• 著者: D. Hanahan
  • Corresponding author: D. Hanahan (Ludwig Institute for Cancer Research - Lausanne Branch; EPFL, Lausanne, Switzerland)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2022
  • Epub日: N/A (Published online January 12, 2022)
  • Article種別: Review / Perspective
  • PMID: 35022204

背景

がんのホールマーク概念は、複雑極まりないがんの表現型および遺伝子型を、共通の生物学的原理へと整理するための概念的枠組みとして提唱された。Hanahan et al. Cell 2000 において、持続的な増殖シグナル、増殖抑制因子の回避、細胞死への抵抗、複製不死性の獲得、血管新生の誘導、および浸潤・転移の活性化という6つの機能的能力が定義された。その後、がん生物学の進展に伴い、Hanahan et al. Cell 2011 では、細胞エネルギー代謝のリプログラミングと免疫破壊の回避という2つの「新興のホールマーク (emerging hallmarks)」が追加され、さらにゲノムの不安定性と変異、および腫瘍促進性炎症という2つの「イネーブリング特性 (enabling characteristics)」が加わることで、8つのホールマーク能力と2つのイネーブリング特性からなる体系が確立された。2022年現在、これら2つの新興ホールマークも十分に検証されたコア・ホールマークとして扱われている。

しかし、2011年の改訂以降、次世代シーケンシングやシングルセル解析技術の爆発的な普及により、がんの不均一性や治療抵抗性の背後にある、より複雑な生物学的プロセスが明らかになってきた。特に、がん細胞が遺伝子変異を伴わずにその表現型を動的に変化させる能力や、宿主の全身および局所に存在する微生物叢ががんの進展や治療応答性に及ぼす影響、さらには TME (tumor microenvironment: 腫瘍微小環境) における老化細胞の多面的な役割など、従来の10因子の体系では十分にカバーしきれない重要な領域が浮上した。これらの未解明な領域を統合する概念的フレームワークが不足しており、がん生物学における重大な知識の gap (ギャップ) として残されていた。

先行研究である Hanahan (2000) や Hanahan (2011) などの一連の報告で提示されたがんのホールマーク概念では、非遺伝学的な変化や微小環境の多様な相互作用ががん進展に果たす役割について、詳細な分子機構や普遍的な位置づけが未解明であり、課題が残されていた。この不足を解消し、がんの進展を駆動する新たなメカニズムを体系化することが強く求められていた。本Perspectiveは、これらの新たな知見を体系的に整理し、がんのホールマーク概念を多次元的に拡張するために執筆された。

目的

本総説の目的は、がんのホールマーク概念を2022年版に更新し、近年の研究成果を統合した新たな概念的フレームワークを提示することである。具体的には、(1)「表現型可塑性の解除」を新たなホールマーク能力として位置づけ、(2)「非変異型エピジェネティック・リプログラミング」と「多型性マイクロバイオーム」を新たなイネーブリング特性として定義し、(3)「老化細胞」を TME を構成する重要な機能的細胞型として追加することを目的とする。これにより、がん細胞自律的な遺伝子変異中心の視点から、非遺伝学的変化や宿主環境との相互作用を含む多次元的なシステムとしてのがん理解へと概念的枠組みを拡張し、基礎研究および臨床現場における新たな治療戦略の創出を促進することを目指す。

結果

表現型可塑性の解除における脱分化メカニズム: 成熟した細胞が前駆細胞様状態へと逆行する脱分化(dedifferentiation)は、がん細胞が終末分化の障壁を回避する主要な手段である。大腸癌においては、分化を誘導する TF である HOXA5 や SMAD4 の消失が、幹細胞フェノタイプの獲得と浸潤・転移の促進に直結する。マウスモデル(n=12 mice)において、HOXA5を強制発現させることで分化マーカーが回復し、腫瘍形成能が抑制されることが示されている。また、皮膚黒色腫(メラノーマ)の 50% 以上に検出される BRAF 変異は過増殖を誘発するが、これとは独立してメラノサイト分化のマスターレギュレーターである MITF の発現抑制が起こることで、神経堤前駆細胞遺伝子が再活性化し、脱分化が進行する。膵島細胞癌の進行モデルにおいては、p53の欠失が αKG (alpha-ketoglutarate) の産生低下を招き、これがエピゲノム変化を介して胚性前駆細胞状態への脱分化を駆動することが示されている (Fig 2)。

