• 著者: Kelly D. Moynihan, Cary F. Opel, Gregory L. Szeto, Alice Tzeng, Eric F. Zhu, Jesse M. Engreitz, Robert T. Williams, Kavya Rakhra, Michael H. Zhang, Adrienne M. Rothschilds, Sudha Kumari, Ryan L. Kelly, Byron H. Kwan, Wuhbet Abraham, Kevin Hu, Naveen K. Mehta, Monique J. Kauke, Heikyung Suh, Jennifer R. Cochran, Douglas A. Lauffenburger, K. Dane Wittrup, Darrell J. Irvine
  • Corresponding author: Darrell J. Irvine (Koch Institute for Integrative Cancer Research, MIT, Cambridge, MA, USA); K. Dane Wittrup (MIT, Cambridge, MA, USA)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2016
  • Epub日: 2016-10-24
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27775706

背景

転移性癌に対する免疫チェックポイント阻害薬、例えば抗CTLA-4や抗PD-1抗体は、一部の患者において持続的な腫瘍退縮を誘導するものの、その奏効は限定的である。進行腫瘍における複雑な免疫抑制ネットワークを単一の介入で克服することは困難であり、これが治療効果が限定される一因であると考えられる Hodi et al. NEnglJMed 2010Topalian et al. NEnglJMed 2012Larkin et al. NEnglJMed 2015。併用療法、例えば抗CTLA-4と抗PD-1の組み合わせは奏効率を向上させることが報告されているが、前臨床モデルにおいても、完全な腫瘍排除は通常、非常に小さい腫瘍や初期の腫瘍に対してのみ達成されており、大型の確立された腫瘍に対する内因性免疫応答による信頼性のある根治は、養子T細胞療法なしには実現が困難であった Morgan et al. Science 2006

遺伝子改変自発発生腫瘍モデル(例: Braf V600E Pten fl/fl)は、ヒト腫瘍に近似した免疫抑制ネットワークを形成し、免疫療法に対して抵抗性を示すことが多い。このようなモデルにおける大型の免疫抑制性腫瘍を、内因性免疫応答のみで確実に根治できるかという点は、依然として未解明な課題として残されている。これまでの研究では、長半減期IL-2と腫瘍特異的抗体の併用療法がマウス癌モデルで相乗的な治療効果を示すことが報告されているが、T細胞移入を伴わない完全な内因性免疫応答による大型腫瘍の根治は不足していた。特に、免疫抑制的な腫瘍微小環境が完全に確立された状況下で、多様な免疫細胞を動員し、腫瘍を排除するための包括的な戦略は手薄であった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指している。

目的

本研究の目的は、4つの補完的な免疫調節剤(腫瘍抗原標的抗体、長半減期IL-2、抗PD-1、リンパ節標的amphiphile-peptide vaccine)の合理的な組み合わせにより、大型で確立された免疫抑制性腫瘍を内因性免疫応答のみで根治可能かを検証することである。さらに、この併用療法(AIPV)の抗腫瘍効果の機序を、自然免疫細胞と適応免疫細胞の役割、および抗原スプレッディングの観点から詳細に解明することを目的とする。特に、治療抵抗性の高いBraf/Pten自発メラノーマモデルを含む複数の腫瘍モデルにおいて、AIPV療法の有効性を評価し、その作用機序を多角的に解析することで、難治性癌に対する新たな治療戦略の基盤を確立することを目指す。

