• 著者: L. Bonanno, A. Pavan, M.V. Dieci, E. Di Liso, M. Schiavon, G. Comacchio, I. Attili, G. Pasello, F. Calabrese, F. Rea, A. Favaretto, M. Rugge, V. Guarneri, M. Fassan, P.F. Conte
  • Corresponding author: Laura Bonanno (Medical Oncology 2, Istituto Oncologico Veneto IOV-IRCCS, Padova, Italy)
  • 雑誌: European Journal of Cancer
  • 発行年: 2018
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30077124

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約13〜15%を占める悪性度の高い神経内分泌腫瘍であり、進展型SCLCの5年生存率は2%と極めて予後不良である。標準治療は限局型SCLCに対しては化学放射線療法、進展型SCLCに対しては化学療法が中心であるが、近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) が有望な治療選択肢として浮上している。SCLCは喫煙との関連が強く、高い腫瘍変異負荷 (TMB) と豊富なネオアンチゲン形成を特徴とすることから、ICIの有効性が期待される。実際、nivolumab、pembrolizumab、atezolizumab、durvalumabなどのICIは、SCLCに対する抗腫瘍活性を早期臨床試験で示している。例えば、Antonia et al. LancetOncol 2016Ott et al. JClinOncol 2017では、転移性SCLCにおけるICIの奏効が報告されている。しかし、ICIの奏効率は10〜20%にとどまり、非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるPD-L1発現のような確立された予測バイオマーカーはSCLCには存在しない。

SCLCにおけるPD-L1発現は、腫瘍細胞 (TC) において全体的に低率 (約5〜20%) であると報告されており、NSCLCのPD-L1発現プロファイルとは大きく異なることが示されている。例えば、Ishii et al. JThoracOncol 2015Velcheti et al. LabInvest 2014は、SCLCにおけるPD-L1発現の低さを指摘している。また、腫瘍浸潤リンパ球 (TILs) のサブセット組成、特にCD8陽性T細胞、CD4陽性T細胞、FOXP3陽性制御性T細胞 (Tregs)、B細胞と予後や治療反応性の関係についてのデータは極めて限定的である。特に、病期 (限局型 vs 進展型) ごとの免疫微小環境の差異についても十分に検討されておらず、この点が大きな知識のギャップとして残されている。

FOXP3陽性TILsは、他の多くの腫瘍 (乳癌、大腸癌など) において免疫抑制的役割を果たし、予後不良と関連することが報告されている。しかし、一部の腫瘍では逆説的に予後良好と関連するケースも報告されており、SCLCにおけるその意義は未解明であった。例えば、Saito et al. NatMed 2016は、大腸癌におけるFOXP3陽性T細胞の多様な役割を示唆している。SCLCの免疫微小環境に関する包括的な理解は、個別化された治療戦略の開発において不可欠であるが、その情報は不足している状況である。本研究は、SCLCの免疫微小環境の特性を詳細に解析し、新たな予後予測因子や治療標的を特定することを目的としている。

目的

本研究の目的は、SCLC患者の原発腫瘍検体における免疫微小環境の特性を詳細に解析し、その臨床的意義を評価することである。具体的には、以下の3点を明らかにすることを目指した。(1) PD-L1発現 (腫瘍細胞 (TC) および腫瘍内免疫細胞 (TIIC)) の頻度と病期別分布を評価する。(2) CD8陽性腫瘍浸潤リンパ球 (TILs) およびFOXP3陽性TILsの分布を詳細に解析する。(3) これらの免疫微小環境因子が全生存期間 (OS) に与える予後的影響を明らかにし、免疫ベースのバイオマーカー候補としての意義を評価する。特に、病期による免疫微小環境の差異に着目し、限局型SCLCと進展型SCLCにおけるPD-L1発現およびTILsのプロファイルを比較することで、病期特異的な免疫応答の理解を深めることを目的とした。最終的に、これらの知見がSCLC患者の層別化や新たな治療戦略の開発に貢献する可能性を探る。

