• 著者: Rosenberg JE, Hoffman-Censits J, Powles T, van der Heijden MS, Balar AV, Necchi A, Dawson V, O’Sullivan Coyne G, Loriot Y, Bhatt DL, Petrylak DP, De Bono J, Dreicer R, Sternberg CN, Sonpavde G, Sridhar SS, Staehler M, Stadler WM, Yamamoto N, Fratkin L, Cioffi A, Gupta S, Grivas P, Van Allen EM, Edelman EJ, Bellmunt J, Kim JW, Lerner SP
  • Corresponding author: Jonathan E. Rosenberg (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
  • 雑誌: Lancet
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26952546

背景

尿路上皮癌 (UC) は世界中で年間約165,000人の死亡を引き起こし、全体で9番目に多いがんとされる。非筋層浸潤性UCに対するBCG免疫療法は1976年に確立されたが、進行性または転移性疾患に対する免疫療法は長らく承認されておらず、白金製剤ベースの化学療法が唯一の有効な治療法として支配的であった。白金製剤による一次治療後に進行した転移性UCの予後は極めて不良であり、全生存期間 (OS) 中央値は5〜7ヶ月と報告されている。既存の二次治療(ドセタキセル、パクリタキセル、ペメトレキセドなど)の奏効率 (ORR) は約10%に留まり、生存期間を延長する効果を持つ二次治療は、欧州で承認されたビンフルニンを除いて存在しなかった。しかし、そのビンフルニンも第III相試験でOS改善を示すには至らなかった。この状況は、進行UC患者にとって新たな治療選択肢が緊急に必要であることを示しており、既存治療の有効性には限界が残されていた

UCは、The Cancer Genome Atlas (TCGA) の解析により、全がん種の中で3番目に高い体細胞変異率を持つことが示されている。この高い変異率は、多数の非同義変異によるネオアンチゲン産生を促進し、免疫チェックポイント阻害薬に対する感受性を高めるという仮説を支持するものであった。特に、DNA修復遺伝子(ERCC2を含む)の変異頻度が高いことが知られており、これらが腫瘍変異量 (TMB) を増加させる主要な要因であると考えられた。これらの背景から、UCは免疫チェックポイント阻害薬の有望な標的であると推測された。

アテゾリズマブは、PD-L1 (programmed death-ligand 1) に選択的に結合し、PD-1 (programmed death-1) およびB7-1との相互作用を遮断するよう設計されたヒト化IgG1モノクローナル抗体である。この薬剤は、PD-L2とPD-1の相互作用は温存するという特異的な作用機序を持つ。先行する第I相試験では、アテゾリズマブがUC患者に対して抗腫瘍活性を示すことが報告されており、特にPD-L1発現レベルが高い患者で高い奏効率が観察された (Petrylak et al. J Clin Oncol 2015)。しかし、UCにおけるPD-L1/PD-1経路阻害薬の有効性と安全性、および奏効予測バイオマーカーとしてのPD-L1発現、TMB、TCGAサブタイプとの関連性を大規模かつ系統的に評価したデータは不足しており、この領域には未解明な点が多く残されていた。本研究であるIMvigor210試験は、この知識のギャップを埋めることを目的として設計された、UCにおけるPD-L1/PD-1経路阻害の初の系統的大規模試験である。PD-1/PD-L1経路阻害薬は、非小細胞肺癌やメラノーマなど他の癌種で既に有効性が示されており、例えば Garon et al. NEnglJMed 2015Brahmer et al. NEnglJMed 2015 は、これらの薬剤が既存治療と比較して優れた効果を示すことを報告している。また、Le et al. NEnglJMed 2015 は、ミスマッチ修復欠損腫瘍におけるPD-1阻害の有効性を示し、バイオマーカーの重要性を強調していた。

