• 著者: M. Donia, N. Junker, E. Ellebaek, M. H. Andersen, P. T. Straten, I. M. Svane
  • Corresponding author: I. Marie Svane (Center for Cancer Immune Therapy, Department of Haematology, Copenhagen University Hospital at Herlev, Denmark)
  • 雑誌: Scandinavian Journal of Immunology
  • 発行年: 2012
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21955245

背景

転移性メラノーマに対する ex vivo 増殖腫瘍浸潤リンパ球 (TIL; tumor-infiltrating lymphocyte) の養子細胞移入療法 (ACT; adoptive cell therapy) は、IL-2 との併用で単施設フェーズ II 試験において約 50% の客観的奏効率、22% の持続的完全寛解率を達成し、前治療失敗例にも有効な治療法として頭角を現していた。しかし ACT は複雑かつ労働集約的な細胞製造工程を要し、世界でも National Cancer Institute (Bethesda)、M.D. Anderson Cancer Center (Houston)、Sheba Medical Center (Tel-Hashomer) など限られた施設でしか実施されていなかった。欧州施設からの臨床データは未だ乏しく、製法の標準化が急務であった。

移入細胞の質がACT成績を規定する重要因子であることは複数の前臨床・臨床研究が示していた。移入後の in vivo 持続性はテロメア長と相関し、CD27・CD28 高発現の未分化 T 細胞ほど長期生存能を保つ (Zhou et al. 2005)。また移入 CD8+ T 細胞の絶対数や ex vivo 培養期間・分化段階が臨床応答と関連することも明らかにされていた (Farber et al. NatRevImmunol 2014)。腫瘍微小環境における NK 細胞サブセットの免疫調節機能も近年注目されており (Duan et al. MolCancer 2019)、TIL 産物中の NK 細胞の性状は未解明のまま残されていた。このような知見から、培養期間を最短化し早期分化状態の TIL を産生する「Young TIL」プロトコルが Tran et al. (2008) ら複数グループで報告され、従来の「Standard TIL」法との比較で優れた特性が示唆されていた。しかし欧州の独立機関でこの手法を確立・検証し、両プロトコルを同一腫瘍標本から直接比較した研究はなく、特に大規模 REP (rapid expansion protocol) が両タイプの TIL 表現型・腫瘍反応性に及ぼす影響に関するデータが不足しており、また TIL 培養物中に存在する NK 細胞サブセットの詳細な特性解析も未実施であることが重要な未解明 gap として残っていた。

目的

コペンハーゲン大学病院 Herlev の Center for Cancer Immune Therapy (CCIT) において Young TIL プロトコルを新たに確立・検証し、同一腫瘍標本から並行生成した Young TIL と Standard TIL の表現型・テロメア長・腫瘍抗原認識能を直接比較すること。加えて、REP による大規模増殖が両タイプの TIL 特性に与える影響を解明し、ACT 臨床試験 (NCT00937625) への Young TIL 導入根拠を提供することを目的とした。

結果

培養確立率と生成効率の比較: 7 例中 6 例 (成功率 85.7%) から Young TIL および Standard TIL 双方の生成に成功した。残り 1 例は壊死組織が主体の標本であり、どちらの TIL も得られなかった。合計 27 個の Standard TIL 培養物 (1 患者あたり 4.5 ± 2.7 個) と 6 個の Young TIL 培養物が成立した。培養確立までの期間は Young TIL で平均 24.8 ± 5.4 days、Standard TIL で 44.6 ± 10.5 days であり、Young 法は約 20 日の大幅短縮を実現した。126 個の Standard TIL 培養 (患者あたり 18 個) を開始したうち 27 個が評価可能水準に達したのに対し、Young TIL は全例でプール培養を完遂した (Fig. 1A)。

Young TIL における早期分化 CD8+ T 細胞表現型の優位性: 表現型解析では、Young TIL・Standard TIL ともに主にエフェクターメモリー T 細胞 (CD45RA-CCR7-) で構成され、CD4/CD8 比は標本間・同一標本内フラグメント間でも大きく変動した (Fig. 2A, B)。CD4+ と CD8+ T 細胞の相対頻度に有意差はなかったが、Young TIL における CD8+ T 細胞は共刺激分子 CD27 の発現が有意に高く (p<0.05)、CD56 の発現が低い傾向を示した (Fig. 2C, D)。CCR7・CD62L・CD57・CD28 の発現や CD27/CD28 の同時発現頻度については両群間に有意差がなかった。この結果は、培養期間の短縮が CD8+ T 細胞の分化進行を抑制し、より若い表現型を維持する事実を裏付けるものである (Duan et al. MolCancer 2019)。

CD27+CD8+ サブセットのテロメア長優位性: n=4 例の Young TIL 培養物において、Flow-FISH を用いた同時表面マーカー染色・テロメア測定を実施した。全例 (n=4/4) で CD27+CD8+ TIL は CD27-CD8+ TIL より長いテロメアを有し、平均増加率は 4.37 ± 3.35% (p=0.037) であった。この差は健常ドナー PBMC における CD28 発現別 CD8+ T 細胞サブポピュレーション比較 (Schmid et al. 2002) と類似した知見であり、CD27 が早期分化状態の信頼性の高い分子マーカーであることを支持する。テロメア長の長さは移入後 in vivo 持続性および腫瘍退縮と相関することが先行研究で示されており (Zhou et al. 2005)、Young TIL の臨床的優位性を示す重要なバイオマーカーとなる。

