• 著者: Diwakar Davar, Amiran K. Dzutsev, John A. McCulloch, Richard R. Rodrigues, Joe-Marc Chauvin, Robert M. Morrison, Richelle N. Deblasio, Carmine Menna, Quanquan Ding, Ornella Pagliano, Bochra Zidi, Shuowen Zhang, Jonathan H. Badger, Marie Vetizou, Alicia M. Cole, Miriam R. Fernandes, Stephanie Prescott, Raquel G. F. Costa, Ascharya K. Balaji, Andrey Morgun, Ivan Vujkovic-Cvijin, Hong Wang, Amir A. Borhani, Marc B. Schwartz, Howard M. Dubner, Scarlett J. Ernst, Amy Rose, Yana G. Najjar, Yasmine Belkaid, John M. Kirkwood, Giorgio Trinchieri, Hassane M. Zarour
  • Corresponding author: Hassane M. Zarour (zarourhm@upmc.edu) (Department of Medicine and UPMC Hillman Cancer Center, University of Pittsburgh, Pittsburgh, PA, USA); Giorgio Trinchieri (trinchig@mail.nih.gov) (Laboratory of Integrative Cancer Immunology, National Cancer Institute, NIH, Bethesda, MD, USA)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-02-04
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33542131

背景

免疫チェックポイント阻害薬 (抗PD-1抗体) は、進行悪性黒色腫患者の約40%に長期的な臨床的利益をもたらす画期的な治療法である。しかし、一次不応性の患者に対する有効な治療戦略は依然として限られており、このギャップを埋める新たなアプローチが強く求められている。近年、腸内微生物叢の組成が抗PD-1療法の有効性を調節することが前臨床モデルおよびがん患者において示唆されている。具体的には、Bifidobacteriaceae、Ruminococcaceae、Lachnospiraceaeなどの特定の細菌種が、抗PD-1療法への奏効と関連することが複数の研究で報告されてきた。例えば、Gopalakrishnan et al や Matson et al は、特定の腸内細菌が抗PD-1療法の効果を増強することを示している。悪性黒色腫においても、腸内微生物叢の特定のプロファイルが抗PD-1療法の奏効と相関することが示されているが、微生物叢を積極的に操作することで抗PD-1耐性を克服できるかについては、ヒトでの臨床的検証が未解明であった。

先行研究では、マウスモデルにおいて糞便微生物叢移植 (FMT) が抗PD-1療法の効果を促進することが示されており、この知見をヒトに適用する可能性が示唆されていた。しかし、ヒトの臨床試験において、FMTが抗PD-1一次不応性の患者の治療耐性を逆転させ得るか、またそのメカニズムは何かについては、具体的なエビデンスが不足していた。特に、免疫チェックポイント阻害薬に対する反応性が腸内微生物叢によって大きく左右されるという知見は、がん治療における微生物叢介入の重要性を示唆しており、この分野における知識ギャップを埋めることが本研究の重要な課題であった。本研究は、Baruch et al とは独立して同時進行したものであり、抗PD-1長期奏効ドナー由来のFMTが、微生物叢非依存的な治療耐性をも克服し得るかを初めて臨床的に検証することを目的とした。これにより、抗PD-1一次不応性悪性黒色腫患者に対する新たな治療選択肢の可能性を探り、腸内微生物叢と腫瘍免疫応答の間の複雑な相互作用を解明することが期待された。

目的

本研究の目的は、抗PD-1療法に一次不応性の転移性悪性黒色腫患者を対象に、抗PD-1長期奏効者由来の糞便微生物叢移植 (FMT) とペムブロリズマブ (pembrolizumab) の併用療法の安全性、有効性、腸内微生物叢の変化、および腫瘍免疫環境への影響を評価することである。具体的には、この併用療法がPD-1抵抗性を克服し、臨床的利益をもたらすか、またその際の腸内微生物叢の組成変化、末梢血および腫瘍微小環境における免疫細胞の動態、血清プロテオミクスおよびメタボロミクスプロファイルの変化を詳細に解析し、これらの要素間のトランスキングダムネットワークを構築することで、FMTが宿主の免疫応答と代謝に与える因果的役割を解明することを目的とした。本試験は、NCT03341143として登録された単群第I/II相臨床試験として実施された。

