• 著者: MacLean C. Sellars, Catherine J. Wu, Edward F. Fritsch
  • Corresponding author: Catherine J. Wu (Department of Medical Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA); Edward F. Fritsch (Department of Medical Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Boston, MA, USA)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2022
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Review
  • PMID: 35835100

背景

感染症ワクチンの劇的な成功を腫瘍標的に拡張し、患者自身の免疫系でがんを排除する——これが治療用がんワクチンの基本目標であるが、その達成は長らく困難であった。感染症が急性の外来性病原体の侵入を契機とするのに対し、腫瘍は宿主の自己細胞から発生し、免疫監視を回避しながら数年〜数十年かけて臨床的に顕在化するという根本的な違いがある。免疫系が腫瘍を認識・排除する「排除」から、持続的拮抗状態を維持する「平衡」、最終的にがんが免疫監視を完全に回避する「逃避」へと進行するがん免疫編集 (cancer immunoediting) の概念は、この宿主と腫瘍の長期的な共進化を説明するフレームワークとして確立されている (Dunn et al. NatImmunol 2002)。

腫瘍が免疫逃避を達成した後も、がん免疫サイクル (cancer-immunity cycle) を再起動させることが免疫療法の中心的戦略とされる (Chen et al. Immunity 2013)。免疫チェックポイント阻害薬 (ICB: immune checkpoint blockade) はこのサイクルの終末段階で疲弊T細胞を再活性化することで劇的な臨床効果をもたらしたが、奏効する患者は依然として少数にとどまる。この「応答者」を増やすために、腫瘍特異的T細胞を新たに誘導または拡大するアプローチとして治療用がんワクチンが再注目されている。特に、腫瘍固有の体細胞変異に由来するネオアンチゲン (neoantigen) は免疫学的に完全な「非自己」であり、中枢性免疫寛容を回避できる標的として、2017年の個別化ネオアンチゲンワクチンの第I相試験でメラノーマ患者における高い免疫原性が実証された (Ott et al. Nature 2017; Sahin et al. Nature 2017)。

しかし、ネオアンチゲンワクチンを実用化する上では多重の障壁が存在することが明らかになってきた。第一に、一塩基バリアント (SNV: single-nucleotide variant) やインデル (indel) のみを対象とする現行の予測技術では、スプライシング異常・非注釈ORF・内在性レトロウイルスなどに由来するネオアンチゲンが見落とされ、これらが潜在的抗原プールの相当割合を占める可能性がある。第二に、生存腫瘍細胞が形成する免疫抑制性腫瘍微小環境 (TIME: tumor-immune microenvironment) は、ワクチンで誘導したエフェクターT細胞が腫瘍に到達し機能を発揮することを阻む複合的障壁となる。第三に、既存のネオアンチゲン特異的腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: tumor-infiltrating lymphocyte) の多くがエピジェネティックな「疲弊スカー」を保持しており、ワクチン刺激だけで再活性化することが難しい。これらの課題に対し、抗原選択・APC送達・TIME克服・併用療法を統合した体系的な設計指針が不足しており、感染症ワクチンで得られた自然免疫の知見をがんワクチン設計に橋渡しする包括的な概念整理にgap in knowledgeがあった。

目的

本レビューは、自然免疫の原理を出発点として、治療用がんワクチンの設計に関わる4つの柱——(1)免疫細胞の生物学、(2)抗原選択、(3)抗原提示細胞 (APC: antigen-presenting cell) への送達、(4)併用療法——を包括的に整理し、次世代の個別化がんワクチン開発に向けた臨床転換可能な指針を示すことを目的とする。特に、ネオアンチゲン予測における現行技術の盲点、主要組織適合遺伝子複合体 (MHC: major histocompatibility complex) への提示機序、樹状細胞 (DC: dendritic cell) サブセットの標的化戦略、TIMEを構成する多様な免疫抑制細胞への対処法、およびICBとの最適な投与スケジュールを論じる。さらに、ヒトにおけるワクチン効果の多角的な免疫モニタリング戦略と、代替アプローチとしての全腫瘍細胞 (WTC: whole-tumor cell) ワクチンへの回帰についても検討する。

