• 著者: John D. Martin, Horacio Cabral, Triantafyllos Stylianopoulos, Rakesh K. Jain
  • Corresponding author: Rakesh K. Jain (Edwin L. Steele Laboratories, Department of Radiation Oncology, Massachusetts General Hospital and Harvard Medical School, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Nature Reviews Clinical Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 32034288

背景

ナノメディシンは、EPR (enhanced permeability and retention) 効果を利用した抗がん薬の腫瘍への選択的送達により、治療の安全性と有効性の改善を目指してきた。しかし、これまでのところ、患者の生存期間延長への寄与は限定的であったことが報告されている Jain et al. Nat Rev Clin Oncol 2010。一方、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) は、一部の患者に劇的な奏効をもたらすものの、その恩恵を受けるのは全癌患者の推定13%未満に過ぎず、多くの患者は既存の免疫療法から長期的な利益を得られていない。さらに、ICI治療を受けた患者の相当数が免疫関連有害事象を発症することも課題である。

これら両治療法の共通の制約として、異常な腫瘍血管と線維化間質によって形成される物理的バリアが挙げられる。この腫瘍微小環境 (TME) の病態生理は、ナノメディシンの均一な送達を妨げるだけでなく、免疫抑制的な環境を形成し、免疫療法の効果を損なうことが示唆されている Jain et al. Nat Rev Clin Oncol 2010。TMEの異常な血管形成と間質線維化は、腫瘍内の血流低下、低酸素、酸性化を引き起こし、これらが免疫細胞の浸潤と機能を阻害する。TMEの免疫表現型は、免疫砂漠型 (immune-desert)、免疫排除型 (immune-excluded)、炎症型 (inflamed) の3つに大別され Chen et al. Nature 2017、それぞれICIに対する感受性が異なるが、これらの表現型の背景には共通するTMEの物理的・生理的異常が存在する。

ナノメディシンは、全身毒性を低減しつつ腫瘍内薬物濃度を高める可能性を持つが、その効果はTMEの物理的障壁によって制限されてきた。一方、免疫療法は強力な抗腫瘍免疫応答を誘導するが、TMEの免疫抑制によりその効果が限定される。このため、ナノメディシンと免疫療法の両者の効果を同時に向上させるための新たな戦略が緊急に求められているが、その具体的な戦略は未確立である。特に、TMEの物理的障壁と免疫抑制を同時に克服するアプローチは、ICIへの反応率を大幅に拡大する可能性を秘めている。従来の治療法では、TMEの複雑な物理的・生物学的障壁を克服するための包括的なアプローチが不足しており、この知識ギャップを埋めることを本総説は目的とする。

目的

本総説は、腫瘍微小環境 (TME) の正常化戦略、すなわち血管正常化と間質メカノセラピューティクスが、ナノメディシンの腫瘍内送達と免疫療法の有効性を同時に改善しうる科学的根拠を提示することを目的とする。さらに、癌免疫サイクル (cancer-immunity cycle) の各ステップにおけるナノ技術を用いた介入の可能性を体系的に整理し、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) への反応率を拡大するための「最小限の併用療法」戦略を提案する。これにより、TMEの物理的障壁と免疫抑制を克服し、より多くの癌患者が免疫療法の恩恵を受けられるようにするための新たな治療パラダイムを構築することを目指す。具体的には、血管正常化がナノメディシン送達と免疫応答をどのように改善するか、間質正常化が薬剤送達とT細胞浸潤をいかに促進するか、そして癌免疫サイクルの各段階でナノメディシンがどのように作用しうるかを詳細に検討する。最終的に、これらの知見を統合し、臨床的実装における機会と残された課題を考察する。

