- 著者: Laurence Zitvogel, Yuting Ma, Didier Raoult, Guido Kroemer, Thomas F. Gajewski
- Corresponding author: Laurence Zitvogel (Gustave Roussy Cancer Campus, Villejuif, France); Thomas F. Gajewski (University of Chicago, Chicago, IL, USA)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-03-23
- Article種別: Review
- PMID: 29567708
背景
がん免疫療法は大きな転換をもたらし、抑制受容体 PD-1 とそのリガンド PD-L1 の結合を遮断するモノクローナル抗体 (monoclonal antibody) は 10 以上の腫瘍種で米 FDA 承認を得た。しかし多くの腫瘍は T 細胞浸潤と活性化免疫応答遺伝子発現を欠き一次抵抗性を示すことが、抵抗機構の体系化 (Sharma et al. Cell 2017) と cancer-immune set point の概念 (Chen et al. Nature 2017) で論じられてきた。腫瘍細胞内在性の oncogenic 経路に加え、宿主・環境因子が内因性免疫応答の程度を大きく左右する。
ヒト腸管には約 3×10^13 個の細菌が常在し、その総数はヒト体細胞数のおよそ1.3-fold に達すると再推定されており (Sender et al. 2016)、出生後の垂直伝播と生涯の環境暴露により形成され、自然・獲得免疫応答を生涯プログラミングして炎症・感染・食物/共生抗原への寛容のバランスを調整する (de Vos 2012)。腸内細菌叢 (gut microbiome) はメタオーガニズム全体に全身的影響を及ぼし、その撹乱である「intestinal dysbiosis」は慢性炎症性疾患と疫学的・因果的に関連する。一方で、抗 PD-1/PD-L1 開始前後の抗菌薬使用が効果を減弱させ特定細菌の存在が効果を増強するという臨床・前臨床知見が相次いだものの、(1) どの細菌種が因果的に有益か、(2) 作用機序、(3) 臨床応用可能な診断・治療ツールの体系は依然として大きく不足しており、断片的な報告を統合する gap in knowledge が顕著であった。本レビューはこの手薄な領域を統合し、マイクロバイオームを診断・治療標的とする精密医療への道筋を提示する。
目的
腸内細菌叢とがん免疫療法 (抗 CTLA-4、抗 PD-1/PD-L1) の相互作用を包括的にレビューし、(1) 前臨床モデルが示す因果的エビデンス、(2) ヒトコホートが同定した応答関連細菌、(3) FMT (fecal microbial transplantation) による responder 表現型移行、(4) 免疫刺激の分子機構 (T 細胞交差反応・パターン認識受容体・代謝産物)、(5) FMT・プロバイオティクス・プレバイオティクス・バクテリオファージ・culturomics 等の診断/治療介入、(6) 規制上の課題を体系的に論じ、マイクロバイオームを「druggable」標的とする precision medicine の展望とロードマップを提示することを目的とする。
結果
前臨床モデルが確立した因果関係:GF マウスおよび広域抗菌薬投与マウスでは、metronomic cyclophosphamide、白金製剤化学療法、TLR9 アゴニスト + 抗 IL-10R (interleukin-10 receptor)、抗 CTLA-4、抗 PD-1/PD-L1 の治療効果がいずれも減弱した (Fig 1)。各治療効果は特定細菌種に依存し、cyclophosphamide では小腸由来 Enterococcus hirae の脾臓転座と結腸での Barnesiella intestinihominis 蓄積が協調的免疫刺激を担い、抗 CTLA-4 では回腸上皮損傷に伴う Bacteroides fragilis と Burkholderiales 蓄積が IL-12 産生樹状細胞 (dendritic cell; DC) と T helper 1 (TH1) 応答を活性化、抗 PD-1/PD-L1 では Bifidobacterium 属が抗原提示細胞を活性化した。因果関係は cohousing (同居) と定義種 gavage で証明された (Table 1)。GF マウスに同定細菌を単独定着させる gnotobiotic (無菌-定義菌叢) 実験は、各菌種が独立して治療応答を回復させる十分条件であることを裏付け、相関ではなく因果としての関与を確立した。
