• 著者: Davoli T, Uno H, Wooten EC, Elledge SJ
  • Corresponding author: Stephen J. Elledge (Harvard Medical School / Howard Hughes Medical Institute)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-01-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28104840

背景

異数性 (aneuploidy) すなわち体細胞コピー数変化 (somatic copy number alterations; SCNAs) はヒトがんに広く認められるゲノム不安定性であり、腫瘍形成の駆動因子として提唱されてきた。SCNAsは、染色体腕の50%未満の領域に関わるfocal SCNA、染色体腕全体に関わるarmレベルSCNA、および染色体全体に関わるchromosomeレベルSCNAの3つのクラスに分類される。これらの異なるクラスのSCNAsは、それぞれ生物学的に異なるメカニズムで生じると考えられているが、がんの機能的特徴(hallmarks)との具体的な関連、特に免疫回避との関係は十分に解明されていなかった。この領域には依然として知識のギャップが存在する。

免疫チェックポイント阻害療法(例えば、抗CTLA-4抗体や抗PD-1/PD-L1抗体)は、一部のがん患者(20〜30%)に持続的な奏効をもたらす画期的な治療法である。しかし、治療効果を予測するための信頼性の高いバイオマーカーの同定は、依然として重要な課題として残されている。これまでの研究では、腫瘍変異量(tumor mutational burden; TMB)や高ネオアンチゲン負荷が免疫細胞の腫瘍浸潤や免疫療法への応答と関連することが報告されてきた (Rizvi et al. Science 2015Tumeh et al. Nature 2014)。しかし、SCNAレベルと免疫回避との直接的な関係、およびSCNAの種類(focal vs arm/chromosome)が免疫応答にどのように影響するかについては、体系的な解析が不足しており、特にSCNAsが免疫回避にどのように影響するかのメカニズムは未解明であった。

本研究は、TCGA(The Cancer Genome Atlas)の大規模ゲノムデータを用いて、SCNAレベルが腫瘍の細胞増殖や免疫応答のどのような特性と関連するか、またSCNAsの種類によって予測されるhallmarkが異なるかを系統的に解析することを目的とした。これにより、ゲノム不安定性と免疫回避の間の知識ギャップを埋め、免疫療法応答の新たなバイオマーカー開発に繋がる知見を提供することを目指した。

目的

本研究の目的は、以下の3点である。(1) TCGAの12種類のがん、5,255例の腫瘍/正常サンプルという大規模データセットを用いて、SCNAレベルと変異数、がんドライバー変異、細胞増殖、および免疫浸潤との関係を包括的に解明すること。(2) focal SCNAとarm/chromosome SCNAが、それぞれ異なるがんのhallmarks(細胞増殖と免疫回避)の予測因子となるかを検証し、その生物学的意義を明らかにすること。(3) 免疫チェックポイント阻害療法(抗CTLA-4療法)を受けたメラノーマ患者の2つの独立した臨床試験データを用いて、SCNAレベルが免疫療法への反応および患者の生存期間を予測するバイオマーカーとして有用であるかを評価すること。これらの目的を達成することで、腫瘍の異数性ががんの進化と免疫回避にどのように寄与するかを理解し、免疫療法における患者選択の精度向上に資する新たなゲノムバイオマーカーの可能性を探索することを目指した。

結果

SCNAレベルと変異数の関係: 12種類のがん種のうち8種で、SCNAレベルと変異数に有意な正の相関が認められた (Fig. 1A)。大腸癌 (CRC) と子宮体癌 (UCEC) では負の相関を示したが、これは超変異(hypermutated)サンプルの存在に依存しており、これらのサンプルを除外すると正の相関に転じた。パッセンジャー遺伝子の変異数はSCNAレベルと正相関したが (p < 0.001)、cancer driver遺伝子の変異数とは相関しなかった。DNA損傷応答経路のドライバー変異はSCNAレベルと正相関したが (Fig. 1C)、RTK-RAS-PI3K経路のドライバー変異のみがSCNAレベルと有意な負の相関を示した (p = 2 × 10⁻¹⁵) (Fig. 1D)。この知見は、RTK経路の活性化がゲノム不安定性を誘導するという従来の仮説と矛盾するものであった。

