• 著者: Takeshi Tanoue*, Satoru Morita*, Damian R. Plichta, Ashwin N. Skelly, Wataru Suda, Yuki Sugiura, Seiko Narushima, Hera Vlamakis, Iori Motoo, Kayoko Sugita, Atsushi Shiota, Kozue Takeshita, Keiko Yasuma-Mitobe, Dieter Riethmacher, Tsuneyasu Kaisho, Jason M. Norman, Daniel Mucida, Makoto Suematsu, Tomonori Yaguchi, Vanni Bucci, Takashi Inoue, Yutaka Kawakami, Bernat Olle, Bruce Roberts, Masahira Hattori, Ramnik J. Xavier, Koji Atarashi, Kenya Honda
  • Corresponding author: Kenya Honda (kenya@keio.jp) (Department of Microbiology and Immunology, Keio University School of Medicine, Tokyo, Japan)
  • 雑誌: Nature
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30675064

背景

腸内細菌叢が免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) 療法の奏効に影響を及ぼすことが、複数の観察研究により報告されてきた。しかし、どの特定の細菌種が機能的に重要であるか、またその作用機序は未解明な点が多かった。特に、再現性のある特定の菌株の同定には至っておらず、治療応用可能な定義された細菌コンソーシウムの確立が不足していた。腸管におけるIFN-γ産生CD8 T細胞は、がん免疫および感染防御において重要な役割を果たすことが知られているが、これを特異的に誘導する腸内細菌の存在は不明であった。これまでの研究では、腸内細菌が主にCD4 T細胞(Th17細胞や制御性T細胞 (Treg))に与える影響が詳細に解析されてきた一方で、CD8 T細胞を選択的に誘導する菌株はほとんど同定されていなかった。

先行研究では、腸内細菌叢の組成がICIの有効性に影響を与えることが示されており、例えば、Zitvogel et al. Science 2018は、がん免疫におけるマイクロバイオームの診断的ツールと治療戦略の可能性を概説している。また、Gao et al. Cell 2016は、腫瘍細胞におけるIFN-γ経路遺伝子の喪失が抗CTLA-4療法への抵抗性メカニズムとなることを報告しており、IFN-γの重要性を示唆している。しかし、これらの知見は特定の細菌株によるCD8 T細胞誘導メカニズムや、その抗腫瘍効果への直接的な寄与を明確にするには至っていなかった。

さらに、腸内細菌の操作によってICI治療効果を増強する試みにおいて、ICIの主要な有害事象である大腸炎を悪化させないかどうかが重要な課題として残されていた。既存の腸内細菌研究は、Treg誘導による炎症抑制やTh17誘導による炎症促進など、主にCD4 T細胞を介した免疫応答に焦点を当てており、CD8 T細胞を介した抗腫瘍免疫の増強とICI関連大腸炎の抑制を両立させるようなアプローチは未開拓であった。本研究は、これらのギャップを埋めることを目指したものである。

目的

本研究の目的は、健常人腸内細菌叢から腸管IFN-γ産生CD8 T細胞を特異的に誘導する細菌株を単離・同定し、その作用機序を分子レベルで解明することである。さらに、同定した細菌コンソーシウムが、マウスモデルにおいて抗がん免疫およびICIの治療有効性を増強できるか、またその際にICI関連大腸炎の副作用を抑制できるかを検証することを目指した。最終的には、臨床応用可能な新規バイオセラピューティクスとしての可能性を評価する。

結果

健常人糞便から11菌株コンソーシウムを単離し腸管IFN-γ産生CD8 T細胞誘導を同定: 健常人6名の糞便をGFマウスに投与した結果、腸管IFN-γ産生CD8 T細胞の誘導能はドナー間で大きく異なり、ドナーBの糞便が最も強力な誘導を示した (Fig. 1c)。この誘導はSPFマウスと同等レベルであった (Fig. 1b)。抗生物質感受性試験により、アンピシリン処置で誘導が増強され、メトロニダゾール、ストレプトマイシン、チロシン処置で著減、クロロホルム処置で誘導が消失することが確認された (Fig. 1d)。ドナーB由来マウスの盲腸内容物から26菌株を単離し、Spearman相関解析により、IFN-γ産生CD8 T細胞頻度と正相関する11菌株(11-mix)を同定した (Fig. 1e, f)。この11-mixをGFマウスに投与すると、SPFマウスと同等のIFN-γ産生CD8 T細胞誘導が認められ、この効果は複数の遺伝的背景のC57BL/6マウスで再現された (Extended Data Fig. 3a)。11菌株は7種のBacteroidalesと4種の非Bacteroidalesから構成され、コンソーシウムとして機能することが示された(7-mix単独では誘導不全、4-mix単独では部分的誘導、11-mixで完全誘導)(Fig. 1j)。GF+11-mixマウス (n=5 mice) では大腸炎や炎症の組織学的証拠は認められなかった (Extended Data Fig. 3d-h)。誘導されたIFN-γ産生CD8 T細胞はPD-1中程度、CD44+、T-bet+、Ki67+(増殖中)であり、一部はGrB+およびCD103+であった (Extended Data Fig. 3b, c)。

