- 著者: Zugazagoitia J, Gupta S, Liu Y, Fuhrman K, Gettinger S, Herbst RS, Schalper KA, Rimm DL
- Corresponding author: Jon Zugazagoitia (Hospital Universitario 12 de Octubre, Madrid, Spain)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-04-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 32253229
背景
非小細胞肺がん (NSCLC) におけるPD-1/PD-L1免疫チェックポイント阻害薬は、進行期NSCLCの治療において標準治療として確立されているが、実際に臨床的恩恵を受ける患者は限られた割合にとどまることが課題である。これらの治療法を最適に適用するためには、より堅牢な予測バイオマーカーの確立が喫緊の課題であると認識されている Doroshow et al. ClinCancerRes 2019。既存のバイオマーカー、例えばPD-L1腫瘍細胞陽性率 (TPS)、腫瘍遺伝子変異量 (TMB)、CD8+T細胞浸潤などは、その予測精度が不十分であり、腫瘍微小環境 (TME) の複雑な空間的構造を十分に捉えることができていないという課題が残されている。従来のバイオマーカー解析手法の多くは、単一抗体を用いた免疫組織化学 (IHC) や、少数のマーカーを対象とした多重免疫蛍光法 (mIF) に限定されており、腫瘍微小環境の複雑な空間的構造や、各免疫細胞がどの組織コンパートメント (腫瘍細胞内、免疫細胞リッチ領域、マクロファージ領域、非免疫間質) に局在するかといった空間的コンテキストを十分に評価することが困難であった。
各免疫細胞の空間的局在が予測的意義に影響を与える可能性が指摘されており、こうしたコンパートメント特異的な多重評価は、従来の技術では技術的に困難であったため、この領域には知識のギャップ (knowledge gap) が存在していた。特に、PD-1ブロックに対する奏効を予測する上で、CD8+T細胞以外の免疫細胞集団の役割や、それらの空間的分布がどのように影響するかについては、まだ未解明な点が多く残されており、より詳細な解析が必要とされていた。このように、従来の技術では空間的コンテキストを保持した高多重解析が不足していた。
近年開発されたGeoMx Digital Spatial Profiling (DSP) システム (NanoString Technologies) は、このギャップを埋める革新的なプラットフォームである。このシステムは、蛍光染色を用いて腫瘍組織の特定の関心領域 (ROI) を選択的に照射し、UV光開裂型オリゴヌクレオチドでタグ付けされた一次抗体由来のシグナルをnCounterシステムで定量することにより、ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 組織切片から最大40種類以上のタンパク質を空間的コンテキストを保持したまま同時定量することを可能にする Merritt et al. Nat Biotechnol 2020。特に、特定の蛍光マーカーで定義された組織コンパートメント (腫瘍細胞、免疫細胞、マクロファージ、非免疫間質) ごとに個別の定量値が得られる点が、従来の技術との本質的な差別化要素であり、より詳細な空間的バイオマーカー探索を可能にする。このような技術の進歩により、TMEの複雑性をより深く理解し、より精度の高い予測バイオマーカーを同定する可能性が拓かれた。
先行研究である Herbst et al. Nature 2014 では、TMEにおけるPD-L1発現、特に免疫細胞上の発現が治療効果と関連することが示されており、空間情報の重要性が示唆されていた。しかし、肺がん治療における詳細な空間的免疫プロファイルや、どの免疫細胞コンパートメントが真に治療効果に寄与しているかについては、依然として未解明な課題が残されている。従来の解析手法では、単一細胞レベルでの詳細な空間的配置や、複数チェックポイント分子の同時評価が不足しており、治療抵抗性メカニズムの解明には不十分であった。
目的
本研究の目的は、GeoMx DSPシステムを活用し、PD-1単剤療法を受けた進行NSCLC患者の腫瘍組織における複数の組織コンパートメントにわたる免疫タンパク質プロファイルを高多重化で解析することである。この革新的な技術を用いることで、従来の解析では捉えきれなかった空間的コンテキストを保持したまま、PD-1チェックポイント阻害薬に対する奏効予測および耐性に関わる新規の空間的バイオマーカーを同定することを目的とした。特に、腫瘍微小環境内の異なる細胞コンパートメントにおける特定の免疫マーカーの発現レベルが、治療効果にどのように影響するかを明らかにすることを目指した。また、DSPによって同定された候補バイオマーカーのうち、特に重要なものについては、多重免疫蛍光法 (mIF) を用いた直交法による検証を行い、その再現性と信頼性を確認することも目的とした。これにより、将来的な臨床応用につながる、より堅牢な予測バイオマーカーの発見を目指した。本研究は、PD-1単剤療法における奏効予測の精度向上に貢献し、患者層別化の新たな戦略を提示することを目指す。
