• 著者: Christine N. Spencer, Jennifer L. McQuade, Vancheswaran Gopalakrishnan, John A. McCulloch, Marie Vetizou, Alexandria P. Cogdill, et al. (多数の共著者)
  • Corresponding author: Jennifer A. Wargo (jwargo@mdanderson.org) (Department of Surgical Oncology, The University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA); Carrie R. Daniel (cdaniel@mdanderson.org) (Department of Epidemiology, MD Anderson Cancer Center); Giorgio Trinchieri (trinchig@niaid.nih.gov) (Laboratory of Integrative Cancer Immunology, CCR, NCI, NIH, Bethesda, MD, USA)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2021
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34941392

背景

腸内細菌叢が免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) に対する治療応答を調節することは、複数の前向きコホート研究および前臨床モデルで一貫して示されてきた。特に、Ruminococcaceae科やFaecalibacterium属の細菌がICB奏効例で濃縮されることが、先行研究であるRibas et al. Science 2018によって報告されている。これらの知見は、腸内細菌叢ががん免疫療法において重要な役割を果たすことを強く示唆する。また、Davar et al. Science 2021Tanoue et al. Nature 2019といった研究では、糞便微生物叢移植 (FMT) が抗PD-1療法に抵抗性のメラノーマ患者の治療効果を改善する可能性が示されており、腸内細菌叢の操作ががん治療に与える影響への関心が高まっている。

一方で、食物繊維や市販のプロバイオティクスサプリメントが腸内細菌叢の組成と機能に影響を与えることは広く知られているが、これらの日常的な食習慣因子がICB応答にどのような影響を及ぼすかは、これまで十分に未解明であった。がん患者の約31%がICB開始前にプロバイオティクスを使用しているという現状があり、その安全性と有効性に関する臨床的検証は喫緊の課題である。しかし、プロバイオティクスの種類や用量、患者の背景因子が多岐にわたるため、その影響を包括的に評価することは容易ではなかった。また、食物繊維摂取量とICB応答との関連についても、大規模なヒトコホートでの詳細な検討が不足していた。腸内細菌叢の組成は、宿主の遺伝的要因が変動の10%未満しか説明しない一方で、食事や薬剤使用といった環境要因によって大きく形成されることが知られている。したがって、食事介入がICB応答に与える影響を理解することは、治療効果の最適化に向けた新たな戦略を開発する上で極めて重要である。特に、食物繊維は腸内細菌による発酵を通じて短鎖脂肪酸 (SCFA: short chain fatty acid) などの代謝産物を生成し、宿主免疫系に影響を与えることが示唆されているが、これががん免疫応答にどのように寄与するかは詳細に解明されていなかった。本研究は、これらの知識ギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、大規模なメラノーマ患者コホートにおいて、食物繊維摂取量と市販プロバイオティクスサプリメントの使用が免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 治療応答および腸内細菌叢に与える影響を評価することである。さらに、前臨床モデルを用いて、これらの食習慣因子が抗腫瘍免疫応答に及ぼす機序を解明する。具体的には、以下の点を明らかにすることを目指した。

  1. メラノーマ患者におけるICB奏効と腸内細菌叢の関連を、新規コホートで再検証する。
  2. ICB治療を受けるメラノーマ患者におけるプロバイオティクス使用が、治療転帰(無増悪生存期間 (PFS) および奏効率)に与える影響を評価する。
  3. ICB治療を受けるメラノーマ患者における食物繊維摂取量が、治療転帰に与える影響を評価する。
  4. 食物繊維摂取量とプロバイオティクス使用の組み合わせが、ICB治療転帰に及ぼす複合的な影響を解析する。
  5. 前臨床マウスモデルを用いて、プロバイオティクス投与が抗PD-L1療法に対する抗腫瘍免疫応答および腫瘍微小環境におけるT細胞機能に与える影響を検証する。
  6. 前臨床マウスモデルを用いて、食物繊維摂取量が抗PD-1療法に対する抗腫瘍免疫応答および腸内細菌叢、代謝産物、腫瘍浸潤免疫細胞に与える影響を検証し、その微生物依存性を確認する。