TIL 培養物中の CD56bright NK 細胞の初同定: 解析した全ての TIL 培養物において NK 細胞 (CD3-CD56+) が可変的な頻度で検出されたが、その頻度は Standard TIL より Young TIL で有意に高かった (Fig. 3A)。注目すべきことに、これらの NK TIL のほぼ 100% が CD56 を極めて高レベルで発現しており、同じ培養物中の CD3+CD8+ 細胞や健常ドナー末梢血の NK 細胞 (>85% が CD56dim CD16high) と明確に異なる CD56bright 表現型を示した (Fig. 3B, C, D)。低親和性 Fc 受容体 CD16 は、これらの CD56bright NK TIL のわずか 23.9 ± 8.6% にのみ発現が限定されていた。この CD56bright NK 細胞サブセットは TIL 培養物中で初めて同定されたものであり (Bianca et al. NatRevImmunol 2026)、REP 中にはほとんど増殖せず全 REP 培養物から消失した。

腫瘍抗原特異性と抗腫瘍反応性の同等性: Young TIL (n=3 培養物)・Standard TIL (n=9 培養物) の合計 n=12 培養物を自己腫瘍細胞 (E/T 比 3:1) と共培養したところ、全 12 培養物で CD8+ T 細胞の抗腫瘍特異的応答が確認された。応答は TNFα+IFNγ+ 二重陽性 (DP) および TNFα+IFNγ+CD107a+ 三重陽性 (TP) CD8+ T 細胞として定量化され、患者間で大きく変動した (Fig. 5B, C)。癌精巣抗原 TAG 由来 HLA-A*03 拘束性ペプチド特異的 CD8+ T 細胞は Young TIL で 1.16%、Standard TIL では平均 0.15 ± 0.10% と Young TIL で約 8 倍高頻度であった (Fig. 5A)。CD4+ T 細胞の抗腫瘍応答は 3 例中 1 例で確認された (Fig. 5D)。

REP による表現型シフトと腫瘍特異的 T 細胞動態: 5 例の Young TIL 培養物に 14 日間の REP を施行したところ、Day 14 の平均増殖倍率は 2770 ± 1770-fold に達し、過去の臨床試験内部データと同等以上であった。REP 後、CD4+・CD8+ T 細胞の相対頻度は変化しなかったが、CD8+ TIL は CD27 発現を有意に低下させ CD56 発現を上昇させた (p=0.016)、という分化進行を示す表現型シフトが観察された (Fig. 4A, B)。CCR7・CD62L・CD57・CD28 には有意変化がなかった。TAG 特異的 CD8+ T 細胞高頻度 2 培養物 (TIL 11・TIL 1701) を追跡した結果、18 日間の延長培養 (18-fold・32-fold 増殖) および REP (3255-fold・5800-fold 増殖) 後に腫瘍抗原反応性全体は 3 例中 2 例で低下傾向を示した (Fig. 6)。CD27+ 腫瘍反応性 (DP または TP) CD8+ T 細胞の頻度は 3 例全例・両条件で低下した (Fig. 7)。しかし頻度は減少したものの、大規模増殖の結果として応答性 CD27+CD8+ T 細胞の絶対数は維持または増加した。

考察/結論

本研究は、デンマーク翻訳研究機関 CCIT において Young TIL プロトコルを確立・検証し、Standard TIL との初の direct head-to-head 比較を行ったものであり、ACT 現行試験 (NCT00937625) への Young TIL 導入を支持する複数の新たな知見を提供した。

先行研究との違い: これまでの研究 (Tran et al. 2008) が示した「Young TIL は Standard TIL と同様の細胞組成を持ちつつより優れた表現型を示す」という報告を、欧州機関において独立に再現・確認した点で本研究は既報と一致する。一方、CD27 発現 CD8+ T 細胞が CD27- 細胞と比較してテロメア長が優位であるという直接的な証拠を、サブポピュレーション特異的 Flow-FISH という方法論で示した点は、これまでの研究が全 TIL 集団のテロメアを評価していたのと対照的である。また Standard TIL と比較して Young TIL の CD56+ CD8+ T 細胞頻度が低いことを示し、広範な ex vivo 培養が CD27 消失と CD56 獲得を段階的に進行させるモデルを提唱した点も新規性を持つ。

新規性: 本研究で初めて、TIL 培養物中に末梢血 CD56bright NK 細胞と同様の表現型を有する NK TIL サブセットの存在を報告した。これまで報告されていない知見であり、このサブセットが in vivo でメラノーマ組織に優先的に浸潤するのか、あるいは ex vivo 培養条件によって誘導されるのかは今後の研究課題である。CD56bright NK 細胞は IFNγ・TNFα・GM-CSF 等を豊富に産生する免疫調節機能を持つとされており、TIL 培養物中での機能的意義の解明が求められる。さらに Young TIL における CD56bright NK 細胞の高頻度検出と REP 中の消失という挙動は、新規な細胞生物学的所見として今後の ACT プロトコル設計に情報を提供しうる。