結果

TME免疫表現型と物理的バリアの病態生理学的統合理解: 腫瘍の免疫表現型は、免疫療法への感受性に影響を与える3つの主要なカテゴリーに分類される (Fig. 1)。Immune-desert (免疫砂漠) 表現型は、腫瘍内に抗腫瘍免疫細胞が欠如しており、抗原の欠如または提示不足、免疫寛容、T細胞プライミングの欠如が特徴である。VEGFによるDC (樹状細胞) 成熟阻害や、低酸素によって誘発されるCCL28によるTreg (制御性T細胞) の動員がこの表現型の形成に寄与し、ICIへの感受性が最も低い。Immune-excluded (免疫排除) 表現型では、免疫細胞が腫瘍辺縁部や間質に局在し、腫瘍実質への侵入が妨げられる。CAF (癌関連線維芽細胞) によるTGFβとSDF-1αの産生がCTL (細胞傷害性T細胞) の移動を阻害し、異常な血管形成による接着分子発現低下がリンパ球の腫瘍内浸潤を制限する。TGFβはまた、ナイーブCD4+ T細胞からTregへの分化を誘導する Mariathasan et al. Nature 2018Inflamed (炎症型) 表現型では、腫瘍実質にT細胞が存在し、炎症性サイトカインが産生されるが、腫瘍誘発性のVEGF、低酸素、PD-L1発現上昇などが多様な免疫抑制機構を介して抗腫瘍免疫を制限する。VEGFシグナルはT細胞上の複数の免疫チェックポイントタンパク質の発現を上昇させ Voron et al. JExpMed 2015、HIF-1αはMDSC (骨髄由来抑制細胞)、TAM (腫瘍関連マクロファージ)、DC、および腫瘍細胞上でチェックポイント受容体や対応するリガンドの発現を上昇させる。これら3つの表現型は、ナノメディシン分布の障壁と免疫抑制の両方に共通する病態生理 (異常血管、線維化間質) があるという著者らの中心的仮説を支持する。

腫瘍血管正常化によるナノメディシン送達と免疫応答の同時改善: 腫瘍血管は異常な血管壁透過性、低灌流、血管未成熟を特徴とし、これがIFP (腫瘍間質圧) 上昇と低酸素を生み出す。低用量抗VEGF療法 (血管正常化用量) は、腫瘍血管壁の大孔を縮小し、灌流と酸素化を改善してIFPを低下させる Jain et al. Science 2005。この血管正常化によって、直径約30 nm以上のナノメディシンの腫瘍血管壁通過が促進されることが前臨床および臨床データで支持されている。十数件の仮説生成的臨床試験で、血管正常化や灌流改善を示した患者はより良い転帰を示すことが確認された。免疫応答への効果として、前臨床研究で血管正常化がCD8+ T細胞浸潤を増強し、ICIの抗腫瘍効果を高めることが複数のモデルで示された Shrimali et al. CancerRes 2010。腫瘍灌流はICI反応性と相関することが示され、VEGFシグナル遮断後の酸素化改善がICIへの感受性向上に寄与することが臨床証拠によっても支持された (進行NSCLC患者での腫瘍灌流とbevacizumab反応性の相関)。さらに、ICI自体が一部の前臨床モデルでCD4+ Th1、IFN-γ依存的に血管正常化を誘導し、血管正常化とICI間の正のフィードバックループが形成されうることが示された。

IMpower150試験 - 血管正常化+ICI+化学療法の臨床的証明: 血管正常化とICIの組み合わせ原則を最も強く支持する臨床試験として、IMpower150試験が詳述された。転移性非扁平上皮NSCLCの一次治療として、bevacizumab (抗VEGFA抗体) +atezolizumab (抗PD-L1抗体) +carboplatin+paclitaxelをBCP (bevacizumab+carboplatin+paclitaxel) と比較した試験である。この試験では、OS中央値が19.2ヶ月 vs 14.7ヶ月 (HR 0.78, 95% CI 0.64-0.96, p=0.002) と統計的に有意な改善が示された Socinski et al. NEnglJMed 2018。RCC (腎細胞癌) でも、bevacizumab+atezolizumabがsunitinibに対してPFS (無増悪生存期間) 改善を示した。さらに、axitinib (VEGFR1-3小分子阻害薬) とavelumabまたはpembrolizumab併用が進行RCCで承認された。これらの結果は、血管形成シグナルへの介入がICIの有効性を高めるという概念を複数の腫瘍種で臨床的に検証するものである。

