• 著者: Collin M. Blakely, Thomas B.K. Watkins, Wei Wu, Beatrice Gini, et al.
  • Corresponding author: Trever G. Bivona (UCSF, San Francisco, CA); Charles Swanton (The Francis Crick Institute, London, UK)
  • 雑誌: Nature Genetics
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-11-06
  • Article種別: Original Article (Translational / Genomics)
  • PMID: 29106415

背景

進行非小細胞肺癌 (NSCLC) における分子標的治療のパラダイムは「単一のドライバーがん遺伝子を同定し、その変異タンパクを阻害する」という考えに基づき、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬 (TKI: tyrosine kinase inhibitor) はEGFR変異陽性NSCLCに対する基幹治療として確立されてきた。獲得耐性についても、EGFR T790M変異が主要機序として理解され、これに続いてMET増幅・AXL活性化・C797S変異・small-cell transformation等が単一機序として報告された (Turke et al. CancerCell 2010; Thress et al. NatMed 2015)。しかし、(i) The Cancer Genome Atlas (TCGA) を含む既存のNSCLCゲノム参照データは早期腫瘍に偏っており、実際に標的治療を受ける進行例のゲノム多様性を反映していない、(ii) TP53など限定的な共存変異の臨床的影響は報告されていたものの、進行EGFR変異NSCLC全体における共存変異の頻度・機能的意義・治療応答との関連は1,000例規模で系統的に評価されていなかった、(iii) cfDNA (cell-free DNA) ベースの大規模臨床validated assayが利用可能になり (Newman et al. NatMed 2014)、進行期の異質性を非侵襲的に補足できる方法論が成熟したが、進行NSCLC clonal architectureの大規模mapping研究は未実施。これらの先行研究には進行EGFR変異NSCLCのco-occurring変異 landscapeを大規模cfDNAで体系的に評価するというギャップが残されていた。何が足りなかったかというと、(a) 進行例 1,000例規模の共存変異 prevalence データ、(b) cell-cycle/WNT等 EGFR-TKI耐性 driver pathway の selective enrichment 解析、(c) treatment-naive と acquired resistance setting を結ぶ縦断的 clonal architecture mapping、の3要素が同時に欠落しており未解明な領域であった。進行EGFR変異NSCLCを単一ドライバー疾患と見なす既存モデルの再評価が求められていた。

目的

進行 (stage III-IV) EGFR変異陽性NSCLC 1,122例のcfDNAを Guardant Health 68遺伝子パネルで解析し、(1) EGFR以外の共存変異の頻度・スペクトラム・経路レベル選択性をEGFR変異陰性 (n=944) と比較し、(2) T790M+ (n=440) vs T790M- (n=682) コホート間で共存変異の差を解析、(3) cfDNA縦断解析 (n=137 samples/97 patients) でTKI治療歴と genomic complexity増加の関係を定量し、(4) osimertinib一次応答コホート (n=41) で耐性予測 biomarkerを同定、(5) 1例の縦断的WES (whole-exome sequencing) で intra-patient clonal evolutionを再構成、(6) CTNNB1 (β-catenin) ・PIK3CA共発現の機能解析 (HCC827細胞) で nonredundant co-driver仮説を実験検証する。

結果

1,122 EGFR変異 NSCLC で 92.9% に EGFR 以外の機能的共存変異が検出される: 1,122例の解析で 92.9% (1,043/1,122) が EGFR driver mutationに加えて少なくとも1つの機能的に重要な共存変異を保有 (Fig 1a-b)。EGFR以外の平均変異数は 2.58 ± 1.7 (range 0-12; EGFR込みでは1-13) で、共存変異の 89.8% (3,033/3,375) が in silico 予測上の機能的影響を持ち、passenger変異は 10.2% (345/3,375) に留まった。これは EGFR変異陰性コホート (944例) の passenger比率 16.1% (415/2,578) より有意に低く (p=1.3×10⁻¹¹, two-tailed Fisher’s exact, OR=0.64)、EGFR変異 NSCLC が共ドライバーを selective enrichmentする systematic biasを持つことを示した。代表的共存遺伝子は PIK3CA・BRAF・MET・MYC・CDK6・CTNNB1 で、TP53 は EGFR変異 NSCLC で 54.6% (vs 陰性 50.3%, q=0.14) と高頻度に共存していた (Fig 1)。