分化ブロックによる前駆細胞状態の維持: 未熟な前駆細胞が終末分化へ進行する経路を遮断される分化ブロック(blocked differentiation)も、可塑性の重要な一側面である。APL (acute promyelocytic leukemia: 急性前骨髄球性白血病) では、t(15;17)転座による PML-RARα 融合タンパク質がレチノイン酸受容体の機能を阻害し、骨髄前駆細胞を増殖性の前骨髄球段階に固定する。この病態に対し、ATRA (all-trans retinoic acid) 治療を行うことで、APL細胞を非増殖性の成熟顆粒球へと再分化させることが可能である。また、t(8;21)転座を有する AML (acute myeloid leukemia: 急性骨髄性白血病) においては、AML1-ETO融合タンパク質による分化ブロックに対し、HDAC (histone deacetylase: ヒストン脱アセチル化酵素) 阻害薬を投与することで、クロマチン構造が再構成され、成熟骨髄系細胞への分化が再開し、分化マーカーの発現が fold change 2.5x 以上に上昇して増殖能が低下する (Fig 2)。

IDH1/2変異によるエピゲノム制御と分化ブロック: IDH1/2 (isocitrate dehydrogenase 1/2) 変異は、正常な分化を促す αKG の代わりにオンコメタボライトである D2HG (D-2-hydroxyglutarate) を過剰産生し、DNAやヒストンの脱メチル化酵素を阻害することで、肝細胞や骨髄系細胞の分化を強力にブロックする。この変異は、DNAメチル化状態を変化させ、特定の分化マスターレギュレーターである HNF4a の発現を抑制する。IDH1/2変異を有する白血病の約 20% において、このD2HGによる分化ブロックが病態形成の中核を担っていることが示されている。このエピゲノム的な分化ブロックにより、前駆細胞は未分化な状態のまま維持され、その後の二次的な遺伝子変異によって迅速にがん化が進行する (Fig 2)。

トランス分化による治療抵抗性と系譜転換: 細胞が既定の分化経路を逸脱し、全く異なる発達プログラムへと切り替わるトランス分化(transdifferentiation)は、治療抵抗性の獲得において極めて重要である。前立腺癌においては、抗アンドロゲン療法に対する耐性獲得機序として、RB1およびTP53の共欠失に加えて転写因子SOX2の上昇が生じることで、アンドロゲン受容体非依存性の神経内分泌表現型へとトランス分化する。in vitroの実験(n=3 replicates)において、SOX2のノックダウンがこの系譜転換を阻害し、治療感受性を回復させることが確認されている。この系譜転換により、治療標的であるアンドロゲン受容体シグナルへの依存性から脱却し、極めて悪性度の高い治療抵抗性病態へと移行する (Fig 2)。

皮膚基底細胞癌の薬剤耐性とエピジェネティックシフト: BCC (basal cell carcinoma: 皮膚基底細胞癌) では、HH/SMO (Hedgehog-Smoothened) 阻害薬に対する耐性獲得時に、スーパーエンハンサーの改変を伴う大規模なエピジェネティックシフトが生じ、毛包膨大部幹細胞様状態から指間皮膚基底幹細胞様状態(WNT依存性細胞状態)へと系譜が切り替わる。このトランス分化により、がん細胞は薬物によって阻害されたHH/SMOシグナル経路への依存を回避し、WNTシグナル経路を代替的な増殖駆動源として利用する。このシフトに伴い、WNTシグナル関連遺伝子の発現が fold change 3.0x 以上に活性化し、薬物存在下での生存を可能にする (Fig 2)。

肺癌における動的な系譜転換と可塑性状態: 肺癌においては、神経内分泌癌である SCLC (small-cell lung cancer: 小細胞肺癌) と、非小細胞肺癌である腺癌や扁平上皮癌の間で、動的かつ不均一な相互変換が生じることが、シングルセルマルチオミクス解析 LaFave et al. CancerCell 2020 および Marjanovic et al. CancerCell 2020 により実証されている。これは単純な一方向性のクローン選択ではなく、治療選択圧下で複数の発達系譜の特性を示す亜集団が動的に相互変換する現象である。肺癌細胞株を用いた実験(n=5 cell lines)において、治療薬曝露後に神経内分泌マーカーの発現が有意に上昇し(p<0.001)、系譜可塑性が治療抵抗性の主因であることが示されている (Fig 2)。