結果

臨床的有効性:ORR 20%、疾患コントロール率40%: 評価可能患者15例中、客観的奏効 (OR) は3例 (ORR 20%) で認められた。内訳は、完全奏効 (CR) 1例 (PT-180032)、部分奏効 (PR) 2例 (PT-18-0007、PT-19-0024) であった。さらに、3例 (PT-18-0018、PT-19-0002、PT-19-0010) で12ヶ月を超える持続的な安定病変 (Durable SD) が観察された。疾患コントロール (OR+SD) を達成した6例における中央値PFSは14.0ヶ月、中央値OSは14.0ヶ月であった。全患者 (n=15 patients) の中央値PFSは3.0ヶ月、中央値OSは7.0ヶ月であった。PT-18-0007は2年以上にわたりPRが持続し、現在も経過観察中である。4例 (PT-18-0018、PT-19-0002、PT-19-0010、PT-19-0024) は治療継続中である。PT-180032はCR後に脊椎狭窄症の選択的手術を受けたが、治療とは無関係の脊髄梗塞により死亡した。これらの結果は、先行する抗PD-1一次不応性悪性黒色腫に対する治療継続試験で報告されているORR (通常5%未満) を大幅に上回るものであり、FMTと抗PD-1療法の併用が臨床的に有意義な効果をもたらす可能性を示唆している (Figure 1)。

腸内微生物叢変化:奏効患者はドナー微生物叢へのシフト、非奏効患者は変化乏しい: FMT後、奏効患者 (R; 奏効およびSDを含む疾患コントロール群、n=6 patients) の腸内微生物叢は、ドナー微生物叢の組成に向かって有意に変化し、ドナー由来のOTU (Operational Taxonomic Unit) の相対比率が経時的に上昇した (p<0.05)。一方、非奏効患者 (NR; n=9 patients) ではこのような変化は乏しく、ドナー微生物叢への移行が不十分であった。R患者で有意に富化された菌種には、Actinobacteria門のBifidobacterium longum、Coriobacteriaceae科のCollinsella aerofaciens、Firmicutes門のFaecalibacterium prausnitzii、Ruminococcaceae spp.、Lachnospiraceae spp.が含まれた。これらの菌種は、先行研究において抗PD-1療法の奏効と関連することが報告されている菌種と一致する。また、FMT後、R患者の血清中ではドナー細菌に対するIgG抗体産生が増加しており、これは移植された細菌の定着と粘膜移行がR患者でより効率的に起こっていることを示唆する (Figure 2E)。抗生物質の使用はFMTによる微生物叢の変化を急速に阻害し、有益な菌種を減少させることが観察された (Figure 2F)。

末梢血免疫変化:CD8+CD56+ T細胞増加・CD8+ T細胞活性化: R患者の末梢血では、FMTとペムブロリズマブの併用後にCD8+CD56+ T細胞 (NK様細胞傷害性T細胞) が有意に増加した (Figure 3B, p<0.05)。これらの細胞は、TIGIT、CD57、グランザイムB、パーフォリンなどの活性化および細胞傷害性マーカーを高発現していた。また、CD8+ T細胞の活性化マーカー (Ki67など) も上昇し、抗腫瘍免疫の活性化が示された。R患者のCD8+ T細胞では、TIGIT、T-bet、LAG-3の発現上昇とCD27の発現低下が認められ、より活性化され分化した表現型を示した (Figure 3C, D)。MAIT細胞においても、グランザイムBの発現増加とCD27の発現低下が観察され、より分化した表現型が示唆された (Figure 3E)。NR患者では、末梢血免疫表現型の変化は限定的であった。

