• 著者: Shashank J. Patel*, Neville E. Sanjana*, Rigel J. Kishton, Arash Eidizadeh, Suman K. Vodnala, Maggie Cam, Jared J. Gartner, Li Jia, Seth M. Steinberg, Tori N. Yamamoto, Anand S. Merchant, Gautam U. Mehta, Anna Chichura, Ophir Shalem, Eric Tran, Robert Eil, Madhusudhanan Sukumar, Eva Perez Guijarro, Chi-Ping Day, Paul Robbins, Steve Feldman, Glenn Merlino, Feng Zhang, Nicholas P. Restifo
  • Corresponding author: Nicholas P. Restifo (National Cancer Institute, NIH, Bethesda, MD, USA)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2017
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28783722

背景

がん細胞の体細胞遺伝子変異がT細胞ベース免疫療法への感受性を変化させることが示されており、B2MやJAK1/JAK2の機能喪失変異が免疫療法非応答患者で報告されていた。しかし、腫瘍細胞においてT細胞エフェクター機能 (EFT: effector function of T cells) を支持する遺伝子の網羅的目録は存在せず、免疫逃避を可能にする変異の全体像が未解明であった。CRISPR-Cas9スクリーニングは増殖・薬剤耐性・転移に関わる遺伝子の同定に応用されてきたが、T細胞-腫瘍細胞の複雑な相互作用を捉えるスクリーニング系 (2細胞型アッセイ) は開発されていなかった。特に、免疫療法に対する抵抗性メカニズムに関与する新規遺伝子の同定は、治療戦略の改善において重要な課題として残されている。これまでの研究では、腫瘍の細胞溶解活性と免疫関連遺伝子の発現との相関が示唆されていたが、機能的な遺伝子喪失がT細胞応答に与える影響をゲノムワイドに評価した研究は不足していた。例えば、Rooney et al. Cell 2015は腫瘍の細胞溶解活性と免疫関連遺伝子の関連を報告しているが、網羅的な機能的スクリーニングは実施されていなかった。また、Lawrence et al. Nature 2013はがんにおける変異の多様性について述べているが、免疫逃避に特化した必須遺伝子の同定には至っていなかった。

目的

本研究の目的は、ゲノムワイドCRISPR-Cas9スクリーニングを用いてT細胞によるがん細胞破壊に必須の腫瘍内遺伝子を網羅的に同定することである。さらに、同定された新規遺伝子 (特にAPLNR: apelin receptor) の免疫療法耐性における機能的役割をin vitroおよびin vivoで解明し、その分子メカニズムを明らかにすることを目指した。

結果

2CT-CRISPRスクリーニングによる抗原提示・IFNγシグナル関連遺伝子の同定: E:T比0.5の条件 (約90%の腫瘍溶解) で、sgRNAの分布に有意な変化が認められた (コルモゴロフ-スミルノフ検定 P = 7.5×10⁻⁵)。上位ヒット遺伝子 (3手法全てで一致) には、既知の抗原提示関連遺伝子 (HLA-A、B2M、TAP1、TAP2、TAPBP) およびIFNγシグナル関連遺伝子 (JAK2、STAT1) が含まれた (Fig. 2b-e)。さらに、SOX10、CD58、APLNR、PSMB5、RPL23、BBS1といった新規遺伝子も上位にランクインした。554遺伝子 (FDR < 0.1%) のうち13個がIFNγ誘導遺伝子と、3個がTNFα (tumor necrosis factor-alpha) 誘導遺伝子と重複していた (Extended Data Fig. 5a)。TCGAの36がん種データを用いた解析では、554遺伝子のうち19遺伝子が大多数のがん種で細胞溶解活性 (CYT) と正の相関を示した (Fig. 3d)。これらの遺伝子は、抗原提示 (HLA-A、HLA-F、B2M、TAP1、TAP2)、T細胞共刺激 (ICAM1)、サイトカインシグナル伝達 (JAK2、STAT1) に関連するものであった。

