- 著者: M. Donia, R. Andersen, J.W. Kjeldsen, P. Fagone, S. Munir, F. Nicoletti, M.H. Andersen, P. thor Straten, I.M. Svane
- Corresponding author: Inge Marie Svane (Center for Cancer Immune Therapy, Department of Hematology, Herlev Hospital, University of Copenhagen)
- 雑誌: Cancer Research
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-07-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 26183926
背景
MHC class II (major histocompatibility complex class II) 分子の発現は通常、プロフェッショナル抗原提示細胞などの造血系細胞および胸腺上皮細胞に限定されている。しかし、メラノーマを含む一部の固形腫瘍では、CIITA (class II transactivator) の異常活性化を介した構成的 MHC class II 発現が認められることが先行研究で示されており、こうした異常発現は腫瘍細胞が腫瘍抗原特異的 CD4+ T 細胞に直接認識される状況を作り出す。MHC class II 発現とメラノーマ患者の生存との関係については、先行研究で相反する報告が存在していた。MHC class II が患者生存を延長すると結論した研究がある一方、生存との関連が不明確あるいは否定的であることを示した報告もあり、評価は controversial であった。この矛盾は、腫瘍特異的 CD4+ T 細胞が抗腫瘍応答を促進するのか、それとも別の機序で腫瘍に有利に働くのかという根本的な問いに対する答えが欠如していたことを反映する。
腫瘍微小環境における適応免疫抵抗性に関して、Taube et al. SciTranslMed 2012 らは PD-L1 (programmed death ligand-1) の発現が局所の炎症反応と共局在し、免疫逃避機構として機能することを示した。また、Spranger et al. SciTranslMed 2013 らは、腫瘍微小環境における PD-L1 や IDO-1 (indoleamine 2,3-dioxygenase-1) の上方制御が CD8+ T 細胞によって駆動されることを報告している。さらに、Tran et al. Science 2014 などの報告により、変異特異的 CD4+ T 細胞が抗腫瘍免疫において重要な役割を果たすことが示され、CD4+ T 細胞の重要性が認識されつつあった。しかし、腫瘍微小環境に浸潤した CD4+ T 細胞が産生する TNF-α (tumor necrosis factor-alpha) などの炎症性サイトカインが CD8+ T 細胞の抗腫瘍応答全体に与える包括的な影響を体系的に解析した研究は存在しなかった。また、腫瘍微小環境における CD4+ T 細胞の多機能エフェクタープロファイルと、それが CD8+ T 細胞応答に与える介入機構についての理解が決定的に不足していた。特に、MHC class II の異常発現が腫瘍免疫を促進するのか、あるいは抑制的に働くのかという詳細なメカニズムは未解明であり、固形腫瘍における CD4+ T 細胞の機能的役割に関する包括的な解析が不足していた。
目的
本研究の目的は、38 例のメラノーマ患者由来の自己腫瘍細胞株と TIL (tumor-infiltrating lymphocyte) ペアを用いて、MHC class II の構成的発現と CD4+ T 細胞応答の関連を解明することである。具体的には、腫瘍特異的 CD4+ T 細胞が産生する TNF-α を介した免疫抑制機構が CD8+ T 細胞抗腫瘍応答に与える影響を in vitro で明らかにすることを目的とした。さらに、MHC class II 異常発現を介した免疫逃避と、MHC class I の IFN-γ 応答性上方制御障害を介した免疫逃避という、2 つの主要な免疫逃避サブタイプの存在を提唱することを目的とした。これにより、メラノーマにおける免疫逃避の新規メカニズムを解明し、将来的な免疫療法の標的を特定するための基盤を構築することを目指した。
結果
