- 著者: Benjamin P. Fairfax, Chelsea A. Taylor, Robert A. Watson, Isar Nassiri, Sara Danielli, Hai Fang, Elise A. Mahé, Rosalin Cooper, Victoria Woodcock, Zoe Traill, M. Hussein Al-Mossawi, Julian C. Knight, Paul Klenerman, Miranda Payne, Mark R. Middleton
- Corresponding author: Benjamin P. Fairfax (MRC-Weatherall Institute of Molecular Medicine, University of Oxford)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-02-10
- Article種別: Original Article
- PMID: 32042196
背景
転移性メラノーマ (MM) に対する免疫チェックポイント阻害療法 (ICB) は、抗PD-1単剤療法 (sICB) および抗PD-1と抗CTLA-4の併用療法 (cICB) が存在するが、その治療効果は患者間で不均一である。持続的な奏効を予測する末梢血バイオマーカーは依然として未確立であり、臨床現場での治療層別化や効果予測において重要な課題となっている。腫瘍生検による腫瘍変異量やT細胞浸潤の評価は侵襲的であり、経時的な評価には適さないという限界がある。これに対し、末梢血CD8+ T細胞の転写プロファイルやTCRレパートリー解析は非侵襲的であり、治療中の免疫応答をリアルタイムで評価する可能性を秘めている。しかし、これまで信頼性の高い前向き大規模データを用いた末梢血CD8+ T細胞の包括的な解析は不足しており、ICB応答を予測する堅牢なバイオマーカーの同定が求められていた。特に、ICB治療後の末梢血CD8+ T細胞の動態と臨床転帰との関連性については、さらなる詳細な検討が必要とされていた。先行研究では、腫瘍の変異量や浸潤リンパ球がICB応答と関連することが示されているが Tumeh et al. Nature 2014、末梢血バイオマーカーの探索は手薄であった Huang et al. Nature 2017。また、腫瘍の異数性もICB応答に影響を与える可能性が報告されているが Davoli et al. Science 2017、末梢血CD8+ T細胞の特性との関連性は未解明なままである。
目的
本研究の目的は、ICB治療を受けた転移性メラノーマ患者の末梢血CD8+ T細胞におけるRNAシーケンス解析とTCRレパートリー解析を統合的に実施し、以下の点を明らかにすることである。(1) sICBとcICBそれぞれの治療がCD8+ T細胞の転写プロファイルに与える差異を特定する。(2) 長期的な臨床奏効を予測する末梢血CD8+ T細胞の特性、特にTCRレパートリーの動態を同定する。(3) 治療後に拡大する「大型クローン」の機能的表現型を単一細胞レベルで詳細に解析する。これらの知見を通じて、ICB治療の層別化に貢献しうる新規バイオマーカーの確立を目指す。
結果
ICB治療によるCD8+ T細胞の転写応答: sICB治療では707遺伝子が、cICB治療では5,885遺伝子が有意に変動した (FDR<0.05)。cICBはsICBと同様の遺伝子セットを調節するが、その効果量は約4倍大きく、特に有糸分裂およびインターフェロン応答関連遺伝子 (mitotic spindle, G2M checkpoint) の有意な上方制御と、TNF/NF-κB応答の下方制御を特徴とした (Fig. 1a-f)。sICBによる転写変化の大部分は第4サイクルまでに収束したが、cICBでは877遺伝子がベースラインと比較して持続的に変動した。
