• 著者: J. Zugazagoitia, I. Ramos, J.M. Trigo, M. Palka, A. Gomez-Rueda, E. Jantus-Lewintre, C. Camps, D. Isla, P. Iranzo, S. Ponce-Aix, R. Garcia-Campelo, M. Provencio, F. Franco, R. Bernabe, O. Juan-Vidal, E. Felip, J. de Castro, J.M. Sanchez-Torres, I. Faul, R.B. Lanman, P. Garrido, L. Paz-Ares
  • Corresponding author: L. Paz-Ares (Hospital Universitario 12 de Octubre, Madrid); P. Garrido (Hospital Universitario Ramon y Cajal, Madrid)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30535340

背景

進行非扁平上皮非小細胞肺癌 (NSCLC)、特に肺腺癌の標準治療アルゴリズムにおいて、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、METなどのドライバー遺伝子変異の組織ジェノタイピングは不可欠である。これは、CAP/IASLC/AMPガイドライン (Lindeman et al., J Thorac Oncol 2018) でも明確に推奨されている。しかし、実臨床では、進行肺腺癌患者の約30%において、腫瘍生検検体が分子ジェノタイピングに不十分であるか、不適切であることが報告されている (Hagemann et al. Cancer 2015; Al-Kateb et al. Mol Oncol 2015)。この組織検体不足は、解剖学的に困難な深部病変や肺内病変、患者の全身状態の悪化、既存の合併症、あるいは臨床状態の急激な悪化による迅速な治療開始の必要性など、様々な要因によって引き起こされる。さらに、マルチプレックスNGSパネルの普及により、1回の生検で必要とされる組織量が増加する傾向にあり、組織不足の問題はむしろ深刻化している。再生検は患者への侵襲が大きく、解剖学的な困難さや時間的なロスを伴うため、常に実施可能とは限らない (Zugazagoitia et al. Clin Lung Cancer 2018)。このような背景から、組織検体では十分な分子情報が得られないという課題が残されている

このような高アンメットニーズな臨床状況において、血漿中のcell-free DNA (cfDNA) から腫瘍由来のcirculating tumor DNA (ctDNA) をデジタルNGS技術で解析する liquid biopsy が急速に進歩している。Guardant360 (Guardant Health社、CLIA認定・CAP認定・NY州保健省承認) などの商用パネルは、その高い感度と特異度が検証されてきた (Odegaard et al. Clin Cancer Res 2018)。Guardant360は73遺伝子を対象としたハイブリッドキャプチャーベースのパネルであり、特異度と陽性的中率が約100%と高いとされ、アクショナブル変異が検出された場合には、確認生検なしに標的治療を開始できる可能性が示唆されている (Merker et al. JClinOncol 2018)。

本研究は、組織検体が不十分な進行肺腺癌患者という、これまで治療選択肢が限られていた集団において、Guardant360を用いたctDNA NGSの臨床的有用性を前向き多施設実臨床コホートで評価した最初期の試験の一つである。特に、アクショナブル変異の検出率、genotype-matched治療への誘導率、および共存する病原性変異の臨床的意義(予後的インパクト)を明らかにすることを目的とした。これにより、組織検体不足の課題を克服し、患者に迅速かつ適切な精密医療を提供する新たなパラダイムを確立するための重要なエビデンスを提供することが期待される。これまでの研究では、ctDNAの検出感度や特異度に関する報告はあったものの、組織検体不十分な患者における前向きな臨床的有用性、特に治療選択への直接的な影響や予後因子としての共存変異の評価は未解明な点が多かった。本研究は、この知識ギャップを埋めることを目指した。

目的

組織EGFR、ALK、ROS1ジェノタイピングが不十分または不可能な進行肺腺癌患者を対象に、Guardant360によるctDNA NGSの臨床的有用性を評価することを目的とした。具体的には、以下の点を前向き多施設コホート研究で検証した。

  1. アクショナブル変異の検出率: ctDNA NGSが、FDA承認バイオマーカーや標準治療バイオマーカーを含む、治療標的となりうる遺伝子変異(アクショナブル変異)をどの程度の頻度で検出できるかを評価する。
  2. Genotype-matched治療への誘導率と迅速性: ctDNA解析結果に基づき、患者がgenotype-matched標的治療へどの程度迅速に移行できるか、およびその臨床的利益を評価する。これには、血液採取から結果判明までのターンアラウンドタイム(TAT)の評価も含む。
  3. 共存病原性変異の臨床的意義: 複数の病原性変異(co-occurring deleterious alterations)の頻度を明らかにし、それらが患者の全生存期間(OS)に与える予後的インパクトを評価する。特に、アクショナブル変異と共存する変異が予後に及ぼす影響を解析する。

