• 著者: Minjie Fu, Jiaxu Zhao, Licheng Zhang, Zhewei Sheng, Xiaohui Li, Fufang Qiu, Yuan Feng, Muyuan You, Hao Xu, Jinsen Zhang, Rui Zeng, Yang Huang, Cheng Li, Wenhan Chen, Zheng Chen, Haibao Peng, Longzhi Li, Yonghe Wu, Dan Ye, Yudan Chi, Wei Hua, Ying Mao
  • Corresponding author: Yudan Chi / Wei Hua / Ying Mao (Huashan Hospital, Fudan University, Shanghai)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-10-14
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 39423817

背景

肺癌は癌関連死の主要原因であり、進行肺癌症例の約40-50%に中枢神経系 (CNS) 転移が発症する。EGFR変異やALK転座を有する肺癌に対しては、血液脳関門 (BBB) 透過性を改善した第三世代TKIであるosimertinibが肺癌脳転移 (LCBM) の標準治療として確立している。しかし、TKI耐性は治療開始後1年以内に多くの症例で出現し、耐性発現後の治療選択肢は依然限られている。このTKI耐性の克服は、LCBM患者の予後改善における喫緊の課題である。

中枢神経系はかつて「免疫特権」臓器と考えられてきたが、近年の研究は脳常在免疫細胞 (ミクログリア) と末梢からの浸潤免疫細胞 (単球由来マクロファージ; MDM) がLCBMの腫瘍微小環境 (TME) 形成と治療応答を規定することを明らかにしつつある。例えば、Guldner et al. Cell 2020は、CNS固有の骨髄系細胞がCXCL10を介して脳転移ニッチにおける免疫抑制を駆動することを示した。また、Zhang et al. NatCommun 2022は、非小細胞肺癌脳転移の空間的トランスクリプトームランドスケープを解析し、TMEの複雑性を浮き彫りにした。免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) はTMEを再プログラムして抗腫瘍免疫を回復させる作用を持つが、EGFR変異肺癌においてはPD1阻害を中心としたICIの有効性は臨床試験で一貫して限定的であった。この原因として腫瘍変異量 (TMB) の低さやPD-L1発現の乏しさが挙げられてきたが、TKI治療が誘発する免疫微小環境の動的変化と、それに応じた最適なICI標的の選択については未解明の部分が多かった。特に、TKI投与がT細胞の免疫チェックポイント分子発現プロファイルをどのように変化させるかという問いは、EGFR変異LCBMに対する合理的な免疫療法戦略の設計において重要な科学的課題として残されていた。TKI耐性克服のための新たな治療戦略が不足している現状において、TKIによる免疫微小環境の変化を詳細に解析し、新たな治療標的を同定することが求められる。Sugiyama et al. SciImmunol 2020は、EGFR阻害がPD-1阻害への応答性を改善することを示唆したが、LCBMにおけるTKIと免疫チェックポイント分子発現の具体的な関連性については、さらなる詳細な解析が必要であるという課題が残されていた。

目的

本研究の目的は、異なる遺伝的背景およびTKI治療歴を有するLCBMサンプルの単一細胞RNAシーケンス (scRNA-seq) 解析と多重免疫組織化学染色 (mIHC) 検証を通じて、TKIが誘発する免疫微小環境変化の分子機序を系統的に解明することである。特に、TKI投与後にどの免疫チェックポイント分子が選択的に誘導されるかを明らかにすることを目指す。さらに、その機序的知見に基づき、TKI耐性克服のための新規免疫療法戦略としてCTLA4遮断の有効性を前臨床モデルで評価し、TKIとの併用療法の治療的潜在性を検証する。最終的には、LCBMにおけるTKI耐性の根本的なメカニズムを解明し、より効果的な治療戦略の開発に貢献することを目指す。