これらの目的を達成することで、がん患者のICB治療における食事介入の重要性に関する臨床的含意を導き出すことを目指す。

結果

抗PD-1奏効と腸内細菌叢の関連: 新規に集積された抗PD-1治療患者コホート(n=132)において、先行研究で報告されたRuminococcaceae属(p=0.036)およびFaecalibacterium属(p=0.018)の細菌が、奏効例で有意に濃縮されていることを確認した (Fig. 1B)。全コホート(n=293)においても、Ruminococcaceaeの高存在量がICB奏効と有意に関連しており、年齢、性別、BMI、先行治療、抗生物質使用で多変量調整後もこの関連は一貫して認められた (Fig. 1C)。さらに、Davar et al. Science 2021およびTanoue et al. Nature 2019による糞便微生物叢移植(FMT)と抗PD-1療法を組み合わせた臨床試験の奏効例において、FMT後のサンプルでこれらの応答関連細菌が濃縮されていることも確認された (Fig. 1D, E)。しかし、本研究のより大規模なコホートでは、先行研究とは異なり、奏効者と非奏効者の間で腸内細菌叢のアルファ多様性やベータ多様性に有意な差は認められなかった。これは、先行研究における少数の患者による影響や、本研究のコホートサイズ拡大による検出力の向上と誤差の減少を反映している可能性がある。

プロバイオティクス使用と臨床転帰: ICB治療開始前にプロバイオティクスサプリメントを使用していた患者(n=49, 31%)は、非使用者(n=109)と比較して、ICBに対するPFSに統計的に有意な差は認められなかった(中央値PFS 17ヶ月 vs 23ヶ月; HR 1.30, 95% CI 0.82-2.07; p=0.27)(Fig. 2A, Table 1)。奏効率もプロバイオティクス使用群で59%に対し、非使用群で68%であり、有意差は認められなかった(p=0.52)。プロバイオティクス使用群の患者は、非使用群と比較してBMIが低く、スタチン使用率が低く、野菜や豆類の摂取量が多い傾向にあった。これらの結果は、患者が使用していたプロバイオティクスの種類が多様であったことや、コホート全体のサイズが限定的であったことによる検出力の限界を示唆する可能性がある。

前臨床プロバイオティクス実験による抗腫瘍免疫応答の障害: 抗PD-1療法で完全奏効(CR)した患者から糞便微生物叢移植(FMT)を受けた無菌マウスに、市販のプロバイオティクス(Bifidobacterium longumベースまたはLactobacillus rhamnosus GGベース)を経口投与したところ、抗PD-L1療法による腫瘍制御が有意に障害され、対照群と比較して腫瘍サイズが有意に増大した(B. longumベース: p=0.04; L. rhamnosus GGベース: p=0.01)(Fig. 2C)。プロバイオティクス投与群のマウスでは、腸内細菌叢の多様性低下(inverse Simpson indexの低下; PERMANOVA p=0.036)が確認された (Fig. 2D, E)。腫瘍浸潤免疫細胞の解析では、プロバイオティクス投与群の腫瘍微小環境において、IFN-γ陽性CD8+ T細胞の頻度が対照群と比較して有意に減少していた(p=0.03)(Fig. 2F)。同様の結果は、非無菌のSPFマウスモデルでも再現された (Fig. 2H)。これらのデータは、市販プロバイオティクスが抗腫瘍免疫応答を障害する可能性を示唆する。

食物繊維摂取量とICB転帰の改善: 食物繊維摂取量が「十分」(≧20g/日, n=37)な患者は、「不十分」(<20g/日, n=91)な患者と比較して、PFSが有意に改善した(中央値PFSは「十分」群で未到達 vs 「不十分」群で13ヶ月; HR 0.59, 95% CI 0.33-1.04, p=0.07; 5g/日増加あたりのHR 0.71, 95% CI 0.52-0.98, p=0.04)(Fig. 3A, Table 1)。食物繊維摂取量と奏効率の間にも同様の正の関連が認められた。この保護効果は、抗PD-1単独療法を受けた患者サブセットや、最近抗生物質を使用していない患者でも一貫して観察された。食物繊維摂取量は、果物、野菜、豆類、全粒穀物の摂取量と強く相関していた。食物繊維摂取量が不十分な患者は、肥満である傾向が高く、降圧剤を使用する傾向も高かった。

