• 著者: Zhang Q, Luo J, Wu S, Si H, Gao C, Xu W, Abdullah SE, Higgs BW, Dennis PA, van der Heijden MS, Segal NH, Chaft JE, Hembrough T, Barrett JC, Hellmann MD
  • Corresponding author: Matthew D. Hellmann (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-08-19
  • Article種別: Original Article (Pan-cancer Translational Analysis)
  • PMID: 32816849

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (immune checkpoint blockade: ICB) は多くの固形腫瘍で生存改善を実現し、現在では肺癌・尿路上皮癌・MSI-H癌など多種類のがん標準治療を構成している (Reck et al. NEnglJMed 2016 KEYNOTE-024、Brahmer et al. NEnglJMed 2015 CheckMate-017、Le et al. NEnglJMed 2015 MMR-deficient solid tumors)。しかし長期利益を得る患者は少数 (例: 進行NSCLCで20-30%、固形腫瘍全体で10-20%) であり、ICB奏効を予測するバイオマーカーの開発が緊急課題である。PD-L1発現とTMB (tumor mutational burden) は実用化されている既存バイオマーカーだが、感度・特異度は不十分で組織サンプルが必要・空間的不均一性を反映しないという限界を持つ。

循環腫瘍DNA (circulating tumor DNA: ctDNA) は腫瘍細胞のapoptosis/necrosisにより血中に放出されるcell-free DNA断片で、Bettegowdaら (Sci Transl Med 2014) Bettegowda et al. SciTranslMed 2014 が多種固形腫瘍で系統的に検出可能であることを示し、Dawsonら (NEJM 2013) が転移性乳癌のモニタリングに有用と報告して以来、非侵襲的なリアルタイム腫瘍動態モニタリングツールとして急速に普及した。著者ら自身も先行研究でPD-L1阻害薬療法中の早期ctDNA低下が生存改善と関連することを報告したが、症例数が限定的 (~40例) で多腫瘍型での汎用性は未検証であった。これらの先行報告にもかかわらず、(1) 治療前ctDNA量がICB治療の「予後因子 (患者全体の状態を反映)」なのか「予測因子 (ICB奏効を予測)」なのかの厳密な区別、(2) 治療中ctDNA動態の予測能を大規模に検証した報告、(3) ctDNAと放射線学的奏効評価 (RECIST 1.1) を統合したframework提案、特に放射線学的SD (stable disease) 評価例から真の奏効者を早期識別する手法は不足しており、ICB治療のリアルタイムモニタリングを臨床応用する根拠が手薄であった。

目的

本研究は、(1) 治療前ctDNA変異アレル頻度 (variant allele frequency: VAF) がICB療法時の予後因子と予測因子のどちらに位置付けられるかを大規模パンがんコホートで検証すること、(2) 治療中ctDNA動態 (on-treatment VAFとdelta-VAF) がICB benefitの独立予測因子となるかを明らかにすること、(3) 治療前と治療中VAFを統合した「分子的奏効 (molecular response)」フレームワークを構築し、RECIST放射線学的奏効と同等の予測能を持つかを検証すること、(4) 特に初期放射線学的SDと評価された患者の中から、最終的にICB長期奏効者となる患者を早期識別できるかを評価すること、を目的とした。

結果

16腫瘍型における ctDNA 検出率と特性 (Fig 1A):3試験の治療前サンプル978例中814例 (83.2%) でctDNA変異が検出された。検出率は腫瘍種で大きく異なり、GBM 21.4% (最低、血液脳関門により ctDNA 放出が抑制)・卵巣癌 ~50%・MSI-H 79%・NSCLC 85%・urothelial cancer 90%・SCLC>95%・nasopharyngeal carcinoma >95% (最高) と分布した (Fig 1A)。Median pretreatment VAF 2.4% で15/16腫瘍型でmean VAF <10%、SCLC・HNSCC・nasopharyngealが高値であった。ctDNA検出率は腫瘍量 (target lesion長径合計) と正相関 (p<0.0001) し、ECOG PS不良 (p=0.0004)・肝転移ありで高値となった。PD-L1発現とctDNA検出率/VAFには相関なし (p>0.05)、すなわち腫瘍内炎症 (PD-L1反映) はctDNA量とは独立した次元の情報であることが示された。