結果

TKI投与によるT細胞浸潤増加とCTLA4の選択的上昇: scRNA-seqおよびmIHC (検証コホートn=196 patients) による解析で、TKI未投与EGFR変異LCBMはKRAS変異LCBMと比較してT細胞浸潤が有意に低かった (p=0.020)。TKI投与後のEGFR変異LCBMでは、TKI未投与群と比べてT細胞比率が有意に増加した (mIHC検証p<0.001)。T細胞サブタイプ解析では、TKI処置によりnaive T細胞が減少 (p=0.044) し、CD8+細胞傷害性T細胞 (p=0.009) およびCD4+ Treg (p<0.001) が増加した。CD8+細胞傷害性T細胞高浸潤は良好な予後と関連し (p=0.032)、TKI治療自体も独立した予後改善因子であった (多変量Cox回帰HR=0.349、95%CI 0.129-0.948、p=0.039)。11種類の免疫チェックポイント分子の比較解析では、CTLA4のみがTKI投与後に有意に上昇し (p=0.031)、PD1・TIM3・LAG3は有意な変化を示さなかった。mIHC検証でもTKIがCTLA4+T細胞のタンパク発現を有意に上昇させることが確認された (p=0.046)。Monocle2による発達軌跡解析では、TKI処置例の28.83%がCTLA4高発現のTrajectory 1に帰属したのに対し、TKI未処置例ではわずか0.26%のみであり、TKIがT細胞の分化軌跡を選択的にCTLA4高発現方向に再プログラムすることが示された (Figure 2F, 2G)。この選択的CTLA4誘導という知見は、EGFR変異肺癌でPD1阻害薬の有効性が乏しい臨床的事実と機序的に整合する。

MDMによるT細胞動員と脳転移特有の空間的免疫分業: 骨髄系細胞82,004個のscRNA-seqサブクラスタリングから、MDM・樹状細胞・好中球・静止型ミクログリア・活性化ミクログリアの5サブポピュレーションを同定した (Figure 3C)。空間的解析では、MDMは腫瘍内核に優位に分布し (p<0.001)、ミクログリアは腫瘍周辺に局在する (p<0.001) という脳転移特有の空間的免疫分業が明らかとなった (Figure 3D, 3E)。TKI処置後には腫瘍関連マクロファージ (TAM) がHLA-A/B・HLA-DRA・CCL20・CXCL16の発現を上昇させ、抗原提示能とリンパ球動員シグナルが増強された (Figure 3A)。TKI処置後にはMDMとT細胞間のligand-receptor相互作用が約2.5-fold増強し、MDMがT細胞を腫瘍内に動員するケモカインシグナルの主要担い手であることが示唆された (Figure 3F)。CX3CR1-GFP/CCR2-RFP二色マウスモデルを用いたin vivo追跡実験ではMDMが転移腫瘍細胞と密接に会合することを直接確認した。clodronate-liposomeによるMDM選択的除去実験ではT細胞浸潤が有意に低下し (p=0.047)、MDMがT細胞動員の必須プレーヤーであることを機能実験で証明した (Figure 3H)。この実験ではn=3 mice per groupで実施された。

HMGB1-TLR経路によるTME再プログラムの分子機序: TKI処置により腫瘍細胞核内HMGB1 (high-mobility group box 1) が細胞質・細胞外へ転位することをosimertinib濃度依存的にELISAで定量した (Figure 5D)。MDMへのHMGB1作用についてTLR (Toll-like receptor) 阻害剤スクリーニングを実施したところ、TLR2阻害剤 (TLR2-IN-C29) がCCL20・CXCL16等のケモカイン放出を有意に抑制し (p<0.001)、MDMにおけるHMGB1シグナルの担当受容体がTLR2であることを同定した (Figure 5G)。TLR2-NFkB経路活性化によりMDMがケモカインを大量放出してT細胞を腫瘍内に動員するという機序が確立した。一方、T細胞 (Jurkat細胞) においてはHMGB1がTLR5を介してNFkBを活性化し、CTLA4発現を選択的に誘導した (flow cytometry: CTLA4陽性率2.6%→33.4%) (Figure 6B)。NFkB阻害剤QNZはCTLA4発現を有意に抑制し (p<0.001)、CUT&Tagシークエンシングでp65がCTLA4プロモーター領域に直接結合することをゲノムレベルで確認した (Figure 6D, 6E)。すなわちTKIが誘発するHMGB1放出は、MDMにはTLR2経路を介してT細胞動員シグナルを送り、T細胞にはTLR5経路を介してCTLA4発現を誘導するという「受容体分岐型」免疫二面性メカニズムとして機能する (Figure 6H)。これらの実験はn=3 replicatesで実施された。