本研究は、組織検体不足という臨床的課題を抱える患者群において、ctDNA NGSが精密医療の提供を可能にする代替手段となりうるか、また、その際に共存する遺伝子変異が予後予測に役立つかという、これまで不足していた実臨床データを提供することを目指した。

結果

ctDNA検出率と変異分布: 93例中83例(89%)でctDNAが検出可能であり、VUSを含む何らかの遺伝子変異が認められた。ctDNA陽性と相関する臨床因子は性別以外に有意なものはなかった(女性でVAF ≥5%の変異検出: OR 2.9, p=0.02)。75例(80%)で少なくとも1つの病原性変異が確認された。最も頻繁に検出された変異遺伝子はKRAS(n=22, 24%)とEGFR(n=14, 15%)であり、これは非選択肺腺癌コホートの組織NGSデータで報告されている頻度と概ね一致した。その他の高頻度変異として、TP53、STK11、CDKN2A、RB1などの非アクショナブル変異も多く検出された(Figure 1)。本コホートではALKおよびRET再編成は検出されなかったが、ROS1融合は1例で検出された。これは、これらの融合遺伝子の頻度が低いことによるものと考えられる。

アクショナブル変異検出率と臨床因子との関連: Level 1〜4のアクショナブル変異は、53例(57%)の患者で検出された。このうち、FDA承認バイオマーカーや標準治療バイオマーカーに該当するLevel 1〜2A変異は13例(14%)に認められた(Table 2)。治療歴のないサブグループ(n=48)では、29例(60%)でアクショナブル変異が、7例(15%)でLevel 1〜2A変異が検出され、全体コホートと類似した割合であった。アクショナブル変異を保有する患者は、非アクショナブル変異のみの患者と比較して、遠隔転移をより高頻度に有していた(62% vs 32%, OR 3.53, 95% CI 1.23-10.15, p=0.01)。その他の臨床因子(年齢、性別、PS、喫煙歴)は、これら2群間で有意な差は認められなかった。

共存病原性変異の頻度と予後への影響: 58例(62%)の患者が2種類以上の病原性変異(co-occurring deleterious alterations)を有していた。アクショナブル変異を保有する53例中46例(87%)が共存病原性変異を有しており、これは非アクショナブル変異のみの患者(55%)と比較して有意に高かった(p=0.004)。Level 1変異保有者(n=9)の90%にも共存病原性変異が認められた。最も頻繁に検出された共存変異はTP53変異であり、共存病原性変異を有する58例中48例(83%)に認められた。8例の患者は複数のアクショナブル変異を同時に保有していた。 全コホートにおいて、共存病原性変異を有する患者のOS中央値は8.3ヶ月であったのに対し、共存病原性変異がない患者ではOS中央値は未達であり、有意な差が認められた(p=0.007, log-rank検定)(Figure 2A)。多変量解析では、共存病原性変異の存在が独立した予後不良因子であることが示された(HR 5.35, 95% CI 1.39-20.47, p=0.01)。この予後不良効果は、アクショナブル変異保有サブグループにおいても有意に認められた(p=0.03)(Figure 2B)。しかし、非アクショナブル変異のみの患者では、共存変異の予後的意義は有意ではなかった(5.9ヶ月 vs 9.1ヶ月, p=0.17)(Figure 2C)。

Genotype-matched治療への移行とターンアラウンドタイム: 血液採取からctDNA結果受領までのターンアラウンドタイム(TAT)中央値は13日(範囲7〜30日)であった。全コホートの12例(13%)がctDNA結果に基づくgenotype-matched標的治療を受けた(Table 2)。治療内容には、EGFR変異に対するエルロチニブ/アファチニブ/ゲフィチニブ(n=7)、ROS1融合に対するクリゾチニブ(n=1)、BRAF V600E変異に対するダブラフェニブ+トラメチニブ(n=1)、METエクソン14スキッピングに対するクリゾチニブ(n=1)、HER2変異に対するパクリタキセル+トラスツズマブ(n=1)、FGFR1増幅に対するドセタキセル+ニンテダニブ(n=1)が含まれた。Level 1変異保有者の89%(n=9中8例)が標的薬を受給し、Level 2A変異保有者の50%が受給した。一方、Level 2B〜4変異保有者では、わずか5%のみが標的治療を受けた。治療を受けられなかった主な理由は、臨床試験の不在や、臨床試験外での薬剤アクセスが困難であったためである。臨床的悪化により治療機会を逸した患者は3例(3%)のみであり、これは組織NGSと比較して低い失敗率であった。