間質正常化 (Mechanotherapeutics) とlosartanの先駆的成績: 腫瘍内の線維化間質 (高密度コラーゲン、ヒアルロン酸、CAF) は、腫瘍血管を物理的に圧迫し固形応力 (solid stress) を生成することで、血流制限と薬剤・免疫細胞の浸透を阻害する。この固形応力はIFPや血管形成とは独立したメカニズムであり、特にPDAC (膵癌) で顕著である。CAFリプログラミングを通じたTME正常化のアプローチとして「mechanotherapeutics」が提唱され、主に既承認薬の再利用が探索されている。Losartan (ARB) は、CAF内のTGFβシグナルとECM (細胞外マトリックス) 産生を他のASI (アンジオテンシンシステム阻害薬) より効果的に抑制し、ECM密度低下、IFP低下、腫瘍血管減圧、T細胞浸潤促進をもたらす。局所進行PDACに対するlosartan+FOLFIRINOX+化学放射線療法の第II相試験では、切除率61%、OS中央値33ヶ月 (従来報告の10-20ヶ月と比較して顕著な改善) を達成し、多施設無作為化第II相試験 (NCT03563248) に発展した。さらに、losartan+nivolumab+FOLFIRINOX+SBRTを組み合わせた試験も進行中である。Paricalcitol (CAF上のビタミンD受容体アゴニスト) による間質リプログラミング、tranilastやpirfenidoneなどのTGFβ抑制機構を持つ薬剤、ヒアルロニダーゼ (PEGPH20) 等も検討されている。なお、ACE阻害薬はARBと異なりアンジオテンシンII受容体1と2の両方を間接的に阻害するため、NSCLC患者でACE阻害薬併用がPFS・OS悪化と相関するという相反する臨床データも存在し、ストローマ正常化戦略の選択が重要である。

Cancer-immunity cycleの各ステップへのナノメディシン介入 - 免疫原性細胞死とDC活性化: 著者らは、癌免疫サイクルの7ステップ (腫瘍抗原放出→抗原提示→T細胞プライミング→T細胞トラフィキング→T細胞浸潤→癌細胞認識→殺傷) に沿ってナノメディシンの介入点を体系的に整理した (Fig. 2)。ステップ1 (抗原放出): ICD (免疫原性細胞死) 誘導のために、oxaliplatinやdoxorubicinなどのICD誘導化学療法をナノ粒子化することで、非腫瘍組織への分布を減らしつつ腫瘍内ICD促進が可能となる。メトロノミック化学療法も腫瘍灌流改善と免疫抑制TMEのリプログラミングを通じてICDを増強する。具体的に、卵巣癌、卵管癌、腹膜癌の再発患者への第II相試験で、メトロノミックシクロホスファミド+bevacizumab+pembrolizumabがORR (奏効率) 37.5% (pembrolizumab単独最高ORR 8%と比較して著明改善) を示した。ステップ2 (抗原提示): TLR (Toll-like receptor) アゴニスト (TLR7/8: R848, TLR9: CpG/SD-101, poly I:C) をナノ粒子化することで、DC成熟誘導と抗原提示強化が達成できる。TLR9アゴニストのSD-101腫瘍内投与+ICIの第Ib/II相試験では、抗PD-1抗体ナイーブ進行メラノーマ患者での有望な奏効率が確認された。STING (stimulator of interferon-genes) アゴニスト (cGAMP/SD-100) のナノ粒子封入で、全身送達時の効率と持続性が改善される可能性がある。

Cancer-immunity cycle - T細胞プライミング・増殖のナノ技術強化: ステップ3 (T細胞プライミング): mRNAワクチンのLNP (脂質ナノ粒子) 封入が重要な開発軸として詳述された。RNAリポプレックスを「わずかに陰性」の電荷に調整することで、脾臓DCに選択的ターゲティングが達成可能であり、in vitro実験でメラノーマ患者3名において3例ともde novo T細胞応答が誘導された。FixVac試験 (BioNTech LNP-RNAによるTAA (腫瘍関連抗原) ×4種mRNA) では、メラノーマで単剤ORR 16%、抗PD-1併用で35%が報告された Sahin et al. Nature 2017。ナノワクチンの優位点として、(1) 10-100 nmの粒子径は流入リンパ節への効率的送達と保持を可能にする、(2) DC特異的取り込み促進 (ターゲティング部位と粒子径調整)、(3) pHセンシティブなエンドソーム放出系によりMHC I提示 (CTL誘導) が増強、(4) 抗原とアジュバントの同時送達でCD4+ T helper誘導と交差提示の両方が強化される点が挙げられた。IL-2・CD137刺激抗体をリポソーム表面に固定化することで、全身毒性を回避しつつ腫瘍と腫瘍流入リンパ節への受動的送達が達成可能であることが示された (マウスモデルで毒性なし)。Bempegaldesleukin (PEG化CD122選択的IL-2経路アゴニスト) は、Treg拡大でなく抗腫瘍T細胞を標的とし、単剤第I相でgrade 3-4 adverse eventsが11%という良好な安全性プロファイルを示した。