結果

AIPVによる大型確立腫瘍の根治: AIPV治療は、確立された大型腫瘍モデルにおいて顕著な抗腫瘍効果を示した。B16F10メラノーマでは75%の、DD-Her2/neu乳癌およびTC-1腫瘍では70%以上のマウスで完全退縮が観察された (Fig. 1b, d, f)。これに対し、3要素のサブコンビネーション(AIP、AIV、IPV、APV)では、AIPが中程度の効果を示すものの、他の組み合わせは有意に劣る治療効果しか得られなかった。AIPV治療により長期生存したマウスの80%以上(B16F10、n=20 mice)または100%(DD-Her2/neu、TC-1)が、治療終了2ヶ月後の腫瘍再チャレンジを排除し、有効な免疫記憶が形成されたことを示唆した (Fig. 1c, e, g)。抗PD-1を抗CTLA-4に置換しても同様の効果が得られた。さらに、3価ワクチン(Trp1/Trp2/gp100)を用いたAIPV療法では、B16F10腫瘍の治癒率が100%に向上した (Fig. 6a, b)。Braf/Pten自発メラノーマモデルにおいても、AIPVは著明な腫瘍退縮と生存期間の改善を誘導し、未治療群が10週で耳全体を腫瘍に覆われたのに対し、治療群の大部分で色素性病変の消失が見られた (Fig. 6c, d)。AIPV療法は、体重減少や肝酵素上昇などの全身毒性を最小限に抑えつつ、B16F10モデルでは尋常性白斑が観察された(臨床免疫療法における奏効マーカーとして知られる)。

腫瘍微小環境のリモデリングとサイトカインプロファイルの変化: AIPV治療は、腫瘍微小環境の劇的なリモデリングを誘導した。腫瘍内には、エフェクターCD8+ T細胞、CD4+ FoxP3- T細胞、CD11b+Ly6G+Ly6C low好中球、NK細胞、およびその他の骨髄系細胞の顕著な浸潤が観察された (Fig. 3a-d)。特に、IL-2の投与にもかかわらず、CD8+ T細胞と制御性T細胞(Treg)の比率が顕著に上昇した (Fig. 3c)。Luminex解析により、5つの共制御されるサイトカイン/ケモカインクラスターが同定され、そのうちクラスター3(MIP-1α、RANTES、eotaxin、IL-4)が治療後の腫瘍サイズと最も強い逆相関を示し、R²=0.69で腫瘍量を予測する最良のモデルを提供した (Fig. 2d-f)。このクラスター3のサイトカインレベルは、治療効果の高い群で有意に増加しており、例えばMIP-1αのレベルは未治療群と比較して約2.5-foldの増加を示した (p<0.01)。

多細胞系譜の必須性: 治療効果には、複数の免疫細胞集団の協調が不可欠であることが示された。CD8+ T細胞の枯渇はAIPVの効果を完全に消失させ (Fig. 3f)、Batf3-/-マウス(n=7 mice)ではAIPV治療が完全に失敗した (Fig. 4a)。マクロファージ(CSF1R)、NK細胞(NK1.1)、好中球(Ly6G)の枯渇も、マウスの生存期間を有意に低下させた (Fig. 3f)。一方で、CD4+ T細胞やIL-5の枯渇は治療効果に影響を与えなかった。これらの結果は、AIPVの抗腫瘍効果が単一の細胞集団に依存するのではなく、多様な免疫細胞の協調的な作用によって達成されることを明確に示した。

抗体依存性クロスプレゼンテーションと抗原スプレッディング: 腫瘍抗原抗体は、抗原提示細胞(APC)による抗原取り込みを促進することが示された。GFP発現B16F10腫瘍に蛍光標識TA99抗体を投与したモデルでは、CD8α+およびCD103+クロスプレゼンティングDCへのGFP取り込みがTA99によって有意に増強された (Fig. 4d-g)。例えば、TA99+ CD8α+ DCにおけるGFPの平均蛍光強度(MFI)は、TA99- DCと比較して約1.8-fold増加した (p<0.001)。Batf3依存性CD103+ DCは、腫瘍抗原のリンパ節への輸送と提示に必須であることが示された。B16-OVA腫瘍モデルにおいて、AIPV(Trp2ワクチン)治療マウスでは、ワクチンにコードされていないOVA-SIINFEKL特異的T細胞応答が誘導され、免疫応答の拡張(抗原スプレッディング)が確認された (Fig. 4h, i)。さらに、Trp2-KO B16F10(CRISPR-Cas9で作成)細胞を用いた再チャレンジ実験では、AIPV治療により治癒したマウスの50%がTrp2欠損腫瘍を排除し、抗原スプレッディングが腫瘍の不均一性に対する耐性を提供することを示唆した (Fig. 4j, k)。

