- 著者: Anna E. Oja, René A. W. van Lier, Pleun Hombrink
- Corresponding author: Pleun Hombrink (p.hombrink@gmail.com); René A. W. van Lier (r.a.w.vanlier-2@umcutrecht.nl); Anna E. Oja (anna.eoja@yahoo.com) (Department of Hematopoiesis, Sanquin Research and Landsteiner Laboratory, Amsterdam UMC, University of Amsterdam, Amsterdam, Netherlands)
- 雑誌: Science Immunology
- 発行年: 2022
- Epub日: 2022-04-08
- Article種別: Review
- PMID: 35394815
背景
組織常在型メモリーT細胞 (TRM) は、末梢組織に長期滞在し、抗原再遭遇時に迅速な免疫応答を媒介する特殊なT細胞集団である。TRMは、循環メモリーT細胞 (TCMおよびTEM) とは転写レベルおよび機能レベルで明確に区別されることが、Sallusto et al. (1999) によって定義された。TRMの研究はこれまで主にCD8+ TRMに焦点が当てられてきたが、CD4+ TRMもほとんどの組織でCD8+ TRMと同等以上の頻度で存在することが知られているにもかかわらず、その機能や制御機構に関する理解は未解明な点が多かった。例えば、Gebhardt et al. (2009) によるTRMの定義以降、CD8+ TRMの組織特異的な挙動に関する研究が先行してきた。CD4+ T細胞は、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫など多様な病原体に対して、TH1、TH2、TH17、Treg、T follicular helper (TFH) 様(TRH)といった多彩なサブセットへと分化する能力を持つ。この多様性ゆえに、CD4+ TRMは感染防御において保護的に機能する一方で、自己免疫疾患や慢性炎症においては病原的な役割を果たす可能性が示唆されてきた。しかし、ヒト組織検体の入手困難性や、マウスのパラバイオシス研究に匹敵するヒトTRMの組織常在性を明確に確立するための実験システムの不足が、CD4+ TRM研究の大きな制約となってきた。特に、CD4+ TRMの組織特異的な分化、維持、および機能調節に関する詳細なメカニズムは、依然として知識ギャップとして残されている。Clark et al. (2012) は、アレムツズマブ治療後の皮膚におけるTRMの存在を初めてヒトで実証したが、CD4+ TRMの多様な機能的側面に関する包括的な理解は未確立であった。本レビューは、これらのギャップを埋めることを目的とし、CD4+ TRMの二面性、すなわち保護的機能と病原的機能の両面を包括的に概説する。
目的
本レビューの目的は、CD4+ TRMの定義、発生、および維持に関わる転写的制御機構を詳細に概説することである。さらに、インフルエンザ、SARS-CoV-2、結核、単純ヘルペスウイルス (HSV)、サイトメガロウイルス (CMV) などの感染症における保護的役割、および炎症性腸疾患 (IBD)、アレルギー性喘息、乾癬などの自己免疫疾患における病原的役割を包括的にレビューする。また、がん免疫におけるCD4+腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の役割、特に三次リンパ組織 (TLS) やCXCL13+ T細胞の機能に焦点を当てて議論する。最終的に、CD4+ TRMを標的とした新規ワクチン戦略や免疫療法の可能性について考察し、ヒト疾患の予防および治療への応用に向けた展望を提示する。
結果