腫瘍微小環境の再プログラミング:R患者で骨髄系細胞・Treg減少: R患者の腫瘍生検 (FMT前後比較) では、CD8+ T細胞浸潤の増加、免疫抑制性骨髄系細胞 (F4/80+CD163+M2様マクロファージなど) の減少、およびCD4+FOXP3+ Treg (Regulatory T cell) の減少が観察された (Figure 3G, p<0.05)。一方、NR患者の腫瘍では、CXCL8+SPP1+骨髄系細胞サブセット (免疫抑制および血管新生促進に関与) の特徴的なシグネチャーが持続しており、免疫抑制環境の維持が示唆された (Figure 3H, I)。R患者のCD8+ T細胞では、HLAクラスII遺伝子 (CD74) およびGZMKの発現上昇が認められ、腫瘍部位でのT細胞活性化の増加を裏付けた。NR患者の腫瘍では、CXCL8 (IL-8) およびSPP1 (osteopontin) の発現が有意に高かった (p<0.05)。

プロテオミクス・メタボロミクス:R患者に特異的なシグネチャー: 血清プロテオミクスおよびメタボロミクス解析により、R患者とNR患者は明確に分離された (Figure 4A, B)。R患者では、胆汁酸 (bile acids) およびヒップレート (hippurate) の血清レベルが高値を示した。これらは腸内細菌叢による胆汁酸変換代謝と関連しており、微生物叢の変化と対応する。R患者では、一次胆汁酸から二次胆汁酸への変換効率がNR患者よりも高かった (Figure S14)。また、R患者では、CCL2 (MCP1)、CXCL8 (IL-8)、IL-18など、抗PD-1療法に対する陰性転帰と関連する複数の循環サイトカインおよびケモカインの減少が認められた。一方で、IL-21やCXCL13など、三次リンパ構造の濾胞ヘルパーT細胞およびB細胞シグネチャーに関連するサイトカインの上昇も観察された。

Transkingdom Network解析:腸内微生物叢が中心的調節因子: R患者の腸内微生物叢、末梢免疫、腫瘍免疫、代謝物を統合したトランスキングダムネットワーク解析では、腸内微生物叢の変化が宿主の免疫応答および代謝変化の中心的調節因子として特定された (Figure 4D, E)。この解析は、腸内微生物叢が末梢免疫を介して腫瘍免疫に影響を与えるという因果的役割を支持するものである。特に、CXCL8 (IL-8) は、NR患者で富化された細菌 (Bacteroides uniformisなど) と正の相関を示し、R患者で富化された細菌 (Ruminococcus flavefaciens、F. prausnitziiなど) と負の相関を示した。

安全性:許容可能なプロファイル: 全15例で少なくとも1件の有害事象 (AE) が発生したが、大部分はグレード1〜2の軽度なものであった (グレード1: 72.9%、グレード2: 20.0%)。消化器症状が主であった。グレード3の治療関連有害事象 (TRAE) は3例で発生したが、重篤な治療関連有害事象はなく、FMTとペムブロリズマブの併用療法の安全性が確認された (Table S3)。

考察/結論

本研究は、腸内微生物叢操作 (FMT) によって抗PD-1一次不応性悪性黒色腫患者の耐性を克服できることを初めて臨床的に示した概念実証試験である。ORR 20%および疾患コントロール率40%という結果は、従来の抗PD-1一次不応患者への治療継続におけるORR (通常5%未満) を大幅に上回るものであり、FMTの臨床的意義を示す。

新規性: 本研究で初めて、FMTと抗PD-1療法 (ペムブロリズマブ) の併用が、PD-1不応性悪性黒色腫患者において臨床的利益をもたらすことをヒトで実証した。特に、FMTが腸内微生物叢の組成を抗PD-1奏効に有利な方向にシフトさせ、末梢血および腫瘍微小環境における免疫応答を再プログラムすることを示した点は新規性が高い。トランスキングダムネットワーク解析により、腸内微生物叢が宿主の免疫応答および代謝変化の中心的調節因子であるという因果的役割を提示した点も、これまでの相関研究とは異なる。