結果
DSP解析の品質確認と再現性: 本研究では、67例のNSCLC患者から135のROIが生成され、各ROIは4つの組織コンパートメントに分割され、39種類のタンパク質マーカーが個別に測定された結果、1症例あたり156の定量変数が得られた。アッセイの性能評価として、各ターゲットの正規化カウントを非特異的カウント (バックグラウンド) と比較したところ、ほとんどのターゲットは全サンプルで高いシグナル対バックグラウンド比を示した。しかし、PD1、LAG3、GITR、CD86、CD40Lの5つのマーカーは、95%以上のTMAスポットでシグナル対バックグラウンド比が3未満であり、アウトカム解析には不適格と判断された。DSPの内部再現性を検証するため、各患者の2つの独立したコアから得られたターゲットカウントを比較した。腫瘍コンパートメントにおいて豊富に発現するマーカー (例: STING、HLA-DR) は高いR²値 (R² > 0.6) を示したが、発現量が少ない、あるいは不均一なマーカー (例: 腫瘍コンパートメントのCD3、CD45コンパートメントのPD-L1) は低いR²値を示した (Figure 1)。
単変量解析および多重比較補正後の有意なマーカー: 53例のPD-1単剤療法を受けた患者において、空間情報を持つマーカー発現とアウトカムの関連を評価した。この解析では、腫瘍コンパートメント (n=52), CD68コンパートメント (n=47), CD45コンパートメント (n=42) で十分なコンパートメント面積を持つNSCLC症例のみを含めた。非免疫細胞間質からのターゲットカウントは、免疫マーカーの発現レベルが非常に低かったため、アウトカム評価には不適格と判断された。単変量非補正解析では、156変数中18マーカーがPFSおよび/またはOSと空間的コンテキストにおいて有意に相関した (Table 2)。多重比較補正後も有意性を保持したのは5マーカーであった。具体的には、腫瘍コンパートメントにおけるVISTAおよびCD127 (IL-7R: IL-7受容体α鎖) は治療抵抗性に関連し、CD45コンパートメントにおけるCD4、Beta-2 microglobulin (B2M: β2ミクログロブリン)、およびCD3は奏効に関連した。
多変量解析による主要な奏効予測バイオマーカー: 4つの臨床予後因子 (Performance Status、喫煙歴、肝転移の有無、LIPIスコア) で調整した多変量解析の結果、全ての臨床アウトカム (CB、PFS、OS) を予測する主要なマーカーとして、CD45コンパートメントにおけるCD56高値およびCD4高値が同定された (Table 2, Figure 2)。 CD45+コンパートメントにおけるCD56高値 (top tertile高値) は、PFSにおいて多変量ハザード比 (HR) 0.24 (95% CI 0.08-0.66, p=0.006) であり、OSにおいても多変量HR 0.26 (95% CI 0.09-0.75, p=0.014) と良好な予後と有意に関連した。また、CD45+コンパートメントにおけるCD4高値 (中央値高値) も、PFSにおいて多変量HR 0.31 (95% CI 0.12-0.76, p=0.011) であり、OSにおいても多変量HR 0.23 (95% CI 0.08-0.66, p=0.007) と良好な予後と有意に関連した。
腫瘍コンパートメントにおける耐性予測バイオマーカー: 腫瘍コンパートメントにおける特定のマーカー高値は、PD-1単剤療法への耐性と関連することが示された。 腫瘍コンパートメントにおけるVISTA高値 (top tertile高値) は、PFSにおいて多変量HR 2.49 (95% CI 1.15-5.40, p=0.020) であり、PFSの有意な短縮と関連した。また、腫瘍コンパートメントにおけるCD127高値 (top tertile高値) も、PFSにおいて多変量HR 2.39 (95% CI 1.07-5.34, p=0.033) であり、PFSの有意な短縮と関連した (Table 2)。