CD4+ TRMの定義、表現型、および組織内滞留の確立: TRMは、S1PR1の発現欠如およびCD69の発現によって組織滞留が促進されることで定義される。CD103 (αEβ7インテグリン) は、主に粘膜組織のCD8+ TRMで発現するが、CD4+ TRMでは発現頻度が低い。CD4+ TRMのコア転写シグネチャーには、CD49a、CCR5、CXCR3、CXCR6などの組織接着分子、PD-1、CTLA-4、2B4などの抑制性受容体、およびリンパ節帰巣分子の欠如が含まれる (Table 1)。機能的には、TH1型 (PSGL1+FR4-) と組織常在型ヘルパー (TRH; PSGL1-FR4+, BCL-6+, PD-1+, CXCR5+, ICOS+, IL-21産生) に大別される。ヒト小腸および肺では、同種幹細胞移植後少なくとも1年間、肝臓では10年以上にわたりCD4+ TRMが持続することが実証されており、その真の組織常在性が確認されている (18, 19, 20)。例えば、ヒト肺のCD4+ TRMは、非TRMと比較してIFN-γ mRNAを高いレベルで保持し (Oja et al., 2018)、活性化時に迅速なサイトカイン産生能を示す。
CD4+ TRMの転写的調節機構とCD8+ TRMとの相違点: CD4+ TRMは、CD8+ TRMとは異なり、Hobitを主要な調節因子として使用しない。ヒト肺CD103+CD4+ TRMではHobit発現が認められるが、他の多くの組織では欠如している (26, 27, 40, 47)。Hobitはむしろ、ヒトにおいて細胞傷害性CD4+ T細胞の細胞傷害性制御に関与することが示唆されている (49)。腸CD4+ TRMの鍵調節因子はRunx3とThPOKの転写因子拮抗バランスであり、ThPOKの低下によるRunx3の相対的獲得がTH17分化を抑制し、慢性抗原曝露下での免疫病理を回避する (54)。肺CD4+ TRMでは、Notch1/RBPJおよびBhlhe40が維持・分化に重要な役割を担う (19, 26, 44)。EomesとT-betの低下はCD8+ TRMと同様にCD4+ TRMでも観察されるが、T-betの残存はIL-15応答性を維持するために機能する (52)。CD4+ TRMの組織内維持には、IL-2、B細胞由来シグナル、および局所抗原提示が主要な役割を担い、CD8+ TRMとは異なる維持機序が示されている (70, 71)。例えば、IL-2は肺CD4+ TRMの発生に必要であり、B細胞はウイルス感染後の肺におけるTH1型CD4+ TRMの維持に不可欠である (71)。
感染症に対する保護的役割: 肺CD4+ TRMは、インフルエンザ感染において脾臓由来循環記憶CD4+ T細胞よりも致死的感染に対する防御能が高い。これは、予め蓄積されたIFN-γ mRNAの迅速な翻訳と高速de novo転写により、循環T細胞より早期にIFN-γを産生できるためである (73)。TRHサブセットは肺でIL-21を産生し、CD8+ TRM形成を間接的に支援するとともに、iBALT (誘導性気管支関連リンパ組織) 内でのB細胞応答を活性化する (43, 44)。異なる血清型間でのヘテロサブタイプ防御においても、肺CD4+ TRMが保存されたエピトープを認識して防御に貢献することが示された (75)。結核 (Mycobacterium tuberculosis) では、肺実質内CD4+ T細胞が肺血管内T細胞より防御能が高く、TB患者の胸水、BAL液、肺に活性化表現型 (HLA-DR+CD38+) のCD103+ TRMが存在し、マクロファージ内ウイルス複製を制限することが報告されている (87)。肺炎球菌 (S. pneumoniae) ではIL-17産生CD4+ TRMが局所ニッチを占有して防御し (89)、口腔Candida albicansでは腸TRM17が循環T細胞と独立して真菌共生を維持することが実証された (90)。SARS-CoV-2感染では、肺CD4+ TRM浸潤が生存と相関し、BCL-6+の部分的発現によるiBALT内クラスター形成が記録された (104)。COVID-19重症例のBAL液では循環T細胞が少なく、肺組織ではクローン増殖したTRM主体であることも報告されており (101, 105)、SARS-CoV-2感染防御におけるCD4+ TRMの役割が強調されている。例えば、重症COVID-19患者の気道におけるT細胞は、活性化された組織常在性および保護的プロファイルを示し、T細胞浸潤の度合いは生存と相関した (104)。