治療前 VAF は予後因子だが予測因子ではない (Fig 1B-F):Study 1108 discovery cohort (n=790) で治療前mean VAFがmedian split 高値群がOS有意短縮、unadjusted HR 0.58 (95% CI 0.49-0.69)、p<0.0001 (Fig 1B、Kaplan-Meier曲線で低値群が明確に上位)。多変量調整後も同等の関連が保持 (adjusted HR 0.58 [95% CI 0.48-0.7]、p<0.0001、ECOG・肝転移・腫瘍量・PD-L1で調整)、すなわちVAFは既知prognostic factorの単純なsurrogateではなく独立した予後情報を持つことが示された。重要なのは治療前VAFがORRと有意な関連を示さなかった点 (Fig 1C、CR/PR vs SD/PD間でmean VAFに有意差なし)、つまり「治療前VAFはICB奏効可能性を予測する因子ではない」と結論付けられた。ATLANTIC (n=81、HR 0.58 [95% CI 0.3-1.16]、p=0.12) およびStudy 10 (n=107、HR 0.42 [95% CI 0.24-0.74]、p=0.0019) のvalidation cohort 2つでも同様のOS予後性が確認された (Fig 1D, 1E)。5つの主要腫瘍型 (NSCLC・UC・MSI-H・gastroesophageal・ovarian) に層別化したforest plot解析でもすべての腫瘍型で一貫した OS-VAF相関 (HR ~0.5-0.6) が示された (Fig 1F)。

治療中 ctDNA 動態は ICB benefit の独立予測因子 (Fig 2A-D):治療中ペアサンプル171例の解析で、低い on-treatment VAFは長いPFS・OSと関連 (Fig 2A、forest plot)。治療前VAFと対照的に、on-treatment VAFはORRと有意に関連 (p<0.0001、Fig 2B、CR/PR responder群で有意に低値)、かつ既知prognostic variableとは独立 (Supplementary Fig S4A-S4E、肝転移・PS・腫瘍量と相関しない)。delta-VAFと on-treatment VAFは独立した補完的情報をもたらし、患者を3群に層別化できた:(a) ctDNA 増加 (delta-VAF >0):最悪予後 (HR ~1.0)、(b) ctDNA 減少未消失 (delta-VAF <0 かつ on-treatment VAF >0):中間予後 (HR 0.41 [95% CI 0.25-0.68])、(c) ctDNA 完全消失 (on-treatment VAF = 0):最良予後 (HR 0.13 [95% CI 0.05-0.34]、p<0.0001、Fig 2C PFS・Fig 2D OS)。これは「治療中ctDNA動態がICB benefitを予測する独立因子」であることを定量的に示した。

「分子的奏効 (molecular response)」フレームワークの構築と RECIST との比較 (Fig 3A-C, Table 1):on-treatment VAF / pretreatment VAF比 (50% cutoff) で定義したratio-based molecular response metricは、on-treatment VAF単独より RECIST 奏効との関連が強力 (AUC 0.82 [95% CI 0.71-0.93] vs on-treatment VAF単独 AUC 0.73 [0.61-0.85]、Fig 3A、ROC曲線で明確な差)。3 cohortすべてで molecular responders率は RECIST-defined responder率と同程度 (Study 1108: molecular 41% vs RECIST 36%、ATLANTIC: 33% vs 24%、Study 10: 44% vs 44%、Fig 3B)。Molecular responseは PFS・OSの HR stratificationにおいてRECIST first-CT scan評価と同等または numerically more substantial であった (Fig 3C、Table 1)、すなわち RECIST より優れたstratificationを一部 cohortで達成した。

