- 著者: Kevin C. Barry, Joy Hsu, Miranda L. Broz, Francisco J. Cueto, Mikhail Binnewies, Alexis J. Combes, Amanda E. Nelson, Kimberly Loo, Adil I. Daud, Matthew F. Krummel et al.
- Corresponding author: Matthew F. Krummel (matthew.krummel@ucsf.edu, Department of Pathology, University of California San Francisco, San Francisco, CA, USA)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-07-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 29942093
背景
抗 PD-1 (programmed cell death 1) / 抗 CTLA-4 (cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4) による免疫チェックポイント阻害療法 (immune checkpoint blockade; ICB) は T 細胞応答を再活性化し持続的防御を提供するが、多くの癌種で 80% 以上の患者が客観的奏効を得られない。**先行研究 (Rizvi et al. Science 2015 = Science 2015 が確立した tumor mutation burden = TMB 高値モデル、Sharma and Allison Cell 2015 = Cell 2015 のチェックポイント阻害療法共通機序、TCGA Cell 2015 = Cell 2015 の cutaneous melanoma genomic landscape) **は変異量と T 細胞浸潤を主要な奏効予測因子として確立してきたが、T 細胞中心の予測因子だけでは説明できない奏効・非奏効患者集団が多く存在し、その自然免疫学的基盤は未解明であった。腫瘍内の希少な conventional dendritic cell type 1 (cDC1) サブセット (マウス CD103+、ヒト BDCA-3+/CD141+、stimulatory DCs; SDC) は抗原交差提示能 (cross-presentation) を持ち、Spranger et al. CancerCell 2017 (β-catenin pathway) や Roberts et al. CancerCell 2016 が示すように T 細胞を再刺激する重要な役割を持つが、その腫瘍内存在量を制御する細胞学的機構 — 特に「どの細胞種が FLT3L (Fms-like tyrosine kinase 3 ligand、cDC1 development の master cytokine) を腫瘍内で供給するか」は不明であった。さらに、cDC1 を量・機能の両面で制御する免疫細胞ネットワークが ICB 奏効バイオマーカーとして機能するかも検証されておらず、NK 細胞と DC の相互作用を腫瘍微小環境で in vivo 可視化したデータ・FLT3L 産生細胞の遺伝学的同定・臨床コホートでの NK-DC 軸 vs 奏効性の網羅的検証が足りなかった。
目的
メラノーマ腫瘍微小環境における BDCA-3+ SDC 量を制御する細胞種・分子を同定し、(1) Flt3l-TFP レポーターマウス B16F10 皮下移植モデルで腫瘍内 FLT3L 産生細胞を同定する、(2) Il2rg-/- (T/NK 欠損)・Rag-/- (T 欠損)・抗 NK1.1 抗体 NK 除去・Il2rg-/-;Flt3l-/- 骨髄キメラで NK 細胞特異的 FLT3L 機能を機械論的に立証する、(3) Ncr1-GFP/Xcr1-Venus/Cd11c-mCherry 三重レポーターマウスの二光子生体イメージングで NK-cDC1 の物理的相互作用を可視化する、(4) UCSF 転移メラノーマ 2 コホート (n=33+23) で 33 immune subset の網羅的フローサイトメトリー解析を実施し、SDC 量と抗 PD-1 療法奏効・全生存 (overall survival; OS) の関連を明らかにする、(5) NK 細胞遺伝子シグネチャーを構築し TCGA + GSE19234 + 頭頸部扁平上皮癌 (head and neck squamous cell carcinoma; HNSCC) コホートで再現性を検証する、ことで免疫療法の予測バイオマーカーと治療標的を同定することを目的とした。
結果
所見1 — BDCA-3+ SDC シグネチャー高発現が転移メラノーマで全生存を有意に延長: 公開メラノーマコホート GSE19234 (n=44) の 66% ストリンジェンシーで SDC シグネチャー高発現群は全生存を有意に延長 (log-rank 検定 P<0.05、Fig 1a)、TCGA-SKCM データセット (n=469) でも再現された (P<0.001、Fig 1b)。SDC : non-stimulatory myeloid (NSM) 比シグネチャーも OS 延長と相関した。