6ヶ月奏効を予測する遺伝子特性: 144サンプルを用いた解析では、4,762遺伝子が6ヶ月時点での臨床奏効と有意に関連した (FDR<0.05)。奏効患者群では34のTRAV/TRBV (TCR α/β鎖) 遺伝子が過剰発現しており (Fig. 2c)、TCRエンコード遺伝子はICB全体の変動遺伝子とは独立して奏効群で有意に富化していた (odds ratio 4.4, p=1.4×10⁻⁹)。Reactomeパスウェイ解析では、奏効はミトコンドリア翻訳、G2/M調節、TCRシグナル伝達の亢進、MAPKK活性およびToll-like受容体シグナル伝達の抑制と関連することが示された (Fig. 2b)。
末梢血CD8+ T細胞の大型クローン数の予後予測価値: MiXCRによるTCRクロナリティ解析の結果、cICB群では治療21日後に拡大クローン数がsICB群よりも有意に多かった (p<0.05)。レパートリーの0.5%超を占める「大型クローン」の数は、治療21日後に奏効患者で非奏効患者や健常対照群と比較して有意に多く、健常対照群との比較でp=4.7×10⁻⁵、非奏効患者との比較でp=0.0015であった (Fig. 3a)。この所見は独立検証コホートでも再現され、健常対照群との比較でp=0.003、非奏効患者との比較でp=0.037であった (Fig. 3b)。両コホートを合算した解析では、健常対照群対奏効患者でp=2.4×10⁻⁶、奏効患者対非奏効患者でp=6×10⁻⁴と、さらに高い有意性が示された。ランダム効果モデルを用いた解析では、奏効患者は治療21日後に平均5.7個多くの大型クローンを有することが確認された (95% CI: 2.6-8.87, p=4.8×10⁻⁴)。Kaplan-Meier曲線解析では、治療21日後の大型クローン数が中央値より多い患者群は、無増悪生存期間 (PFS) (p=0.003, log-rank) および全生存期間 (OS) (p=0.01, log-rank) が有意に延長していることが示された (Fig. 3d, e)。この結果は、大型クローン数の絶対値が予後に重要であり、レパートリー全体に占める割合ではないことを示唆している。
大型クローンの安定性と抗原特異性: 治療21日後に同定された大型クローンの69.3%は、治療63日後もレパートリーの0.5%超を維持しており、他のクローンサイズ (0.1-0.5%のクローンでは39.9%) と比較して高い安定性を示した (Extended Data Fig. 6)。CMV血清陽性は2%超の超拡大クローン数の増加と関連したが (p=1.1×10⁻³)、大型クローン数やICB予後には影響しなかった (Extended Data Fig. 7d)。EBVおよびメラノーマ関連抗原 (MAA) の公開クロノタイプもICB後に拡大し、8例の患者では既知のMAAクロノタイプに一致する大型クローンが同定され、腫瘍特異的T細胞の拡大を示唆した。
大型クローンの表現型と予測モデル: フローサイトメトリー解析 (n=42サンプル) では、大型クローン数がCD8エフェクターメモリーT細胞 (TEM) の頻度と強い正の相関を示した (r=0.59, p=3.4×10⁻⁵) (Fig. 3f)。一方、CD8ナイーブT細胞 (TN) およびエフェクターメモリー再発現CD45RA (TEMRA) とは弱い負の相関を示した。5’単一細胞RNAシーケンス解析 (n=8サンプル) では、治療後CD8+ T細胞は4つのクラスターに分類され、大型クローンはCCL4、GNLY、NKG7などの細胞傷害性関連遺伝子を強く発現するエフェクターメモリー表現型を示すことが明らかになった (Fig. 4f, g)。遺伝子モジュール発現、血球数、大型クローン数を含む10変数を線形判別分析で統合し、6ヶ月臨床奏効予測モデルを構築した結果、AUC=0.823の高い予測精度を達成した。このモデルにおいて、大型クローン数が最も重要な予測因子であることが同定された。
考察/結論
本研究は、転移性メラノーマ患者におけるICB治療後の末梢血CD8+ T細胞のTCRレパートリーにおける「大型クローン数」が、長期的な臨床奏効を予測する堅牢なバイオマーカーであることを初めて体系的に示した。先行研究の腫瘍生検による腫瘍変異量や腫瘍浸潤T細胞の評価とは異なり、末梢血の単一採血で経時的な評価が可能であり、臨床実装の容易性に優れる点が本研究の重要な貢献である。