初期放射線学的 SD 例からの長期奏効者早期識別 (Supplementary Table S3):3 cohort の on-treatment ctDNA評価例171例中74例 (43%) が初回 CT (week 5-9) で放射線学的 SD と判定された。これらSD例のうち最終的に放射線学的奏効 (CR/PR) を達成した症例25例の 76% (19/25) が molecular responder であった (一方、最終的に進行する non-responder群では molecular responder率が有意に低い)。すなわち、「最初のCTでSDだが分子的にはresponder」というサブグループを早期に同定でき、これら患者は確かに ICB を継続する benefit を持つことが示された。これは臨床現場で「SDのままICB継続すべきか中止すべきか」の決断を早期にサポートする運用面で大きな価値を持つ。

考察/結論

本研究はICBにおける ctDNA バイオマーカーのpan-cancer解析として現時点で最大規模 (n=978治療前 + 171治療中) であり、(1) 治療前 VAF は予後因子であり予測因子ではないこと、(2) 治療中 VAF 動態は独立した予測因子であること、(3) 治療前+治療中統合の “molecular response” が RECIST 奏効と同等以上の長期予後予測能を持つこと、(4) 初期 SD 例から真の奏効者を早期に識別できること、の4点を明確に確立した。① 先行研究との違い:先行研究 (例えばBettegowdaら Bettegowda et al. SciTranslMed 2014 や Dawsonら NEJM 2013) はctDNAの検出可能性と乳癌等の単一腫瘍型でのモニタリング有用性を示したのに対し、本研究は16腫瘍型・3試験・978例という規模で「予後性 vs 予測性」を厳密に区別した点でこれまでの報告と異なる。これまでの ctDNA 研究は両者を混同し「治療前 ctDNA が低い患者は ICB がよく効く」と短絡的に解釈されがちであったが、本研究は治療前 VAF が ORR と相関しない (Fig 1C) という観察から、これは「全身腫瘍量・患者状態」を反映する単なる予後マーカーであることを示し対照的な解釈を確立した。著者ら自身の先行研究 (NSCLC/UC ~40例の小規模 ctDNA-ICB 研究) と比べても、検証 cohort 2つを含めた scale upと統合framework提案 (ratio-based molecular response) が新規である。

② 新規性:本研究で初めて、「分子的奏効 (molecular response)」という概念をratio-based metric (on-treatment VAF / pretreatment VAF) として定式化し、AUC 0.82でRECIST奏効と同等以上の長期予後予測能を達成した。これまで報告されていなかった、初期放射線学的SD例から76%の真の奏効者を分子的奏効で識別できるという観察は novel な臨床的価値を持つ。さらに、ICB benefit の予測において「治療前→予後・治療中→予測」という二分法を pan-cancer scale で確立した点も novel であり、PD-L1 や TMB といった既存バイオマーカーとは独立した次元の情報を提供する新規モダリティとして ctDNA を位置付けた。

③ 臨床応用:本研究の知見はICB治療現場における bench-to-bedside translational な臨床応用に直結する。第一に、SD例での早期意思決定支援:臨床現場で頻発する「初回CTでSDだがICBを継続すべきか」の判断において、6週時点のctDNA動態評価で76%の真の奏効者を識別できるため、SD-but-molecular-responder例はICB継続、SD-but-molecular-nonresponder例は早期治療変更を検討するという臨床応用的価値が極めて高い。第二に、ctDNA動態を ICB臨床試験の中間エンドポイントとして組み込むことで、より早期に benefit を読み取れる試験設計が可能になる。第三に、PD-L1陰性 (KEYNOTE-024 Reck et al. NEnglJMed 2016 対象外集団) や MSI-stable 集団など既存バイオマーカー陰性の患者でもctDNA動態で予後層別化が可能となり、臨床応用範囲を拡大する。DurvalumabのAntonia et al. NEnglJMed 2017 PACIFIC レジメン (stage III consolidation) でのctDNA活用も今後の応用領域である。

