- 著者: Jianjun Gao, Lewis Zhichang Shi, Hao Zhao, Jianfeng Chen, Liangwen Xiong, Qiuming He, Tenghui Chen, Jason Roszik, Chantale Bernatchez, Scott E. Woodman, Pei-Ling Chen, Patrick Hwu, James P. Allison, Andrew Futreal, Jennifer A. Wargo, Padmanee Sharma
- Corresponding author: Padmanee Sharma (The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
- 雑誌: Cell
- 発行年: 2016
- Epub日: 2016-10-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 27667683
背景
抗CTLA-4抗体であるイピリムマブは、転移性悪性黒色腫の治療において2011年に米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ており、約20%の患者で長期的な生存利益をもたらすことが報告されている(Hodi et al. NEnglJMed 2010; Robert et al. NEnglJMed 2011)。しかし、過半数の患者は治療に奏効せず、その抵抗性メカニズムは未解明な部分が多い。イピリムマブの作用機序としては、T細胞の活性化に伴うインターフェロンガンマ (IFN-γ) 産生の増加が知られている。IFN-γは、IFN-γ受容体1 (IFNGR1) およびIFN-γ受容体2 (IFNGR2) を介して、JAK1/JAK2キナーゼ、STAT1転写因子、IRF1転写因子などのシグナル伝達経路を活性化する。この経路は、Th1細胞の分化誘導、主要組織適合性複合体クラスI (MHC class I) の発現誘導、直接的な腫瘍細胞増殖抑制やアポトーシス誘導など、抗腫瘍免疫応答に不可欠なサイトカインである。
近年、免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) への抵抗性メカニズムに関する研究が進展しており、特に抗PD-1療法においては、JAK1/JAK2の機能喪失型変異が獲得抵抗性に関与することが報告されている(Zaretsky et al. NEnglJMed 2016)。これまでの研究では、抗CTLA-4療法がT細胞によるIFN-γ産生を誘導するにもかかわらず、腫瘍細胞側がIFN-γシグナルに応答できない場合、治療効果が減弱する可能性が考えられるが、その因果関係を直接的に示すエビデンスは不足していた。特に、抗CTLA-4療法における腫瘍細胞のIFN-γ経路欠損の臨床的意義や、それが原発性抵抗性に関与するかどうかは、これまで体系的に評価されておらず、この領域には知識のギャップが残されていた。本研究は、この重要なギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の第一の目的は、イピリムマブ不応(非応答者)の悪性黒色腫患者において、腫瘍細胞のIFN-γ経路遺伝子に体細胞変化(コピー数異常 (CNA) や一塩基多型 (SNV))が高頻度で集積しているかを、臨床コホートデータを用いて検証することである。具体的には、MD Anderson Cancer Centerの患者コホートおよび独立した公開コホートの全エクソームシーケンス (WES) データを用いて、IFN-γ経路遺伝子パネルにおけるCNAとSNVの頻度を応答者と非応答者間で比較解析する。
第二の目的は、IFNGR1遺伝子の欠損が抗CTLA-4療法に対する治療抵抗性を機能的に引き起こすことを、マウスモデルを用いて実証することである。具体的には、IFNGR1をノックダウンしたマウス悪性黒色腫細胞株B16/BL6を用いて、in vitroでのIFN-γに対する応答性(増殖抑制、アポトーシス誘導)を評価し、さらにin vivoでの抗CTLA-4療法に対する腫瘍拒絶反応およびマウスの生存期間への影響を検証する。これらの解析を通じて、腫瘍細胞におけるIFN-γシグナル伝達経路の欠損が、抗CTLA-4療法に対する原発性抵抗性の重要なメカニズムであることを確立することを目指す。
結果