CTLA4遮断+TKI逐次投与の優越的抗腫瘍効果とTKI耐性モデルへの有効性: TKI感受性変異 (EGFR-L860R) LCBMシンジェニックマウスモデル (n=8 mice per group) において、osimertinib+αCTLA4逐次投与はosimertinib単独と比較して腫瘍負荷を有意に減少させ (p=0.021)、さらにosimertinib+αPD1併用に対しても有意に優る治療効果を示した (p=0.027) (Figure 7B)。組み合わせ治療によりCTLA4+T細胞比率が有意に低下し (p=0.025)、GzmB (granzyme B)+エフェクターT細胞が有意に増加した (p<0.001) (Figure 7D)。全生存期間の解析でも、逐次投与群が単独療法群に対して有意な延長を達成した (p=0.021) (Figure 7E)。TKI耐性変異 (EGFR-T790M) LCBMモデル (n=6 mice per group) においても、osimertinib+αCTLA4逐次投与は単独療法に対して有意な生存延長を示した (p=0.005) (Figure 7H)。安全性の観点では、重篤な肝毒性・肺炎等のirAEシグナルは観察されなかった。これらのデータは、CTLA4遮断がTKI感受性・耐性の双方のシナリオにおいて有効であるという臨床開発上の重要な知見を提供する。

考察/結論

本研究は、TKI処置がEGFR変異LCBMにおいてT細胞浸潤を促進しながら同時にHMGB1-TLR5-NFkB-CTLA4軸を介した免疫抑制的TMEを誘導するという「免疫二面性 (dual immunological effect)」を初めて体系的に解明した重要な研究である。TKIによるHMGB1の細胞外放出がMDMのTLR2とT細胞のTLR5という異なる受容体を介して、それぞれケモカイン放出によるT細胞動員とCTLA4発現誘導という対照的な作用をもたらすことを分子レベルで実証した。この発見は、EGFR変異肺癌でPD1阻害薬の有効性が乏しい理由を機序的に説明するものであり、CTLA4を標的とすべき根拠を提供する。

先行研究との違いと新規性: 従来、EGFR変異肺癌はTMBが低く免疫原性が乏しいとされ、PD-L1発現も低いことからICI応答性が乏しいと考えられてきた。しかし、本研究はTKI投与後にはT細胞が実際に浸潤するものの、11種の免疫チェックポイント分子のうちCTLA4のみが選択的に誘導されるという事実を、263,064細胞規模のscRNA-seqと196例のmIHC検証によって示した点で、これまでの報告と対照的である。特に、Monocle2解析でTKI処置例T細胞の28.83%がCTLA4高発現軌道に収束するという定量的知見は、CTLA4選択性の高さを裏付ける強力なエビデンスである。さらに、脳転移特有の免疫環境における空間的免疫分業 (MDMが腫瘍内核、ミクログリアが腫瘍周辺) を同定し、MDMがT細胞動員の必須ゲートキーパーであることをclodronate実験で機能的に証明した点も先行研究にはない独創的な貢献であり、本研究で初めて詳細な分子メカニズムを解明した。