結果

患者背景と臨床的予後因子: 本研究には合計104例のSCLC患者が組み入れられた。内訳は手術切除例48例、根治的化学放射線療法例18例、転移性SCLC例38例であった。全コホートのOS中央値は13.4ヶ月 (95% CI: 7.6-19.2) であった。非転移性患者 (I-III期) のOS中央値は43.9ヶ月 (95% CI: 22.8-64.9) であり、手術治療を受けた患者のみでは61.5ヶ月 (95% CI: 44.6-78.4) であった。臨床的予後因子として、病期 (I-III期 vs IV期)、ECOG PS、診断時の症状がOSに影響を与えたが、多変量解析では病期 (IV期 vs I-III期 HR 4.761, 95% CI 2.730-8.302, p<0.001) のみが独立した予後因子として確認された (Table 2)。

PD-L1発現の全体像と病期別分布: 全104例中、PD-L1の腫瘍細胞 (TC) 陽性 (≥1%) は25% (26/104例) であり、腫瘍内免疫細胞 (TIIC) 陽性は40.4% (42/104例) であった。SCLCにおけるPD-L1陽性率はNSCLCと比較して低率であることが確認された。病期別解析では、PD-L1発現はI-III期 (66例) とIV期 (38例) で有意に異なった。TC陽性率はI-III期で31.8% (21/66例) であったのに対し、IV期では13.2% (5/38例) であり、有意差が認められた (p=0.034)。同様に、TIIC陽性率はI-III期で51.5% (34/66例) であったのに対し、IV期では21.1% (8/38例) であり、こちらも有意差が認められた (p=0.002)。この結果は、限局型SCLCにおいてPD-L1発現が高率であることを示している (Table 3)。PD-L1のTC発現とTIIC発現の間には正の相関が認められた (Pearson’s correlation coefficient = 0.44, p<0.001)。

PD-L1抗体クローン間の一致度: 手術切除例サブセット (n=48) において、22C3、28-8、SP142の3種類のPD-L1抗体クローンを比較した。TCにおけるPD-L1腫瘍細胞陽性率の評価では、3クローン間で比較的高い一致度を示した。しかし、SP142クローンはTIIC評価において他のクローンよりも低い陽性率を示す傾向があり、クローン間の差異が検出された。

腫瘍浸潤リンパ球 (TILs) の分布: CD8陽性TILsは全症例の12.5% (13/104例) で検出され、FOXP3陽性TILsは72.1% (75/104例) の症例で検出された (Table 3)。CD8陽性TILsの存在はPD-L1のTC発現と正の相関を示したが (Pearson’s correlation coefficient = 0.35, p<0.001)、FOXP3陽性TILsの浸潤はPD-L1陽性TIICと正の相関を示した (Pearson’s correlation coefficient = 0.25, p=0.010)。CD8陽性TILsおよびFOXP3陽性TILsのいずれも病期との相関は認められなかった。FOXP3陽性TILsの代表的な染色像がFigure 1Bに示されている。

全コホートにおけるOS予後解析: 全104例のコホートにおいて、単変量解析ではPD-L1 TIIC陽性 (HR 0.519, 95% CI 0.332-0.811, p=0.004) とFOXP3陽性TILs (HR 0.548, 95% CI 0.343-0.876, p=0.012) がそれぞれOS良好と有意に関連した (Table 2)。PD-L1 TC陽性もOS良好の傾向を示したが (HR 0.583, 95% CI 0.352-1.000, p=0.050)、統計的有意差は認められなかった。一方、CD8陽性TILsは単変量解析で有意差を示さなかった。多変量解析 (年齢、性別、PS、病期、免疫因子を含む) では、病期 (IV期 vs I-III期 HR 5.473, 95% CI 3.130-9.570, p<0.001) のみが独立した予後因子として残り、PD-L1発現およびFOXP3陽性TILsは全コホートでは独立予後因子として検出されなかった (Table 2)。全コホートにおけるPD-L1 TIIC陽性患者のOS中央値は43.9ヶ月 (95% CI: 20.6-67.2) vs 陰性患者の8.9ヶ月 (95% CI: 4.5-13.4) であり、有意なOS延長が認められた (p=0.003, log-rank) (Figure 2A)。