新規性として、大型クローン数はT細胞レパートリーの多様性や全拡大クローン数とは独立して予後を予測し、その絶対数(量)が重要であり、レパートリー全体に占める割合(質)ではないという点が挙げられる。この知見は、抗原特異性に依存せず(MAA特異的クローン以外も含む)、治療後に活性化・増殖したCD8+ T細胞の総プールサイズが奏効を規定する可能性を本研究で初めて示唆している。また、cICBはsICBよりも約4倍大きな効果量で、より多くの拡大クローンを誘導するという発見は、治療選択における臨床的意義を持つ。
本研究の知見は、ICB治療の臨床応用に直結する。具体的には、治療21日後の末梢血大型クローン数を早期の奏効モニタリング指標として活用し、治療効果が不十分な患者に対する早期の治療切替判断に役立てることが考えられる。さらに、大型クローン数の増加を目指すような併用療法(例:T細胞拡大を支援するサイトカイン療法)の開発にも繋がる可能性がある。
残された課題として、(1) 本バイオマーカーが他のICB適応癌種(例:肺がん、腎細胞がん)においても同様の予測能を持つかどうかの検証が必要である。(2) 高解像度な単一細胞RNAシーケンス解析を用いて、大型クローン内のさらに詳細なサブクラスターの機能的特性を解析することが今後の研究方向性として挙げられる。(3) 末梢血の大型クローンと腫瘍内の腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) のTCRレパートリーとの空間的・時間的一致性を評価し、末梢血所見の腫瘍微小環境における意義を解明することも重要である。(4) CMVなどの既往感染症がT細胞レパートリーに与える影響とICB応答との詳細な関連性についても、さらなる検討が求められる。Limitationとして、本研究のコホートサイズが限定的である点が挙げられる。
方法
本研究では、まず発見コホートとして55例の転移性メラノーマ患者(sICB群 n=40、cICB群 n=15)を対象に、治療前および治療21日後の末梢血CD8+ T細胞のRNAシーケンス解析を実施した。得られたデータに対し、Weighted Gene Co-expression Network Analysis (WGCNA) を用いて9つの遺伝子共発現モジュール (M1-M9) を同定した。次に、69例の皮膚メラノーマ患者コホート(治療前67サンプル、治療後77サンプル、合計144サンプル)を用いて、6ヶ月時点での臨床奏効との関連性を解析した。TCRレパートリー解析にはMiXCRソフトウェアを適用し、qPCRによる検証を行った上で、レパートリーの0.5%超を占めるクローンを「大型クローン」と定義した。この大型クローン数の予後予測能を、独立検証コホート20例のメラノーマ患者と健常対照群43例で再現性を確認した。さらに、41例の患者から治療前、治療21日後、および第4サイクル前(通常は治療63日後)の3時点でのサンプルを採取し、経時的なクローン動態を追跡した。CMV血清型、EBVおよびメラノーマ関連抗原 (MAA) の公開クロノタイプとの関連解析も実施した。フローサイトメトリー (CD27/CD45RA) を用いてT細胞サブセットの定量を行い、大型クローン数との関連を評価した。最終的に、8例の患者から得られた治療後サンプルに対して5’単一細胞RNAシーケンス解析を実施し、大型クローンの転写特性を詳細に解析した。これらのデータに基づき、線形判別分析を用いて6ヶ月臨床奏効を予測するモデルを構築した。統計解析にはDESeq2 Love et al. GenomeBiol 2014、HISAT2、HTSeq Anders et al. Bioinformatics 2015、picard、SAMtools Li et al. Bioinformatics 2009、MiXCR、Seurat Stuart et al. Cell 2019などのソフトウェアおよびRパッケージが用いられた。統計解析にはWilcoxon signed-rank test、Fisher’s exact test、log-rank testが用いられ、多重比較補正にはBenjamini-Hochberg法が適用された。