臨床応用: 本研究の知見は、Young TIL 法が Standard TIL と同等の腫瘍反応性を維持しながら、より早期分化状態 (CD27 高発現・長テロメア) の細胞製品を短期間で提供できることを示し、ACT の臨床応用における Young TIL 導入の根拠を強化するものである。臨床試験 (NCT00937625) において既に 5 例が治療を受け 1 例が治療開始後 20 か月以上の完全寛解を達成しており、この治療基盤の改善は clinical meaningを持つ。さらに Young TIL が提供する CD27+CD8+ T 細胞の絶対数の優位性は、大規模増殖 (REP) 後も腫瘍特異的早期分化 T 細胞の総数を維持・増加できるという転帰につながり、bridge-to-bedside の観点から重要な知見である。

残された課題: REP 後に CD27+腫瘍反応性 CD8+ T 細胞の頻度が低下するという所見は、現行の高用量 IL-2 依存 REP の limitation を示唆する。IL-2 はリンパ器官ホーミング分子の発現を低下させ T 細胞の最終分化を促進するため、IL-15・IL-21 を活用した代替 REP 条件の探索が今後の検討課題として強く示唆される。患者数 n=7 という限られたコホートでの結果であり、より大規模な検証が必要である点は limitation として明確に認識される。また CD56bright NK TIL の in vivo での機能・由来・培養条件依存性を解明する future research が強く求められる。培養期間短縮と大規模数的増殖の間に生じる表現型・機能のトレードオフをどのように最小化するか、REP 最適化の観点からも更なる検討が必要である。

方法

患者・腫瘍標本: 転移性メラノーマ患者 7 例から手術で採取した腫瘍標本を用いた。倫理委員会承認済み・ヘルシンキ宣言準拠。平均年齢 56 ± 22 years、男性 5 例・女性 2 例、HLA-A2 陰性 6 例。腫瘍塊をメスで 1-3 mm³ フラグメントにスライスして使用した。

TIL 培養プロトコル: Standard TIL は各フラグメントを 24 ウェルプレートに個別配置し、6000 IU/ml rhIL-2 含有 RPMI 完全培地 (CM) で増殖、コンフルエント時に順次分割して 40 × 10⁶ cells 以上を収穫。Young TIL は約 24 フラグメント由来細胞をプールし、コンフルエント達成・接着腫瘍細胞消失時点で 50 × 10⁶ cells 以上を一括収穫した。自己メラノーマ培養物は同病変由来 12 フラグメントから RPMI + 10% FBS + 500 ng/ml Solu-Cortef で樹立した。

REP: 2 × 10⁵ cells を放射線照射 (40 Gy) 同種 PBMC フィーダー細胞 (2 × 10⁷)・OKT3 (30 ng/ml)・IL-2 含有培地で 14 日間刺激増殖。Day 5 に培地を CM/RM 混合液で交換、Day 7 以降は細胞濃度 1-2 × 10⁶ cells/ml を維持するよう分割した。5 つの Young TIL 培養物を対象に実施した。

フローサイトメトリー: BD FACSCanto II (BD Biosciences flow cytometer) を用い CCR7・CD45RA・CD8・CD4・CD27・CD56・CD28・CD57・CD107a・CD62L 等を多色解析。抗原特異的 CD8+ T 細胞は PE 標識 HLA-A3 (human leukocyte antigen A3 serotype) MHC テトラマー (癌精巣抗原 TAG (tumour-associated antigen) 由来 RLSNRLLLR (HLA-A3-restricted 9-mer CTL epitope) ペプチド) で検出。細胞内サイトカイン (IFNγ・TNFα) は GolgiPlug 処置・固定透過・intracellular 染色で定量。表現型比較は対応のある片側 Student t-test で解析。少なくとも 30,000 cells (表現型) または 100,000 cells (サイトカイン) を取得した。

Flow-FISH (flow fluorescence in situ hybridization) によるテロメア長測定: 量子ドット (QDOT655-CD27) および Alexa-Fluor 647-CD8 の熱安定性を利用して同時免疫表現型解析と Flow-FISH (flow fluorescence in situ hybridization) を実施。Bis(sulfosuccinimidyl)suberate (BS3) 2 mM で抗体を架橋固定後、Telomere PNA Kit/FITC (Dako) でテロメア DNA を染色。1301 細胞株を内部標準とし、G0/G1 期の細胞のみを解析対象とした。CD8+CD27+ と CD8+CD27- サブポピュレーション間の比較は対応のある片側 t-test を用いた。

IFNγ ELISPOT (enzyme-linked immunospot): 5 × 10⁴ TIL エフェクター細胞を自己腫瘍細胞 (E/T 比 3:1) または TAG 由来ペプチド (5 µM) と 4 時間共培養。IFNγ 分泌スポットを IMMUNOSPOT アナライザーで計数した。3 連ウェルで実施。