食物繊維摂取量とプロバイオティクス使用の複合効果: 食物繊維摂取量とプロバイオティクス使用を組み合わせた解析では、「十分な食物繊維摂取」かつ「プロバイオティクス不使用」の患者群(n=22)が最も良好な転帰を示した(中央値PFSは未到達 vs 他の群の13ヶ月; HR 0.44, 95% CI 0.21-0.92; p=0.03)(Fig. 3B, Table 1)。この群の奏効率は82%であり、他の群の59%と比較して有意に高かった。食物繊維が十分であってもプロバイオティクスを使用している群(n=15)では、このような優位性は消失した。多変量調整後も、この傾向は一貫して維持された。微生物のアルファ多様性、Ruminococcaceae科およびFaecalibacterium属の存在量も、十分な食物繊維摂取とプロバイオティクス不使用の患者で数値的に高い傾向にあったが、統計的有意差には達しなかった (Fig. S12)。

前臨床食物繊維実験による抗腫瘍効果の微生物叢依存性: 繊維豊富食(17.6%繊維)を摂取したC57BL/6 SPFマウスは、抗PD-1治療時に繊維少食(2%繊維)のマウスと比較して、腫瘍増殖が有意に遅延した (p=0.02) (Fig. 3D)。この効果は無菌マウスでは消失し、食物繊維の抗腫瘍効果が腸内微生物叢に依存することを示唆した。繊維豊富食マウスの腸内細菌叢は、繊維少食マウスとは顕著に異なる群集構造を示し(PERMANOVA p<0.0001)、Ruminococcaceaeが高値を示す傾向にあった (Fig. 3E, S15)。糞便メタボロミクス解析では、短鎖脂肪酸(SCFA)であるプロピオン酸が繊維豊富食マウスで有意に高値であった (Fig. S16)。腫瘍浸潤免疫細胞のフローサイトメトリー解析では、繊維豊富食マウスの腫瘍でCD4+ T細胞(PD-1+)が有意に多く認められた (Fig. S17A, B)。CD45+腫瘍浸潤リンパ球のRNAシーケンシングでは、繊維豊富食かつ抗PD-1治療群のマウスにおいて、T細胞活性化およびインターフェロン応答関連遺伝子の有意な高発現が認められた (Fig. 3F, G, Table S13, S14)。ネットワーク解析により、Ruminococcaceaeが食物繊維の発酵を通じてT細胞活性化経路およびICOS+CD8+/CD4+ T細胞の腫瘍内蓄積に関与する可能性が示唆された (Fig. S17C-H)。

考察/結論

本研究は、食物繊維摂取量と市販プロバイオティクス使用という日常的な生活習慣因子が、免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) 治療応答を修飾することを、大規模なメラノーマ患者コホートと前臨床モデルの両方で初めて包括的に示した。

先行研究との違い: これまでの研究では、腸内細菌叢とICB応答の関連が示されてきたが、具体的な食事介入、特に食物繊維摂取量や市販プロバイオティクス使用がICB応答に与える影響については、大規模なヒトコホートと前臨床モデルを組み合わせた詳細な検討が不足していた。本研究は、このギャップを埋め、これらの因子がICB応答に与える影響を定量的に評価した点で、これまでの報告と異なる。特に、プロバイオティクスがICB応答を障害する可能性を示唆する前臨床データは、一部の有益なプロバイオティクスに関する先行研究とは対照的であり、市販プロバイオティクスの無差別な使用に対する警鐘を鳴らすものである。

新規性: 本研究で初めて、十分な食物繊維摂取(≧20g/日)がICB奏効率およびPFSの改善と関連し、その効果がプロバイオティクス不使用時に最大となることを示した(中央値PFSは未到達 vs 13ヶ月)。この知見は、Ruminococcaceae等の食物繊維発酵菌による短鎖脂肪酸(特にプロピオン酸)産生が、腫瘍微小環境におけるT細胞活性化を促進するというメカニズムと整合する。また、前臨床モデルにおいて、プロバイオティクス投与が腫瘍内IFN-γ陽性CD8+ T細胞の減少と腫瘍増大を引き起こし、ICB応答を障害するという懸念が明確に示されたことは新規の発見である。これらの結果は、がん患者のICB治療における食事介入の重要性に関する新たなエビデンスを提供する。