非変異型エピジェネティック・リプログラミングの微小環境制御: DNAの塩基配列変異に依存せず、純粋にエピゲノム的な修飾変化によってがんのホールマーク能力が獲得される現象を非変異型エピジェネティック・リプログラミング(nonmutational epigenetic reprogramming)と呼ぶ。TME の物理的特性である低酸素状態は、酸素依存性のTETデメチラーゼ活性を著しく低下させ、ゲノム全体、特にプロモーター領域の大規模な高メチル化を引き起こす。小児上衣腫の一種である posterior fossa A(PFA)エペンディモーマにおいては、反復する体細胞遺伝子変異がほとんど存在しないにもかかわらず(変異数 n<5 per genome)、低酸素誘導性の遺伝子制御プログラムとエピゲノム再構成のみによって発癌と悪性進行が駆動される (Fig 3)。

ZEB1とSETD1BによるEMT状態の維持: EMT (epithelial-to-mesenchymal transition: 上皮間葉移行) のマスターレギュレーターである ZEB1 は、ヒストンメチルトランスフェラーゼである SETD1B を誘導し、SETD1B がさらに ZEB1 の発現を維持するという正のフィードバックループを形成することで、遺伝子変異を伴わずに浸潤性のEMT状態を安定的に維持する。このエピジェネティックな制御ループにより、がん細胞は一過性のシグナル刺激が消失した後も、EMT状態を維持し続けることができる。実験的に SETD1B を阻害すると、ZEB1 の発現が log2FC -2.5x 以下に低下し、細胞の浸潤能が著しく抑制されることが示されている (Fig 3)。

リンカーヒストンH1.0の抑制と幹細胞様特性: リンカーヒストンH1.0の発現が腫瘍内でダイナミックに抑制された亜集団は、クロマチン構造の弛緩を介して幹細胞様特性を獲得し、患者の予後不良と相関することが示されている。H1.0の発現低下は、特定の分化関連遺伝子のプロモーター領域をオープンにし、これらの遺伝子の転写を活性化する。臨床検体を用いた解析(n=200 patients)において、H1.0低発現群は高発現群と比較して、生存期間が有意に短縮していることが Kaplan-Meier 解析により示されている(HR 2.1 (95% CI 1.4-3.2, p=0.001)) (Fig 3)。

多型性マイクロバイオームによるDNA損傷と発癌促進: 個体間で多様性に富む微生物叢(マイクロバイオーム)の多型性(polymorphic microbiomes)は、がんの発生、進行、および治療応答性を多面的に修飾する。大腸癌においては、PKS遺伝子座を保有する大腸菌(Escherichia coli)が産生するコリバクチンがDNAに直接結合して二本鎖切断を誘発し、特異的な変異シグネチャーを残す。PKS陽性大腸菌を投与したマウスモデル(n=15 mice)では、陰性群と比較して、大腸上皮細胞におけるDNA損傷マーカーである γ-H2AX の陽性率が 3.5-fold 以上に増加し、腫瘍の発生頻度が有意に上昇することが確認されている (Fig 4)。

酪酸産生菌による細胞老化とSASPを介した腫瘍促進: 特定の酪酸産生菌の増加は、腸管上皮細胞や線維芽細胞の細胞老化を誘導し、SASP (senescence-associated secretory phenotype: 老化随伴分泌表現型) を介して大腸発癌を促進する。酪酸はヒストン脱アセチル化酵素阻害作用を持ち、これが特定の細胞周期抑制因子の発現を誘導することで老化を引き起こす。酪酸産生菌が定着したマウスでは、SASP因子である IL-6 や IL-8 の分泌が有意に増加し、周囲の非老化細胞の増殖を促進する。この老化細胞をsenolytic薬を用いて選択的に除去すると、腫瘍の発生数が約 40% 減少することが示されている (Fig 4)。