目的

本研究の主要な目的は、白金製剤による前治療後に進行した局所進行性または転移性尿路上皮癌患者を対象として、PD-L1阻害薬であるアテゾリズマブ単剤療法の有効性(主要評価項目である客観的奏効率 [ORR])および安全性を評価することであった。副次的な目的として、アテゾリズマブに対する治療奏効と、免疫細胞 (IC) におけるPD-L1発現レベル、腫瘍変異量 (TMB)、およびTCGA (The Cancer Genome Atlas) 分子サブタイプとの関連性を探索的に解析し、奏効予測バイオマーカーとしての有用性を評価することも含まれた。本試験は、IMvigor210試験のコホート2として実施された。特に、PD-L1発現レベルとTMBが、アテゾリズマブの治療効果を予測する上で独立したバイオマーカーとなりうるかという点に焦点を当てた。さらに、免疫修飾RECIST (iRECIST) を用いた評価により、従来のRECIST v1.1では捉えきれない免疫療法特有の非典型的な奏効パターンを評価することも目的とした。

結果

客観的奏効率 (ORR) とPD-L1 IC発現との相関: 独立評価機関によるRECIST v1.1に基づくORRは、PD-L1 IC2/3群 (n=100) で26% (95% CI 18-36%) であり、完全奏効 (CR) が11例 (11%)、部分奏効 (PR) が15例であった。IC1/2/3群 (n=207) では18% (95% CI 13-24%)、全患者集団 (n=310) では15% (95% CI 11-19%) であった (Table 2)。対照的に、IC1群 (n=107) では10%、IC0群 (n=103) では8%のORRが示された。治験担当医評価によるiRECIST ORRは、IC2/3群で27%、IC1/2/3群で22%、全患者集団で19%であった。これらのORRは、歴史的対照の10%と比較して、IC2/3群 (p<0.0001)、IC1/2/3群 (p=0.0004)、および全患者集団 (p=0.0058) のいずれにおいても統計学的に有意な改善を示した。

奏効の持続性 (DOR): 追跡期間中央値11.7ヶ月の時点で、奏効を達成した45例中38例 (84%) で奏効が継続中であった。奏効持続期間中央値は、いずれのPD-L1 ICグループにおいても未到達であり、奏効の持続性が示唆された (範囲2.0〜13.7ヶ月、検閲値を含む)。奏効までの期間中央値は2.1ヶ月であった。RECIST v1.1によるIRF評価のPFS中央値は、全患者集団で2.1ヶ月 (95% CI 2.1-2.1ヶ月) であり、PD-L1 ICグループ間で大きな差は認められなかった。一方、iRECISTに基づく治験担当医評価のPFS中央値は、全患者集団で2.7ヶ月、IC2/3群で4.0ヶ月 (95% CI 2.6-5.9ヶ月) と、非古典的奏効を捕捉することで延長が認められた。121例の患者が病勢進行後も治療を継続し、そのうち20例 (17%) がその後、標的病変の30%以上の縮小を示し、偽進行への対処の有用性が示された。

全生存期間 (OS) とPD-L1 IC発現の関連: 全患者集団におけるOS中央値は7.9ヶ月 (95% CI 6.7-9.3ヶ月) であった。PD-L1 IC2/3群では11.4ヶ月 (95% CI 9.0-推定不能 [NE]) と特に良好なOS中央値を示し、IC1/2/3群では8.8ヶ月 (95% CI 7.1-10.6ヶ月) であった (Figure 2D)。12ヶ月OS率は、IC2/3群で48% (95% CI 38-58%)、IC1/2/3群で39%、全患者集団で36%であった。過去の白金製剤二次治療における12ヶ月OS率が約20%であったことと比較して、アテゾリズマブは全患者集団においても大幅な生存改善を示した。特に、二次治療が初めての患者(一次転移化学療法のみ)のIC2/3サブグループでは、OS中央値が未到達 (95% CI 9.3-NE) とさらに良好な結果であった。

腫瘍変異量 (TMB) と奏効の関連性 (探索的解析): TMB評価が可能な150例の患者において、奏効例のTMB中央値は12.4変異/Mbであったのに対し、非奏効例のTMB中央値は6.4変異/Mbであり、奏効例で有意に高かった (Mann-Whitney test、p<0.0001) (Figure 3H)。これは、TMBがアテゾリズマブに対する奏効の独立した予測因子であることを初めて証明したものである。このTMBと奏効の関連性は、TCGAサブタイプ (p=0.2200) やPD-L1 IC発現スコアとは独立して認められた。喫煙歴とTMBの間には有意な相関は認められなかった (非喫煙者8.1変異/Mb vs 喫煙者9.0変異/Mb、p=0.2454)。ERCC2変異を含むDNA修復遺伝子変異がTMBと強く相関することも示された。この知見は、Rizvi et al. Science 2015 が非小細胞肺癌で示した変異量とPD-1阻害薬奏効の関連性と同様の傾向を示すものであった。