OSと治療効果: 全コホートの中央値追跡期間は8ヶ月であった。ctDNAが検出された患者(OS中央値10.4ヶ月)と検出されなかった患者(OS中央値11.5ヶ月)の間でOSに有意差はなかった(p=0.45)。VAF ≥5%の病原性変異を有する患者では、VAF <5%の患者と比較してOSが短縮する傾向が認められた(8.3ヶ月 vs 12.2ヶ月, HR 1.68, 95% CI 0.90-3.15, p=0.09)。Genotype-matched治療を受けた患者のOS中央値は未達であったのに対し、治療を受けなかった患者のOS中央値は11.5ヶ月であったが、統計的に有意な差は認められなかった(p=0.32)。これは、genotype-matched治療を受けた患者数が少ない(n=12)ことと、追跡期間が短いことに起因すると考えられる。

考察/結論

本研究は、組織検体不十分という高アンメットニーズの臨床状況において、ctDNA NGS(Guardant360)が前向き多施設コホートで実臨床的に有用であることを実証した。89%という高いctDNA検出率は、本コホートの転移性疾患の重症度(51%が遠隔転移)を反映しており、ctDNAが検出可能な患者では組織NGSと同等レベルの変異プロファイル情報が取得できることを示唆する。

先行研究との違い: 本研究で検出されたアクショナブル変異の検出率57%は、組織代替手段としてのctDNA NGSの実用性を示す重要な数値である。先行研究であるThompson et al. ClinCancerRes 2016やSchwaederle et al. Clin Cancer Res 2017では80%以上のアクショナブル変異率が報告されているが、本研究が「組織不十分」という非選択的かつアンセレクテッドな集団を対象としていることを考慮すると、この検出率は合理的な結果である。また、本研究のターンアラウンドタイム中央値13日という迅速性は、組織NGSよりも大幅に短く、治療機会を逃す患者を最小限に抑えることができる(3%のみ機会喪失)。これは、組織NGSで報告される高い機会損失率とは対照的である。

新規性: 本研究の最も新規な発見は、共存病原性変異が独立したOS予後不良因子(HR 5.35, 95% CI 1.39-20.47, p=0.01)であることを前向き多施設コホートで初めて示した点である。アクショナブル変異保有者の87%、Level 1変異保有者の90%が共存病原性変異(主にTP53変異が83%)を有するという高頻度は、「1つのドライバー遺伝子が肺腺癌を単独で駆動する」という古典的モデルへの反証であり、Blakely et al. NatGenet 2017がEGFR変異NSCLCにおけるctDNA解析で共存変異の予後影響を示した知見と一致する。共存病原性変異のOS短縮効果(8.3ヶ月 vs 未達)は、アクショナブル変異保有サブグループでも有意(p=0.03)であり、ドライバー変異が存在しても共存変異の有無が生存を決定する可能性を示唆する。

臨床応用: この知見は臨床的に重要であり、ctDNA NGSが単にドライバー変異を同定するにとどまらず、予後層別化ツールとして機能できることを示す。特に、Level 1〜2A変異(FDA承認・標準治療バイオマーカー)が14%に検出され、そのうちLevel 1変異保有者の89%が実際に標的治療を受給できたことは、治療選択への直接の貢献を示す。Guardant360の特異度・陽性的中率が約100%であるという検証済みの性能(Odegaard et al. Clin Cancer Res 2018)は、ctDNAでアクショナブル変異が検出された際に確認生検なしで標的治療を開始できることを支持し、著者らはそれを明示的に推奨している。この「biopsy-free targeted therapy initiation」は、組織不十分な患者の治療機会喪失を大幅に低減する臨床的有用性を持つ。