結果

自然免疫の基本原理とがん特有の免疫学的障壁:感染症に対する自然免疫は、病原体関連分子パターン (PAMP: pathogen-associated molecular pattern) やダメージ関連分子パターン (DAMP: damage-associated molecular pattern) がパターン認識受容体 (PRR: pattern-recognition receptor) を介してAPCに認識されることで開始する (Fig 1)。活性化DCは成熟してリンパ節に移行し、MHCIへのクロスプレゼンテーションによりCD8+細胞障害性Tリンパ球 (CTL: cytotoxic T lymphocyte) を誘導し、MHCII提示を介してCD4+ヘルパーT細胞を活性化する多層的応答ネットワークが構築される。しかし、がんはウイルス誘発性がん数種を除いて外来性PAMPを欠く自己由来疾患であり、自然免疫の開始シグナルそのものがgapとなる。中枢性免疫寛容によって強力な自己抗原反応性T細胞は胸腺で排除され、末梢の制御機構がさらに自己反応を抑制する。また、慢性的な抗原曝露により腫瘍浸潤T細胞はPD-1+の「疲弊」状態に移行し、腫瘍排除能を失う。加えて、遺伝的不均一性の高い腫瘍では免疫圧力により抗原喪失クローンが選択され、ワクチンで標的とした抗原が消失するリスクが存在する (Anagnostou et al. CancerDiscov 2017)。現行の予測アルゴリズムでは、予測エピトープのうち実際にCD8+応答を誘導するものは15%-30%に過ぎず、この自然免疫と治療的ワクチン誘導免疫のギャップを埋める戦略が求められる。

免疫抑制TIMEの多層的細胞構成と分子機序:生存腫瘍は免疫圧力を逃れた後、周囲の非悪性細胞を動員して複雑な免疫抑制エコシステムを形成する (Fig 2)。腫瘍関連マクロファージ (TAM: tumor-associated macrophage) は多くのがん種で最も豊富な免疫抑制細胞の一つであり、VEGF産生による血管新生促進、TGFβ産生によるTreg分化誘導など多様な機序でエフェクターT細胞を阻害する。骨髄由来抑制細胞 (MDSC: myeloid-derived suppressor cell) は機能的・形態的に「抑制性かつ未熟」として定義され、高次元技術により組織特異的な「原型 (archetype)」が同定されつつある。制御性T細胞 (Treg: regulatory T cell) とエフェクターCD8+ T細胞の比率は正の予後因子であるが、MHCII陽性メラノーマの腫瘍浸潤リンパ球内でネオアンチゲン特異的Tregの増殖が確認されており、ワクチン接種が意図せずTregを誘導する可能性がある。がん関連線維芽細胞 (CAF: cancer-associated fibroblast) は物理的なストローマ障壁によりT細胞を腫瘍から排除し、免疫調節DC (mregDC: mature regulatory dendritic cell) はAXL依存的なPD-L1上方調節によりT細胞応答を陰性調節する。質量分析を用いたメラノーマ患者n=5の直接免疫ペプチドーム解析では、同定された真のMHCIネオアンチゲンは11件であり、うち実際にT細胞応答を誘導したのは4件のみであった。この低いヒット率は、TIMEによる抗原提示機構の修飾を含む多段階の障壁を反映している (Jhunjhunwala et al. NatRevCancer 2021)。