CTNNB1・CDK6・AR が EGFR変異 NSCLC に選択的に濃縮し、WNT/cell-cycle 経路が新規 co-driver pathway として同定された: EGFR変異陽性 (n=1,122) vs 陰性 (n=944) コホートを Fisher’s exact test + BH correctionで比較すると、CTNNB1 (5.3% vs 1.8%, q=2.0×10⁻⁴)・CDK6 (7.0% vs 3.1%, q=8.0×10⁻⁴)・AR (5.1% vs 2.6%, q=0.02) が有意に EGFR変異 NSCLC で濃縮されていた (Fig 1c-d)。経路レベルでは WNT/CTNNB1 pathway (144/1,122 vs 92/944, q=0.06)・hormone signaling (59/1,122 vs 29/944, q=0.04) が EGFR変異陽性に選択的だった一方、RTK遺伝子 (310/1,122 vs 361/944, q=2.0×10⁻⁶) と MAPK経路 (KRAS 291/1,122 vs 453/944, q=2.8×10⁻²⁴; ALK融合 48/1,122 vs 67/944, q=0.02) は EGFR変異陰性に enrich していた (Fig 1e)。これは EGFR変異 NSCLC が一般的な NSCLC とは異なる co-evolution パターン (WNT + cell-cycle 軸) を持つことを示し、新規治療標的の根拠を与えた (Campbell et al. NatGenet 2016 の TCGA データとは対照的に進行期で見える選択性を浮かび上がらせる)。

T790M+ と治療経過に伴い genomic complexity が増加し、CDK4/CDK6 が osimertinib一次耐性 biomarker として同定される: T790M+ (n=440) vs T790M- (n=682) コホート比較で T790M+ 例は平均共存変異数が有意に多かった (2.41 ± 1.89 vs 2.01 ± 1.77, p=4.5×10⁻⁴) (Fig 2)。cell-cycle (CDK6 CNG 43/440 vs 36/682, q=0.08; CCNE1 CNG 39/440 vs 39/682, q=0.28)・WNT (CTNNB1 33/440 vs 27/682, q=0.12)・hormone (AR 30/440 vs 27/682, q=0.22) 経路の濃縮傾向を認め、C797S+ サブグループ (n=15) では KRAS・CDK4/6・AR の活性化変異が繰り返し出現した (Supplementary Fig 1c)。縦断 cfDNA (n=137 samples) では治療段階に応じて検出変異数が線形に増加 (pre-TKI 3.4 [95%CI 2.2-4.5] → 1次 progression 3.8 [3.2-4.4] → 2次 progression 5.2 [4.1-6.2], one-way ANOVA p=0.01, R²=0.064) し、治療圧による subclonal expansion が定量的に裏付けられた (Fig 3b)。Osimertinib開始前 cfDNA を持つ 41例の解析では、MET (3/21)・NF1 (5/21)・CDK4 (3/21)・CCNE1 (3/21)・CDK6 (2/21)・PIK3CA (6/21)・APC (5/21) 変異は primary resistance 群にのみ検出された (Fig 4a-b)。CDK4 または CDK6 変異を持つ患者 (n=5) は osimertinib 開始後 PFS が著しく短く (median 0.7 months [0.7-NR] vs 11.2 months [6.2-NR], HR 10.3, 95%CI 3.0-34.7, p=3.7×10⁻⁶ Cox PH; Fig 4d) で、cell-cycle pathway 全体でも HR 5.4 (95%CI 2.0-14.5, p=0.0002, Fig 4g) と osimertinib一次耐性の強力な臨床バイオマーカーであることが示された (Cross et al. CancerDiscov 2014 の osimertinib臨床導入文脈で重要な acquired-but-primary耐性の分子根拠を提供)。