MHC class II 構成的発現と CD4+ T 細胞応答の強固な関連: 38 例中 19 例 (50%) のメラノーマが構成的 MHC class II 発現を示した (Table 1, Figure 2A)。構成的 class II 陽性腫瘍では、有意に高頻度の腫瘍特異的 CD4+ T 細胞応答が認められた (平均 7.5 ± 11% vs 1 ± 1%、p=0.002)。高 CD4+ 応答 (2% 以上) を示した 14 例のうち 12 例が class II 陽性腫瘍由来であった (Fisher p=0.002)。MHC class II 抗体による blocking 実験では、高 CD4+ 応答を示した 6/6 例で応答が有意に低下し、class II 依存的認識を確認した (Figure 1C, 1D)。高 CD4+ 応答群の腫瘍は、IFN-γ 曝露後の MHC class I の上方調節が有意に大きかった (相対 MFI 42 ± 19 vs 29 ± 17、p=0.026;相対 fold increase 3.0 ± 0.8 vs 2.4 ± 0.9、p=0.047) (Figure 2C, 2D)。患者 pt.30 と pt.35 の連続腫瘍サンプルでは、TIL 療法後の治療抵抗性転移巣のみで高 CD4+ 応答が認められ、時空間的動態制御の可能性が示唆された。なお、CD4+/CD8+ 比率と CD4+ 応答頻度の間には有意な相関はなく (Figure 1E)、TIL 内に占める CD4+ 細胞の数量的多寡ではなく、腫瘍特異性こそが重要であることが示された。
CD4+ T 細胞の effector 機能における TNF 優位プロファイル: 7 機能の SPICE 多機能解析において、腫瘍反応性 CD4+ T 細胞の 85% 超が TNF-α 産生陽性で、50% 超が TNF-α 単独産生であった (Figure 3B, 3C)。一方、CD8+ T 細胞では TNF-α 産生は約 50% にとどまり、IFN-γ 産生・CD107a 動員がより優位であった (SPICE intra-patient 比較 p=0.0006)。per-cell 産生量では、CD4+ T 細胞が TNF-α、IL-2 について CD8+ より有意に高く、逆に CD107a 動員は CD8+ が優勢であった (Figure 3A)。この TNF 優位パターンは REP-TIL、最小培養 TIL、未培養 TIL (n=5 patients) で一貫して認められ (Figure S5A, S5B)、in vitro 拡大培養の artifact ではなく、腫瘍微小環境における in vivo の T 細胞機能プロファイルを反映していると結論づけられた。IL-17A 産生は 1 患者の CD4+ T 細胞のみに検出され、CD8+ では一切認められなかった。
TNF による CD8+ T 細胞応答の抑制と免疫抑制遺伝子発現変化: 腫瘍細胞を TNF-α (1000 IU/ml) で前処理すると、IFN-γ 単独処理で増強される CD8+ T 細胞の多機能 (二重陽性) 抗腫瘍応答が有意に抑制された (p<0.05) (Figure 4B)。TNF-α は MART-1 特異的 CD8+ T 細胞による MDA 認識を有意に減弱させたが (Figure 4A)、bulk TIL の全体的 CD8+ 応答は有意に変化しなかった (Figure 4B)。この結果は、MDA 特異的 T 細胞が全体的 CD8+ 応答の中で占める割合が相対的に小さいことを示唆する。一方、TNF-α 処理は CD4+ T 細胞応答を増強する傾向を示した (Figure 4C, 4D)。TNF-α 処理は IDO-1 および PD-L1 の mRNA 発現をそれぞれ約 5-fold to 10-fold increase させ (Figure S9A)、MDA (MLANA、TYR、PMEL) 発現を低下させる傾向を示した (Figure S9B)。一方、MHC class I 抗原処理提示経路関連遺伝子は IFN-γ が約 10-fold increase させ、TNF-α との組み合わせではさらに約 25-fold increase に達した (Figure S9C)。以上は、TNF-α が IFN-γ 富環境での免疫感受性を IDO-1/PD-L1 誘導と MDA 抑制を介して低下させる一方、MHC class I 処理経路は維持・強化されるという複雑な遺伝子発現変化を示す。
CD4+ T 細胞の直接抗腫瘍活性の欠清と共培養での相互作用: CD4+ T 細胞上清を用いた増殖アッセイ (n=6 cell lines) では、6 例中 2 例のみに軽微な増殖抑制が認められた (Figure 5A)。51Cr 放出法による細胞傷害アッセイ (n=5 cell lines) では、CD8+ T 細胞が 5 例中 4 例で活性を示した (effector:target 90:1 で 10% 超の lysis) のに対し、CD4+ T 細胞はいずれの例でも細胞傷害活性を示さなかった (Figure 5B)。IFN-γ ELISPOT での CD4+ と CD8+ の共培養は単独培養の平均値にとどまり、相乗効果は認められなかった (Figure 5C, 5D)。これらは、この系では CD4+ T 細胞の直接的エフェクター相での抗腫瘍活性が限定的であることを示す。