CD4+ヘルパーT細胞による樹状細胞ライセンシングとT細胞サブセット多様性:がんワクチン研究は長年CTLの誘導に焦点を当ててきたが、有効な抗腫瘍免疫の確立にはCD4+ヘルパーT細胞との協調が不可欠であることが明確になった (Fig 3)。シンジェニック腫瘍モデルにおいて、CTLを介した腫瘍制御とICB効果はともにMHCII拘束性ネオアンチゲンを認識するCD4+ T細胞に完全に依存しており、同一APC上のMHCI/MHCII双方への提示とCD40L-CD40相互作用による「ライセンシング (licensing)」が最大のCTL応答を引き出すために必要である。このCD40シグナルはCD40アゴニスト抗体で模倣でき、さらにCD27アゴニスト抗体 (CD70シグナルを模倣) との組み合わせがペプチドワクチン応答とシンジェニック腫瘍制御を増強する。また、CD4+ T細胞は転移性胆管がん患者n=1においてネオアンチゲン特異的CD4+ TIL移入単独で腫瘍制御を達成しており (Tran et al. Science 2014)、直接的な細胞傷害活性を発揮し得ることも示された。T細胞サブセット多様性の観点では、エフェクターメモリーT細胞 (TEM: effector memory T cell)、組織常在メモリーT細胞 (TRM: tissue-resident memory T cell)、中枢記憶T細胞 (TCM: central memory T cell) の3形態が存在し、ワクチンによる強力なTCM誘導が長期的な抗腫瘍応答に最も有利と考えられている。がんや慢性感染症ではPD-1+疲弊T細胞が蓄積するが、増殖能・自己複製能・分化能を保持する「前駆疲弊」T細胞サブセットがICB効果に不可欠であることも明らかとなった (Sade-Feldman et al. Cell 2018)。

B細胞と三次リンパ構造における協調的抗腫瘍免疫:T細胞に比べてがんワクチン文脈でのB細胞の役割は過小評価されてきたが、腫瘍内または腫瘍周辺に形成される三次リンパ構造 (TLS: tertiary lymphoid structure) においてB細胞が豊富に浸潤している患者では、複数のがん種で生存期間延長とICB応答が相関する。マウスモデルにおいて、腫瘍抗原特異的B細胞と腫瘍抗原特異的濾胞性ヘルパーT細胞 (TFH: T follicular helper cell) の相互作用が、IL-21依存的なTFH分化支持と共にCTLの分化とICB感受性を高めることが示されている。B細胞はAPC機能も持ち、MHCII上に提示したペプチドを介してCD4+ T細胞を活性化し相互の応答を増幅する。さらに卵巣がんでは、ネオアンチゲン特異的IgAが骨髄系細胞を腫瘍攻撃に動員することで腫瘍増殖抑制に寄与することも報告されている。これらの知見は、ワクチン設計においてMHCI・MHCII・B細胞エピトープの三者を包含する抗原構造の重要性を示すとともに、最小長MHCI/CD8+エピトープのみを投与する還元主義的アプローチの限界を指摘している。

ネオアンチゲン予測の限界と技術的盲点:現行のネオアンチゲンワクチンはSNVやインデルを主な標的とするが、これらは腫瘍が保有する潜在的ネオアンチゲン全体の一部に過ぎない (Fig 4)。予測技術の盲点として以下が挙げられる:非注釈オープンリーディングフレーム (nuORF: unannotated open reading frame) 由来ペプチド、遺伝子再編成・タンデム重複転写産物、exitron(遺伝子内イントロンとして定義される配列の代替スプライシング)、スプライシング機構の変異または脱調節による異常スプライシング、異常翻訳(欠陥リボソーム産物、代替開始部位からのペプチド)、内在性レトロウイルスエレメント (ERV: endogenous retroviral element)、ならびにA-to-I RNA編集。これらの盲点により、特定のDNA修復異常(例:CDK12変異前立腺がん)を持つ腫瘍では、現行手法が潜在的ネオアンチゲンの50%超を見落とす可能性がある。ネオアンチゲン同定には3戦略が存在する:(1) 予測 (Prediction) — NetMHCpanなどのアルゴリズムは大規模MS免疫ペプチドームデータでの訓練により向上したが、複数の臨床試験で予測エピトープに対するCD8+応答誘導率は15%-30%に留まった。(2) 観察 (Observation) — メラノーマ患者n=5の腫瘍組織を直接MS解析した研究では、真のMHCIネオアンチゲン11件のうちT細胞応答を誘導したのは4件のみであった。(3) スクリーニング (Screening) — 患者末梢血T細胞を用いた直接応答試験(NCT03633110)では、予測「強結合」エピトープの<10%しか実際の応答を示さず、逆に予測基準外のエピトープから約30%の陽性応答が検出された。また、T細胞応答を抑制する「インヒビゲン (inhibigen)」の存在も明らかになった。さらに、既存のネオアンチゲン特異的TILの多くはエピジェネティックな疲弊スカーを保持しており (Caushi et al. Nature 2021)、ワクチン刺激のみでこれらを再活性化することの難しさが問題提起されている。