TCGA分子サブタイプと奏効の関連性 (探索的解析): 195例の患者をTCGA分類に基づいてluminal (n=73) とbasal (n=122) サブタイプに分類した。PD-L1 IC2/3発現は、luminalサブタイプ (23%) よりもbasalサブタイプ (60%) で有意に高かった (p<0.0001)。サブタイプ別のORRは、luminal cluster IIで最高34% (p=0.0017) であり、luminal cluster Iでは10%、basal cluster IIIでは16%、basal cluster IVでは20%であった。Luminal cluster IIは、CXCL9やCXCL10などの活性化Tエフェクター細胞シグネチャーが高発現していることが特徴であり、PD-L1 IC発現およびCD8+T細胞浸潤とも相関していた。BasalサブタイプではPD-L1発現が高いにもかかわらずORRが低く、TIGITなどの他の免疫抑制機構の存在が示唆された。この分子サブタイプ解析は、Alexandrov et al. Nature 2013 が提唱した変異シグネチャーの重要性を裏付けるものでもあった。

安全性プロファイル: 治療関連有害事象 (AE) は、全グレードで69% (310例中215例) の患者に発生した。グレード3〜4の治療関連AEは16% (50例) に発生し、最も多かったのはグレード3〜4の疲労 (2%) であった (Table 3)。治療関連死は0例であった。グレード3〜4の免疫関連AEは5% (15例) に発生し、肺炎、ALT上昇、AST上昇、皮疹、呼吸困難がそれぞれ1% (各2例) であった。AEによる用量中断は93例 (30%)、治療中止は11例 (4%) であった。全身性ステロイドの使用は69例 (22%) で必要とされた。全体として、アテゾリズマブは化学療法と比較して良好な忍容性を示した。

考察/結論

IMvigor210試験は、尿路上皮癌 (UC) における免疫チェックポイント阻害薬の有効性を大規模かつ系統的に実証した初の試験であり、PD-L1 IC発現、腫瘍変異量 (TMB)、およびTCGA分子サブタイプという三層のバイオマーカー体系を提示した点で歴史的な意義を持つ。

臨床的意義: 本研究で示された全体ORR 15%、PD-L1 IC2/3群でのORR 26% (95% CI 18-36%)、および全患者集団でのOS中央値7.9ヶ月 (95% CI 6.7-9.3ヶ月) という成績は、白金製剤既治療の進行UC患者にとって画期的なものであった。この結果に基づき、米国FDAは2016年にアテゾリズマブをUCの二次治療として加速承認した(後に適応変更)。これは、30年以上にわたり治療選択肢の改善がなかったUCに対する初の新規承認治療であり、その後の複数免疫療法薬(ペムブロリズマブ、ニボルマブ、デュルバルマブ、アベルマブなど)のUC領域での開発を加速させる先駆けとなった。奏効の持続性(追跡期間中央値11.7ヶ月の時点で84%が継続)は、化学療法の一時的な奏効とは対照的な、免疫療法の特性を示すものである。

新規性: 本試験は、腫瘍変異量が免疫チェックポイント阻害薬への奏効予測因子として機能することをUCで初めて証明した先駆的な報告である。TMBとPD-L1 ICスコアが独立した予測情報を提供するという重要な知見は、UC特有の高いTMB(DNA修復欠損、ERCC2変異など)がネオアンチゲン産生によるT細胞応答を促進するというモデルと一致する。また、TCGAサブタイプとの相関は、分子サブタイプ分類が単なる生物学的分類を超えて治療予測情報を持つことを初めて示した。特に、luminal cluster IIサブタイプで高い奏効率が認められたことは、特定の分子プロファイルを持つ患者群がアテゾリズマブ治療からより大きな恩恵を受ける可能性を示唆する。