作用機序:CD103+樹状細胞・MHC class Ia依存的で自然免疫経路非依存的: 11-mixによるIFN-γ産生CD8 T細胞の誘導は、熱処理した11-mixでは観察されず、生菌による活性的な定着が必要であることが示された (Fig. 2a)。蛍光in situハイブリダイゼーションにより、11菌株が大腸粘液層に侵入するが、上皮細胞への侵入は認められないことが確認された (Fig. 2b)。Batf3-/-マウスおよびXcr1-Cre×ROSA-DTA (CD11b-CD103+樹状細胞欠損) マウス (n=5 mice) では、IFN-γ産生CD8 T細胞の誘導が消失した (Fig. 2g)。同様に、Irf4ΔDCマウスおよびNotch2ΔDCマウス(CD11b+CD103+樹状細胞欠損)でも誘導が消失した (Fig. 2g)。これらの結果は、CD103+樹状細胞が11-mixによるCD8 T細胞誘導に必須であることを示唆する。11-mix投与により、CD11b-CD103+およびCD11b+CD103+の両DCサブセットでMHCクラスI (H2-Kb) の発現が約2.5倍増強された (Fig. 2h)。MHCクラスIa欠損 (KbDb-/-) マウスではIFN-γ産生CD8 T細胞誘導が著明に抑制されたが (p<0.001)、MHCクラスIb欠損 (H2-M3-/-) マウスでは影響がなかったことから、MHCクラスIa依存的な抗原提示が関与することが示された (Fig. 2i)。一方、Irf9-/-, Myd88-/-Trif-/-, Il1r1-/-, Il18-/-マウスでは誘導能に変化がなく、主要な自然免疫経路(TLR、IL-1R、IL-18R)には依存しないことが示された (Fig. 2f)。腸管IFN-γ産生CD8 T細胞の一部は、11菌株由来の抗原を認識することが確認された (Fig. 2e)。代謝産物分析では、GF+11-mixマウスの盲腸内容物および血清中でメバロン酸やジメチルグリシンなどの分子が増加しており、全身性効果の代謝メディエーター候補として同定された (Extended Data Fig. 5d-f)。

11菌株がListeria感染に対する防御免疫とICIのがん免疫有効性を増強: Listeria monocytogenes感染モデルにおいて、GF+11-mixマウス (n=5 mice) はGFおよびGF+10-mixマウスと比較して、大腸組織スコアの改善、体重減少の軽減、大腸組織中のListeria菌量 (CFU) の有意な低下を示し (p < 0.05〜0.001)、Listeriaに対する宿主抵抗性が向上した (Fig. 3a, b, c)。CD8 T細胞の枯渇により、この防御効果は著減した (Fig. 3c, d; p < 0.05)。SPF環境下でも同様の結果が確認された (Fig. 3e-g)。Lm-OVA感染モデルでは、SPF+11-mixマウスでOVA特異的IFN-γ産生CD8 T細胞が約3.5倍増加した (Extended Data Fig. 6k)。MC38結腸腺がんモデルにおいて、GF+11-mixマウスに抗PD-1抗体を投与すると、GF+10-mix+抗PD-1群やGF+抗PD-1群と比較して、腫瘍増殖が著明に抑制された (Fig. 4a; p < 0.001)。この効果は、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) 中のIFN-γ産生CD8 T細胞の頻度増加と相関し (Fig. 4b)、CD8 T細胞の枯渇により保護効果が消失した (Fig. 4c)。注目すべきは、11-mix単独でも(抗PD-1なしで)腫瘍増殖を有意に抑制したことである (Fig. 4a)。SPFマウス(複雑な腸内細菌叢を持つ)においても、11-mixの補充はMC38腫瘍の抑制効果を増強し、抗PD-1との組み合わせでさらに効果が高まった (Fig. 4d, e)。TILのうち、MC38腫瘍抗原p15E特異的T細胞が増加したが、11菌株特異的TILは増加しなかったことから、新規の腫瘍特異的免疫が誘導された可能性が示唆された (Fig. 4f)。GrB+IFN-γ産生CD8+TILの増加およびMHCクラスI高発現樹状細胞の腫瘍浸潤増加も観察された (Fig. 4g, h, i)。抗CTLA-4抗体との組み合わせでもMC38モデルで有効性が確認され (Fig. 4j)、低免疫原性のBrafV600E Pten-/-メラノーマモデルでも抗PD-1+11-mixが有効であった (Fig. 4k; p < 0.05)。重要な点として、11-mix投与群ではICIの主要な有害事象である大腸炎の組織学的増悪は認められなかった (Extended Data Fig. 8c)。ヒト腸内メタゲノム解析の結果、11菌株はICI奏効者・非奏効者ともに通常は低存在量であることが示され、希少種として新たな治療的意義を持つ可能性が示唆された (Extended Data Fig. 9)。