縦断 WES 1例で truncal/subclonal 二相進化が再構成され、CTNNB1 と PIK3CA が ubiquitous な co-driver として共進化する: 6年間の進行・autopsy までを追跡した1例の WES (R1 primary → R2 LN met → R3-R7 lung/bone/spine; coverage 250-600×) では、診断時の coding mutational burden の >75% が truncal (ubiquitous clonal) であったが、autopsy 時に 50-58% に低下し、subclonal heterogeneity の段階的拡大が確認された (Fig 5a)。R1 から既に EGFR p.Glu746_Thr751delinsLeu・CTNNB1 p.Ser37Phe・SMAD4 p.Leu146*・RBM10 p.Ser10*・CDKN2A copy loss が clonal/truncal として共存し、R2 (LN met) で PRKCA p.Asn468Ile + PIK3CA p.Gly106Val + EGFR/CDK6/MET/BRAF を含む CNG が加わった。Erlotinib 治療進行時に EGFR p.Thr790Met が登場し、R3/R4/R6 metastases で PIK3CA p.Gly106Val と co-occur したが、R5/R7 では PIK3CA-wildtype background で T790M が独立に二度発生する parallel evolution が示唆された (Fig 5b)。Rociletinib耐性後の R5 (right rib) では 別の活性化変異 PIK3CA p.His1047Arg が出現し、同一遺伝子内で 2 つの独立 oncogenic variant が parallel に選択される現象が確認された (Bhang et al. NatMed 2015 と同様に治療圧下の clonal selection を直接観察)。

HCC827 in vitro 実験で CTNNB1 + PIK3CA 共発現が侵入能・移動能・WNT 転写標的を協調的に増強し EGFR-TKI 感受性を制限する: HCC827 (EGFR exon19del NSCLC) に CTNNB1 p.Ser37Phe または PIK3CA p.Gly106Val を単独/共発現させると、両変異の共発現群でのみ細胞侵入 (Fig 6e, F=5.095, df=8, ANOVA + Bonferroni) ・細胞移動 (Fig 6f, F=9.633, df=8) ・cell growth (Fig 6d, F=4.844, df=8) が有意に増強し、β-catenin転写標的 (MYC F=6.5, CCND1 F=107, LEF1 F=9.5, HOXB9 F=23.3, all df=3) も同調的に上昇した (Fig 6g)。Erlotinib 100 nM 添加下では PIK3CA 単独および CTNNB1+PIK3CA 共発現群で cleaved-PARP/total-PARP 比が低下し p-AKT/AKT 比が維持され、TKI 誘導アポトーシスが減弱した (Fig 6b)。これは CTNNB1 と PIK3CA が単独変異では効果が限定的だが、共存することで nonredundantに転移能と TKI 耐性を駆動する co-driver関係を実験的に証明した (Zhang 2014 と整合する空間/遺伝的heterogeneityの機能的帰結)。

Clonality 解析で EGFR 変異 NSCLC は subclonal alteration を多く含み、T790M は subclonal な傾向を示す: 1,122例の clonality解析 (MAF/max MAF ≥ 0.2 = clonal) では、founder EGFR mutations (L858R 86.5% [332/384]、E746_A750del 89.7% [350/390]) は予想通り大部分が clonal だった。一方、EGFR変異陽性 NSCLC 全体での subclonal alteration 割合は 36.6% (1,156/3,157) と EGFR陰性 (24.9%, 572/2,291) より高く (p=2.2×10⁻¹⁶, Fisher, OR=1.47) (Fig 7a)。T790M+ 例での subclonal割合 39.7% (604/1,519) は T790M- 33.3% (586/1,760) を上回り (p=0.02, OR=1.19, Fig 7b)、T790M自体も founder EGFR (95% clonal) に比べ subclonal な傾向 (71.1% clonal, 313/440, p=2.2×10⁻¹⁶, OR=1.83) を示した。これは T790M が第二の subclonal driver event として selectionされる evolutionary patternを示し、3次世代 EGFR-TKI 応答の不均一性を説明する分子的基盤を提供する。