臨床的転帰との関連: MHC class II 構成的陽性例・高 CD4+ 応答群と陰性・低応答群の間で全生存期間に有意差は認められなかった (Figure S10B, S10D, S10F)。class II 陽性群では血清 LDH が class II 陰性群より低い傾向があった (p=0.046) (Figure S10C)。この OS の同等性は、2 つの免疫逃避サブタイプが異なるメカニズムで同様に CD8+ T 細胞を制御し、最終的に同等の腫瘍進行速度をもたらすというモデルの間接的証拠となった。
考察/結論
本研究はメラノーマにおける MHC class II の異常発現が CIITA 活性化を介して腫瘍抗原特異的 CD4+ T 細胞を腫瘍微小環境に招集するという新規免疫逃避機構を明らかにした。腫瘍特異的 CD4+ T 細胞の effector 機能は TNF-α 産生が圧倒的に優位であり、この TNF-α が IFN-γ 富環境下での CD8+ T 細胞の多機能抗腫瘍応答を抑制し、同時に IDO-1/PD-L1 発現増加・MDA 低下を介して腫瘍の免疫感受性を低下させる。著者らはこの知見に基づき 2 つの免疫逃避サブタイプを提唱した。サブタイプ 1 は MHC class II 陽性メラノーマで TNF-α を介した CD8+ 応答の間接的抑制が主体であり、サブタイプ 2 は MHC class I の IFN-γ 応答性上方制御が障害されたメラノーマで CD8+ 応答の直接的抑制が主体となる。両サブタイプともに最終的に CD8+ T 細胞応答が減弱するという点で収束しており、この対称性は MHC class II 高発現群と低 CD4+ 応答群の生存期間が同等であったことによっても間接的に支持される。
先行研究との違い: Landsberg et al. (Nature 2012) が TNF-driven dedifferentiation による MDA 特異的 CD8+ 応答の消失を示したのに対し、本研究は bulk TIL での全体的 CD8+ 応答が TNF-α 単独では有意に低下しないことを示した点で対照的である。これは「MDA 特異的 T 細胞の割合が全体の CD8+ 応答では相対的に小さい」ことを示唆し、Landsberg モデルの部分的限界を提示した。一方、IFN-γ 富環境 (CD8+ T 細胞が活発に機能している状況) での TNF-α の免疫抑制効果は確実に示された点で、両知見は相補的に理解できる。また、Donia et al. ScandJImmunol 2012 らの TIL 拡大培養法を用いた解析と比較し、本研究では REP-TIL のみならず最小培養 TIL や未培養 TIL でも一貫した機能プロファイルを確認している。
新規性: 本研究で初めて、メラノーマにおける MHC class II の異常発現が、腫瘍特異的 CD4+ T 細胞を介して TNF-α 産生を誘導し、これが CD8+ T 細胞の抗腫瘍活性を抑制するという、これまで報告されていない新規の免疫逃避メカニズムを明らかにした。特に、CD4+ T 細胞が直接的な細胞傷害活性を持たないにもかかわらず、TNF-α を介して間接的に CD8+ T 細胞応答を減弱させるという点は、腫瘍免疫学における新たな知見である。
臨床応用: MHC class II が IDO や PD-L1 と同様に IFN-γ 誘導性免疫抑制分子として機能しうるという新たな見方は、TIL 療法や免疫チェックポイント阻害の臨床文脈における CD4+ T 細胞の機能的役割の再評価を促す。Topalian et al. NEnglJMed 2012、Wolchok et al. NEnglJMed 2013、Hamid et al. NEnglJMed 2013、Topalian et al. JClinOncol 2014 などの臨床試験で示された抗 PD-1 抗体や抗 CTLA-4 抗体による治療効果を最大化するため、腫瘍内 CD4+ T 細胞の機能的サブセット (TNF 単独産生 vs IFN-γ 産生 vs ネオアンチゲン特異的 polyfunctional) の解析が免疫療法応答予測に重要と考えられる。Kreiter et al. Nature 2015 が示すように、MHC class II 提示エピトープの重要性が高まる中、抗 TNF 抗体と免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせによる CIITA-TNF 軸の治療標的化 (therapeutic targeting) も臨床応用への重要なアプローチとなる。