臨床コホートが同定した応答関連細菌:転移性肺・腎・膀胱がんの複数の独立した後方視的解析で、抗 PD-1/PD-L1 開始前後の各種抗菌薬使用が OS 悪化と一貫して関連した。ベースライン便の 16S rRNA・shotgun シーケンスでは、responder で Clostridiales・Ruminococcaceae・Faecalibacterium・Akkermansia muciniphila・B. fragilis・Bifidobacteria 等の「健康関連」細菌、または Enterococci・Collinsella・Alistipes 等の「免疫原性」細菌が豊富であった。糞便細菌の α 多様性・richness 低下は生存不良と相関した。造血器腫瘍 (n=541) の同種造血幹細胞移植 (allogeneic stem cell transplantation; ASCT) 後コホートでは、Eubacterium limosum 優位のマイクロバイオームが移植後 2 年の再発を抑制するポジティブな予後因子であった。抗菌薬曝露の時間窓も決定的で、免疫療法開始の直前あるいは直後 30 日以内の広域抗菌薬投与が最も強く OS 短縮と関連し、複数施設の独立後方視的コホートで再現された (Fig 1)。腎細胞がん・尿路上皮がんでも同方向の抗菌薬-予後相関が確認され、効果減弱は単一腫瘍種に限らない一般性を持つことが示された。さらに responder では糞便メタゲノムの遺伝子リッチネスと α 多様性が non-responder を上回り、これらが奏効と独立して相関する定量的バイオマーカー候補として浮上した。
FMT による responder 表現型の移行:患者便を GF または抗菌薬前処置 SPF マウスへ移植し同種腫瘍を接種、抗 CTLA-4 および/または抗 PD-1/PD-L1 で処置すると、responder 患者便は responder 表現型を、non-responder 便は non-responder 表現型をレシピエントに伝達した (Table 1)。すなわちレシピエントの応答性はドナー microbiome 組成に由来する。移植の効果量はドナー microbiome 組成への依存性が高く、同一ドナー便でもレシピエントの前処置 (抗菌薬前投与 vs germ-free) によって生着効率と表現型移行の度合いが変動した。免疫制御を担う定義種として、メラノーマ ipilimumab 応答は Bacteroides spp. に、PD-1 阻害 (pembrolizumab/nivolumab) 応答は肺がんで A. muciniphila (Verrucomicrobiacae)、メラノーマで Faecalibacterium に少なくとも部分的に依存した。これは患者腸内 microbiome が免疫療法効果の能動的決定因子であることを示す決定的証拠である。
毒性と有効性の解離:抗菌薬による嫌気性菌の枯渇を避けた結果として Blautia と E. limosum に富む microbiome は、ASCT 後に graft-versus-host disease (GVHD) を軽減しつつ graft-versus-leukemia 効果を高め、生存延長と両立した。メラノーマ ipilimumab 投与例では Bacteroidetes の存在量が大腸炎重症度と逆相関し、B. fragilis と Burkholderia cepacia の経口 gavage がマウスで抗 CTLA-4 誘発大腸炎を軽減した。ポリアミン産生能を持つ microbiome は抗 CTLA-4 の毒性低減とも関連した。臨床腫瘍学の holy grail である「効果と毒性の uncoupling」に microbiome 操作が寄与しうることを示す。
免疫刺激の分子機構:理論的に 3 経路が想定される (Fig 2)。(i) 細菌抗原特異的 T 細胞が腫瘍特異抗原への分子擬態 (molecular mimicry) で交差反応するか help を提供し、CCR9 (C-C chemokine receptor type 9) 陽性 gut-homing T 細胞が腫瘍微小環境に動員される。前臨床では Enterococcus hirae や Bifidobacterium 由来抗原に対する記憶 T 細胞が腫瘍関連抗原と交差反応し、その養子移入で抗腫瘍効果を部分的に再構成できることが示され、commensal 抗原が腫瘍免疫の能動的な help 源となりうることを支持した。(ii) パターン認識受容体 (TLR2/TLR4/TLR9/NLR) を介し DC の IL-12 依存 TH1/Tc1 を活性化 (B. fragilis・A. muciniphila・E. hirae・Alistipes shahii) し、Bifidobacterium 存在下では type I interferon (IFN) 関連遺伝子が上方制御される。(iii) 代謝産物による全身性調節 — 短鎖脂肪酸 (short-chain fatty acid) はGタンパク質共役受容体を介して DC・Treg を制御し、ポリアミン (spermidine・ビタミン B6) は遠隔部位のオートファジーを誘導、DAT (desaminotyrosine; type I IFN シグナルの増強)、細菌由来 dipeptide aldehyde は cathepsin L を阻害する。これらは腸管局所にとどまらず遠隔の腫瘍微小環境まで波及する全身性メディエーターとして作用する。