上位9遺伝子の複数細胞株・抗原での独立検証: 個別sgRNAを用いた検証 (Mel624およびA375の2細胞株) では、SOX10、CD58、APLNR、BBS1、COL17A1、TWF1、hsa-mir-101-2、RPL23、TAP2の9遺伝子が、少なくとも2本のsgRNAでT細胞耐性表現型を示した (P < 0.05)。NY-ESO-1 TCRおよびMART-1 TCRのいずれの系でも、これら9遺伝子全てで耐性が確認された (MART-1 T細胞、P < 0.05) (Fig. 4b, Extended Data Fig. 6a, b)。APLNR、BBS1、CD58は、NY-ESO-1を発現させた腎細胞がん細胞株 (2245R) でも検証され、各遺伝子につき少なくとも2本のsgRNAで50%以上の耐性を示した (P < 0.05) (Fig. 4d)。これらの結果は、同定された遺伝子が複数の細胞株や抗原、腫瘍タイプにわたってT細胞エフェクター機能に必須であることを示唆する。この検証には、Mel624細胞で約1.8-fold高い発現を示すSOX10も含まれた。

APLNRの新規機能:JAK1との相互作用によるIFNγシグナル調節と免疫療法耐性への関与: 免疫療法非応答患者の腫瘍exome解析により、APLNRに7件の非同義変異が同定された。そのうち1件はナンセンス変異 (W261X) であり、患者SB-4044からはT44SとC181Sの2つの非同義変異が検出された (Fig. 5a, Extended Data Fig. 8a)。APLNRノックアウトA375細胞に患者由来の変異型APLNRを再導入した実験では、T44SおよびG349E変異がT細胞媒介性細胞溶解に対する感受性の部分的な回復しか示さず、APLNRの機能喪失がEFTを低下させることを示唆した (Fig. 5b)。免疫沈降実験により、APLNRがJAK1と物理的に結合することが確認された (Fig. 5d, Extended Data Fig. 9a)。この相互作用は、A375細胞およびHEK293T細胞の抽出物で確認された。APLNRの過剰発現はJAK1タンパク質レベルの増加と相関し (Extended Data Fig. 9b)、腫瘍細胞のEFTに対する感受性を71.7 ± 1%から81.1 ± 0.9%に有意に増加させた (Extended Data Fig. 9c)。APLNRノックアウト細胞では、IFNγ刺激後のJAK1/STAT1リン酸化が低下し、IFNγ応答遺伝子の誘導も減少した (Fig. 5e, Extended Data Fig. 9d, e)。さらに、ESO T細胞との共培養時におけるβ2Mの細胞表面発現低下およびESO T細胞によるIFNγ分泌低下も観察された (Fig. 5f, g)。in vivoマウスモデルでは、B16-Aplnrノックアウト腫瘍に対するPmel-1 ACTにおいて、腫瘍制御が有意に低下し (P = 0.0042)、生存期間延長効果も減弱した (P = 0.019) (Fig. 5i, j)。この実験では、コントロール群 (n=9 mice) とAplnr-sg群 (n=10 mice) が比較された。B2905-Aplnrノックアウト腫瘍に対する抗CTLA4抗体療法では、対照群の5/10例が完全退縮したのに対し、Aplnrノックアウト群では0/10例しか完全退縮しなかった (P < 0.05相当)。shRNA (short hairpin RNA) を用いたAplnrノックダウンでもACT効果の低下が確認された (Extended Data Fig. 10)。これらの結果は、APLNRの機能喪失がJAK1との相互作用を介してIFNγシグナルを調節し、in vivoでの免疫療法の効果を低下させることを強く示唆する。

考察/結論

本論文は、T細胞-がん細胞の複合相互作用を再現する2CT-CRISPRアッセイ系を独自に開発し、T細胞エフェクター機能を支持する必須腫瘍遺伝子の初のゲノムワイド目録を作成した画期的な研究である。

先行研究との違い: これまでの研究では、B2MやJAK1/JAK2の機能喪失変異が免疫療法抵抗性に関与することが報告されていたが、本研究は、ゲノムワイドなスクリーニングにより、これらの既知の遺伝子に加え、APLNRなどの新規遺伝子がT細胞エフェクター機能に必須であることを初めて網羅的に同定した点で、これまでの研究と対照的である。特に、Zaretsky et al. NEnglJMed 2016Rizvi et al. Science 2015は特定の変異の関連を報告しているが、本研究のように機能的スクリーニングを通じて多数の必須遺伝子を特定した例はこれまでなかった。