所見2 — UCSF 2 コホートで BDCA-3+ DC と NK のみが抗 PD-1 奏効と有意関連 (33 immune subset 中の selectivity): UCSF cohort A (n=33) のフローサイトメトリー解析で BDCA-3+ DC (HLA-DR+ 細胞中の割合) が奏効者で有意に高値 を示した (奏効群中央値 ~1.5% vs 非奏効群 ~0.3%、unpaired t-test P<0.05、~5-fold)、CD14+ TAM や BDCA-1+ DC では有意な関連を認めなかった (Fig 2a)。33 immune subset の網羅的 Wilcoxon 検定で BDCA-3+ DC と NK 細胞のみが奏効と有意に相関 (Bonferroni 補正後 P<0.05、Fig 2b)、Treg・CD4 Th・CD8 T・PD-1+CTLA-4+ T 細胞では有意な関連なし。cohort B (n=23) でも BDCA-3+ DC・NK 細胞の関連が再現された (Fig 2c)。
所見3 — Flt3l-TFP レポーターと遺伝学的欠損モデルで NK 細胞が腫瘍内 FLT3L 主要供給源と機械論的に証明: Flt3l レポーターマウス B16F10 腫瘍で FLT3L/TFP 発現は主にリンパ球に限局し、NK 細胞が最高発現 (TFP+ NK ~25%)、T 細胞が中等度 (~10%)、B 細胞はほぼ陰性であった (<2%、Fig 3a、n=5-8/group)。Il2rg-/- マウス (T/NK 欠損) では CD103+ SDC が有意に減少 (対照比 ~50% 減少、Fig 3b)、Il2rg-/-;Flt3l-/- 骨髄キメラでも同様の減少を認めた (P=0.0140、Fig 3d、n=4-6 mice)。Rag-/- マウス (T 細胞のみ欠損) では SDC レベル不変であったが、抗 NK1.1 抗体 NK 除去で CD103+ SDC が有意減少 (Fig 3e、対照比 ~40% 減少、P<0.05、n=5/group)、NK 細胞が主要な FLT3L 供給源であることが機械論的に証明された。
所見4 — Ncr1-GFP × Xcr1-Venus 二光子イメージングで NK-cDC1 物理的接触を可視化 + in vitro 共培養で NK が DC 生存を直接促進: Ncr1-GFP/Xcr1-Venus 三重レポーター マウスの B16F10 腫瘍二光子生体イメージングで NK 細胞の 1.9% が XCR1+ cDC1 と < 5 μm 距離にあり (OT-I T 細胞は 0.38% のみ、~5-fold 差、Fig 4a)、NK 細胞は XCR1+ DC に近接すると 移動速度が低下し安定した接触を形成 (mean velocity 5 μm/min → 2 μm/min、~2.5-fold 低下、Fig 4b、n=3 mice)。In vitro で骨髄由来 NK 細胞共培養は CD103+ DC の 24h 生存を有意に増加 (~2-fold)、72h でも維持 (Annexin V- 7-AAD- 細胞 ~60% vs 対照 ~25%、Fig 4c)、NK 細胞が SDC 生存を直接促進することが示された。
所見5 — ヒト腫瘍で NK-SDC 軸の正相関と OS 予測価値の cross-cohort 検証: TCGA-SKCM データセット (n=469) で NK 細胞遺伝子シグネチャーと FLT3LG 発現、SDC シグネチャー発現が有意に正相関 (Pearson r=0.65, P<10⁻⁵⁰、Fig 5a)。UCSF cohort A フロー解析でも NK 細胞頻度と BDCA-3+ DC 頻度が有意に相関 (r=0.55、P<0.01、n=33、Fig 5b)、HNSCC コホート (n=20) でも再現 (r=0.48、P<0.05、Fig 5c)。NK 細胞遺伝子シグネチャー高発現群は OS 延長と有意に関連 (メタスタティックメラノーマ GSE19234 と TCGA-SKCM の両データセット、log-rank P<0.01、HR 0.5-0.6)、NCR1・KLRD1・GNLY・KLRF1・KLRC3 個別遺伝子のうち 4 つが単独で OS 延長と相関した。NK 細胞頻度は UCSF cohort A で奏効者で有意に高く (奏効群 ~6% vs 非奏効群 ~2%、unpaired t-test P<0.05、~3-fold、Fig 5d)、cohort B でも再現。
考察/結論
本研究は NK-cDC1 からなる自然免疫軸が抗 PD-1 奏効を予測する新規バイオマーカーであることを確立し、NK 細胞の腫瘍内役割を直接の細胞傷害から「FLT3L 産生による SDC 量制御」へと拡張した。これまでの先行研究 (Rizvi et al. Science 2015 = PMID 25765070 の TMB-T 細胞中心モデル、Cell 2015 = PMID 25858804) と異なり、本研究は T 細胞中心の予測因子だけでは捉えられない患者集団を BDCA-3+ DC と NK 細胞という 2 つの自然免疫サブセットで予測可能と示し、ICB 奏効バイオマーカーの conceptual framework を T 細胞中心から自然免疫 (innate) クラスター中心へと拡張した点で対照的である。FLT3L は従来 Saito et al. などにより血管内皮細胞由来とされていたが、腫瘍微小環境では CD45- 細胞での発現が少なくリンパ球 (特に NK) が主要供給源である点が本研究で初めて示された novel な所見である。