• 著者: Huang AC, Postow MA, Orlowski RJ, Mick R, Bengsch B, Manne S, Xu W, Harmon S, Giles JR, Wenz B, et al.
  • Corresponding author: Tara C. Gangadhar / E. John Wherry (University of Pennsylvania)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-05-04
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28397821

背景

抗PD-1モノクローナル抗体による免疫チェックポイント阻害療法は、転移性メラノーマ患者の一部に顕著な臨床応答をもたらすものの、大多数の患者は持続的な臨床効果を得られないという課題が残されている。腫瘍内T細胞浸潤やPD-L1発現が応答予測因子として報告されてきたが、これらは侵襲的な腫瘍生検を必要とし、末梢血プロファイリングによる応答メカニズムの解明はこれまで限定的であった。疲弊表現型CD8 T細胞 (Tex細胞) は、PD-1を含む複数の抑制性受容体により能動的に制御されており、PD-1阻害がTex細胞を再活性化する可能性が示唆されていた。しかし、なぜ一部の患者では免疫学的応答が見られるにもかかわらず臨床効果が得られないのかという問いに対する体系的な答えは未解明であった。

先行研究では、PD-1経路の遮断が慢性ウイルス感染モデルにおいて疲弊T細胞の機能を回復させる可能性が示されていた (Barber et al. Nature 2006)。また、腫瘍内の免疫環境、特にT細胞浸潤の有無が予後や治療応答に関連することも報告されている (Fridman et al. NatRevCancer 2012)。さらに、PD-L1発現も応答予測因子として検討されてきた (Herbst et al. Nature 2014; Tumeh et al. Nature 2014)。しかし、これらのバイオマーカーは侵襲的であり、また、治療中の動態を非侵襲的に評価する手段は不足していた。末梢血バイオマーカーを用いた治療動態の理解は、個別化治療戦略の構築に不可欠である。特に、PD-1阻害によるT細胞再活性化の程度と、それが臨床応答にどのように影響するかを定量的に評価する手法は未確立であった。このため、免疫学的応答と臨床応答の乖離を説明する新たな概念的枠組みが求められていた。

本研究は、転移性メラノーマ患者 (n=29、全例anti-CTLA-4前治療歴あり) の高次元フローサイトメトリーとTCRシーケンシングを組み合わせた縦断的コホート研究により、この知識ギャップを埋めることを目的とした。特に、末梢血プロファイリングによってPD-1阻害療法のメカニズムを広範に探索することはこれまで手薄であった。

目的

転移性メラノーマ患者の末梢血免疫プロファイリングを通じて、PD-1阻害療法であるpembrolizumab投与後の薬力学的変化を詳細に検出し、特に循環疲弊CD8 T細胞 (Tex細胞) の再活性化の動態を明らかにすることを目的とした。また、T細胞再活性化の程度と臨床応答との関係を定量的に評価し、臨床不応答の免疫学的基盤を解明することを目指した。最終的には、治療効果を予測し、個別化治療戦略の最適化に資する末梢血バイオマーカーを同定することを目的とした。本研究は、免疫学的応答と臨床応答の乖離を説明する新たな概念的枠組みを提示し、治療前腫瘍量とT細胞再活性化のバランスが臨床転帰を規定するという仮説を検証することを目指した。

結果

免疫学的応答と臨床応答の乖離: 本研究の主要な所見の一つは、免疫学的応答率と臨床応答率の間に顕著な乖離が存在することであった。客観的臨床応答率 (immune RECISTに基づく) は、n=29例中11例 (38%) であったのに対し、末梢血Tex細胞のKi67発現上昇で測定される免疫学的応答は、n=29例中21例 (74%) の患者で検出された (Figure 1a, 1f)。Pembrolizumab投与後、循環Tex細胞 (PD-1+/CTLA-4+/2B4+/CD160+ CD8 T細胞) の増殖マーカーであるKi67+の発現が早期 (投与後3週以内) に有意に上昇した (p<0.0001) (Figure 1b, 1e)。治療前のTex細胞では約50%がPD-1+CTLA-4+Ki67+状態にあり、治療後は約75%に上昇した (約1.5-fold増加) (Figure 2b, 2c)。この結果は、多くの患者でPD-1経路を介したT細胞再活性化が誘導されるものの、それが必ずしも臨床的奏効に結びつかないことを示唆している。臨床不応答例の62% (18/29例) でも免疫学的応答 (Ki67増加) が検出されており、臨床不応答がT細胞の応答能力不足のみに起因するわけではないことが明らかになった。フローサイトメトリー解析では、Tex細胞が全CD8 T細胞の約5-15%を占め、他のCD8 T細胞サブセット (naive、central memory、effector memory) と比較してKi67の治療応答が最も大きく、Tex細胞特異的な免疫再活性化の選択性を示した (Figure 1c, 1d)。

