- 著者: Katsuhiro Ito, Kei Iida, Tomoko Hirano, Merrin Man Long Leong, Kenji Morii, Toshi Menju, Hiroshi Date, Hiroaki Ozasa, Hironori Yoshida, Toyohiro Hirai, Shusuke Kawashima, Kazuhiro Aoyama, Yuka Saeki, Takashi Inozume, Takashi Kobayashi, Kenji Chamoto, Tomonori Yaguchi
- Corresponding author: Kenji Chamoto, Tomonori Yaguchi (Center for Cancer Immunotherapy and Immunobiology, Graduate School of Medicine, Kyoto University)
- 雑誌: Nature Communications
- 発行年: 2026
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 41702949
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: immune checkpoint inhibitor) は、非小細胞肺癌 (NSCLC: non-small cell lung cancer) を含む多くの進行固形癌の治療において劇的な効果を示し、患者の長期生存に寄与してきた (Gettinger et al. JClinOncol 2015)。しかし、依然として多くの患者で治療抵抗性が生じることが大きな課題となっている。当初、PD-1遮断などのICIは、腫瘍局所に存在する腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) 内の疲弊T細胞を再活性化すると考えられていた。しかし、近年の研究により、終末疲弊状態に陥ったT細胞はPD-1遮断に対して不応性であることが明らかになってきている。これに対し、機能的なエフェクターT細胞の供給源として、腫瘍内の前駆疲弊様T細胞だけでなく、末梢血や腫瘍流入リンパ節などの腫瘍外から補充される細胞集団が重要であるというモデルが提唱されている。
このモデルを支持する知見として、PD-1遮断治療後に腫瘍内でT細胞クローンの置換 (clonal replacement) が生じることが報告されている (Yost et al. NatMed 2019)。また、末梢血中のT細胞増殖やクローン拡大が臨床的ベネフィットと相関することも示されている (Huang et al. Nature 2017)。さらに、メラノーマにおけるシングルセル解析から、治療奏効に関連するT細胞サブセットが同定されているが (Sade-Feldman et al. Cell 2018)、肺癌における循環腫瘍反応性T細胞 (cTR-T: circulating tumor-reactive T cell) の動態は不明であった。
腫瘍局所におけるPD-1高発現CD8陽性T細胞の予測的価値が示される一方で (Thommen et al. NatMed 2018)、末梢血中のcTR-Tの詳細な表現型や分化軌跡、およびICI治療下における動態は未解明のままであった。cTR-Tは末梢血中において極めて稀少 (一般に0.1%未満) であり、これを特異的に同定するための表面マーカーが未確立であることが大きな研究の障壁となっていた。従来のcTR-T同定法は、既知の腫瘍抗原や予測されたネオ抗原に対するテトラマー解析に依存しており、患者個々の多様な腫瘍反応性T細胞の全体像を捉えるには情報が不足していた。したがって、抗原情報に依存せずにcTR-Tを網羅的に同定し、その治療前後における表現型変化と治療奏効との関連を解明することが強く求められていたが、そのための手段や知見が決定的に不足していた。
目的
本研究は、NSCLC患者の腫瘍組織および末梢血のペアサンプルを用いた高解像度シングルセル解析により、末梢血中のcTR-Tを網羅的に同定し、その臨床応用可能な表面マーカーを特定することを目的とする。
具体的には、第一に、腫瘍浸潤TR-T (tumor-reactive T cell: 腫瘍反応性T細胞) のT細胞受容体 (TCR: T-cell receptor) クローン配列をバーコードとして用いることで、末梢血中から同一クローンを持つcTR-Tを同定する。第二に、cTR-Tに特異的な表面タンパク質マーカーを同定し、フローサイトメトリーで検出可能な臨床応用可能なマーカーパネルを確立する。第三に、擬時間 (pseudotime) 軌跡解析を用いて、cTR-Tと腫瘍内TR-Tの分化上の関係性を明らかにする。第四に、ICI治療コホートにおいて治療前後のcTR-Tの表現型変化を解析し、治療奏効を予測する新規バイオマーカーとしての有用性を検証する。最後に、人工抗原を用いたマウス腫瘍モデルにおいて、PD-1/PD-L1経路遮断によるcTR-Tの表現型変化と治療効果との関連を実験的に検証する。
結果