T細胞トラフィキング・浸潤・認識・殺傷へのナノ介入: ステップ4-5 (T細胞トラフィキングと浸潤): 血管正常化によるCXCL9産生M1様マクロファージ誘導 (CXCR3+T細胞の遊走促進) と接着分子 (ICAM-1、VCAM-1) 発現回復が、T細胞の腫瘍内トラフィキングと浸潤を改善する。CAFリプログラミングによるECM密度低下 (losartan、plerixafor、pirfenidone等) でT細胞の血管外移動が促進される。Nano-ARB (valsartan封入pH感受性ポリマーナノ粒子) は、全身降圧作用を解除しながら腫瘍内TME正常化を増強し、多発乳癌転移マウスモデルでICIの抗腫瘍効果が改善された。ステップ6-7 (認識と殺傷): 低酸素がMHC I発現を低下させT細胞認識を阻害するが、血管正常化によるMHC I発現回復と腫瘍特異的T細胞移動促進が示された。IDO1 (T細胞活性を低下させる酵素) のナノ粒子送達阻害が検討されたが、epacadostat+pembrolizumab第III相 (ECHO-301) がメラノーマでPFS・OS差なく失敗し (HR 1.00, 95% CI 0.83-1.21, p=0.99)、IDO1阻害の単純な組み合わせ価値に疑問符がついた。TGFβシグナルを抑制するナノ粒子 (CD8+ T細胞への活性標的化) がT細胞の腫瘍細胞殺傷機能を支持しうることが示された。

組み合わせナノメディシンのデザイン原則とcancer-immunity cycle全体駆動戦略: TME内の複数のステップを同時に克服するための組み合わせナノメディシン戦略が必要とされる理由として、単一ステップを克服する治療では次の免疫抵抗メカニズムが露わになるという観察が挙げられた。著者らが提案する「最小限組み合わせ (minimal combination) 」アプローチでは、ナノワクチンまたはACT (養子細胞療法) によるサイクル開始を選択肢として提示し、その後TME正常化→T細胞活性化→抗PD-1/抗PD-L1というシーケンスで癌免疫サイクルの全ステップを駆動することを提唱した。同時投与より逐次投与が毒性と効果のバランスにおいて優れる可能性が強調された Wolchok et al. NEnglJMed 2013。組み合わせナノメディシンとして、oxaliplatin (core) とdihydroartemisinin (shell) を含むミセルがICDと免疫活性化の相乗的誘導を示し、皮下腫瘍マウスモデルでICIの有効性を高めた。4成分ナノ粒子 (抗原標的化抗体+IL-29+抗PD-1+T細胞刺激ワクチン) が、高腫瘍量メラノーマモデルで強い抗腫瘍効果を示した Moynihan et al. NatMed 2016。ナノメディシンイメージング (PET/MRIシグナル放出ナノ粒子) によるTME状態・免疫療法活性のリアルタイム評価が治療効果予測に活用されることが提案された (Fig. 3)。

考察/結論

先行研究との違い: 本Perspectivesの独自性は、ナノメディシン送達と免疫療法有効性という従来別々に論じられてきた2領域が、実はTME正常化という共通の解決策を持つという統合的視点にある点である。これまでの研究は、血管正常化と免疫療法を別々に検討してきたが、本研究はこれら二つのアプローチを統合的に論じた点で新規性がある。異常腫瘍血管と線維化間質はナノメディシン送達を阻害するとともに免疫抑制性TMEを形成し、両者を「正常化」することで両者が同時に改善されるという仮説は、IMpower150試験 Socinski et al. NEnglJMed 2018 (bevacizumab+atezolizumab併用でOS中央値19.2ヶ月 vs 14.7ヶ月、HR 0.78, 95% CI 0.64-0.96, p=0.002) や、losartan+FOLFIRINOX膵癌第II相試験 (OS中央値33ヶ月、切除率61%) など複数の臨床データによって支持されている。

新規性: 本研究で初めて、癌免疫サイクルの各ステップに対するナノメディシンベースの介入を体系的に整理し、TME正常化と組み合わせることでICIへの反応率を拡大する「最小限の併用療法」戦略を提案した。これは、単一の治療が次の免疫抵抗メカニズムを露呈させるという観察に基づき、サイクルの全ステップを駆動することを目的とする。さらに、ナノメディシンがTME正常化剤、細胞傷害性薬剤、免疫療法の特定の組み合わせとスケジュールを促進することで、免疫療法の実施を改善するという新たな視点も提示された。