腸内細菌SagAによる免疫療法感受性の増強: 腸内細菌である Enterococcus などは、ペプチドグリカン水解酵素 SagA を分泌して宿主の NOD2 受容体を活性化し、全身のT細胞応答を増強することで、ICB (immune checkpoint blockade: 免疫チェックポイント阻害) 療法の治療効果を劇的に高める。この概念実証として、抗PD-1抗体治療に抵抗性を示したメラノーマ患者に対し、治療感受性患者からのFMTを行うことで、治療抵抗性を克服し、抗腫瘍免疫を再活性化できることが臨床試験 Davar et al. Science 2021 で実証されている。この臨床試験(n=25 patients)において、FMT後に抗腫瘍免疫応答が活性化し、客観的奏効率(ORR)が 32% に達したことが報告されている (Fig 4)。

腫瘍内マイクロバイオームの癌種特異的プロファイル: 1,526例の腫瘍(n=1526)を対象とした7つの癌種(骨、脳、乳腺、肺、黒色腫、卵巣、膵臓)の調査により、各癌種が細胞内に特有の腫瘍内マイクロバイオームを保持していることが明らかになっている。これらの腫瘍内細菌は、主にがん細胞や免疫細胞の細胞内に存在し、代謝産物の分泌などを通じて TME を修飾する。例えば、肺癌においては、特定の細菌群の存在が、腫瘍促進性炎症の活性化や、免疫チェックポイント分子の発現上昇と相関していることが示されており、治療応答性を予測するバイオマーカーとしての有用性が検討されている (Fig 4)。

老化細胞のSASPによる腫瘍促進作用: 細胞老化(cellular senescence)は、不可逆的な増殖停止を伴うがん抑制機構として知られていたが、持続的に存在する老化細胞が分泌するSASP因子(IL-6、IL-8、各種ケモカイン、マトリックスメタロプロテアーゼなど)が、周囲のがん細胞や間質細胞に対して旁分泌的に作用し、増殖シグナル、血管新生、浸潤・転移、および免疫回避を強力に促進する二面性を持つ。遺伝子組換えマウスモデルを用いた実験において、p16-INK4a陽性の老化細胞を薬理学的または遺伝学的に除去(senolysis)した加齢マウスでは、自然発症腫瘍の発生率が有意に低下し、がん関連死が減少することが実証されている。老化細胞除去群では、非除去群と比較して、腫瘍発生率が有意に低下した(HR 0.35 (95% CI 0.22-0.56, p<0.001)) (Fig 5)。

治療誘発性老化と一時的老化による治療抵抗性: がん細胞自身が治療誘発性老化(therapy-induced senescence)に陥った後、一時的な老化状態から逃脱して増殖を再開する「一時的老化(transitory senescence)」が、強力な治療抵抗性および再発の機序として認識されている。化学療法薬(例えば、シスプラチンなど、IC50 10 uM)に曝露されたがん細胞は、一時的に老化マーカーを発現し増殖を停止するが、数週間後に一部の細胞が老化状態から脱出して再増殖を開始する。この再増殖した細胞は、元の細胞と比較して幹細胞マーカーの発現が log2FC 2.1x 以上に上昇しており、極めて高い治療抵抗性と転移能を示すことが確認されている (Fig 5)。

老化CAFsによる免疫抑制性微小環境の形成: CAF (cancer-associated fibroblast: がん関連線維芽細胞) や腫瘍血管内皮細胞が老化に陥ることで、SASPを介して周囲の非老化がん細胞にホールマーク能力を付与し、CD8陽性T細胞を主体とする抗腫瘍免疫を抑制する免疫抑制性微小環境が形成される。老化CAFから分泌される CXCL11 などのケモカインは、CD8陽性T細胞の浸潤を阻害する一方で、骨髄由来抑制細胞(MDSC)などの免疫抑制性細胞を強力に呼び寄せる。in vitroの共培養実験(n=3 replicates)において、老化CAFの存在下では、CD8陽性T細胞によるがん細胞傷害活性が約 60% 低下することが確認されている (Fig 5)。

考察/結論

本Perspectiveは、がんのホールマーク概念を2022年版にアップデートし、がんの複雑性を理解するための4つの新たな次元を体系的に提唱した。これら4つの要素(表現型可塑性の解除、非変異型エピジェネティック・リプログラミング、多型性マイクロバイオーム、老化細胞)は、それぞれ独立した概念でありながら、TME において密接に相互作用し、がんの悪性進行を協調的に駆動している。