非転移例 (I-III期、n=66) における予後解析: 臨床的に重要なこのサブグループにおいて、FOXP3陽性TILsは単変量解析 (HR 0.485, 95% CI 0.251-0.936, p=0.031) および多変量解析 (HR 0.390, 95% CI 0.198-0.767, p=0.006) の両方で独立した予後良好因子として検出された (Table 2)。FOXP3陽性TILsを有する患者のOS中央値は52.5ヶ月 (95% CI: 21.4-83.7) であったのに対し、陰性患者では20.5ヶ月 (95% CI: 0-49.2) であった (p=0.027, log-rank) (Figure 3B)。このサブグループでは、PD-L1 TCおよびTIIC発現は独立予後因子として検出されなかった。

手術切除例 (n=48) サブグループにおける予後解析: 純粋な早期SCLCに近いこのサブグループにおいても、FOXP3陽性TILsは独立した予後良好因子として再現された (多変量解析 HR 0.370, 95% CI 0.168-0.814, p=0.013) (Table 2)。この結果は、切除検体における免疫微小環境評価の信頼性の高さを裏付けている。

CD8 TILsとFOXP3 TILsの予後意義の乖離: CD8陽性TILsは予後との明確な関連を示さなかった。このことは、SCLCにおいてはCD8細胞傷害性T細胞の機能よりも、FOXP3陽性Tregsに関連する表現型が予後を決定する可能性を示唆している。

考察/結論

本研究は、SCLC患者104例の免疫微小環境を免疫組織化学的に体系的に解析し、SCLC免疫学の理解に重要な貢献をした。

新規性: 本研究で初めて、PD-L1発現が病期によって異なり、限局型SCLC (I-III期) でより高頻度であること (TC 31.8% vs 13.2%、TIIC 51.5% vs 21.1%) を示した。さらに、FOXP3陽性TILsがI-III期SCLCの独立した予後良好因子であること (多変量解析 HR 0.390, 95% CI 0.198-0.767, p=0.006) を新規に同定した。これは、SCLCにおけるFOXP3陽性TILsの予後良好効果を示した最初の報告である。

先行研究との違い: 他の多くの腫瘍 (乳癌、大腸癌など) ではFOXP3陽性TILsが免疫抑制的役割を果たし予後不良と関連することが報告されているが、本研究のSCLCにおけるFOXP3陽性TILsの予後良好効果は、これらの先行研究の知見と対照的である。例えば、Saito et al. NatMed 2016は、大腸癌におけるFOXP3陽性T細胞の多様な役割を示唆しているが、SCLCにおけるFOXP3陽性TILsの機能的役割は異なる可能性が示唆される。この逆説的な所見に対して、いくつかの仮説が提唱される。(1) SCLCにおけるFOXP3陽性TILsが、従来の制御性T細胞 (Tregs) ではなく、活性化型エフェクターT細胞の一部を反映している可能性、(2) FOXP3陽性TILsの浸潤自体が、腫瘍の免疫原性の高さを反映するサロゲートマーカーである可能性、(3) SCLC特有の炎症環境下でFOXP3陽性Tregsが抗腫瘍的に再教育される可能性などが考えられる。

PD-L1発現の病期差は、進行に伴う免疫編集 (immunoediting) や免疫エスケープのプロセスを反映する可能性があり、早期SCLCでは免疫原性が保持される一方、進展型SCLCでは腫瘍が免疫監視を逃れる機構が選択されている可能性を示唆する。この知見は、Antonia et al. NEnglJMed 2017で示されたNSCLCにおける免疫チェックポイント阻害薬の有効性が病期によって異なる可能性と共通する。

臨床応用: 本知見は、SCLC患者の層別化および個別化治療戦略の開発に重要な臨床的意義を持つ。 (1) 限局型SCLCにおけるPD-L1発現は、術後補助療法としてのICIの有効性を予測するバイオマーカーとして利用できる可能性がある。これは、NSCLCのADRIATIC試験で実証されたように、早期病期におけるICIの役割をSCLCで検討する根拠となる。 (2) FOXP3陽性TILsを組み込んだ多パラメトリック免疫スコアは、ICIに対する反応予測や、免疫微小環境を標的とした併用療法 (例: anti-CTLA4、抗TGF-β、抗LAG-3、TIGIT標的薬) の層別化バイオマーカーとして活用できる可能性がある。 (3) 早期SCLC患者において、FOXP3陽性TILsの存在は、より積極的な治療介入や長期的な免疫監視の必要性を示唆するかもしれない。