cTR-Tの同定と特異的表面マーカーTRTPBLの特定: 早期NSCLC患者9名 (n=9 patients) のペア解析において、腫瘍内pTR-Tとして93クローン (10,839細胞) を同定し、末梢血中からこれと同一のTCR配列を持つcTR-Tを26クローン (159細胞、n=159 cells) 検出した。cTR-Tの末梢血中における頻度は0.2-1.1%と極めて稀少であった (Fig. 2B)。cTR-Tは主に活性化およびエフェクターメモリーに関連するクラスター11に集積していた (Fig. 2C)。差次発現遺伝子 (DEG) および差次発現タンパク質 (DEP) 解析により、cTR-Tは他の末梢CD8陽性T細胞と比較してHLA-DR、CD49a、CD49bを特異的に高発現していることを見出した (Fig. 2D, E)。これに基づき、CD45RA⁻HLA-DR⁺ (CD49a⁺またはCD49b⁺) を「TRTPBL (tumor-reactive T cell in peripheral blood) マーカー」と定義した。受信者動作特性 (ROC) 解析において、TRTPBLマーカーはcTR-Tの同定において曲線下面積 (AUC) = 0.83という高い精度を示し、従来のCD279単独やCD103単独などのマーカーを大きく上回った (Fig. 2J)。TRTPBLマーカー陽性細胞をソートした結果、pTR-Tクローンが2.7-13.5 foldに濃縮されることを実証した (Fig. 2I)。
cTR-Tは腫瘍内TR-Tの前駆細胞表現型を有する: 末梢血由来cTR-Tと腫瘍内pTR-Tを統合した擬時間軌跡解析を実施したところ、末梢血由来のcTR-Tが分化軌跡の起点 (root) に位置することが示された (Fig. 3A)。この起点に位置する細胞群は、TCF7やIL7Rなどの幹細胞様・前駆細胞様遺伝子を高発現し、PDCD1やHAVCR2、TIGITなどの疲弊マーカーの発現は中等度にとどまる「前駆疲弊様 (progenitor-exhausted)」表現型を呈していた (Fig. 3B)。クローンレベルの解析において、末梢血から腫瘍内へと移行するにつれて、前駆細胞シグネチャーが有意に低下し、逆に疲弊シグネチャーが上昇する一貫した分化パターンが確認された (p<0.001) (Fig. 3C)。一方で、組織残留性に関与するCD49aやCD49b、および活性化マーカーであるHLA-DRは、末梢血中においても既に比較的高発現しており、cTR-Tが腫瘍への遊走・定着能をあらかじめ備えていることが示唆された (Fig. 3D)。
ICI治療奏効者におけるcTR-Tの幹細胞様表現型への転換: PD-1遮断薬と化学療法の併用療法を受けたNSCLC患者8名 (n=8 patients) の治療前後PBMC解析において、治療前のcTR-TにおけるCD38高発現が非奏効と有意に関連していることを見出した (Fig. 4D)。CD38はT細胞の機能不全や疲弊に関与する分子である。さらに、治療後のサンプルにおいて、奏効者 (n=4 responders) ではcTR-TがTCF7⁺IL7R⁺CD28⁺GZMK⁺の幹細胞様エフェクターメモリーサブセット (クラスター3および8) へと有意にシフトしたのに対し、非奏効者 (n=4 non-responders) ではこのシフトが認められなかった (Fig. 4F)。この表現型転換に伴い、奏効者では治療後にTRTPBLマーカー陽性細胞の比率が有意に低下した (Fig. 4G)。また、マウスモデル (n=10 mice in control group, n=11 mice in anti-PD-L1 group) においても、抗PD-L1抗体投与後に抗原特異的T細胞におけるTRTPBL等価マーカー (IAb, CD49a/b) の発現が有意に低下し、エフェクターメモリー分化が促進されることが確認された (Fig. 5D)。
臨床コホートにおけるTRTPBL動態とCD38発現による奏効予測: 独立した転移性NSCLC患者70名の臨床コホートにおいて、治療前の末梢血中TRTPBL陽性CD8陽性T細胞におけるCD38陽性細胞の割合は、治療奏効と有意な負の相関を示した (Pearson’s correlation coefficient r = -0.35, cohort n = 70 patients) (Fig. 6D)。また、治療後のTRTPBL陽性細胞比率の変動とPFSとの相関を解析した結果、有意な相関が認められた (Spearman’s rank correlation coefficient r = 0.42, cohort n = 70 patients) (Fig. 6E)。治療後にTRTPBL陽性細胞の比率が低下した患者群 (cTR-Tの幹細胞様転換を示す群) では、有意に良好な治療応答と無増悪生存期間 (PFS) の延長が確認された (p = 0.048) (Fig. 6E)。これら2つの指標を組み合わせ、治療前のCD38低発現かつ治療後のTRTPBL陽性細胞比率低下を満たす群 (n=26 patients) では、PFS中央値が3.06年 (95% CI 2.10-4.00, p = 0.0064) となり、その他の群 (n=44 patients) のPFS中央値0.36年 (95% CI 0.15-0.57) と比較して極めて有意に生存期間が延長することを示した (Fig. 6F)。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、従来のcTR-T研究が特定の既知抗原やネオ抗原に対するテトラマー解析に依存していたアプローチと異なり、腫瘍浸潤TR-TのTCR配列をバーコードとして用いることで、抗原情報に依存せずにcTR-Tの全体像を網羅的に同定した。また、既存の末梢血TR-Tマーカー (CD279やCD103、あるいはCD103/HLA-DR/CD39/CD45ROの組み合わせ) と比較して、本研究で同定したTRTPBLマーカー (CD45RA⁻HLA-DR⁺CD49a/b⁺) は、NSCLC患者において一貫して高い同定精度 (AUC = 0.83) を示すことを明らかにした。