高SCNA腫瘍における細胞増殖マーカー上昇と免疫浸潤マーカーの低下: 高SCNAレベル腫瘍と低SCNAレベル腫瘍のpan-cancer GSEA解析の結果、高SCNA腫瘍ではDNA複製、細胞周期、G2-Mチェックポイント (G2-M checkpoint)、有糸分裂、染色体維持に関わる遺伝子セットが11のがん種中11種で有意に上昇していた (FDR < 10⁻⁵) (Fig. 2A)。これは細胞増殖の亢進を示唆する。一方、FDR < 10⁻⁵で有意にダウンレギュレーションされた遺伝子セットの大多数は免疫系に関連するシグネチャーであった。具体的には、T細胞受容体複合体成分 (CD3E, CD3D, CD3G, CD247) が2倍以上低下し (FDR < 10⁻⁴)、B細胞特異的遺伝子も有意に低下した。さらに、CD8+ T細胞およびNK細胞による細胞傷害活性のマーカーが著明に低下し (ES ≤ −0.8, FDR < 10⁻⁴)、グランザイムA/B/H/K/Mが全て2倍以上低下した (log2FC ≤ −1) (Fig. 2B)。IFN-γ経路遺伝子 (JAK2, IRF1, IRF2, GBP4, GBP5) も有意に低下した。炎症性サイトカイン (IL-1β, IL-16, IL-18, CCL4, CCL3, CCL19など) も低下し、腫瘍微小環境の炎症性状態の低下を示した。脳腫瘍 (GBM, LGG) では免疫関連遺伝子セットの低下が観察されないという例外が認められた (Fig. 2C)。

特定免疫細胞種マーカーの解析: ImmGenデータベース由来の細胞種特異的遺伝子セットを用いた解析では、CD8+ T細胞とNK細胞のマーカーが最も顕著な低下を示した (p = 10⁻²⁷) (Fig. 3A)。CD4+ T細胞とTregマーカーも低下したが、CD8+ T細胞よりも小さい幅であった。樹状細胞およびマクロファージマーカーも有意に低下した。免疫細胞比率の解析では、CD8+ T細胞対TregのmRNA比とM1対M2マクロファージ比が高SCNA腫瘍で低下し、腫瘍免疫微小環境が原腫瘍性・免疫抑制的であることを示した (Fig. 3C, D)。炎症促進サイトカイン (IFN-γ, IL-1A, IL-1B, IL-2) 対免疫抑制分子 (IL-4, IL-10, IL-11, TGFβ1) の比も高SCNA腫瘍で有意に低下した (p = 5 × 10⁻¹²) (Fig. 3B)。

細胞増殖と免疫シグネチャーを予測するSCNAクラスの違い: ロジスティック回帰による解析で、細胞周期シグネチャーはfocal SCNA (β = 0.50, p = 1 × 10⁻¹⁸) とarm/chromosome SCNA (β = 0.30, p = 4 × 10⁻⁹) の双方が有意な予測因子であったが、focal SCNAがより強い寄与を示した (11/12のがん種で正の予測因子) (Fig. 4A, C)。対照的に、免疫シグネチャーはarm/chromosome SCNA (β = −0.59, p = 3 × 10⁻²⁸) が最強の予測因子であり、focal SCNAの寄与 (β = −0.19) はより小さかった (10/12のがん種でarm/chromosome SCNAが有意な負の予測因子) (Fig. 4B, D)。この非対称性は、focal SCNAとarm/chromosome SCNAがそれぞれ細胞増殖と免疫回避という異なるがんのhallmarksを、異なる生物学的機序を介して駆動していることを示唆する。免疫シグネチャーの予測力比較において、arm/chromosome SCNAレベルは腫瘍変異量 (TMB) よりも強い細胞傷害性免疫浸潤の予測因子であった (Fig. 5A-C)。高SCNA腫瘍ではネオアンチゲン編集が少ないことがCRCで示され、異数性による免疫抑制がネオアンチゲンに対する免疫選択圧を緩和しているという解釈と一致した (Fig. 5D)。