残された課題: 今後の検討課題として、FOXP3陽性T細胞の機能的サブ分類 (Tregsと活性化型エフェクターT細胞の区別) をより詳細に行う必要がある。また、SCLCの分子サブタイプ (A/N/P/I、POU2F3など) と免疫微小環境因子との統合解析により、より包括的な理解が得られるだろう。化学免疫療法下での免疫微小環境の動的変化の評価や、ICI反応とFOXP3陽性TILsの予後効果の関係の前向き検証も重要である。本研究のlimitationとしては、単一施設・後方視的デザイン、比較的小規模なサンプルサイズ (104例)、治療異質性、およびPD-L1抗体クローン間のばらつきが挙げられる。これらの限界は、多施設共同の前向き研究によるバリデーションで解消される必要がある。

方法

本研究は、イタリア・パドヴァ大学の単施設における後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) として実施された。1996年から2015年の間にSCLCと診断され治療を受けた連続104例の患者が対象となった。コホートの内訳は、手術切除例48例 (主に限局型I-II期)、根治的化学放射線療法を受けた18例 (主にIII期) であり、これら計66例を非転移性SCLC (I-III期サブグループ) として解析した。残りの38例は診断時に転移を有する進展型SCLC (IV期) であった。本研究はパドヴァ大学の倫理委員会により承認された (プロトコル番号 20761, 2017年12月11日)。

PD-L1の免疫組織化学 (IHC) 染色は、DAKO社の22C3抗体を用いて実施された。PD-L1陽性は、腫瘍細胞 (TC) または腫瘍浸潤免疫細胞 (TIIC: tumor-infiltrating immune cells) のいずれかで膜染色が1%以上認められた場合に陽性と判定された。TCとTIICは別々に評価された。手術切除例の一部 (n=48) では、Abcam社の28-8抗体およびVentana社のSP142抗体の2種類の追加クローンを用いてPD-L1発現の同時検証が行われ、抗体クローン間の一致度が評価された。

CD8およびFOXP3陽性TILsの評価には、それぞれDAKO社のC8/144BクローンおよびAbcam社の236A/E7クローンが用いられた。TILsの密度は、腫瘍領域内の5つのランダムな高倍率視野で半定量的スコア (0: 検出されずまたは散発的、1+: 中程度、2+: 豊富、3+: 非常に豊富) を用いて評価された。生存解析のため、CD8陽性TILsは0-2+ vs 3+、FOXP3陽性TILsは0 vs 1-3+として二値化された。

患者の治療計画は、腫瘍内科医、放射線腫瘍医、胸部外科医を含む学際的チームによって決定された。I-IIIA期SCLCにおいて根治的手術が提案される基準は、ECOGパフォーマンスステータス (PS) 0-1、CTスキャンで縦隔リンパ節の腫大なし、主要血管への浸潤なしであった。手術を受けた患者は、術前化学療法または術後化学療法 (シスプラチン/カルボプラチンとエトポシド) を受けた。病理学的縦隔リンパ節転移が認められた場合、術後縦隔3D原体放射線療法 (54 Gy/27F) が施行された。手術不適格なI-IIIA期患者は、化学放射線療法 (化学療法3サイクル以上、放射線療法64 Gy/32F) を受けた。IV期SCLC患者は、シスプラチンまたはカルボプラチンとエトポシドによる化学療法を4-6サイクル受けた。

統計解析にはSPSS 20.0ソフトウェアが使用された。連続変数は中央値で、カテゴリカル変数はパーセンテージ (数) で示された。異なる分子マーカー間の相関はピアソン相関検定で、カテゴリカル変数間の相関はカイ二乗検定で評価された。全生存期間 (OS) は診断からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。生存曲線はカプラン・マイヤー法で推定され、ログランク検定で群間比較が行われた。ハザード比 (HR) とその95%信頼区間 (CI) はコックス比例ハザードモデルを用いて算出され、単変量解析および多変量解析が実施された。統計的有意水準はp < 0.05と設定された。