新規性: 本研究で初めて、APLNRが非小細胞型受容体としてJAK1と物理的に相互作用し、IFNγ応答を調節することで免疫療法耐性に関与するという新規の分子機序を実証した。この発見は、これまで報告されていないAPLNRの免疫調節機能を示しており、免疫逃避メカニズムの理解に大きく貢献する。

臨床応用: 本研究で同定された遺伝子群、特にAPLNRの機能喪失変異は、免疫療法抵抗性患者の腫瘍にも認められており、これらの遺伝子が免疫療法効果予測のバイオマーカーとなる可能性や、新たな治療標的となる臨床的意義を持つ。同定された遺伝子の機能喪失を薬剤 (例えばエピジェネティック修飾薬) で回復させる戦略は、免疫療法の臨床応用における併用療法開発に繋がる可能性がある。TCGAの11,409腫瘍での相関検証という網羅的なin silico検証により、スクリーニングヒットの臨床的関連性が補強された。

残された課題: 今後の検討課題として、APLNR変異の腫瘍種横断的な頻度評価、エピジェネティック修飾薬による同定遺伝子の回復戦略、他の新規ヒット遺伝子 (BBS1、COL17A1等) の機能解明、およびmicroRNA (hsa-mir-101-2等) の免疫逃避における役割の解明が残されている。また、APLNRが腫瘍細胞だけでなく、腫瘍血管や間質細胞に発現している可能性も示唆されており、in vivoにおけるAPLNRの役割をさらに詳細に解明することが今後の研究の方向性となる。

方法

本研究では、T細胞エフェクター機能 (EFT) に必須な腫瘍内遺伝子を同定するため、2CT (two cell type) -CRISPRアッセイ系を開発した。このアッセイ系では、NY-ESO-1:157-165ペプチドに特異的なESO TCR (T cell receptor) 導入ヒト初代CD8+T細胞 (エフェクター細胞) と、NY-ESO-1+ HLA-A*02+ Mel624メラノーマ細胞 (ターゲット細胞) の共培養系を確立した。ターゲット細胞にはGeCKOv.2ライブラリー (123,411 sgRNA: single-guide RNA、19,050タンパク質コード遺伝子および1,864 microRNAを標的) を導入し、E:T比0.3と0.5でスクリーニングを実施した。スクリーニングで得られた上位ヒット遺伝子は、second-most-enriched sgRNAランク、RIGER (RNAi Gene Enrichment Ranking) スコア、およびtop 5% sgRNA数の3手法を用いて評価した。

スクリーニングで同定された554遺伝子 (FDR < 0.1%) の臨床的関連性を評価するため、TCGA (The Cancer Genome Atlas) の36がん種 (11,409腫瘍) のデータを用いて、これらの遺伝子発現と細胞溶解活性 (CYT = perforin × granzyme) との相関を検証した。上位17遺伝子については、Mel624およびA375メラノーマ細胞株 (各遺伝子につき個別sgRNA 4本) と、NY-ESO-1を発現させた腎細胞がん細胞株 (2245R) を用いて独立した機能検証を行った。

特に、新規免疫逃避遺伝子として同定されたAPLNRについては、免疫療法非応答患者腫瘍のexome解析 (Van Allen et al.コホート、患者SB-4044を含む) を行い、APLNRの機能喪失変異の有無を調査した。APLNRの機能的役割をin vitroで評価するため、APLNRノックアウト細胞におけるIFNγ (interferon-gamma) シグナル伝達経路 (JAK1/STAT1リン酸化、IFNγ応答遺伝子誘導、β2M細胞表面発現) の変化を解析した。また、免疫沈降法によりAPLNRとJAK1の物理的相互作用を検証した。

in vivoでの機能評価は、マウスB16メラノーマモデルとPmel-1 TCR導入T細胞を用いた養子細胞移入療法 (ACT: adoptive cell transfer) モデル、およびB2905マウスメラノーマモデルと抗CTLA4抗体を用いたチェックポイント阻害療法モデルで実施した。Aplnrノックアウト腫瘍細胞を移植したマウスにおいて、腫瘍増殖と生存期間への影響を評価した。統計解析にはStudent’s t-test、Wilcoxon rank-sum test、log-rank Mantel-Cox test、Fisher’s exact testを用いた。