抗原送達プラットフォームと樹状細胞サブセット標的化:自然免疫を模倣するためには、ワクチン抗原を適切なAPCに適切な成熟シグナルとともに届けることが不可欠である (Fig 5)。DCサブセットの中でもCLEC9A・XCR1を発現するcDC1 (conventional dendritic cell type 1) はクロスプレゼンテーション能が最も高く、シンジェニック腫瘍モデルにおいてCD4+およびCD8+ T細胞応答の双方のプライミングに必須であることが示されている。CD1c+のcDC2 (conventional dendritic cell type 2) はCD4+ヘルパーT細胞プライミングに重要であり、Treg除去下では腫瘍排除を誘導し得る。FLT3L (Fms-like tyrosine kinase 3 ligand) 前投与は循環DC数を約30-fold増加させ、抗DEC-205/NY-ESO-1融合ワクチンとの組み合わせにより抗体・T細胞応答が増強されることが臨床試験で確認されている。アジュバントの設計においては、LPSとoxPAPC(酸化リン脂質DAMPの一種)がともにカスパーゼ-11/NLRP3依存的にIL-1β産生を誘導するにもかかわらず、oxPAPCはLPS誘導のパイロトーシス(pyroptosis)を阻止することで長命な「超活性化 (hyperactivated)」DCを生み出し、LN移行能とCTL誘導能が向上することが示された。抗原とアジュバントを同一ナノ粒子に封入して同一APCに共送達することの重要性も繰り返し強調されており、TLR7/8アゴニストと修飾ペプチド抗原を組み込んだナノ粒子は、CD8+応答の規模と多様性を単純混合投与より有意に改善した。送達経路では、ナノ粒子抗原/アジュバントの静脈内投与と皮下投与を比較した実験で、同等の循環T細胞数に調整しても腫瘍制御は静脈内投与で有意に優れ、TCF-1+の幹様細胞の割合が高いことと関連した。ワクチン形式としては合成長鎖ペプチド (SLP: synthetic long peptide)、mRNA、DNAプラスミド、微生物ベクター、細胞ベクター (ex vivo DC)、in situ投与の各形式が整理されており、それぞれ固有の利点と課題を持つ。