Ki67/TB ratioと臨床応答の相関: CART解析により、治療後6週時点でのKi67/TB ratioのカットオフ値1.94が、臨床転帰を層別化する最適な閾値として同定された (Figure 4d)。High Ki67/TB ratio群 (≥1.94、n=13 patients) では、客観的奏効率 (ORR) が8/13例 (62%) であったのに対し、low ratio群 (<1.94、n=10 patients) では1/10例 (10%) のみ奏効であった (p=0.03)。この結果は、Ki67/TB ratioが、T細胞再活性化の大きさ単独または腫瘍量単独の指標よりも優れた応答予測能を持つことを示している。独立したMSKCC Keynote-001コホート (n=18 patients) でも同様のKi67/TB ratio傾向が確認され、本バイオマーカーの内部的な再現性が示された (Figure 4g)。臨床応答のあった患者では、治療後のKi67/TB ratioが高い状態を持続し、腫瘍縮小の程度と正の相関を示した。ランダムフォレスト解析では、Ki67+ CD8 T細胞が腫瘍量と最も強く相関する免疫パラメータであることが示された (Figure 3e)。

末梢血と腫瘍内T細胞の生物学的連続性: TCRシーケンシング解析により、末梢血と腫瘍生検で共有されるTCRクローンが多数存在することが明らかになった。特に、末梢血で再活性化されたKi67+Tex細胞 (HLA-DR+/CD38+で定義) は、既存の腫瘍内疲弊T細胞と共通のTCR特異性を持つことが示された (Figure 3b, 3c)。共有されるTCRクローンの18/19 (95%) がHLA-DR+/CD38+の活性化表現型を示し、統計的有意性は極めて高かった (P=2.9×10^-21 および P=2.7×10^-6)。この結果は、末梢血モニタリングが腫瘍内免疫動態の代替指標として機能しうる強力な根拠となる。非応答患者においても血液-腫瘍TCRクローン共有は確認され (共有クローン数の中央値はresponder vs non-responderで差なし)、循環Tex細胞自体は腫瘍に到達できているが、その再活性化量が腫瘍量に追いつかないという量的不均衡仮説をTCR解析レベルでも支持した。

治療前腫瘍量が抗PD-1応答の制限因子: 臨床不応答の多くは、T細胞再活性化能力の問題ではなく、再活性化したT細胞量が腫瘍量に対して不十分であるという「量的不均衡」に起因することが示された (Extended Data Figure 10)。臨床応答患者 (n=11 patients) と不応答患者 (n=18 patients) を比較すると、治療前の腫瘍量 (TB) が奏効患者群で有意に低い傾向が認められた (Figure 4a)。高Ki67産生であっても高TBの患者では奏効が得られず、腫瘍量の早期低減戦略 (手術・放射線・化学療法先行) と免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) の組み合わせの重要性が示唆された。末梢血Ki67+Tex細胞はpembrolizumab投与後3週という早期timepointで評価可能であり、腫瘍生検不要の実用的なon-treatmentバイオマーカーとしての可能性を示した。サブグループ解析では、low TB患者においてHigh Ki67/TB ratioが達成されやすく (OR>3、治療前TBが中央値以下のサブグループ)、腫瘍量が少ない早期治療介入がKi67/TB比を有利にする可能性が示唆された。また、治療中に腫瘍縮小が認められた患者では、腫瘍縮小の程度とKi67/TB比の改善が正比例した。

考察/結論

本研究は、PD-1阻害療法の臨床応答が、単なる免疫再活性化の有無だけでなく、再活性化したT細胞量と治療前腫瘍量のバランスによって規定されるという新規のパラダイムを確立した。Ki67/TB ratio (カットオフ値 1.94、p=0.03) という定量的バイオマーカーは末梢血から測定可能であり、侵襲的な腫瘍生検を必要としない点で臨床応用に優れる。