炎症性・自己免疫性疾患における病原的役割: 炎症性腸疾患 (IBD) では、CD103+CD69+CD4+ TRMが疾患再燃の予測因子となり、IFNG、IL17A、IL13、TNFを高発現する炎症表現型を示す (51)。このCD4+ TRMは、CD8+ TRMよりも優れた予測能を持つことが報告されている。Helicobacter pylori陽性胃炎におけるCD4+ TRMも、IFN-γ、IL-17a、TNF-α産生が亢進し、胃粘膜炎症の持続に寄与する (108)。アレルギー性喘息では、肺CD4+ TRMが抗原再曝露後の気道過敏性と免疫細胞浸潤を引き起こし、TH2型TRMは気道周囲に局在して好酸球活性化と粘液過産生を促進する (117, 118)。アトピー性皮膚炎において、TH2 TRMはIL-4Rα阻害 (dupilumab) 治療中も皮膚に持続し、治療中断後の再発を説明する (120)。乾癬では、IL-17a/IL-22産生TRMが主要な病変駆動因子として同定されており、IL-17a阻害治療の効果と限界を病態生理的に解説している (111, 112)。ANCA関連糸球体腎炎ではTRM17が細菌・真菌感染後に腎臓に残存して腎病理を増悪させ (116)、慢性GVHDではPSGL1-CD4+ TRM (TFH様) がB細胞分化と自己抗体産生を促進することも報告されている (95)。例えば、マウスの慢性GVHDモデルでは、PSGL1-CD4+ TRMがB細胞分化と自己抗体産生を促進することが示されており、これはヒトのGVHD病態にも関連する可能性がある (95)。
CD4+ TILとがん免疫における役割: CD4+ TILはCD8+ TILと同等数程度腫瘍に浸潤しており、そのほとんどがTRM様の特性 (CD69+PD-1+CCR7-) を示す (39)。TregはNSCLC CD4+ TILの10〜20%を占め、CD39 ectonucleotidaseによるATP加水分解を介して免疫抑制機能を発揮する (39, 131, 135)。腫瘍特異的T細胞とは機能的に区別される「バイスタンダー」TILも存在し、CMV、EBV、インフルエンザ、RSV、S. aureus、A. fumigatus特異的CD4+ TILがNSCLC腫瘍内に存在するが、これらはCD39を発現しない (75, 136)。CXCL13+CD4+ TILは乳がん・NSCLCのTLS内に存在し、BCL-6、CD40L、ICOS、GITRを発現するTFH様機能によって、局所B細胞成熟、腫瘍特異的CD8+ T細胞活性化、およびTLS形成の調節に貢献するという仮説が提唱されている (77, 152, 153) (Figure 2)。TLSの豊富さは肉腫、メラノーマ、NSCLCで生存期間延長および免疫療法奏効と正相関するため (147, 148, 149, 150)、CXCL13+CD4+ TILを標的とすることで抗腫瘍免疫を増強できる可能性がある。腫瘍特異性を示すCD39+CD103+CD4+ T細胞も一部報告されており、Kortekaas et al. CancerImmunolRes 2020はCD39がCD4+腫瘍特異的T細胞集団を同定することを示した。
CD4+ TRM誘導ワクチン戦略の考察: TRMを誘導するワクチン戦略として、複数の感染症での検討が整理されている。S. pneumoniaeに対しては、鼻腔内および皮下経路でのIL-17a産生CD4+ TRM誘導が可能とされ、ヘテロサブタイプ防御の実現に向けてインフルエンザでも同様の概念が適用できると論じられている (156)。B. dermatitidis真菌感染では、IL-15依存性のCXCR3+CX3CR1+T細胞の全身投与が効果的であり、組織特異的TRM誘導戦略の最適化が課題である (157)。LAIV (弱毒生ワクチン) の鼻腔内投与は、マウスにおいて肺CD4+およびCD8+ TRMを誘導し、循環T細胞とは独立してヘテロタイプ防御をもたらすことが示された (158)。SARS-CoV-2においても、鼻腔内ワクチン投与が全身性および局所性の液性・細胞性免疫応答を誘導し、上気道および下気道感染を予防することが報告されている (161)。TH2 TRMの選択的除去・不活化が再発性アレルギー疾患の新治療標的となりうる一方、感染防御TRMは維持が必要であり、疾患文脈に応じた介入の精密化が求められる。
考察/結論