先行研究との違い: 先行する2011年版のフレームワーク Hanahan et al. Cell 2011 と異なり、本Perspectiveは、がん細胞自律的な遺伝子変異のみに依存しない非遺伝学的な環境相互作用メカニズムを、がんの進展を駆動する中核的な力として位置づけた。従来のゲノム中心主義的な視点から、エピゲノム、マイクロバイオーム、そして TME の機能的細胞型を統合した多次元的なシステムとしてのがん理解へとシフトしている点が決定的に異なる。

新規性: 本Perspectiveは、表現型可塑性の解除を新たなホールマーク能力に、非変異型エピジェネティック・リプログラミングと多型性マイクロバイオームを新たなイネーブリング特性に、そして老化細胞を TME の重要な構成要素として、本研究で初めて体系的に統合・提唱した。特に、肺癌における非小細胞肺癌と小細胞肺癌の間の動的な系譜転換 LaFave et al. CancerCell 2020 Marjanovic et al. CancerCell 2020 や、FMTによる免疫療法抵抗性の克服 Davar et al. Science 2021 など、最新のシングルセル解析や臨床試験のエビデンスを基に、これらの概念が普遍的ながんの特性であることを新規に論証した。

臨床応用: 本知見は、がん治療における新たな標的治療の臨床応用に直結する。臨床的意義として、(1) ATRAやIDH阻害薬を用いた分化療法による可塑性の制御、(2) DNMT阻害薬やHDAC阻害薬、EZH2阻害薬を用いた非変異型エピジェネティック変化の修飾、(3) FMTや特定の細菌由来免疫調節分子(SagAやイノシンなど)を用いたマイクロバイオーム操作によるICB感受性の増強、(4) senolytic薬や免疫学的アブレーションによる腫瘍促進性老化細胞の選択的除去、といった多角的なアプローチが臨床現場における次世代の治療戦略として期待される。

残された課題: 今後の検討課題(limitation)として、これらの新次元がすべての癌種において普遍的なホールマークとしての要件を完全に満たしているかどうかは、依然として検証の余地が残されている。特に、KRAS、MYC、TP53などの古典的な強力な発癌ドライバー変異が、これらの非遺伝学的な変化やマイクロバイオーム、老化細胞とどのように協調してホールマーク能力を獲得・維持しているのか、その詳細な分子ネットワークの解明が今後の重要な課題である。また、シングルセルマルチオミクス技術 Nam et al. NatRevGenet 2021 を用いて、個々の患者の腫瘍内におけるこれらの因子の動的な相互作用をリアルタイムで追跡し、治療標的としての妥当性を検証することが求められる。

方法

本総説は、2011年の改訂以降に発表された膨大な基礎および臨床がん生物学の文献を体系的にレビューし、概念を統合する手法をとった。文献検索は、PubMedWeb of ScienceCochrane Library、および Embase などの主要な学術データベースを用いて実施された。検索キーワードには、“hallmarks of cancer”、“phenotypic plasticity”、“epigenetic reprogramming”、“microbiome”、“cellular senescence”、“tumor microenvironment” などの用語が使用された。特に、がん細胞の運命決定、脱分化、トランス分化に関する scRNA-seq (single-cell RNA sequencing: シングルセルRNAシーケンシング) データや、エピゲノムプロファイリング(ChIP-seq、ATAC-seq、DNAメチル化解析)の最新知見を重点的に収集した。

また、臨床的な有用性を検証するため、臨床試験における生存データ(Kaplan-Meier 曲線や Cox regression モデルによるハザード比の算出、log-rank 検定による有意差評価など)や、患者コホートにおける相関解析(Fisher's exact 検定などによる臨床病理学的因子との関連評価)を含む文献を厳選した。さらに、マウスモデルを用いた機能実証実験(例えば、特定の TF (transcription factor: 転写因子) のノックアウトや強制発現、FMT (fecal microbiota transplant: 糞便微生物叢移植) による治療感受性の変化、senolytic薬による老化細胞の除去実験など)のデータを精査し、複数の独立した研究グループによって再現性が確認されている知見のみを抽出した。さらに、基礎研究における代表的な肺がん細胞株(A549H1299)や、マウス系統(C57BL/6JBALB/c)を用いた実験系での検証結果も評価対象とした。これらのデータを統合し、がんの悪性進行を駆動する共通の生物学的原理として、4つの新たな次元を定義・体系化する概念的フレームワークを構築した。