これまでと異なり、本研究では「免疫応答がある患者が臨床応答する」という二項対立的な理解に留まらず、「免疫応答の大きさと腫瘍量のバランス」という連続的・定量的概念を導入した点で、異なる視点を提供した。74% vs 38%という免疫学的・臨床的応答率の乖離 (約2-fold差) は、多くの患者でPD-1経路を介してT細胞を再活性化できるものの、腫瘍抑制に必要な絶対数に達しないことを示唆しており、腫瘍量が小さい段階での早期治療介入の重要性を強調する。TCRクローン共有の統計学的証拠 (P=2.9×10^-21 および P=2.7×10^-6) は、非侵襲的な末梢血モニタリングが腫瘍内免疫動態の信頼できる代替指標であることを強力に支持する。

本論文の概念的独自性は、「腫瘍免疫の失敗」をT細胞機能不全と腫瘍量という2つの独立したパラメータに分解した点にある。これは従来の「応答者 vs 非応答者」という二分法を超え、T細胞機能と腫瘍量の動的バランスによる連続的な臨床応答の記述モデルを初めて提供した。さらに、疲弊T細胞が治療前から一定の増殖活性 (Ki67+50%) を保持しており、PD-1遮断がそれを75%に増幅するという薬力学的データは、Barber et al. Nature 2006の動物実験知見をヒト腫瘍文脈に翻訳した点で免疫学的意義が大きい。

臨床的含意として、(1) 腫瘍量低減戦略 (手術・放射線・化学療法) とICBの組み合わせによるKi67/TB ratioの最適化、(2) 早期Ki67測定 (3週) による早期治療変更判断の根拠、(3) 末梢血モニタリングによるICB臨床試験の組み込みバイオマーカー評価の3点が直接的示唆として得られる。残された課題として、Ki67/TB ratioの多癌種・多剤コホートでの検証 (肺がん・腎がん・頭頸部がん等)、ICB+化学療法・放射線療法併用時の動態変化、Ki67/TB ratio改善を目的とした適応的治療プロトコルの開発が今後の重要な研究方向性である。また、n=29という限られたサンプルサイズの拡大検証と、Tex細胞の機能的ヘテロジェネイティ (TCF1+前駆体疲弊 vs 末端疲弊) の応答への寄与解明も今後の重要課題である。

方法

本研究では、Stage IVメラノーマ患者n=29例(全例anti-CTLA-4前治療歴あり)を対象に、pembrolizumabを投与した。患者はペンシルベニア大学のExpanded Access Program (NCT02083484) またはMemorial Sloan Kettering Cancer Center (MSKCC) のNCT01295827臨床試験に参加した。治療前および治療中(3週間ごと、計12週間)に末梢血を採取し、高次元フローサイトメトリーと質量サイトメトリー (CyTOF) を用いて免疫プロファイリングを実施した。

疲弊表現型CD8 T細胞 (Tex細胞) は、PD-1+/CTLA-4+/2B4+/CD160+の共発現で定義した。T細胞の増殖応答は、細胞増殖マーカーであるKi67の発現を定量化することで評価した。画像評価可能な腫瘍病変の長径の合計を算出し、治療前腫瘍量 (tumor burden, TB) を推定した。主要なバイオマーカーとして、T細胞再活性化と腫瘍量のバランスを示すKi67/TB ratioを算出した。

統計解析には、分類回帰木 (CART: classification and regression tree) 解析を用いて、Ki67/TB ratioの最適なカットオフ値 (1.94) を同定した。また、ランダムフォレスト解析を用いて、39種類の免疫パラメータと腫瘍量との相関を評価した。臨床応答は、免疫関連RECIST (irRECIST) 基準を用いて評価した。統計的有意差の検定には、Wilcoxon matched-pairs test、Mann–Whitney U-test、Student’s t-test、Fisher’s exact test、log-rank testなどが用いられた。

独立した検証コホートとして、MSKCC Keynote-001試験参加者n=18例のデータも解析し、本研究で得られたKi67/TB ratioの予測能の再現性を検証した。TCRシーケンシングにより、末梢血と腫瘍内T細胞のTCRクローンレパートリーの重複を解析し、末梢血で再活性化されたT細胞が腫瘍特異的なT細胞であるかを確認した。TCRシーケンシングはAdaptive Biotechnologies社のimmunoSEQ Platformを用いて実施された。RNAシーケンシングも実施し、Ki67発現と相関する遺伝子発現プロファイルを解析した。CyTOFデータ解析にはSPADE (Cytobank) を用いた。