残された課題: 本研究の制約 (limitation) として、単施設・サンプルサイズ 38 例・in vitro 系の限界、REP に伴う T 細胞表現型変化の可能性、臨床的転帰データの追跡期間の限界が挙げられる。in vivo での機構解明と TIL 療法または抗 PD-1 療法での応答予測バイオマーカーとしての前向き検証が今後の課題である。また、CD4+ T 細胞の機能的サブセットの多様性をさらに詳細に解析し、それぞれのサブセットが腫瘍微小環境で果たす役割を解明することが、残された課題である。
方法
AJCC stage IIIB/IIIC (n=6 patients) および stage IV (n=32 patients) のメラノーマ患者 38 例から外科的切除腫瘍と自己 TIL を採取した。TIL は IL-2 (6000 IU/ml) 存在下で最初に最小拡大培養 (minimally cultured TIL、通常 14-28 日) し、その後 REP (rapid expansion protocol) で大量拡大した (REP-TIL)。REP では、同種異系 PBMC (peripheral blood mononuclear cell) 200 倍過剰 + 30 ng/ml 抗 CD3 抗体 OKT3 で 14 日間培養した。解析の信頼性確認のため、最小培養 TIL および未培養 (fresh) TIL でも key experiment を実施した。
多機能 T 細胞解析は 7 機能 (TNF-α、IFN-γ、CD107a、IL-2、IL-17A、MIP-1α、MIP-1β) を 12 時間共培養後にフローサイトメトリーで評価し、SPICE (Simplified Presentation of Incredibly Complex Evaluations) バイオインフォマティクスツール (version 5.2) で解析した。CD4+ または CD8+ T 細胞の応答として、各サブセットのうち少なくとも 1 つの機能 (TNF-α、IFN-γ、CD107a) を発現する細胞が 0.5% 以上かつ非刺激背景の 3 倍以上を陽性と定義した。MHC class II 発現は HLA-DP/DR/DQ 抗体で定量化し、アイソタイプ対照 MFI (mean fluorescence intensity) の 4 倍超を構成的発現陽性と定義した。MHC class II 阻害実験では 20 μg/ml 抗 HLA-DR/DP/DQ 抗体 (クローン TÜ39) を使用した。
腫瘍を 1000 IU/ml TNF-α および/または 100 IU/ml IFN-γ で 72 時間前処理した後、CD8+ T 細胞の多機能 (TNF-α/IFN-γ/CD107a 二重陽性) 抗腫瘍応答を評価した。IDO-1、PD-L1、MDA (melanoma differentiation antigen) 遺伝子である MLANA (melanoma antigen recognized by T-cells 1)、TYR (tyrosinase)、PMEL (premelanosome protein) 遺伝子、MHC class I 抗原処理提示関連遺伝子である TAPBP (TAP binding protein)、PSMB9 (proteasome subunit beta type-9) の mRNA 発現を qPCR (quantitative real-time PCR) で解析した。CD8+ 細胞傷害活性は 51Cr 放出法で、CD4+ T 細胞上清の抗腫瘍効果はフローサイトメトリーベース増殖カウントアッセイで評価した。IFN-γ ELISPOT (enzyme-linked immunospot) で CD4+ と CD8+ の共培養効果を検討した。
本研究で使用したメラノーマ細胞株には、患者由来細胞株のほかに、ESTDAB から入手した WM-115、FM-55-P、FM-55-M1、FM-55-M2、WM-75、WM-793、WM-266-4 などの cell line を含めた。統計解析には、D’Agostino-Pearson 正規性検定、F 検定、対応のある t 検定、対応のない t 検定、Mann-Whitney U test、Wilcoxon matched-pairs signed-ranks test、Log-rank 検定、Fisher’s exact 検定、および Pearson correlation を用いた。