先行研究との違い: 従来の研究では、腸内微生物叢と抗PD-1奏効の相関関係が主に報告されてきたが、本研究はトランスキングダムネットワーク解析を通じて、腸内微生物叢が宿主の免疫応答および代謝変化の中心的調節因子であるという因果的役割を提示した点で、これまでの相関研究とは異なる。また、Baruch et al (Science同号、異なる患者集団・手法) の同時発表によって知見の再現性が独立に確認されており、FMTによる抗PD-1耐性克服という概念は強く支持される。

臨床応用: 本知見は、抗PD-1一次不応性悪性黒色腫患者に対する新たな治療戦略としてFMTの可能性を示唆する。特に、FMTが腫瘍微小環境における免疫抑制性骨髄系細胞 (CXCL8+SPP1+骨髄系細胞サブセット) およびTreg (Regulatory T cell) の減少を誘導し、CD8+ T細胞の活性化を促進するというメカニズムの解明は、将来の患者選択や併用療法の開発に重要な臨床的含意を持つ。

残された課題: 本研究の限界として、単群試験、小規模な患者数 (n=15 patients)、単一施設 (UPMC) での実施、および悪性黒色腫のみへの限定が挙げられる。これらの限界を克服するためには、大規模なランダム化比較試験での検証が今後の検討課題である。また、最適なFMTドナー選択基準の確立 (微生物叢組成から奏効を予測できるドナーの同定)、最適な投与経路、回数、タイミングの検討、他のがん種 (非小細胞肺がん、腎細胞がんなど) や他の治療法との組み合わせへの拡張も今後の研究方向性である。さらに、FMTが克服できない腫瘍固有の耐性機序 (例: CXCL8経路阻害など) を標的とする治療法との組み合わせ戦略も検討すべき残された課題である。

方法

本研究は、NCT03341143として登録された単群第I/II相臨床試験であり、ピッツバーグ大学医療センターで実施された。2018年6月から2020年1月にかけて、抗PD-1療法 (単剤または抗CTLA-4抗体との併用) に一次不応性 (RECIST v1.1に基づき独立した放射線科医により病勢進行が確認された) の進行悪性黒色腫患者16例が登録された。データカットオフは2020年9月であった。

FMTドナーは、抗PD-1療法に対し完全奏効 (CR) 4例または部分奏効 (PR) 3例を達成し、中央値56ヶ月 (範囲: 45〜70ヶ月) の無増悪生存期間 (PFS) を有する長期奏効者7例から選定された。患者およびドナーは、FMT前に広範な感染症スクリーニングを受け、感染性病原体の伝播リスクが排除された。FMTは、大腸内視鏡を用いて単回投与され、その後、ペムブロリズマブが3週間ごとに投与された。治療は病勢進行または許容できない毒性が生じるまで継続された。放射線学的評価は12週ごとに行われ、RECIST v1.1 に基づいて奏効が分類された。

評価可能患者は15例であった (1例は急速な病勢進行のため安全性のみ評価)。腸内微生物叢の解析には、16S rRNA遺伝子シーケンスおよびショットガンメタゲノムシーケンスが用いられ、FMT前後の縦断的変化が評価された。シーケンスデータは Trimmomatic および Bowtie 2 を用いて処理された。免疫学的解析として、末梢血単核細胞 (PBMC) および腫瘍生検組織から、フローサイトメトリー、RNAシーケンス、Luminexアッセイが実施された。腫瘍浸潤リンパ球 (TIL) の解析には、シングルセルRNAシーケンス (scRNA-seq) が用いられ、データ統合には Seurat が利用された。血清プロテオミクスおよびメタボロミクス解析も行われ、宿主の全身性変化が評価された。

これらの多層的なオミクスデータを統合するため、トランスキングダムネットワーク解析が実施され、腸内微生物叢、宿主免疫応答、および代謝産物間の調節関係が統計モデルを用いて解析された。これにより、微生物叢が宿主の生物学的シグネチャーをどのように制御しているかという因果関係が探求された。統計解析には、ノンパラメトリックt検定、カイ二乗検定、Wilcoxon順位和検定などが用いられた。ヒートマップの可視化には ComplexHeatmap パッケージが使用された。