内因性抗体応答と補体非依存性保護: AIPV治療は、全3種の移植腫瘍モデルにおいて、腫瘍細胞に結合する内因性IgG抗体を誘導した (Fig. 5a)。これらの抗体は、Western blot解析により多数の腫瘍抗原を認識することが示された (Fig. 5c)。AIPV治療マウスの血清(day 150)をナイーブ受容者に養子移入すると、B16F10細胞の静脈内チャレンジに対する肺転移が有意に減少した (Fig. 5d, e)。肺転移巣の平均数は、AIPV治療群の血清を移入したマウスで約5個であったのに対し、ナイーブ血清群では約20個であり、約4-foldの減少を示した (p<0.05)。しかし、B細胞欠損マウス(μMTマウス、n=8 mice)においてもAIPVは野生型マウスと同等の腫瘍退縮を達成し、内因性B細胞応答がAIPVの治療効果に必須ではないことが判明した (Fig. 5f, g)。これは、治療に用いられるモノクローナル抗体自体がオプソニン化活性を提供するため、内因性抗体応答が冗長である可能性を示唆している。

考察/結論

本研究は、腫瘍抗原抗体、長半減期IL-2 (MSA-IL-2)、抗PD-1、リンパ節標的amphiphile-peptide vaccineという4つの補完的な免疫調節剤の併用療法(AIPV)が、養子T細胞療法なしに大型で確立された免疫抑制性腫瘍を根治可能であるという革新的な概念実証を確立した。これは、これまで報告されていない、内因性免疫応答のみによる難治性腫瘍の根治を示すものである。各要素は単独では中程度の効果に留まるが、協調することで腫瘍の免疫抵抗性ネットワークを克服することが示された。

先行研究との違い: これまでの研究では、大型の免疫抑制性腫瘍の根治には養子T細胞療法が不可欠であるとされてきたが、本研究は、内因性免疫応答のみでこれを達成できることを初めて実証した点で、これまでの常識と対照的である。また、単一の免疫チェックポイント阻害では克服困難な複雑な免疫抑制環境に対し、多様な免疫細胞を動員する多角的アプローチの有効性を示した。

新規性: 本研究で初めて、自然免疫細胞(好中球、マクロファージ、NK細胞、Batf3依存性クロスプレゼンティングDC)と適応免疫細胞(CD8+ T細胞)の統合された応答が、AIPVの抗腫瘍効果に不可欠であることを明らかにした。特に、腫瘍抗原抗体 (TA99) がFc受容体依存的にBatf3依存性クロスプレゼンティングDC(CD8α+/CD103+)への抗原取り込みを増強すること、およびワクチンにコードされた抗原以外への機能的なde novo T細胞応答(抗原スプレッディング)が誘導されることは、これまで報告されていない重要な機序である。長半減期IL-2がT細胞/Treg比を改善し、炎症性サイトカイン/ケモカインを誘導する役割も新規の知見である。

臨床応用: AIPVフレームワークは、現代のがん免疫療法における統合戦略(PD-1/PD-L1阻害剤、ワクチン、サイトカイン、抗体)の前臨床基盤を提供する。この知見は、HER2 IHC陽性乳癌におけるトラスツズマブ、IL-2、ペプチドワクチン、PD-1阻害剤の併用、あるいはαvβ3/αvβ5/α5β1インテグリンが広範な癌で発現することから、2.5F-Fcのような普遍的なオプソニン化抗体の利用可能性など、具体的な臨床応用戦略を示唆する。また、ネオアンチゲンベースのamphiphileワクチンによる個別化医療への道も開かれる。

