• 著者: Thomas Powles, Danielle Carroll, Simon Chowdhury, Gwenaelle Gravis, Florence Joly, Joan Carles, et al.
  • Corresponding author: Thomas Powles (Barts Cancer Institute, QMUL, London, UK)
  • 雑誌: Nature Medicine
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-05-03
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33941921

背景

進行尿路上皮がん (AUC: advanced urothelial cancer) において、プラチナベース化学療法後の二次治療として、PD-L1 (programmed death-ligand 1) 阻害薬であるデュルバルマブなどの免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: immune checkpoint inhibitor) が標準治療として確立されている。しかし、これらのICI単剤療法の奏効率 (ORR: objective response rate) は限定的であり、一般的に15-25%程度に留まることが報告されている Rosenberg et al. Lancet 2016。AUCは、線維芽細胞増殖因子受容体 (FGFR: fibroblast growth factor receptor) 変異/融合が約21%、DNA相同組換え修復欠損 (HRRm: DNA homologous recombination repair deficiency) が約14%、mTOR/PI3K経路変異 (TRm: mTOR/PI3K pathway alteration) が約15%といった、複数の標的可能なゲノム変異を有することが知られている。これらの分子標的とICIの併用療法は、単剤療法と比較して奏効率を向上させ、より持続的な奏効をもたらす可能性が期待されてきた。特に、FGFR阻害薬は選択されたFGFR変異陽性AUC患者において30-40%のORRを示し、米国食品医薬品局 (FDA: US Food and Drug Administration) の承認を得ている Mariathasan et al. Nature 2018。また、ポリADPリボースポリメラーゼ (PARP: poly-ADP ribose polymerase) 阻害薬やTORC1/2 (mammalian target of rapamycin complex 1/2) 阻害薬も、理論的背景からICIとの併用候補として注目されていた。循環腫瘍DNA (ctDNA: circulating tumor DNA) は、治療効果のモニタリングや予後予測のバイオマーカーとしての可能性が示唆されているが、進行がん患者における免疫チェックポイント阻害薬治療時のctDNAの予後・予測的意義については、さらなる検証が求められていた Zhang et al. CancerDiscov 2020。しかし、複数の標的療法とICIの組み合わせを、複数のバイオマーカー群で同時に評価する適応的マルチアーム試験デザインは、固形がん領域では前例が少なく、その有用性と限界の検証が課題として残されていた。特に、バイオマーカー選択された集団における標的療法とICIの併用に関するデータは不足しており、その安全性、有効性、および最適なバイオマーカーストラテジーは未解明であった。

目的

本研究は、バイオマーカー選択的な多アーム適応デザインを用いたBISCAY試験 (NCT02546661) において、プラチナ抵抗性進行AUC患者を対象に、デュルバルマブと3種類の分子標的薬(FGFR阻害薬AZD4547、PARP阻害薬オラパリブ、TORC1/2阻害薬ビスタセルチブ)の各組み合わせの安全性、有効性、およびバイオマーカーとの関連性を評価することを目的とする。また、適応的デザインの実現可能性と、血漿ctDNAを用いたバイオマーカー解析の臨床的有用性も検証する。

結果

患者背景とバイオマーカー頻度: スクリーニングされた391例のAUC患者において、FGFRmが21%、HRRmが14%、TRmが15%の頻度で検出された(一部重複あり)。FGFRm腫瘍では、腫瘍変異負荷 (TMB) 高値 (≥10 mut/Mb) の割合が16%と低く、PD-L1陽性 (≥10%) の割合も33%と比較的低かった。これは、FGFRm腫瘍が免疫活性の低い微小環境を持つ可能性を示唆する。治療を受けた135例の患者において、ベースラインctDNAの検出率は89%であった。組織TMB (tTMB) と血漿TMB (bTMB) の間には有意な正の相関が認められ (Spearman ρ=0.527, p<0.0001)、血漿ベースのバイオマーカーが組織バイオマーカーの代替となり得る可能性が示唆された (Fig. 1c,d,e)。ctDNAにおける最も頻繁なDNA変化はTERTプロモーター (65%)、TP53 (59%)、KMT2D (36%) であった (Extended Data Fig. 2)。

有効性:いずれの組み合わせも奏効基準を満たさず: 確認奏効率 (ORR) は、各アームで9-36%の範囲であったが、いずれの併用療法アームもデュルバルマブ単剤療法アーム (ORR 9%) を超える有意な有効性シグナルを示さなかった (Fig. 2a,b)。AZD4547単剤療法アームのORRは25%であったが、AZD4547とデュルバルマブの併用療法アームのORRは26%であり、単剤療法と比較して臨床活性の明確な向上は認められなかった。オラパリブとデュルバルマブの併用療法アームでは、HRR選択群でORR 27%、非選択群でORR 36%であったが、これらもデュルバルマブ単剤療法を上回るものではなかった。ビスタセルチブとデュルバルマブの併用療法アームのORRは25%であった。深い奏効 (完全奏効, CR: complete response) は、組み合わせアームにおいても乏しい結果であった。6ヵ月無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival) 率は20-43%の範囲であり、1年全生存期間 (OS: overall survival) 率は42-56%の範囲であった。デュルバルマブ単剤療法のOS中央値は10.3ヵ月 (80% CI 3.1-NR) であり、これは先行研究の報告と一致するものであった。併用療法アームとデュルバルマブ単剤療法アームの間で、PFSおよびOSに明確な改善は認められなかった (Fig. 2e,f)。