免疫療法応答予測バイオマーカーとしての検証: 転移性メラノーマへの抗CTLA-4療法臨床試験 (Van Allen et al.) のデータ解析で、長期生存患者 (全生存期間 > 2年) は非長期生存患者と比較して腫瘍SCNAレベルが有意に低かった (p = 8 × 10⁻⁵) (Fig. 6C)。高SCNAレベルは劣悪な生存と有意に関連した (HR = 2.24, 95% CI 1.44-3.48, p = 4 × 10⁻⁴) (Fig. 6D)。変異数は生存改善と関連したが統計的有意差に至らなかった (HR = 0.68, 95% CI 0.44-1.05, p = 0.079)。SCNAスコアと変異数を組み合わせた複合リスクスコアは、各単独バイオマーカーよりも優れた生存予測能を示した (HR = 2.51, 95% CI 1.57-4.02, p = 5 × 10⁻⁵) (Fig. 6E)。多変量モデルでSCNAレベルの寄与は変異数から独立した予測因子であることが確認された (HR = 2.27, 95% CI 1.45-3.56, p = 3 × 10⁻⁴)。この結果は独立した第2の抗CTLA-4臨床試験 (Snyder et al.) でも同様に再現された (Fig. 6F, G)。免疫療法非施行のTCGAメラノーマコホートでは、高SCNAレベルと生存不良の傾向は認められたが有意差に達しなかった (HR = 1.53, 95% CI 0.98-2.39, p = 0.06)。このことはSCNAの免疫療法応答への影響が単なる一般的な予後因子を超えた意義を持つことを示唆する。

考察/結論

本研究は、腫瘍の体細胞コピー数変化 (SCNAs) が細胞増殖と免疫回避という2つの重要な癌のホールマークと関連し、かつこれら2つのホールマークが異なるタイプのSCNAsによって予測されるという新規の概念を確立した。focal SCNAは特定の癌遺伝子の増幅や腫瘍抑制遺伝子の欠失を介して細胞増殖を促進するのに対し、arm/chromosomeレベルのSCNAは広域的な遺伝子量不均衡を通じて免疫回避を促進する。これは、各SCNAクラスが単に量的に異なるだけでなく、質的に異なる生物学的結果をもたらすことを示している点で、これまでの研究と異なる重要な知見である。

免疫回避へのarm/chromosome SCNAの貢献機序として、著者らはこれが特定の遺伝子の用量変化よりも「全般的な遺伝子量不均衡」に起因すると議論している。染色体腕全体の増幅・欠失は、免疫逃避に関わる多数の遺伝子を同時に変化させることで、T細胞やNK細胞による細胞傷害活性を広範に抑制する可能性がある。この新規のメカニズムは、腫瘍のゲノム不安定性が免疫応答に与える影響を理解する上で、これまで報告されていない重要な視点を提供する。

臨床的意義として、腫瘍のSCNAレベルは免疫療法(抗CTLA-4)応答を予測する独立したバイオマーマーであり、腫瘍変異量 (TMB) との組み合わせによりさらに精度が向上することが示された。これは、低SCNAかつ高TMBの腫瘍が最も免疫療法に応答しやすく、高SCNAかつ低TMBの腫瘍が最も応答しにくいという患者選択戦略につながる。腫瘍の「免疫回避能」をSCNAsの観点から評価することで、既存のTMBやPD-L1などのバイオマーカーとは相補的な情報を提供できる可能性があり、臨床応用への道を開くものである。