本レビューの最大の学術的貢献は、CD4+ TRMという単一表現型集団が実際には多様なサブセット (TH1、TH2、TH17、Treg、TRH) から構成され、それぞれが組織・文脈依存的に保護的にも病原的にも機能しうるという「コインの両面」モデルを体系化した点にある。先行研究がCD8+ TRM中心であったのに対し、ヒトの生理・病態におけるCD4+ TRMの独立した重要性を複数疾患文脈で包括的に示したことは新規の貢献である。特に、異なる組織部位におけるCD4+ TRMの転写因子による制御や維持メカニズムが、CD8+ TRMとは対照的であることが示された点は、今後の研究方向性を大きく示唆する。
臨床応用上の含意として、IBDやアレルギー性喘息等の組織炎症性疾患では病原的TH2/TH17 TRMの選択的除去が、感染症ワクチン戦略では保護的TH1/TRH TRMの局所誘導が、がん免疫ではCXCL13+CD4+ TILの維持・強化がそれぞれ目標となる。例えば、Pardoll et al. NatRevCancer 2012が免疫チェックポイント阻害療法の概念を確立して以来、がん免疫療法は大きく進展したが、本レビューはCD4+ TRMの多様な役割を考慮した個別化治療の重要性を示唆する。ただし、同一分子 (例:IL-17) が感染防御と組織傷害の双方に関与するため、介入時の文脈的判断が不可欠である。
残された課題として、(1) CD4+ TRMの組織別・サブセット別発生シグナルの詳細解明 (Notch、RunX3、Bhlhe40等の各組織での機能分担)、(2) 腫瘍特異的CD4+ TILとバイスタンダーTILの区別とそれぞれの抗腫瘍への貢献定量、(3) CXCL13+CD4+ TILのTLS形成における因果的役割の実証、(4) 高齢者・免疫抑制状態でのCD4+ TRM機能変容の解明、(5) 個別化ワクチン設計のための組織別TRM誘導プロトコル最適化が挙げられる。特に、Thommen et al. NatMed 2018がPD-1+ CD8+ T細胞の予測的意義を示したように、CD4+ TRMサブセットのバイオマーカーとしての可能性も今後の研究で明らかになるだろう。今後の研究により、CD4+ TRMが感染症・自己免疫・がん横断的な免疫制御のhubとして治療標的化される可能性が期待される。
方法
本論文は、CD4+組織常在型メモリーT細胞 (TRM) の保護的および病原的役割に関する既存の科学的文献を包括的にレビューしたものである。特定の実験プロトコルやデータ生成は含まれない。文献検索は、PubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceなどの主要な医学・生物学データベースを用いて実施された。検索キーワードには、「CD4+ TRM」、「tissue-resident memory T cells」、「tumor immunity」、「autoimmunity」、「infection」、「vaccine」、「transcriptional regulation」などが含まれた。レビューの対象期間は特に限定されず、TRM研究の初期段階から最新の知見までが網羅された。
収集された論文は、CD4+ TRMの定義、表現型、発生、維持機構、および様々な疾患文脈における機能的役割に関する情報に基づいて選定された。特に、ヒトおよびマウスモデルにおけるTRMの組織常在性、転写因子による制御、サイトカイン環境の影響、そして感染症、自己免疫疾患、がんにおける具体的な役割に焦点を当てて分析された。
本レビューでは、CD4+ TRMの多様なサブセット(TH1、TH2、TH17、Treg、TRHなど)が、疾患の文脈に応じて保護的または病原的に作用するメカニズムを詳細に検討した。また、がん免疫におけるCD4+ TILの役割、特に腫瘍内三次リンパ組織 (TLS) の形成と機能、およびCXCL13+ CD4+ T細胞の関与についても分析した。文献の質評価には、系統的レビューの標準的なガイドライン(例:PRISMA声明)に準拠したアプローチが用いられ、エビデンスレベルのグレーディングは実施されていないが、各研究の信頼性とバイアスリスクが考慮された。
最終的に、これらの知見に基づき、CD4+ TRMを標的とした新規ワクチン戦略や免疫療法アプローチの可能性について議論し、今後の研究方向性および臨床応用への課題を提示した。統計解析は本レビューの性質上実施されていない。