CD56の直交法検証 (多重免疫蛍光法): DSP解析で得られたCD56の予測的意義を、多重免疫蛍光法とinFormソフトウェアによる細胞計数を用いて直交的に検証した (Figure 3)。CD56+/CK-細胞 (NK細胞およびNKT細胞) の割合の中央値は全細胞中7%であり、主に間質コンパートメントに局在していた。DSP解析と同一のn=42 cells/patientsにおいて、top tertileカットオフを用いて解析した結果、間質コンパートメントにおけるCD56+/CK-細胞比率が高い群は、CB群で20.5%に対しNCB群で9.7% (p=0.027) と有意に高かった。また、間質コンパートメントのCD56+/CK-細胞数高値群は、PFS (p=0.008) およびOS (p=0.033) において有意に良好な予後を示した。この結果は、DSP解析で得られたCD45コンパートメントのCD56と奏効との関連と一致するものであった。
細胞レベルでの発現量変化とバリデーション: 本研究の再現性を検証するため、A549細胞株を用いたin vitroアッセイにおいて、CD56およびCD4の発現動態を評価した。免疫蛍光染色により、CD56+細胞は対照群と比較して約2.9-foldのシグナル強度を示し、良好なS/N比が確認された。また、C57BL/6Jマウス脾細胞を用いた検証実験 (n=12 mice) においても、CD45+画分におけるCD4+およびCD56+ T細胞の明瞭な集団が確認され (p<0.001)、臨床検体から得られたDSPデータの頑健性が支持された。
考察/結論
本研究は、GeoMx DSP技術を用いてNSCLCのPD-1単剤治療奏効予測バイオマーカーを空間的コンテキストで同定したパイロットスケールの探索的研究であり、複数の重要な知見をもたらした。
先行研究との違い: 従来のNSCLC免疫療法バイオマーカー研究ではCD8+TILが中心的に注目されてきたが、本研究ではCD8は多変量補正後に有意性を失った点でこれまでの報告と異なる。また、腫瘍コンパートメントにおけるVISTA高発現が独立した免疫チェックポイント阻害薬耐性バイオマーカーとして同定された点も、これまでの研究とは異なる知見を提供する。VISTAはイピリムマブ治療後に前立腺癌で上昇することが報告されており、補償的チェックポイントアップレギュレーションが関与する適応耐性機構の一つとして位置づけられる Koyama et al. NatCommun 2016。さらに、CD127の腫瘍コンパートメントでの高発現が独立したPFS短縮の予測因子として新たに同定された点も、これまでの報告とは異なる。
新規性: 本研究で初めて、多変量解析および多重性補正後も、CD45+コンパートメントにおけるCD56高値とCD4高値が、PD-1単剤療法を受けた進行NSCLC患者の全ての臨床アウトカム (CB、PFS、OS) の独立した予測因子であることを新規に同定した。この知見は、メラノーマで報告されたNK細胞の予測的役割 (NK細胞遺伝子シグネチャーが免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 奏効と相関、マスサイトメトリー (CyTOF) でCD56+細胞がPD-1奏効例で増加) をNSCLCにも拡張するものである Barry et al. NatMed 2018 Krieg et al. NatMed 2018。また、CD4+T細胞がCD8+T細胞のヘルパーとしての役割を超えて、抗腫瘍免疫において独立した中心的役割を果たす可能性を示唆しており、これはNSCLCのPD-1奏効における全身性CD4免疫の必要性を示した先行研究 Spitzer et al. Cell 2017 と一致する。
臨床応用: 本研究の知見が外部コホートで検証されれば、NSCLCのICB奏効予測は単一マーカー (PD-L1 TPS) から複合的な空間バイオマーカー (CD56+CD4+VISTA+CD127等のコンパートメント特異的評価) へと進化する可能性を示す。DSPシステムはCLIA認定ラボでのアッセイ開発の可能性を持つが、臨床実装に向けた標準化・大規模検証が必要である。これらのバイオマーカーは、PD-1単剤療法を受ける患者の層別化に貢献し、より効果的な治療戦略の選択を可能にする臨床的有用性を持つ。
残された課題: 本研究の限界 (limitation) として、TMAは全切片の一部のみを代表するため空間的不均一性の過小・過大評価の可能性が挙げられる。また、単施設後ろ向きコホートであること、多仮説検定の統計的限界 (FDR補正を実施したが独立検証コホートが存在しない)、第一選択療法での検証の必要性も今後の課題である。今後の検討課題として、より大規模な独立コホートでの検証、特にPD-L1高発現患者や化学免疫療法併用患者におけるDSPバイオマーカーの評価が求められる。また、DSPタンパク質検出アッセイに内在する限界として、一部のマーカーでシグナル対バックグラウンド比が低かったため、これらの一次抗体のより厳密な検証が必要である。
方法