新規性: 本研究で初めて、末梢血中のcTR-Tが腫瘍内TR-Tの前駆細胞表現型 (TCF7⁺IL7R⁺) を有しており、腫瘍内へと浸潤する前の「前駆疲弊様」プールとして機能している可能性を新規に明らかにした。さらに、ICI治療が奏効する患者においては、cTR-Tが治療後に活性化状態から幹細胞様エフェクターメモリー状態へと表現型転換 (幹細胞様転換) を起こすことを新規に同定した。
臨床応用: 本知見の臨床応用における意義は、フローサイトメトリーを用いて簡便に測定可能な表面タンパク質マーカー (CD38およびTRTPBLマーカー) を用いて、ICI治療の奏効および長期予後を予測する二段階バイオマーカー系を確立した点にある。治療前のcTR-TにおけるCD38低発現、および治療後のTRTPBL陽性細胞比率の低下を組み合わせることで、PFS中央値が3.06年と極めて良好な予後を示す超奏効群を同定することが可能となり、個別化医療の推進や治療モニタリングへの臨床応用が期待される。
残された課題: 今後の残された課題として、第一に、本研究で同定したpTR-Tクローンの実際の抗原特異性について、実験的な検証が不十分である点が挙げられる。第二に、検証コホートの規模がn=70 patientsと限定的であり、より大規模な前向き多施設共同コホートでの再現性の確認が必要である。第三に、本研究の対象がPD-1遮断薬と化学療法の併用療法を受けた患者であり、免疫療法単独レジメンにおけるバイオマーカーとしての汎用性については検証の余地が残されている。最後に、組織残留性インテグリンであるCD49aおよびCD49bが、末梢血中においてなぜ発現しているのか、またその発現が腫瘍への遊走能や定着能にどのように寄与しているのかという機能的メカズムの解明が今後の重要な検討課題である。
方法
患者コホートおよびサンプル回収: EGFR遺伝子変異陰性の早期NSCLC患者9名から、外科的切除によって得られた腫瘍組織と末梢血をペアで採取した。また、臨床バイオマーカーの検証として、転移性NSCLCに対してICI(PD-1遮断薬)含有レジメンによる治療を受けた独立した患者コホート (n=70 patients) から治療前および治療後 (1回目の投与後) の末梢血単核球 (PBMC: peripheral blood mononuclear cell) サンプルを回収した。
シングルセルシーケンシング解析: 回収した腫瘍組織およびPBMCからCD8陽性T細胞をFACS (fluorescence-activated cell sorting) により分取した。10x Genomics社のChromiumプラットフォームを用いて、シングルセルRNA-seq (scRNA-seq)、TCR-seq、および130種類の表面タンパク質を同時に定量するCITE-seq (cellular indexing of transcriptomes and epitopes by sequencing) を実施した。シーケンシングデータの統合には、バッチ効果を補正するためにHarmonyアルゴリズム (Korsunsky et al. NatMethods 2019) を用い、Seuratパッケージ (Stuart et al. Cell 2019, Hao et al. Cell 2021) にて解析した。
TR-Tの定義とcTR-Tの同定: 腫瘍内TR-Tの同定には、CXCL13およびENTPD1の陽性発現、かつIL7Rの陰性発現に基づく遺伝子シグネチャースコアであるMANAscore (mutation-associated neoantigen score) を用いた。クローン内でMANAscore陽性細胞が5%以上、かつCD8陽性TIL中でクローン頻度が1%以上を占めるクローンを予測TR-T (pTR-T: predicted tumor-reactive T cell) と定義した。このpTR-Tと同一のTCR配列を持つ末梢血中のCD8陽性T細胞をcTR-Tとして同定した。
CD8陽性T細胞浸潤密度の定量: ホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 標本を用いて、CD8陽性T細胞の浸潤密度をデジタル画像解析ソフトQuPathを用いて定量化した (Bankhead et al. SciRep 2017)。
マウスモデル実験: 人工抗原であるSIY (SIYRYYGL) を発現するマウスメラノーマ細胞株 (BPmel-1-SIY) を、6週齢の雌性C57BL/6Nマウスの右側腹部に皮内接種した。本モデルは抗PD-1/PD-L1治療に対する応答性を評価するための標準的なモデルとして知られている (Tanoue et al. Nature 2019)。腫瘍接種後7日目に抗PD-L1抗体 (80 μg/mouse) またはアイソタイプコントロールを単回腹腔内投与した。投与4日後 (腫瘍接種後11日目) に末梢血を採取し、SIY/H-2Kbテトラマーを用いて抗原特異的T細胞を検出し、表面マーカーの動態をフローサイトメトリーで解析した。また、in vitroの検証として、HLA-A*02:01陽性の胸腺腫細胞株であるT2細胞を用いて、MART1ペプチドによる刺激実験およびIFN-γ放出アッセイを行った。
統計解析: 2群間の比較には、データの分布に応じてStudent’s t-test、Wilcoxon rank-sum test、またはMann-Whitney U testを用いた。生存分析にはKaplan-Meier法を用い、生存曲線の比較にはlog-rank testを実施した。相関分析にはPearson’s correlation coefficientおよびSpearman’s rank correlation coefficientを用いた。統計的有意性はp<0.05とした。