非応答者腫瘍におけるIFN-γ経路CNAの高頻度集積: MD Andersonコホート16例のWESデータ解析の結果、イピリムマブ非応答者群 (n=12 patients) の腫瘍では、IFN-γ経路遺伝子パネルにおいて合計184個の体細胞変異(CNA 142個、SNV 42個)が検出され、患者あたり平均15.33個の変異を保持していた。一方、応答者群 (n=4 patients) ではSNVが4個のみ(患者あたり平均1個の変異)と顕著に少なかった。permutation検定により、非応答者における変異の有意なエンリッチメントは偶然ではないことが示された (p=0.015)。特に、CNAの陽性率は非応答者で75% (9/12) であったのに対し、応答者では0% (0/4) であり、Fisherの正確検定(片側)で有意な差が認められた (p=0.019)。検出されたCNAは、IFNGR1、IFNGR2、JAK2、IRF1などの主要なIFN-γ経路遺伝子のコピー数欠損、およびIFN-γシグナル伝達の阻害因子であるSOCS1、PIAS4 (protein inhibitor of activated STAT 4) のコピー数増幅を含んでおり、これらは一貫してIFN-γシグナル伝達を抑制する方向に作用すると考えられる。SNVのみでは群間差は有意でなかった (p=0.261) ことから、CNAがイピリムマブ抵抗性に関連する主要なゲノムイベントであることが示唆された (Figure 1A, 1B)。
独立コホートおよびTCGAデータでの再現性: Van Allen et al. (Science 2015) の独立コホート(応答者18例、非応答者70例)の解析においても、非応答者腫瘍におけるIFN-γ経路遺伝子のCNAのエンリッチメントが再現された (Figure 1C)。さらに、The Cancer Genome Atlas (TCGA) の悪性黒色腫 (SKCM) コホート367例を用いた解析では、IFN-γ経路CNA陽性の患者群 (n=134 patients) の全生存期間 (OS) 中央値は40カ月であったのに対し、野生型 (WT) の患者群 (n=233 patients) では48.2カ月であり、CNA陽性群で有意に短いOSが認められた (ログランク検定 p=0.0018) (Figure 1D)。この結果は、IFN-γ経路CNAが治療反応性だけでなく、悪性黒色腫患者の予後マーカーとしても機能する可能性を示唆する。
ヒト細胞株レベルでのIFN-γ応答性とゲノム欠損の相関: ヒト悪性黒色腫由来の6細胞株(C1-C6 cells)をIFN-γで刺激し、IRF1遺伝子の誘導を評価した結果、C1-C3の3細胞株はIRF1の顕著な誘導を示しIFN-γ応答性であると分類された。一方、C4-C6の3細胞株はIRF1の誘導が最小限であり、IFN-γ非応答性であると分類された (Figure 2A)。マイクロアレイデータを用いたunsupervised clustering解析では、IFN-γ応答性細胞株と非応答性細胞株で、IRF1、CXCL10、IFIT1、IFIT2、IFIT3などIFN-γ経路に関連する36プローブの発現変化に明確な違いが見られた (Figure 2B)。非応答性細胞株のうち、C5はIFIT1、IFIT2、IFIT3、IFIT1B遺伝子のコピー数欠損を、C6はIRF8遺伝子のコピー数欠損を有しており、in vitroでのIFN-γ不応性とゲノム欠損との対応が示された (Figure 2C)。
B16/BL6マウスモデルin vitroでのIFNGR1ノックダウンによる機能減弱: マウス悪性黒色腫細胞株B16/BL6にIFNGR1 shRNAを導入することで、IFNGR1のmRNAおよびタンパク質レベルでの確実なノックダウンが確認された (Figure 3A)。IFNGR1-KD細胞では、IFN-γ刺激によるIRF1の誘導が消失し、機能的なノックダウンが示された (Figure 3B, p<0.0001)。in vitroでのIFN-γによる細胞増殖抑制(CFSEアッセイ)は、WTおよびSC細胞株で用量依存的に観察されたが、IFNGR1-KD細胞ではIFN-γ存在下でも増殖抑制が減弱した (Figure 3C)。さらに、IFN-γによるアポトーシス誘導も、IFNGR1-KD細胞ではIFN-γの用量に関わらず減弱することが示された (Figure 3D, p<0.05)。