考察/結論

新規性: 本研究は、健常人腸内から11菌株の細菌コンソーシウムを同定し、腸管IFN-γ産生CD8 T細胞誘導と抗腫瘍免疫増強という具体的な機能的定義をもった初の腸内細菌ミックスを確立した画期的な研究である。これまで、腸内細菌がCD4 T細胞に与える影響は広く研究されてきたが、CD8 T細胞を特異的に誘導し、かつ抗腫瘍免疫を増強する定義された細菌コンソーシウムは本研究で初めて同定された。特に、11菌株が単独ではなくコンソーシウムとして機能すること、およびその誘導がCD103+樹状細胞とMHCクラスIa分子に依存的であり、主要な自然免疫経路には非依存的であるという機序の解明は新規の知見である。また、これらの菌株がヒト腸内細菌叢において通常は低存在量であるという発見は、既存のメタゲノム解析(主に優勢種に焦点)では見過ごされてきた希少種に治療的潜在性があることを示した点で新規性が高い。

先行研究との違い: 多くの先行研究が腸内細菌叢とICI効果の関連性を示唆してきたが、特定の菌株レベルで機能的に定義されたコンソーシウムを同定し、その作用機序を詳細に解明した点で、これまでの研究とは一線を画す。例えば、Zitvogel et al. Science 2018はマイクロバイオームの治療戦略の可能性を論じているが、本研究は具体的な菌株コンソーシウムとそのメカニズムを提示している点で対照的である。さらに、ICI治療効果の増強と同時に、ICIの主要な有害事象である大腸炎を悪化させないという特性は、既存の多くの免疫調節アプローチと異なり、臨床応用上の大きな利点となる。

臨床応用: 本知見は、がん免疫療法における新規バイオセラピューティクス開発に直結する。定義された菌株コンソーシウムでICI有効性を増強できるという概念は、Vedanta Biosciences(共著者が創業)によりVE800として臨床開発に進み、がん患者への生菌製剤投与によるICI増強を目指した初の試みの一つとなった。Listeria感染に対する防御免疫の増強も示されており、感染症治療への臨床応用も期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、ヒトでのICI奏効への効果の検証が最重要である。また、11菌株が産生する具体的な抗原分子の同定、全身的免疫活性化を媒介する代謝メディエーターの特定、NK細胞やγδT細胞など他の免疫細胞への影響、および他のがん種での有効性評価が残されている。さらに、11菌株間の相互作用メカニズムのさらなる詳細な解析も必要である。Limitationとして、本研究は主にマウスモデルでの検証であり、ヒトにおける効果の直接的な証明には至っていない点が挙げられる。

方法

健常人6名のドナーから糞便を採取し、無菌 (germ-free, GF) マウスに経口投与して腸管IFN-γ産生CD8 T細胞の誘導能を比較した。最も強力な誘導を示したドナーB由来のマウスB5の盲腸内容物から206コロニーを単離し、16S rRNA遺伝子解析により26菌株を同定した。これらの菌株とIFN-γ産生CD8 T細胞頻度とのSpearman相関解析を行い、正の相関を示す11菌株(11-mix)を同定した。

作用機序の解析には、Batf3-/-マウスおよびXcr1-Cre×ROSA-DTA (CD11b-CD103+樹状細胞欠損) マウスなどの各種遺伝子改変マウスを用いた。これにより、CD103+樹状細胞の役割を検証した。また、KbDb-/- (MHC class Ia欠損) およびH2-M3-/- (MHC class Ib欠損) マウスを用いて、抗原提示依存性を確認した。さらに、Irf9-/-, Myd88-/-Trif-/-, Il1r1-/-, Il18-/-マウスを用いて、主要な自然免疫経路の関与を評価した。

抗菌免疫の評価には、Listeria monocytogenes (Lm-WT、Lm-InlA m、Lm-OVA) 感染モデルを用いた。GFマウスおよびSPF C57BL/6マウスに11-mixを定着させ、Listeria感染後の大腸組織スコア、体重変化、臓器内菌量を測定した。CD8 T細胞枯渇実験も実施し、防御効果におけるCD8 T細胞の役割を検証した。

抗がん免疫の評価には、MC38結腸腺がんモデルおよびBrafV600E Pten-/-メラノーマモデルを用いた。GFマウスおよびSPF C57BL/6マウスに11-mixを定着させ、抗PD-1抗体および抗CTLA-4抗体との併用効果を評価した。腫瘍増殖抑制効果、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の頻度と表現型、MHCクラスI発現樹状細胞の腫瘍浸潤などをフローサイトメトリーおよび組織学的解析で評価した。ICI治療による大腸炎の副作用については、大腸の組織学的評価を行った。

ヒト腸内メタゲノムデータセット(ICI奏効者・非奏効者を含む)を用いて、11菌株の存在量を解析し、臨床的意義を検討した。統計解析にはGraphPad Prismソフトウェアを使用し、2群間比較にはStudentのt検定またはMann-Whitney検定、3群以上比較には一元配置分散分析 (ANOVA) またはKruskal-Wallis検定を用いた。時系列データには二元配置分散分析 (ANOVA) を適用した。