臨床的意義: CTLA4阻害薬 (ipilimumab) はすでに臨床で使用されており、osimertinibとの逐次投与プロトコールを迅速に臨床試験として設計できる。Hellmann et al. NEnglJMed 2019Formenti et al. NatMed 2018などの研究が示すように、CTLA4遮断は他の治療法との併用で有効性を示す可能性がある。本研究がTKI感受性・耐性の双方のモデルでCTLA4遮断の有効性を示したことは、osimertinib耐性後という喫緊の臨床課題に対する新たなアプローチとして意義が大きい。Meric-Bernstam et al. Lancet 2021が強調するように、免疫療法併用による抗腫瘍効果の増強は重要な方向性である。安全性データ (毒性シグナル認めず) は、脳転移という高感受性臓器での免疫療法を検討する際の初期エビデンスとして価値がある。また、TLR5-NFkB-CTLA4軸という新規機序はCTLA4誘導のバイオマーカー (HMGB1放出量等) 開発にも道を開く可能性がある。

残された課題と限界: マウスモデルで得られた知見のヒト臨床への外挿可能性、CTLA4遮断とTKIの最適な投与順序・間隔・用量の確定、長期的な逐次投与の安全性プロファイル確認が必要である。TLR5がT細胞においてCTLA4誘導の受容体となるという知見は特異的であり、他のDAMPシグナルとの関連を含めた詳細な検証も求められる。HMGB1放出を誘導するTKIの種類・用量・投与期間の最適化、およびEGFR以外の遺伝子変異を持つ肺癌脳転移での同機序の普遍性も未検討として残される。また、脳転移以外の転移部位でHMGB1-TLR受容体分岐型機序が同様に機能するかという問いは、CTLA4遮断の適応拡大を検討する上での重要な研究課題である。

方法

患者コホートとscRNA-seq: 探索コホート (n=31 patients) として28例からの外科的LCBMサンプル計31検体を取得し、scRNA-seqを施行した。遺伝的背景はEGFR変異 (TKI治療前・治療後)、ALK変異、KRAS変異、TP53変異 (SCLC) を包含する。scRNA-seqにより263,064細胞を取得し、UMAP解析で10種類の主要細胞タイプに分類した (骨髄系細胞31.2%、上皮細胞23.7%、T細胞14.0%等)。T細胞 (36,945細胞) および骨髄系細胞 (82,004細胞) を高解像度でサブクラスタリングし、Monocle2による発達軌跡 (pseudotime) 解析を実施した。検証コホート (n=196 patients) では多重IHC (mIHC) 染色および生存解析を実施した。

分子機序解明: TKI投与によるHMGB1の細胞外転位をELISAで定量した。MDMに対するHMGB1のTLR受容体依存的NFkB (nuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells) シグナリング活性化については、TLR2、TLR4、TLR5の選択的阻害剤 (TLR2-IN-C29、TLR4-IN-C34、TH1020) およびRAGE阻害剤 (FPS-ZM1) を用いて担当受容体を同定した。T細胞 (Jurkat細胞) におけるHMGB1-TLR5-NFkBシグナリングとCTLA4発現誘導はflow cytometryおよびWestern blottingで確認し、NFkB阻害剤QNZによる抑制実験を行った。p65によるCTLA4プロモーター結合の増強はCUT&Tagシークエンシングで直接検証した。

マウスシンジェニックモデル: LLC-BM細胞にEGFR-L860R (L858R相当)、EGFR-19del、またはEGFR-T790M (耐性モデル) 変異を導入し、心臓内注入によるLCBMシンジェニックモデルを構築した。osimertinib (20 mg/kg, i.p.)、抗CTLA4抗体 (αCTLA4)、抗PD1抗体 (αPD1) の単独投与または逐次併用投与での抗腫瘍効果と全生存期間 (OS) を評価した。MDMの役割を検証するため、CX3CR1-GFP/CCR2-RFP二色マウスモデルによるin vivo細胞追跡実験とclodronate-liposomeによるMDM選択的除去実験を実施した。統計解析には、Log-rank検定、二tailed unpaired t検定、一元配置ANOVA検定、Cox回帰分析を用いた。マウスはC57BL/6J系統を使用し、倫理委員会承認 (202105017Sおよび202306013S) を得た。