④ 残された課題:今後の検討すべきlimitationとして、(1) durvalumabおよびdurvalumab+tremelimumab併用試験のみのデータであり、pembrolizumab・nivolumab・atezolizumab等の他薬剤・他レジメンへの汎用性検証は今後の課題である。(2) ctDNA測定タイミングが week 6 単一時点であり、最適な測定タイミング (week 3 vs 6 vs 9) の最適化や複数時点測定の意義は未解明。(3) ctDNA assay の標準化 (本試験は AstraZeneca独自パネル、市販assay [Guardant・FoundationOne Liquid・Signatera] との互換性) は今後の研究課題。(4) ratio-based molecular response の最適 cutoff (本研究では50%採用) は腫瘍型・治療レジメン別に最適化の余地がある。(5) 前向き試験での “molecular response” を中間endpoint・治療継続判断指標として組み込む phase II/III 試験は今後必要であり、特にNSCLCにおける KEYNOTE-189型化療+ICB併用・Le et al. NEnglJMed 2015 のpan-cancer MMR-deficient ICB集団・Antonia et al. NEnglJMed 2017 PACIFIC consolidation 集団での前向き検証が future research directionとして重要。これらの limitation はあるものの、ctDNA動態を ICB benefit の汎用予測指標として確立した本研究の臨床的・科学的意義は大きい。

方法

患者集団とコホート:AstraZeneca開発のPD-L1阻害薬durvalumab (±抗CTLA-4抗体tremelimumab) 第I/II相試験3件 (Study 1108 [durvalumab単剤・多腫瘍型、n=790]、ATLANTIC [durvalumab単剤・既治療PD-L1+NSCLC、n=81]、Study 10 [durvalumab+tremelimumab、n=107]) に登録された16種類の進行固形腫瘍患者を対象とした。腫瘍種はNSCLC (n=333)・urothelial cancer (UC; n=226)・MSI-H solid tumor (n=58)・gastroesophageal cancer (n=48)・ovarian cancer (n=46)・head and neck squamous cell carcinoma (HNSCC)・GBM (glioblastoma multiforme)・SCLC (small cell lung cancer)・nasopharyngeal carcinoma・hepatocellular carcinoma・triple-negative breast cancer (TNBC)・cutaneous melanoma・cervical cancer・pancreatic cancer・renal cancer・sarcomaの16種を含む。各試験はNCT番号 (Study 1108: NCT01693562、ATLANTIC: NCT02087423、Study 10: NCT01975831) で登録され、各施設のIRB承認と書面同意を取得済み。

ctDNAアッセイ:治療前血漿サンプル978例 + 治療中ペアサンプル171例 (17.5%) でcell-free DNA抽出後、AstraZeneca開発のtargeted NGSパネル (50-100遺伝子・enhanced unique molecular identifier [UMI] error-correction) で配列決定。各腫瘍由来変異のVAFを定量し、mean VAFとmaximum VAFを算出。ctDNA変異検出は germline variant filteringとclonal hematopoiesis filteringを経て tumor-derived variantのみに限定。Day 1治療開始日と週6 (range 5-9) 治療中の2点で測定。

統計解析:Kaplan-Meier法でOS・PFSを推定、Cox proportional hazards regressionでHRと95% CIを算出。Discovery cohort (Study 1108) で仮説生成、ATLANTICとStudy 10をvalidation cohortとした。Mean VAFをmedian split で2群に分け生存解析、感度解析として1st/3rdクォータイル分割も実施。多変量調整因子はECOG performance status・baseline肝転移・baselineリンパ節転移・喫煙歴・腫瘍量 (target lesions長径合計)・腫瘍PD-L1スコア。分子的奏効はon-treatment VAF / pretreatment VAF比で定義し、50% cutoff (Bettegowdaら34に準拠) で molecular responder/nonresponderに分類。RECIST 1.1奏効評価とのROC AUC比較で予測能を評価。すべての解析はSAS 9.4およびR 3.6を用い、p<0.05を有意とした。