臨床応用: 本知見は、ICB治療を受けるがん患者への食事指導に直接的な臨床的含意を持つ。具体的には、十分な食物繊維摂取を推奨し、市販プロバイオティクスサプリメントの無差別な使用を制限することが、治療効果の最適化に繋がる可能性がある。特に、食物繊維が豊富な食事は、腸内細菌叢の多様性を高め、抗腫瘍免疫応答を強化する可能性があり、これは臨床現場での患者指導に組み込むべき重要な要素である。ただし、個々の患者の腸内細菌叢の組成や、特定のプロバイオティクス株が持つ潜在的な有益効果については、さらなる研究が必要である。

残された課題: 本研究は観察研究であるため、未測定の交絡因子が存在する可能性や、食物繊維摂取量が他の健康的な食習慣(野菜、果物、豆類摂取など)と強く相関しているため、食物繊維単独の効果を完全に分離することが困難であるというlimitationがある。また、プロバイオティクスの種類が多様であったため、個々のプロバイオティクス株の影響を詳細に評価するには検出力が不足していた可能性も残された課題である。今後の検討課題として、進行中の食事介入臨床試験(NCT04645680)による前向き検証が不可欠である。さらに、特定のプロバイオティクス組成や細菌コンソーシアムが有益な効果を持つ可能性についても、さらなる基礎研究および臨床研究が必要である。例えば、Tanoue et al. Nature 2019のような、合理的に設計された細菌コンソーシアムの有効性を評価する研究が求められる。

方法

本研究は、ヒトコホート研究と前臨床マウスモデル研究を組み合わせた多角的なアプローチで実施された。

ヒトコホート研究: メラノーマ患者438例(転移性メラノーマ患者321例を含む)を対象とした。これらの患者から糞便サンプルを収集し、16S rRNA遺伝子シーケンシングおよびメタゲノムシーケンシングにより腸内細菌叢のプロファイリングを行った。治療応答は、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009基準に基づき、奏効者(R: 完全奏効/部分奏効/6ヶ月以上の安定病変; n=193)と非奏効者(NR: 6ヶ月未満の安定病変/病勢進行; n=100)に分類された。

ICB開始時に、患者158例のサブセットに対してライフスタイル調査を実施した。この調査には、NCI-DSQ (National Cancer Institute Dietary Screener Questionnaire) を用いた26種類の食品項目からの食物繊維摂取量の評価と、過去1ヶ月間の市販プロバイオティクスサプリメントの使用状況が含まれた。食物繊維摂取量の評価は128例の患者で実施された。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)と奏効率であった。統計解析には、Cox比例ハザード回帰モデルおよびロジスティック回帰モデルを用い、年齢、性別、BMI、先行治療、抗生物質使用などの潜在的交絡因子で多変量調整を行った。腸内細菌叢の多様性解析には、Wilcoxon順位和検定およびPERMANOVA (permutational multivariate analysis of variance) を用いた。

前臨床プロバイオティクス実験: 無菌(Germ-Free, GF)C57BL/6マウスに、抗PD-1療法で完全奏効(CR)した患者の糞便微生物叢移植(FMT)を行った。その後、市販のプロバイオティクス(Bifidobacterium longum 35624ベースまたはLactobacillus rhamnosus GGベース)または滅菌水を経口投与した。BrafV600E/PTEN-/- (BP) メラノーマ細胞を皮下移植し、抗PD-L1抗体で治療した。腫瘍サイズを経時的に測定し、腫瘍浸潤免疫細胞(IFN-γ陽性CD8+ T細胞など)をフローサイトメトリーで評価した。プロバイオティクス株の生存率と組成は培養およびシーケンシングで確認した。

前臨床食物繊維実験: 通常飼育(Specific Pathogen-Free, SPF)C57BL/6マウスに、繊維豊富食(17.6%繊維)または繊維少食(2%繊維)を投与した。メラノーマ細胞を皮下移植し、抗PD-1抗体で治療した。同様の実験を無菌マウスでも実施し、食物繊維の効果が微生物叢に依存するかどうかを確認した。腫瘍サイズを測定し、腫瘍浸潤CD45+細胞のRNAシーケンシングおよびフローサイトメトリー解析を行った。糞便サンプルから短鎖脂肪酸(SCFA)などの代謝産物をメタボロミクスで測定した。腸内細菌叢の解析には、ショットガンメタゲノムシーケンシングを用いた。統計解析には、線形混合モデルおよびWilcoxon順位和検定を用いた。