安全性プロファイル: Grade 3/4の治療関連有害事象 (AEs) の発生率は、AZD4547単剤療法で31%、AZD4547+デュルバルマブ併用療法で48%、オラパリブ+デュルバルマブ併用療法 (HRR選択群) で27%、同 (非選択群) で36%、ビスタセルチブ+デュルバルマブ併用療法で24%、デュルバルマブ単剤療法で10%であった。治療関連AEsによる両治療薬または標的療法の治療中止は、AZD4547単剤療法で25%、AZD4547+デュルバルマブで33%、オラパリブ+デュルバルマブ (HRR選択群) で40%、同 (非選択群) で0%、ビスタセルチブ+デュルバルマブで34%であった。オラパリブ+デュルバルマブ併用療法アームで3例の治療関連死亡 (敗血症、肺塞栓症各1例) が報告され、ビスタセルチブ+デュルバルマブアームで1例の治療関連死亡 (肺炎) が報告された。全体として、毒性による治療中止や減量が、併用療法の有効性不足の主な原因であるとは考えられなかった。

ctDNAバイオマーカーの予後・予測的意義: ベースラインctDNAのアレル頻度 (AF) が中央値以上 (>4.285%) の患者は、OSが有意に短いことと相関した (HR=2.14, 95% CI 1.22-3.75, p=0.006) (Fig. 4a)。これは、ctDNAレベルが腫瘍量を示す予後バイオマーカーとなり得ることを示唆する。FGFRmの追跡解析では、AZD4547治療中にFGFR変異AFが減少した患者で良好なOSが認められた (ランドマーク解析HR=4.48, 95% CI 0.85-23.7, p=0.05) (Fig. 4c)。また、病勢進行時に新たなFGFR3クローンが出現する症例も確認され、耐性機序の可能性が示唆された (Fig. 3c)。一方、オラパリブ+デュルバルマブ併用療法アームでは、追跡可能なHRR変異の動的変化が乏しく (15例中5例のみ追跡可能)、有効性の不足と一致する結果であった。bTMBはtTMBと相関するものの、奏効患者をより正確に選択するものではないことが示された。ベースラインから進行までのbTMB発現に全体的な変化はなく、初期奏効や試験アームとの一貫した相関も認められなかった (Fig. 4d)。

分子サブタイプと免疫活性: RNAシーケンシングによる分子サブタイプ解析では、FGFRm腫瘍においてルミナルパピラリーサブタイプが多く認められた (Extended Data Fig. 3)。しかし、これらのFGFRm腫瘍は、免疫活性T細胞シグネチャー (IFNγ、CXCL9、CD274など) の発現が低い傾向にあることが示された (Extended Data Fig. 4)。これは、FGFRm腫瘍の微小環境が免疫的に不活性であり、ICIの効果を制限する可能性を示唆する。

考察/結論

BISCAY試験は、進行AUC患者における免疫チェックポイント阻害薬とバイオマーカー選択的分子標的薬の組み合わせという仮説を検証した先駆的な適応的プラットフォーム試験である。本研究の結果は、いずれの併用療法も追加開発を正当化するほどの有効性シグナルを示さなかったことを明らかにした。この知見は、AUCに限定されず、標的療法と免疫療法の組み合わせアプローチ全般の有効性に疑問を呈するものである。

先行研究との違い: これまでの研究では、特定の標的遺伝子変異を持つ腫瘍に対する分子標的薬とICIの併用が、単剤療法を上回る効果を示す可能性が期待されてきた。しかし、本研究では、AZD4547単剤療法がFGFRm AUCで活性を示したものの、デュルバルマブの追加による上乗せ効果は認められなかった。これは、FGFRm腫瘍が免疫活性の低い微小環境を持つことが、ICIの効果を制限した可能性があり、他の免疫活性の高い腫瘍タイプにおける併用療法の知見とは対照的である。

新規性: 本研究は、適応的マルチアームデザインを用いて、複数のバイオマーカー選択的併用療法を効率的に並行して評価するアプローチの実現可能性を新規に示した。このデザインは、少数の患者で複数の研究課題を同時に検討できる利点がある一方、直接比較や統計的有意性の厳密な評価が困難であるという限界も明らかになった。また、血漿ctDNA解析の活用により、ベースラインctDNA高値がOS不良と相関すること、およびAZD4547治療中のFGFR変異アレル頻度の動的変化が臨床アウトカムと相関することを本研究で初めて示した。これは、リキッドバイオプシーが組織生検に代わる患者選択および治療効果モニタリングの潜在的なツールとなり得るという新規な知見である。

