。これは化学療法では得られない「免疫記憶による長期制御」を示唆しており、単なるORRの数字を超えた免疫療法固有の価値(durable benefit)を体現する臨床的意義を持つ。
PD-L1バイオマーカーの可能性と残された課題: Topalian et al. NEnglJMed 2012の探索的解析では、PD-L1陽性腫瘍(n=25)でORR 36%に対し、PD-L1陰性腫瘍(n=17)でORR 0%という予備的相関が示された。Ribasはこの知見を「説得力がある」と評価しつつも、評価可能例が42例に限られており確定的な結論には至らないことを強調した。PD-L1発現が予測バイオマーカーとして機能するならば、患者選択やコンパニオン診断の開発が今後の重要な課題となる。同時に、PD-L1陰性腫瘍でも少数ながら奏効例が存在する可能性(感度の問題)や、腫瘍内でのPD-L1発現の不均一性、PD-L1発現の動的な変化も残された課題として提起された。これらの課題を解決するための今後の研究が不可欠である。
免疫腫瘍学のパラダイム転換: 本Editorialの結論として、Ribasは「2012年6月2日号のNEJM掲載2論文(Topalian et al. NEnglJMed 2012およびBrahmer et al. NEnglJMed 2012)は、免疫腫瘍学の新章の開幕を告げるものである」と結んだ。CTLA-4阻害薬が先鞭をつけた免疫チェックポイント阻害という概念を、PD-1/PD-L1軸阻害はより広い腫瘍種(NSCLC・RCCを含む)により高いORR、より少ない毒性、より高い持続性で実現する可能性を示した。この2論文がその後のニボルマブやペムブロリズマブのNSCLC/黒色腫/RCC承認(2014〜2016年)への急速な臨床開発を促した点において、本Editorialは免疫腫瘍学史上の重要な文脈提供資料として位置付けられる。
方法
本稿はEditorialであるため、特定の研究デザインや患者コホート、実験プロトコルに基づく「方法」セクションは存在しない。著者は、Topalian et al. NEnglJMed 2012による抗PD-1抗体(BMS-936558)の第1相試験およびBrahmer et al. NEnglJMed 2012による抗PD-L1抗体(BMS-936559)の第1相試験という、同時期にNew England Journal of Medicineに掲載された2つの主要な臨床試験の結果を基に、その科学的・臨床的意義を評価し、考察を展開している。
著者は、これらの臨床試験で報告された客観的奏効率(ORR)、奏効の持続性、および安全性プロファイル(特に有害事象の発生率と重症度)を分析し、先行するCTLA-4阻害薬(イピリムマブなど)の臨床データと比較検討している。また、PD-1とCTLA-4の作用機序の違い(T細胞活性化のプライミングフェーズとエフェクターフェーズでの役割)を分子生物学的観点から整理し、それが臨床結果にどのように反映されているかを考察している。
さらに、非小細胞肺癌(NSCLC)や腎細胞癌(RCC)といった、これまで免疫療法に抵抗性であるとされてきた癌種における奏効の意義を強調し、癌種固有の免疫応答性という従来の概念に対するパラダイムシフトの可能性を論じている。PD-L1発現と治療奏効との関連性に関する探索的バイオマーカー解析の結果にも言及し、予測バイオマーカーとしてのPD-L1の潜在的な有用性と、その評価における課題(評価可能例の少なさ、発現の不均一性など)を指摘している。本Editorialは、これらの臨床試験結果を統合的に解釈し、がん免疫療法におけるPD-1/PD-L1軸阻害の将来的な展望と、個別化医療への貢献について論じている。