NK-SDC 軸は希少細胞集団 (各々数 % 未満) であるが、ダイナミックレンジ内で OS と抗 PD-1 奏効を強く予測する。臨床応用の観点では、(1) ICB 治療前の腫瘍生検 NK / SDC profiling が新しい予測バイオマーカーとなる可能性、(2) CD96 阻害 (Chan et al. NatImmunol 2014、抗 CD96 が抗 PD-1・抗 CTLA-4 との相乗効果報告済み)、(3) NK 細胞動員・活性化による FLT3L 増強療法 (recombinant FLT3L 投与による cDC1 expansion)、(4) bench-to-bedside での次世代 NK-targeted bispecifics (BiKE/TriKE: bispecific/trispecific killer engagers) や CAR-NK 療法と既存 ICB の rational combination、(5) anti-IL-15 superagonist (N-803、ALT-803) との triple combination による NK 活性化増強、が治療応用として提示された。残された課題として、(1) NK 細胞と pre-cDC 前駆細胞との相互作用の有無と分化機序、(2) NK-DC 軸の末梢血サロゲートの同定 (採血で予測可能か?)、(3) より大規模な前向き Phase II/III 試験での validation、(4) T 細胞も FLT3L を発現するが腫瘍内では SDC 量増加に寄与しない理由の解明 (発現量の差? cell number? localization?)、(5) NK-SDC 軸が NSCLC・腎細胞癌・尿路上皮癌など他の ICB 主要腫瘍種でも predictive かの cross-cancer validation、(6) NK-DC interaction を制御するシグナル分子 (FLT3L 以外の cytokine、receptor-ligand pair) の特定、今後の検討課題である。この研究は免疫チェックポイント療法の予測バイオマーカーパラダイムを、T 細胞中心から自然免疫 (NK・cDC1) クラスター中心へと拡張する示唆を与える。
方法
ヒト患者コホート: UCSF 転移メラノーマ 2 コホート (cohort A n=33、cohort B n=23) の治療前腫瘍生検を取得し anti-PD-1 (pembrolizumab または nivolumab) で治療、RECIST 1.1 で奏効評価。公開メラノーマデータセット GSE19234 (n=44) と TCGA-SKCM (n=469) で生存解析。HNSCC コホート (n=20) でも NK-DC 軸の再現性検証。Single-cell suspension + 33 色フローサイトメトリー: 腫瘍生検をコラゲナーゼ消化後、HLA-DR・CD11c・CD14・BDCA-1・BDCA-3 (CD141)・CD3・CD8・CD4・CD56・NCR1 (NKp46)・FoxP3・CD25・PD-1・CTLA-4・Treg marker 等を網羅し、計 33 immune subset を定義 (BDCA-3+ SDC、BDCA-1+ DC、CD14+ TAM、NK、CD8 T、CD4 Th、Treg、PD-1+CTLA-4+ T 等)。マウスモデル: C57BL/6J マウス (Jackson Laboratory)、B16F10 メラノーマ cell line 皮下移植 (5×10⁵ cells)、Flt3l レポーターマウス (TFP knock-in、UCSF 自家作製) で腫瘍内 FLT3L 産生細胞を同定。遺伝子改変モデル: Il2rg-/- (T/NK 欠損)、Rag-/- (T 欠損)、Il2rg-/-;Flt3l-/- 骨髄キメラ (lethal irradiation + bone marrow reconstitution)。NK 除去: anti-NK1.1 抗体 (PK136、200 μg、腫瘍 challenge 前 2 日と 1 日に i.p.)。Ncr1-GFP × Xcr1-Venus × Cd11c-mCherry 三重レポーターマウス: NK 細胞 (NCR1+ = NKp46+、GFP)・cDC1 (XCR1+、Venus)・全 DC (CD11c+、mCherry) の二光子生体イメージング (Zeiss LSM 880 Multiphoton) で B16F10 腫瘍内 NK-cDC1 接触動態を解析、移動速度・接触時間・距離 < 5 μm 頻度を定量。in vitro 共培養: マウス骨髄由来 NK 細胞と CD103+ cDC1 を 1:1 で 24h/72h 共培養し DC 生存率を Annexin V/7-AAD で測定。RNA-seq: bulk tumor で NK 細胞シグネチャー (NCR1、KLRD1、KLRF1、KLRC3、GNLY、FCER1G、IL2RB、CD160 など) と SDC シグネチャー (CLEC9A、XCR1、CD141、IRF8、BATF3、CD8A、CADM1) を定義、Bowtie 2 + RSEM で定量。統計: 生存解析 log-rank (66% stringency threshold)、奏効 vs 非奏効比較 unpaired t-test または Wilcoxon、相関 Pearson r、有意水準 P<0.05。