臨床応用: 本研究の知見は、進行AUCにおける標的/免疫併用療法のアプローチに対する臨床的含意を持つ。特に、HRRmバイオマーカー選択下でのオラパリブとデュルバルマブの併用療法の奏効率が低かったことは、HRRm検出法やバイオマーカーパネルの改善が臨床応用に向けて必要であることを示唆する。また、ctDNAの動的変化が治療効果と相関するという発見は、将来的にリアルタイムの治療モニタリングや耐性機序の早期検出に臨床応用される可能性を秘めている。

残された課題: 今後の検討課題として、標的療法と免疫療法の最適なシーケンシングやタイミングの同定、より感度・特異度の高いバイオマーカーの探索、および真に相乗効果を持つ組み合わせの同定が挙げられる。本研究のlimitationとしては、各アームの患者数が限定的であったため、統計的有意性のある直接比較が困難であった点が挙げられる。また、探索的バイオマーカーと未確立の組み合わせを用いたため、異なるバイオマーカーパネルが異なる結果をもたらす可能性も残された課題である。

方法

本試験は、プラチナベース化学療法後に病勢進行した進行/転移性AUC患者を対象とした、オープンラベル、多剤併用、バイオマーカー選択的、多アームの第Ib相適応デザイン試験として実施された。試験はモジュール式デザインを採用し、複数の治療アームを並行して評価することで、安全性、忍容性、薬物動態、および抗腫瘍活性を効率的に検討した。スクリーニングされた391例の患者のうち、135例が6つの試験アームのいずれかに登録された。患者は、組織学的確認された放射線学的に進行性の進行/転移性 (ステージIV) 尿路上皮がんを有し、少なくとも1レジメンのプラチナ含有化学療法を以前に受けているか、または術前/術後プラチナ含有化学療法後に1年以内に進行した患者が対象とされた。ベースラインでRECIST v.1.1に基づく測定可能病変を有し、WHOパフォーマンスステータス0または1、最低12週間の余命が求められた。主要な除外基準には、主要臓器機能不全 (クレアチニンクリアランス < 30 mL/min) や、本研究で調査される遺伝子変異を標的とする薬剤への以前の曝露が含まれた。

各アームの治療法は以下の通りである。(A) FGFR変異 (FGFRm) 選択患者に対するAZD4547単剤療法 (80 mg 1日2回経口投与)。(B) FGFRm選択患者に対するAZD4547 (80 mg 1日2回経口投与) とデュルバルマブ (1,500 mg 4週ごと静脈内投与) の併用療法。このアームではAZD4547単剤療法と比較して1:2の割合で無作為化が行われた。(C) DNA相同組換え修復欠損 (HRRm) 選択患者に対するオラパリブ (300 mg 1日2回経口投与) とデュルバルマブ (1,500 mg 4週ごと静脈内投与) の併用療法。(C2) バイオマーカー非選択患者に対するオラパリブ (300 mg 1日2回経口投与) とデュルバルマブ (1,500 mg 4週ごと静脈内投与) の併用療法。(D) 適格な選択バイオマーカーを持たない患者に対するデュルバルマブ単剤療法 (1,500 mg 4週ごと静脈内投与)。(E) TSC1/2およびRICTOR遺伝子変異 (TRm) 選択患者(一部非選択患者も含む)に対するビスタセルチブ (50 mg 1日2回経口投与) とデュルバルマブ (1,500 mg 4週ごと静脈内投与) の併用療法。各アームには約20~26例の患者が登録された。

主要評価項目は、併用療法の安全性および忍容性であり、有害事象 (AEs: adverse events) はCTCAE (Common Terminology Criteria for Adverse Events) v.4.0を用いて評価された。副次評価項目および事前に定義された有効性評価項目には、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v.1.1に基づく確定奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)、および全生存期間 (OS: overall survival) が含まれた。PFSとOSはKaplan-Meier法を用いて解析された。バイオマーカー解析は、アーカイブされた組織検体 (FoundationOne) およびベースライン血漿ctDNA (Guardant OMNI) の遺伝子変異、腫瘍変異負荷 (TMB: tumor mutational burden)、FGFRmアレル頻度 (AF: allele frequency) の経時的変化、およびRNAシーケンシングによる分子サブタイプ分類が含まれた。組織TMB (tTMB: tissue TMB) と血漿TMB (bTMB: blood TMB) の相関も評価された。ctDNAの追跡解析には、Resolution Bioscienceのカスタムパネルが用いられ、治療初期サイクルにおけるFGFR変異AFの動的変化がモニタリングされた。