残された課題として、本研究で利用可能な臨床データが後ろ向き解析(2つのメラノーマ抗CTLA-4試験)に限られており、前向き検証が必要である点が挙げられる。また、免疫シグネチャー低下の具体的な分子機序(SCNAsが免疫浸潤を低下させる機序)は未解明であり、今後の研究で詳細なメカニズムを解明する必要がある。腫瘍純度の補正、サンプルサイズの制約、がん種間の異質性など、方法論的な課題も存在する。しかし、本研究が提示した仮説は、その後の研究でarmレベルSCNAsによる広域的な遺伝子量不均衡が免疫回避遺伝子の発現バランスを変化させるという機序の一部が解明され、支持されている。SCNAベースの免疫回避評価は、ゲノム不安定性、免疫逃避、治療抵抗性の接点を理解する上で、今後も重要な研究領域であり続けると考えられる。

方法

データセット:TCGA (The Cancer Genome Atlas) より12種類のがん種、5,255例の腫瘍/正常ペアのゲノムデータを使用した。対象腫瘍タイプは、膀胱尿路上皮癌 (BLCA)、乳癌 (BRCA)、大腸癌 (CRC)、頭頸部扁平上皮癌 (HNSC)、肺腺癌 (LUAD)、肺扁平上皮癌 (LUSC)、卵巣癌 (OV)、前立腺癌 (PRAD)、皮膚悪性黒色腫 (SKCM)、胃癌 (STAD)、子宮体癌 (UCEC)、グリオブラストーマ (GBM) などであった。

SCNAスコア算出:各腫瘍のSCNAレベルを定量化するため、染色体レベルSCNA、armレベルSCNA、focal SCNA(染色体腕の50%未満の領域)のそれぞれを個別に算出した。これらの3クラスのSCNAイベントは、生物学的に異なるメカニズムから生じるため、独立して解析された。各クラスのSCNAレベルは標準化された後に合計され、各腫瘍の総SCNAスコアとして定義された。SCNAコールにおけるノイズ閾値は、腫瘍純度に基づいて各腫瘍タイプで調整された。

遺伝子発現解析:高SCNAレベル(70パーセンタイル超)と低SCNAレベル(30パーセンタイル未満)の腫瘍間でRNA-seqデータを比較し、Robinson et al. Bioinformatics 2010パッケージを用いた一般化線形モデル (glm) で差次的発現解析を行った。その後、GSEA (Gene Set Enrichment Analysis) を用いて、高SCNA腫瘍で発現が豊富または枯渇する遺伝子セットを同定した。解析は、腫瘍タイプを共変量とするpan-cancer解析および各がん種別の解析として実施された。免疫細胞種特異的シグネチャーは、ImmGenデータベースから導出された遺伝子セットを用いて評価された。

免疫シグネチャーと細胞周期シグネチャーの定義:細胞毒性CD8+ T細胞およびNK細胞に特異的な遺伝子セットを「免疫シグネチャー」として定義した。細胞増殖関連遺伝子(頻繁に増幅・欠失しない遺伝子を選択)を「細胞周期シグネチャー」とした。各腫瘍サンプルにおいて、これらのシグネチャーの平均発現レベルをスコアとして算出した。Lasso回帰を用いて、SCNA種別、変異数、TP53変異、年齢、性別、病期などの各パラメータがこれらのシグネチャーを予測する能力を評価した。データセットはトレーニングセット(70%)とテストセット(30%)に分割され、モデルの構築と検証が行われた。

臨床データ解析:転移性メラノーマ患者を対象とした抗CTLA-4免疫療法に関する2つの独立した臨床試験データ(VanAllen et al. Science 2015およびSnyder et al.)が用いられた。全エクソームシーケンスデータからVarScan 2を用いてSCNAレベルを算出し、腫瘍純度はAscatNGSで補正された。SCNAレベルと患者の生存期間との相関は、Cox比例ハザードモデルを用いて評価された。また、免疫療法を受けていないTCGAメラノーマコホートでもコントロール解析を実施し、SCNAの免疫療法特異的な影響を検討した。本研究では、統計解析にWilcoxon検定、Spearman相関分析、およびCox比例ハザードモデルが用いられた。