診断・治療ツールの展開:メタゲノミクスは便細菌の約 15% しか検出できず、大半が defecation 時に非生存で上部消化管細菌の検出も困難という限界を持つ。これを補う culturomics は嫌気性菌等の網羅培養により 400 を超える新種記載を可能にした (Box 1)。治療戦略として、(1) FMT は難治性 Clostridium difficile 下痢に奏効率 81% の実績を持ち PD-1 応答患者便の活用が有望だが肥満・発癌・病原体伝播のリスクで慎重評価を要する、(2) 単一/複数の定義細菌株 (live biotherapeutics、株レベル特異性が重要)、(3) バクテリオファージによる不利な細菌の選択的排除、(4) プレバイオティクス + プロバイオティクス (synbiotics、ClinicalTrials.gov NCT02763033 で食事介入評価中)、(5) vancomycin 耐性 Enterococci 防御で同定された 5 菌種コンソーシアム型の community 設計が挙げられる。NSCLC 患者でも腸内多様性が抗 PD-1 奏効と関連することが後続研究で支持された (Hakozaki et al. CancerImmunolRes 2020; Jin et al. JThoracOncol 2019)。
考察/結論
腸内細菌叢はがん免疫療法効果の重要決定因子として確立されつつあり、「マイクロバイオーム精密医療」という新パラダイムが展望される。PD-1 阻害免疫療法の応答/非応答を分ける顕著な所見は「有利/不利な細菌の比率」であり、個別細菌種の同定と治療介入の標的を提供する。これまでの研究が腫瘍細胞内在性の抵抗機構に焦点を当ててきたのと対照的に、本レビューは宿主腸内エコシステムという外在因子を効果規定軸として位置付ける点で枠組みが異なる。
新規な統合的視点として、本稿は前臨床の因果証明 (GF マウス・FMT・cohousing) とヒトコホートのシーケンスデータを横断接続し、responder 関連細菌・分子機構・診断ツール・治療介入を単一のロードマップに体系化した点が、断片的な先行研究では report されていない貢献である。antibiotic stewardship (抗菌薬の慎重使用) は免疫療法効果温存のため臨床応用上きわめて重要であり、免疫療法開始前後の広域抗菌薬使用が OS 悪化と関連するという知見は、ベンチからベッドサイドへの橋渡しとして即時に臨床的意義を持つ。NSCLC を含む固形腫瘍および造血器腫瘍 (ASCT) での microbiome モニタリングは、薬物動態/薬力学パラメータかつ新規バイオマーカーとして臨床現場に実装されうる。
一方で多くの残された課題が今後の検討を要する: (1) メタゲノミクスの限界 (15% の便細菌のみ培養可能、大半が死菌、上部消化管細菌の検出困難) に対する culturomics 統合、(2) FMT のドナー選択・凍結/新鮮材料・投与回数の最適化と発癌/病原体スクリーニング、(3) 株レベルの品質管理と有効性確認、(4) FDA 規制 (プロバイオティクスは食品/栄養補助扱いだが治療目的では Investigational New Drug 申請が必要) と安全性評価 (Saccharomyces boulardii の播種感染症例)、(5) 食事・運動・併用薬・睡眠等の宿主因子の臨床試験データベースへの統合、(6) 迅速・低コストな dysbiosis 診断法の開発。これらの future research を経て、マイクロバイオームを「druggable」にする技術基盤の整備が次の焦点となる。後続の前向き介入研究 (食物繊維・プロバイオティクスとメラノーマ免疫療法応答; Spencer et al. Science 2021) が本レビューの提起した課題を検証しつつある。
方法
本稿は systematic review ではなく専門家による narrative review であり、PubMed 等で同定された前臨床・臨床文献 (本文引用 40 件 + 補遺 41-74 を含む) を批判的に統合する。引用研究が用いた主要手法は次の通り: (i) germ-free (GF) マウス・広域抗菌薬前処置 specific pathogen-free (SPF) マウス・cohousing (同居) 実験・定義種の oral gavage (経口ガバージュ) による因果性検証、(ii) ベースライン便検体の 16S ribosomal RNA (rRNA) 遺伝子アンプリコンシーケンスおよび shotgun メタゲノムシーケンスによる responder/non-responder 間の細菌存在量比較、(iii) 患者便を GF/抗菌薬処置マウスへ移植する FMT による表現型移行アッセイ、(iv) culturomics (matrix-assisted laser desorption/ionization-time-of-flight; MALDI-TOF 質量分析と 16S rRNA シーケンスを組み合わせた網羅的微生物培養・同定)。引用された後方視的臨床解析は、抗菌薬使用と全生存 (OS) の関連を生存解析 (Kaplan-Meier 法・log-rank 検定) と相関解析で評価し、細菌多様性・存在量を奏効・予後と関連付けている。これらを横断的に比較し、地理・遺伝・栄養背景の差異による研究間変動を考慮しつつ一貫性のあるシグナルを抽出した。