B16/BL6マウスモデルin vivoでのIFNGR1ノックダウンによる抗CTLA-4療法抵抗性: C57BL/6マウスにB16/BL6(WT、SC、IFNGR1-KD)細胞を皮下接種し、抗CTLA-4療法を行った。未治療群では、全てのコホートで100%の腫瘍形成が認められた (Figure 4A)。抗CTLA-4療法後、WT B16/BL6腫瘍を接種したマウスでは22匹中4匹 (18%)、SC shRNA導入B16/BL6腫瘍を接種したマウスでは25匹中4匹 (16%) が進行性疾患を示した。これに対し、IFNGR1-KD B16/BL6腫瘍を接種したマウスでは25匹中12匹 (48%) が進行性疾患を示し、有意に治療抵抗性であることが示された。腫瘍サイズも、IFNGR1-KD腫瘍群で抗CTLA-4療法に対する応答が障害され、有意に大きかった (p < 0.05) (Figure 4B)。長期生存率は、WT群で約80%であったのに対し、IFNGR1-KD群では有意に低下した (ログランク検定 p=0.0174) (Figure 4D)。一方で、腫瘍内のCD8陽性エフェクターT細胞とFoxP3陽性制御性T細胞の比率は、IFNGR1-KD群を含む全てのコホートで抗CTLA-4療法後に上昇しており (Figure 4C, p<0.01)、T細胞の浸潤自体はIFNGR1-KDによって大きく影響を受けないことが示唆された。このことから、治療抵抗性はT細胞のエフェクター機能ではなく、腫瘍細胞のIFN-γ不応性に起因することが明らかにされた。
考察/結論
本研究は、抗CTLA-4抗体イピリムマブに対する原発性抵抗性の主要なドライバーの一つとして、腫瘍細胞内在性のIFN-γ経路遺伝子欠損(IFNGR1, IFNGR2, JAK2, IRF1など)を確立した、免疫チェックポイント阻害剤 (ICB) 抵抗性研究における重要な成果である。
先行研究との違い: これまでの研究では、抗PD-1療法におけるJAK1/JAK2の機能喪失が獲得抵抗性に関与することが報告されていた(Zaretsky et al. NEnglJMed 2016)。これと対照的に、本論文は抗CTLA-4療法における原発性抵抗性に着目し、複数の臨床コホートとin vivoマウスモデルを統合した体系的なアプローチにより、IFN-γ経路欠損がそのメカニズムであることを初めて実証した点で新規性が高い。特に、コピー数異常 (CNA) がSNVよりも優勢な抵抗性関連イベントであることを明確に示した点は、これまでの知見と異なる。
新規性: 本研究で初めて、悪性黒色腫患者のイピリムマブ非応答者において、IFN-γ経路遺伝子のコピー数異常 (CNA) が高頻度で検出されることを明らかにした。MD Andersonコホートでは非応答者の75% (9/12 patients) でCNAが認められ、応答者では0% (0/4 patients) であった (p=0.019)。さらに、TCGAコホートの解析では、IFN-γ経路CNA陽性患者の全生存期間 (OS) が有意に短いこと (p=0.0018) を示し、CNAが治療反応性だけでなく予後予測バイオマーカーとしても機能する可能性を新規に提示した。また、B16/BL6細胞株を用いたIFNGR1ノックダウンモデルにより、IFN-γシグナル伝達の欠損がin vitroでのIFN-γ応答性低下とin vivoでの抗CTLA-4療法抵抗性を引き起こすことを直接的に証明し、その因果関係を確立した。
臨床応用: 本研究の知見は、悪性黒色腫患者に対するイピリムマブ治療前のバイオマーカー層別化に直結する臨床的意義を持つ。IFN-γ経路遺伝子のCNAやSNVをスクリーニングすることで、治療効果が期待できる患者を選別し、不応性の高い患者には代替の免疫療法(例えば、抗LAG-3抗体、抗TIGIT抗体、腫瘍溶解性ウイルス療法、STINGアゴニストなど)や併用療法を検討する戦略を支持する。また、術前補助療法としてのICB後の腫瘍組織WES解析により、再治療の可否を判断する際の情報としても有用である。
残された課題: 今後の検討課題として、いくつかの点が挙げられる。第一に、IFN-γ経路の機能喪失がゲノム変化だけでなく、エピジェネティックなサイレンシングや翻訳後修飾による不活化によっても生じる可能性があり、これらはWESでは捕捉できないため、追加のマルチオミクス解析が必要である。第二に、本研究は抗CTLA-4療法に焦点を当てているが、抗PD-1単独療法やイピリムマブとニボルマブの併用療法における同様のメカニズムの寄与度は本研究のみでは決定できない。第三に、悪性黒色腫以外の肺癌、腎癌、尿路癌などの他癌種での再現性や、IFN-γ経路欠損がこれらの癌種におけるICB抵抗性にも関与するかどうかを検証する必要がある。最後に、腫瘍外在性の骨髄由来抑制細胞 (MDSC) やIDO経路などの他の免疫抑制メカニズムとの階層関係や相互作用は未解明であり、これらの複雑なネットワークを解明することが今後の研究方向性として残されている。