免疫チェックポイント阻害薬との順序化と全腫瘍細胞ワクチンの再台頭:ネオアンチゲンワクチン単剤ではTIMEの多重障壁を突破することが困難であり、ICBや他の療法との組み合わせが必要となる (Fig 6)。しかし投与順序には厳格な生物学的規則が存在する。マウスモデルにおいて、ワクチン接種と同時のPD-1遮断は強力なT細胞応答と腫瘍制御をもたらす一方、ワクチン接種の3日前からのPD-1遮断開始では機能不全なPD-1+CD38hiT細胞が誘導され、治療抵抗性を生じさせた。同様に、放射線照射前にPD-1遮断を行うと遠隔腫瘍効果(アブスコパル効果)が著しく減弱し生存期間が短縮した。これらは、ICB先行投与がワクチン誘導免疫に干渉する可能性を示す。進行メラノーマ・非小細胞肺がん・膀胱がんを対象とした第Ib相試験(n=20 patients)では、個別化ネオアンチゲンワクチンと抗PD-1抗体の組み合わせにより持続的メモリーT細胞応答とエピトープ拡がり (epitope spreading) が誘導された (Ott et al. Cell 2020)。代替アプローチとして全腫瘍細胞ワクチンが再注目されている。WTCワクチンはネオアンチゲン予測を必要とせず、腫瘍内の全抗原レパートリーにAPCを曝露させることで予測技術の盲点を回避できる。酸化処理した自己卵巣腫瘍溶解物を搭載したモノサイト由来DC (moDC: monocyte-derived dendritic cell) ワクチンでは、患者n=25においてde novo でのネオアンチゲン特異的T細胞応答の誘導・拡大・TCRアビディティの向上が観察され、免疫原性と無増悪生存期間・全生存期間の間に正の相関が示された。また大量のWTC製剤中の自己抗原に対して自己免疫が誘発されなかった事実は、中枢性免疫寛容および免疫優性 (immunodominance) の関与を示唆する興味深い知見である。

考察/結論

本レビューはがんワクチンの50年に及ぶ限定的な成功の歴史を踏まえ、自然免疫の基本原理を橋渡しとして治療用がんワクチンを実用化するための統合的な設計フレームワークを提示した。

先行研究との違い:従来のがんワクチン研究が主にCTLの誘導単独に焦点を当て、特定の腫瘍関連抗原(正常組織にも発現)やHLA-A拘束性ミニマルエピトープのみを対象とする還元主義的アプローチを採ってきたのと異なり、本レビューはCD4+ヘルパーT細胞によるAPC「ライセンシング」、B細胞とTFHの三次リンパ構造内相互作用、記憶T細胞サブセットの多様性といった多細胞ネットワークを免疫設計の必須要素として位置づけた。また、初期ネオアンチゲンワクチン臨床試験の有望な免疫原性データと対照的に、その後の大規模解析でCD8+応答誘導率が15%-30%に留まった要因を、予測盲点・TIME・T細胞疲弊スカーという三層構造として既報より体系的に整理した点が独自の貢献である。さらに、WTCワクチンへの回帰という「out-of-the-box(型破りな)」な提案を、自然免疫の原理(死にゆく細胞を抗原源・アジュバント源とするAPC活性化)と合致するものとして再定義した点は、これまでの研究でのWTCへの散発的な関心とは異なる本論文の明確なポジションを示す。

新規性:本レビューが新規に体系化した最重要点の一つは、現行のゲノム解析技術が見落とすネオアンチゲンの「盲点」の分類である。SNV/indelが主標的とされてきた一方、nuORF、exitron、ERV、代替スプライシング、欠陥翻訳産物 (DRiPs: defective ribosomal products) 等が腫瘍によっては潜在的ネオアンチゲンの50%超を構成する可能性がある(Wu 2018, CDK12変異前立腺がんの報告)。これはnovelな分類であり、次世代シーケンシングとバイオインフォマティクスの開発方向性に重要な示唆を与える。また、LPSとoxPAPCによるDC活性化経路の違い(pyroptosis抑制によるhyperactivated DC生成)や、静脈内投与によるTCF-1+幹様T細胞増加という送達経路依存的な免疫応答の差異も本研究で初めて体系的に文脈化されたメカニズム的知見である。