先行研究との違い: 本研究は、従来の化学療法と比較して、持続的な奏効と良好な忍容性を示した点でこれまでとは対照的である。特に、白金製剤既治療の進行UC患者に対する二次治療の選択肢が限られていた状況において、アテゾリズマブは新たな治療パラダイムを提示した。また、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 で提唱されたRECIST v1.1に加え、iRECISTを導入することで、免疫療法特有の偽進行を考慮した評価が可能となり、従来の評価基準では見過ごされがちな治療効果を捕捉できた点も重要である。

残された課題と限界: PD-L1 IC発現およびTMBのいずれも完全な予測因子ではなく、IC0群や低TMBの患者でも奏効例が存在する。これは、さらなる追加バイオマーカーの必要性を示唆している。本研究は単群試験であるため、予後因子と治療効果予測因子を厳密に区別することが困難であるという限界がある。このため、無作為化比較試験 (例: NCT02302807) による検証が必要であった。実際、その後のIMvigor211試験(アテゾリズマブ対化学療法の第III相試験)では、全生存期間における有意差が示されず、当初の加速承認が見直されるという経緯があった。この経験は、単群第II相試験の生存データ解釈と加速承認の根拠としての妥当性について、重要な議論を提起した。Luminal cluster IIとbasalサブタイプ間での奏効差異は、TIGITなどの他の免疫チェックポイント経路の役割を示唆しており、今後の併用療法戦略研究の理論的根拠を提供するものである。

方法

本研究は、多施設共同、単群、非盲検の第II相試験 (IMvigor210、NCT02108652) として実施された。北米および欧州の70施設が参加した。対象患者は、18歳以上で、ECOG Performance Status (PS) が0または1、白金製剤を含む前治療後に病勢進行した局所進行性または転移性尿路上皮癌(膀胱、腎盂、尿管、尿道原発を含む)と診断された患者であった。合計310名の患者がコホート2に登録され、アテゾリズマブの投与を受けた。患者のベースライン特性は、年齢中央値66歳、男性78%、白人91%、膀胱原発74%、内臓転移78%(肝転移31%)、ECOG PS 1が62%、シスプラチン前治療歴73%であった (Table 1)。

治療は、アテゾリズマブ1200mgを3週間ごとに静脈内投与する固定用量で行われた。用量減量は許可されず、毒性による用量中断のみが許容された。RECIST v1.1 (Response Evaluation Criteria In Solid Tumors version 1.1) による病勢進行後も、偽進行 (pseudoprogression) の可能性を考慮し、特定の基準を満たす患者は治療継続が許可された。腫瘍評価は、治療開始後12ヶ月間は9週ごと、その後は12週ごとに独立評価機関 (IRF: Independent Review Facility) および治験担当医によって実施された。安全性評価は、NCI CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) version 4.0に基づいて行われた。

バイオマーカー解析として、PD-L1免疫細胞 (IC) 発現は、SP142アッセイ (Ventana) を用いた免疫組織化学 (IHC) 法により前向きに評価された。PD-L1 ICスコアは、腫瘍微小環境におけるPD-L1陽性免疫細胞の割合に基づいて、IC0 (<1%)、IC1 (≥1%かつ<5%)、IC2/3 (≥5%) に分類された。腫瘍変異量 (TMB) は、Foundation Medicine社の315遺伝子パネルを用いたターゲットゲノムシーケンシングにより推定された。TCGA分子サブタイプ分類は、TruSeq RNA Access RNA-seq (Illumina) を用いた遺伝子発現解析に基づいて行われた。遺伝子発現解析には、Ritchie et al. NucleicAcidsRes 2015 で報告されたlimmaパッケージが使用された。

主要評価項目は、IRF評価によるRECIST v1.1に基づくORRと、治験担当医評価による免疫修飾RECIST (iRECIST) に基づくORRの2つであった。これらのコプライマリーエンドポイントは、免疫療法における非典型的な奏効パターンをより適切に評価するために選択された。階層的検定手順を用いて、ORRが歴史的対照の10%と比較して有意に高いかどうかを評価した。副次評価項目には、OS、無増悪生存期間 (PFS)、奏効持続期間 (DOR)、および安全性が含まれた。中央追跡期間は11.7ヶ月 (95% CI 11.4-12.2) であった。統計解析はintention-to-treat (ITT) 集団に対して実施され、時間依存性イベントの解析にはカプラン・マイヤー法が用いられた。95% CIの算出にはBrookmeyer and Crowley法が適用された。