方法
本研究では、以下の多角的なアプローチを用いて、抗CTLA-4療法抵抗性におけるIFN-γ経路遺伝子欠損の役割を評価した。
(1) MD Andersonコホートにおけるゲノム解析: MD Anderson Cancer Centerで治療を受けた転移性悪性黒色腫患者16例(イピリムマブ応答者4例、非応答者12例)から得られた腫瘍組織の全エクソームシーケンス (WES) データを解析した。解析対象としたIFN-γ経路遺伝子のリストは、QIAGEN human interferon-and-receptor PCR arrayで定義された遺伝子パネルに基づいている。体細胞変化として、コピー数異常 (CNA) と一塩基多型 (SNV) を検出した。CNAの検出には、腫瘍/正常組織のリードカウントlog2比を計算し、Circular Binary Segmentation (CBS) アルゴリズムを用いてセグメンテーションを行った (Olshen et al., 2004)。SNVの検出には、MuTect (v1.1.4) を使用し(Cibulskis et al. NatBiotechnol 2013)、ANNOVAR(Wang et al. NucleicAcidsRes 2010)を用いてアノテーションを行った。非応答者と応答者間の変異頻度差は、10,000回の反復によるpermutation testで偶発的な出現を否定し、Fisherの正確検定を用いて評価した。
(2) 独立コホートでの再現性検証: Van Allen et al. (Science 2015) によって公開された独立した悪性黒色腫患者コホートのWESデータ(応答者18例、非応答者70例)を用いて、MD Andersonコホートと同様の解析を行い、IFN-γ経路遺伝子のCNAのエンリッチメントが再現されるかを確認した。
(3) TCGAコホートでの予後解析: The Cancer Genome Atlas (TCGA) の悪性黒色腫 (SKCM) コホート367例(IFN-γ経路CNA陽性134例、野生型 (WT) 233例)の臨床データとゲノムデータをダウンロードし、IFN-γ経路CNAの有無と全生存期間 (OS) との関連をKaplan-Meier法およびログランク検定で評価した。
(4) ヒト悪性黒色腫細胞株でのin vitro評価: ヒト悪性黒色腫患者由来の6細胞株(C1-C6)をIFN-γで刺激し、IFN-γ応答性遺伝子(IRF1、CXCL10、IFIT1、IFIT2、IFIT3など)の発現誘導の有無をマイクロアレイ解析で評価した。IFN-γ刺激前後の遺伝子発現変化のlog2倍率変化を用いて、細胞株をIFN-γ応答者と非応答者に分類し、これらの細胞株におけるIFN-γ経路遺伝子のコピー数欠損との関連を対比した。
(5) B16/BL6マウスモデルでの機能検証: マウス悪性黒色腫細胞株B16/BL6に、IFNGR1遺伝子を標的とするshRNA(IFNGR1-KD)またはスクランブルshRNA(SC)をレンチウイルスベクターを用いて導入し、安定発現株を樹立した。IFNGR1のノックダウン効率は、RT-PCRおよびウェスタンブロットで確認した。in vitro実験では、IFN-γ刺激下での細胞増殖抑制(CFSEアッセイ)およびアポトーシス誘導を、WT、SC、IFNGR1-KD細胞株で比較評価した。
(6) in vivo抗CTLA-4療法モデル: C57BL/6マウスの皮下にB16/BL6(WT、SC、IFNGR1-KD)細胞を接種し、抗CTLA-4抗体(クローン9H10)とGM-CSF産生細胞株(GVAX: granulocyte-macrophage colony-stimulating factor-secreting vaccine)を併用した治療プロトコルで治療した。腫瘍増殖曲線、マウスの生存期間を評価した。また、治療後の腫瘍組織から腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) を分離し、フローサイトメトリーによりCD8陽性エフェクターT細胞とFoxP3陽性制御性T細胞の比率を解析した。