臨床応用:本知見の臨床応用は複数の方向性を開く。第一に、mRNAプラットフォームを用いた個別化ネオアンチゲンワクチンとICBの順序付き併用(ICB先行投与ではなく同時または後続投与)は、臨床的意義の高い戦略として複数の固形がん種で試験が進行中である(NCT05141721等)。第二に、術後アジュバント設定でのワクチン投与は、TIMEの免疫抑制が完全に形成される前の微小残存病変に対して免疫監視を再起動させる機会を提供し、臨床現場での実用化に最も近い。第三に、WTCワクチンと標準化学療法による免疫原性細胞死 (ICD: immunogenic cell death) との組み合わせは、十分なDAMPシグナルを産生してAPC活性化を増強するbench-to-bedside型の戦略として有望である。第四に、エピトープ拡がりの検出(ELISpot・テトラマー染色による末梢血解析)は腫瘍細胞傷害の代替マーカーとして臨床的有用性が高く、試験デザインへの組み込みが推奨される。

残された課題残された課題は多い。第一に、MHCII拘束性エピトープ(CD4+ヘルパーT細胞標的)の予測アルゴリズム精度はMHCIのそれより著しく遅れており、効果的なCD4+ヘルパー応答誘導のための標的選択技術の確立が今後の検討として急務である。第二に、ネオアンチゲン特異的Treg(MHCII発現メラノーマのTILで確認)の誘導リスクをワクチン接種で回避する方策については、Treg抗原特異性の実験的解明を含む更なる検討が必要である。第三に、既存T細胞の疲弊スカーを消去することが可能かどうか、または疲弊していないナイーブT細胞からde novoクローンを誘導する戦略を優先すべきかという問いは、今後の研究によって明確にされる必要がある。第四に、個別化ネオアンチゲンワクチンの製造時間・コストは依然として大きな障壁であり、製造プロセスの大幅な効率化なしには標準治療との競合設定(ICB先行投与期間との重複問題)を解決できない。第五に、マウスモデルの知見をヒトに外挿する際の根本的な限界——80百万年の進化的分岐、異なる病原体曝露歴、TIMEの形成速度の違い——を踏まえた「逆向き翻訳 (reverse translation)」戦略、すなわちヒト臨床サンプルから新概念を導出し前臨床に戻す研究設計の確立がfuture researchとして強調されている。

方法

本論文は包括的レビューであり、特定の患者コホートへの介入や独自の前臨床実験は含まない。著者らはDana-Farber Cancer InstituteおよびBroad Institute of MIT and Harvardに所属する研究者であり、自然免疫、がんワクチン、ネオアンチゲン生物学、DC生物学、TIME、および臨床試験に関する文献をPubMed・Embase・Web of Scienceを用いて網羅的に検索・選定した。選定対象は2000年〜2022年に発表された主要な査読付き論文とし、ClinicalTrials.govに登録された進行中の臨床試験情報も参照した。

文献の選定において以下の研究デザインを重視した。(1) C57BL/6またはBALB/cマウス系統を用いたシンジェニック腫瘍モデルにおいて免疫学的機序が詳細に解析されている前臨床研究。(2) 主要MHCIアレルに対するペプチド結合予測アルゴリズム(NetMHCpan、MHCflurry algorithm)と質量分析 (MS: mass spectrometry) を用いた免疫ペプチドーム解析を組み合わせてエピトープ同定精度を評価した研究。(3) 個別化ネオアンチゲンワクチンの臨床試験(NCT03633110、NCT03794128等)において生存分析にKaplan-Meier法・log-rank検定を適用し、多変量解析にCox regression(コックス比例ハザード回帰)を用いた研究。(4) 末梢血T細胞をIFNγ ELISpotやテトラマー染色で評価し、ワクチン誘導免疫応答を定量的に解析した研究。

ネオアンチゲンの観察的同定においては、患者腫瘍組織からのMS免疫ペプチドーム解析結果、およびMHC結合安定性・プロテアソーム切断効率・輸送体 (TAP: transporter associated with antigen processing) によるER輸送効率を包括した多段階フィルタリングの評価結果を統合した。また、副作用や自己免疫性の観点からの安全性データ、製造プロセスの実現可能性(個別化ワクチン製造に要する期間・コスト)についても評価を加えた。