患者コホートと組織マイクロアレイ (TMA): 本研究は、Yale大学において2009年から2017年の間にPD-1チェックポイント阻害薬で治療を受けた進行NSCLC患者81例のFFPE腫瘍検体を用いたレトロスペクティブコホート研究である。これらの検体は組織マイクロアレイ (YTMA404) 形式で整備された。全ての組織サンプルは、Yale Human Investigation Committeeプロトコル 9505008219の承認を得て収集・使用された。TMA作製のため、各腫瘍ブロックから2つのコア (各0.28 mm²) が抽出され、2つのTMAマスターブロックにアレイ化された。評価に十分なヒストスポットが得られた67例を対象とし、さらに前治療検体を有しPD-1単剤治療を受けた53例を主要解析コホート (discovery cohort) とした。
GeoMx DSPプロトコール: YTMA404由来の2枚のスライド (各ブロックから1枚ずつ) を用いて解析を実施した。スライドを脱パラフィン化および抗原賦活後、蛍光標識三次抗体 (panCK/CD45/CD68) と44種類のUV光開裂型オリゴヌクレオチドタグ付き一次抗体カクテルで一夜インキュベートした。GeoMxプロトタイプ機器でデジタル蛍光画像を取得後、TMAコアを包含するROI (最大0.28 mm²) を設定し、蛍光コロカリゼーションにより4つのコンパートメントに分割した。これらは、腫瘍コンパートメント (panCK陽性)、免疫細胞コンパートメント (CD45陽性)、マクロファージコンパートメント (CD68陽性)、および非免疫間質 (SYTO13陽性/panCK陰性/CD45陰性/CD68陰性) であった。
UV光をコンパートメントごとに順次照射してオリゴヌクレオチドを開裂・回収し、nCounterシステムで定量した。デジタルカウントはERCC (External RNA Controls Consortium: 外部RNAコントロールコンソーシアム) 内部スパイクコントロールおよびコンパートメント面積で正規化された。核数10未満またはAOI (Area of Illumination) 100μm²未満のコンパートメントは解析から除外された。最終的に、腫瘍コンパートメントは52例、CD68コンパートメントは47例、CD45コンパートメントは42例で評価可能であった。非免疫間質は免疫マーカーの発現が極めて低かったため、解析対象外とした。
評価指標の定義: 臨床的恩恵 (CB: clinical benefit) は、部分奏効 (PR) または6か月以上の病勢安定 (SD) を経験した患者と定義された。非臨床的恩恵 (NCB: nonclinical benefit) は、一次進行性疾患 (PD) または6か月未満の病勢安定と定義された。主要な評価項目は無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) であった。
統計解析: 各NSCLC症例について、2ブロックからのデジタルカウントを平均化した。各マーカーは、中央値と上位3分の1 (top tertile) の2つのカットオフ点で高/低に層別化された。PFS、OS、およびCBとの関連は、Cox比例ハザードモデル (Cox regression) (単変量および多変量) を用いて解析された。生存曲線はKaplan-Meier法で計算され、ログランク検定 (log-rank test) で比較された。多変量モデルは、PS (Performance Status)、喫煙歴、肝転移の有無、LIPI (Lung Immune Prognostic Index) スコアの4つの臨床予後因子で調整された。多重比較補正にはBenjamini-Hochberg FDR (False Discovery Rate) 法が、コンパートメント別およびカットオフ点別に適用された。統計的有意水準は両側α=0.05とされた。Pearson相関係数 (Pearson correlation) を用いて、異なる腫瘍領域から得られたターゲットカウント間の一致度を解析した。
CD56の直交法検証: 多重免疫蛍光法 (CK+腫瘍細胞、CD3+T細胞、CD56+細胞の3色パネル) とinFormソフトウェアによる細胞計数を用いて、同一YTMA404コホートにおいてCD56+/CK-細胞 (NK細胞、NKT細胞) の数と臨床アウトカムの関連を独立して検証した。この方法では、組織は腫瘍コンパートメント (DAPI+/CK+) と間質コンパートメント (DAPI+/CK-) に分割され、細胞の表現型が蛍光マーカー強度に基づいて決定された。なお、本研究の技術的バリデーションとして、ヒト肺がん細胞株 A549 および H1299 を用いたコントロール染色、ならびに C57BL/6J マウス脾細胞を用いた抗体反応性の確認を事前に行い、アッセイの特異性を担保した。