臨床応用: 本知見は、ICIの恩恵を受ける患者比率 (現在13%未満) を拡大するという究極目標に向けた臨床応用戦略として重要である。TME正常化とナノメディシンを組み合わせた最小限の併用療法は、有望な実装戦略として提示される。特に、既に承認されている薬剤 (例: losartan) のナノメディシンへの再利用は、臨床導入の障壁を低減する可能性がある。ナノメディシンイメージングによるTME状態や免疫療法活性のリアルタイム評価は、治療効果予測と個別化医療に貢献する可能性を秘めている。

残された課題: 今後の検討課題として、ICI反応者を予測するバイオマーカー (腫瘍灌流MRI、末梢血IFN-γ、循環内皮細胞等) の確立が残されている。また、癌種や個々の患者のTME免疫表現型に基づく最適治療シーケンスの個別化、および正常化戦略の過剰適用 (過度な血管pruningや間質depleting) による腫瘍進行促進リスクへの対処も重要な課題である。例えば、ACE阻害薬の併用がNSCLC患者のPFS・OS悪化と関連するという報告は、ストローマ正常化戦略の選択の重要性を示唆している。さらに、ナノメディシンの安全性プロファイルの最適化と、様々な癌種における有効性の検証も今後の研究で必要とされる。

方法

本論文は、ナノメディシンと免疫療法の併用戦略に関する展望 (Perspective) 論文であり、特定の実験プロトコルやデータ収集方法は含まれない。先行研究の包括的なレビューと統合を通じて、ナノメディシンと免疫療法の有効性を制限する腫瘍微小環境 (TME) の役割、およびTME正常化戦略が両治療法の効果を同時に改善しうるメカニズムについて考察した。文献検索は、PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて実施された。検索期間は論文発行時点までの関連文献を対象とし、特にナノメディシン、腫瘍微小環境、血管新生、免疫療法、癌免疫サイクル、およびこれらの組み合わせに関するキーワードが用いられた。レビューの対象は、主に全身投与および局所投与の粒子ベースの治療法に焦点を当て、注入可能な足場などの特定のナノテクノロジーは範囲外とした。

具体的には、TMEの免疫表現型 (immune-desert、immune-excluded、inflamed) の病態生理を分析し、異常な腫瘍血管形成と線維化間質がナノメディシン送達と免疫抑制にどのように寄与するかを検討した。血管正常化戦略については、抗血管新生療法 (AAT) の低用量投与が腫瘍血管の透過性を改善し、灌流と酸素化を向上させることで、ナノメディシン送達と免疫応答を促進するメカニズムを解説した。特に、bevacizumabとatezolizumabの併用療法に関するIMpower150試験などの臨床試験結果を引用し、その有効性を裏付けた。

間質正常化戦略としては、CAF (癌関連線維芽細胞) のリプログラミングに焦点を当て、ロサルタン (losartan) などのARB (アンジオテンシンII受容体拮抗薬) がTGFβシグナルとECM (細胞外マトリックス) 産生を抑制し、固形応力 (solid stress) を軽減することで、薬剤送達とT細胞浸潤を改善する可能性を論じた。局所進行膵癌におけるlosartanとFOLFIRINOXの併用療法に関する第II相試験 (Murphy et al. JAMA Oncol 2019) の結果を詳細に分析した。

さらに、癌免疫サイクルの7つのステップ (腫瘍抗原放出、抗原提示、T細胞プライミング、T細胞トラフィキング、T細胞浸潤、癌細胞認識、殺傷) のそれぞれに対し、ナノメディシンベースの介入がどのように免疫応答を強化し、ICIへの抵抗性を克服しうるかを体系的に検討した。これには、ICD (免疫原性細胞死) 誘導、DC (樹状細胞) 活性化、mRNAワクチン、T細胞刺激薬のナノ粒子封入、T細胞ホーミング・浸潤促進、癌細胞認識強化、T細胞殺傷機能回復などが含まれる。これらの介入は、ナノメディシンがAPC (抗原提示細胞) への抗原送達を改善し、T細胞のプライミングと増殖を促進し、腫瘍へのT細胞のホーミングと浸潤を強化し、癌細胞の認識と殺傷能力を高める可能性を秘めている。

最終的に、これらの知見を統合し、TME正常化とナノメディシンを組み合わせた「最小限の併用療法」戦略の設計原則と、その臨床的実装における機会と課題について考察した。本レビューでは、エビデンスの質を評価するための特定のフレームワーク(例:GRADE)は適用されず、既存の臨床的・前臨床的知見の統合と解釈に重点が置かれた。