残された課題: 今後の検討課題として、(1) 共存病原性変異が標的治療の奏効やPFSに与える影響を、より大規模かつ追跡期間の長い前向き試験で評価する必要がある。本研究ではgenotype-matched治療を受けた患者数がn=12と少なく、追跡中央値も8ヶ月と短いため、この点に関する結論は限定的である。(2) Level 2B〜4変異(KRAS、PIK3CAなど)に対する標的治療アクセスが5%にとどまった点は、臨床試験の不在や試験外での薬剤アクセス困難が主因であり、今後の臨床試験展開(例: KRAS G12C阻害薬ソトラシブ/アダグラシブなど)で改善が見込まれる。(3) 追跡期間の限界(中央値8ヶ月)とサンプルサイズの制約も本研究のlimitationである。(4) Guardant Health社による研究費支援という利益相反も考慮すべき点である。しかし、本研究は liquid biopsy の有用性が免疫療法時代・精密腫瘍学時代に拡大する中で、組織代替手段としての地位確立に大きく貢献した重要なproof-of-concept研究である。

方法

本研究は、スペイン国内12施設が参加した多施設共同前向きコホート研究として実施された。対象患者は、進行肺腺癌と診断され、標準的なEGFR、ALK、ROS1ジェノタイピングのための腫瘍組織検体が不十分または不適切であった93例である。繰り返し生検が技術的または臨床的に不可能と判断された患者が登録された。既にEGFR、ALK、ROS1の既知の遺伝子変異を有する患者は除外された。患者背景は、中央値年齢63歳(範囲33〜89歳)、女性54%、非喫煙者26%、遠隔転移を有する患者が51%であった。組織変異状況については、56%(n=60)の患者でEGFR、ALK、ROS1のいずれも検査が実施できておらず、35%でEGFR野生型、25%でALK野生型と報告されていた。

Guardant360プロトコルに従い、患者から血液サンプルを採取し、血漿を分離後、ctDNAを抽出した。ctDNAのデジタルNGSは、Guardant Health社(Redwood City, CA)によって実施された。このアッセイは、CLIA認定、CAP認定、およびニューヨーク州保健省承認の臨床検査室で実施され、73遺伝子を対象としたハイブリッドキャプチャーベースのNGSパネルが使用された。このパネルは、点突然変異、挿入欠失、増幅、融合の4種類の主要な遺伝子変異タイプを検出可能であり、バリアントアレル頻度(VAF)の最小検出限界は約0.1〜0.3%であった。

検出された遺伝子変異は、その機能的および生物学的関連性に基づいて2つの主要なカテゴリーに分類された。(i) 意義不明の変異(VUS: Variants of Unknown Significance)、および(ii) 病原性/有害変異(pathogenic/deleterious variants)。病原性変異は、さらに治療的脆弱性に基づいてアクショナブル変異と非アクショナブル変異に分類された。アクショナブル変異は、Chakravarty et al. JCOPrecisOncol 2017精密腫瘍学知識データベースに基づき、薬剤応答に関する臨床的または前臨床的エビデンスのレベルに応じて4段階に分類された。

  • Level 1: 肺癌患者におけるFDA承認バイオマーカー(例: EGFRエクソン19欠失)。
  • Level 2A: 肺癌臨床診療ガイドラインに基づく承認薬の標準治療バイオマーカー(例: METエクソン14スキッピング)。
  • Level 2B: 他の癌種で承認されているが、肺癌患者では未承認のバイオマーカー(例: HER2増幅)。
  • Level 3: 薬剤応答に関する有望な臨床的エビデンスがあるが、現時点ではいずれの癌種でも標準治療ではない変異(例: PIK3CA変異)。
  • Level 4: 薬剤応答に関する説得力のある前臨床的エビデンスがある変異(例: KRAS変異)。 複数のアクショナブル変異を持つ患者は、最も高いレベルのアクショナブル変異で分類された。非アクショナブル変異は、OncoKBによって治療的に脆弱ではないと判断された病原性変異(例: TP53またはSTK11変異)と定義された。

統計解析には、連続変数間の関連性を評価するためにt検定または一元配置分散分析が用いられ、カテゴリ変数間の関連性を評価するためにカイ二乗検定および二項ロジスティック回帰が用いられた。全生存期間(OS)は血液サンプル採取日から死亡または追跡不能日までの期間と定義され、無増悪生存期間(PFS)はgenotype-matched治療開始日から病勢進行または追跡不能日までの期間と定義された。生存曲線はカプラン・マイヤー法を用いて推定され、ログランク検定により比較された。OSのハザード比(HR)はCox回帰モデルを用いて算出された。多変量解析では、年齢、喫煙歴、遠隔転移の有無、PS、アリル頻度(VAF ≥5% vs <5%)、genotype-matched治療の有無で調整された。すべての仮説検定は両側検定で有意水準α=0.05で実施された。中央値追跡期間は8ヶ月(範囲12日〜15ヶ月)であった。