残された課題: 今後の検討課題として、4要素レジメンの臨床用量とスケジュールの最適化の複雑性、自己抗原標的による自己免疫リスク(白斑、ぶどう膜炎、聴覚喪失など)の管理、ネオアンチゲンと自己抗原の最適な組み合わせ、他の固形腫瘍モデルへの一般化、および「hot tumor」と「cold tumor」の転換機序のさらなる精査が残されている。AIPVの概念は、ブリッジ療法や術前免疫療法としての臨床試験が計画されつつあり、その実現にはこれらの課題の克服が不可欠である。

方法

AIPV治療プロトコル: 治療は、腫瘍接種8日後(腫瘍サイズが約40-60 mm²に達した時点)に開始された。AIPVは、A(腫瘍抗原標的抗体)、I(MSA-IL-2、長半減期IL-2)、P(抗PD-1)、V(albumin-binding lipid結合amphiphile-peptide vaccine + CpG DNA、リンパ節標的)の4要素から構成される。B16F10メラノーマにはTA99抗Trp1抗体、DD-Her2/neu乳癌には7.16.4抗Her2/neu抗体、TC-1腫瘍には2.5F-Fc抗αvβ3/αvβ5/α5β1インテグリン抗体 surrogateがそれぞれ使用された。MSA-IL-2は30 µg、抗PD-1(クローンRMP1-14)は200 µg、腫瘍抗原標的抗体は100 µg(2.5F-Fcは500 µg)が腹腔内投与された。ワクチンは1.24 nmolのamph-CpGと20 µgのamph-peptideから成り、尾根部に皮下投与された。PとVは週1回、計3回投与され、AとIは週1回、計5回投与された。

腫瘍モデル: B16F10メラノーマ(C57Bl/6マウス)、DD-Her2/neu乳癌(BALB/cマウス)、TC-1(HPV E6/E7発現)腫瘍が皮下接種された。また、Braf CA Pten loxP Tyr::CreER T2自発メラノーマモデル(Braf/Ptenマウス)では、4-ヒドロキシタモキシフェン投与により腫瘍を誘導し、28日後に治療を開始した。

機能解析: 治療効果は、腫瘍サイズの測定とマウスの生存期間によって評価された。腫瘍微小環境の変化は、Luminexアッセイによる32種類のサイトカイン・ケモカインの定量(partial least-squares regressionを用いて解析)と、フローサイトメトリーによる腫瘍浸潤免疫細胞の解析によって行われた。免疫組織化学染色も腫瘍浸潤細胞の空間分布解析に用いられた。特定の免疫細胞集団の役割を評価するため、CD8+ T細胞、CD4+ T細胞、NK細胞(NK1.1抗体)、マクロファージ(CSF1R抗体)、好中球(Ly6G抗体)を枯渇させる抗体が投与された。

機序解析: クロスプレゼンティングDCの役割を評価するため、Batf3-/-マウスが使用された。B細胞の関与はμMT B細胞欠損マウスを用いて評価された。抗体依存性抗原取り込みは、GFP発現B16F10腫瘍と蛍光標識TA99抗体を用いたモデルで、TDLN(腫瘍ドレナージリンパ節)のDCにおけるGFP取り込みをフローサイトメトリーで解析した。抗原スプレッディングは、B16-OVA腫瘍モデルにおけるOVA-SIINFEKL特異的T細胞応答の誘導、およびTrp2-KO B16F10(CRISPR-Cas9で作成)を用いたre-challenge実験によって評価された。内因性抗体応答は、AIPV治療マウスの血清を用いた腫瘍細胞結合アッセイ、Western blot、およびナイーブ受容者への血清養子移入による肺転移抑制効果の評価によって解析された。統計解析には、log-rank (Mantel-Cox) test、Welch’s t-test with Bonferroni correction、ANOVA with Bonferroni’s post hoc test、Student’s t-testが用いられた。