考察/結論

本研究はGuardant Health cfDNA 1,122例という当時最大規模の進行 EGFR 変異 NSCLC コホートで、92.9% が EGFR以外の機能的共存変異を保有することを示し、進行 NSCLC を「単一ドライバー疾患」として扱う既存モデルからの根本的な転換を提起した。(1) 既存研究との違い:これまではPao 2005・Yu et al. ClinCancerRes 2013 等が単一の EGFR-TKI耐性機序 (T790M・MET amplification・small cell transformation) を組織生検サブセット規模で報告してきたのに対し、本研究は cfDNA という非侵襲モダリティで1,000例超のスケールで共存変異を捕捉し、これまで局所的事例として議論されてきた WNT・cell-cycle 経路の関与を群レベルで定量化した点で対照的なアプローチをとった。先行研究では TP53 のみが主要 co-mutation として注目されていたが、本研究は CTNNB1 (5.3%) と CDK6 (7.0%) が TP53 (54.6%) より低頻度ながら EGFR 変異 NSCLC に独立に濃縮される事実を初めて示した点でこれまでの議論とは異なる。(2) 新規性:本研究で初めて、(a) CTNNB1 (5.3% vs 1.8%) と CDK6 (7.0% vs 3.1%) が EGFR 変異 NSCLC に統計学的に有意に濃縮されることを大規模に証明、(b) cell-cycle pathway 変異 (特に CDK4/CDK6) が osimertinib一次耐性 (median PFS 0.7 vs 11.2 months, HR 10.3) の臨床バイオマーカーであることを示し、(c) CTNNB1 + PIK3CA 共発現が HCC827 細胞で nonredundantに転移・TKI耐性を駆動することを in vitro機能実験で報告された (β-catenin転写標的同調活性化・cleaved-PARP 減少)、(d) 1例の縦断 WES で T790M parallel evolution と PIK3CA独立 activation を実証した。(3) 臨床応用:本知見はその後の FLAURA2 (osimertinib + chemo)・MARIPOSA (amivantamab + lazertinib) 等の前向き併用試験のラショナルを提供し、cfDNAベースの治療前 co-mutation profiling (CDK4/CDK6・PIK3CA・MET・NF1) を臨床応用することで osimertinib一次耐性候補を治療前にスクリーニングし併用戦略を個別化する bench-to-bedside ロードマップを示した。臨床現場では NCCN guidelinesの EGFR変異 NSCLC初期検査推奨に大規模 NGS panel が含まれるようになり、本研究の概念的影響が反映された。(4) 残された課題:(a) Guardant cfDNA は 68 遺伝子に限定されており、全 exome 規模の co-mutation landscape は未捕捉、(b) 治療応答評価が clinician assessment (RECIST 厳密適用ではない) で行われており、osimertinib 一次耐性 cohort (n=41) も比較的小規模、(c) 縦断 WES は 1 例 (anecdotal) で群レベルの parallel evolution 一般化には更なる multi-patient 縦断研究が必要、今後の検討として PROTAGonIST 等の前向き cfDNA定義耐性コホートが進行中、(d) CTNNB1/PIK3CA 二重変異を標的とする臨床薬剤 (β-catenin直接阻害薬・PI3K特異阻害薬) の開発が今後の臨床応用の鍵、(e) HCC827 単一細胞株での実験は他 EGFR 変異 NSCLC 株 (PC9・H1975 等) での再現と in vivoモデル検証が limitation として残された。

方法

主要 cfDNA コホート (n=2,066): Guardant360 clinically validated cfDNA assayで、進行 (stage III-IV) NSCLC の EGFR変異陽性 1,122例 + EGFR変異陰性 944例 (filtering後の機能的変異データセット、原本は1,008例) を解析。68がん関連遺伝子の SNV (single nucleotide variant)・indel・遺伝子融合・コピー数増加 (CNG: copy number gain) を測定。統計: 共存変異頻度の群間比較は two-tailed Fisher’s exact test + Benjamini-Hochberg correction (q値出力)。生存比較は Kaplan-Meier curve + log-rank test、ハザード比は Cox proportional-hazard regression (95% confidence interval; CI 併記)。ANOVA + Tukey post-hocは縦断 cfDNA の line-of-therapy 比較に使用。縦断 cfDNA コホート (n=137 samples/97 patients): pre-TKI 21例・1次TKI progression 53例・2次治療 progression 26例の3群比較。Osimertinibコホート (n=41 patients): osimertinib開始前cfDNA解析 + 治療応答 (responder vs nonresponder by clinician assessment) + PFS/OS。縦断 WES (1 patient, 7 tumor specimens): 初診切除R1から autopsy R4-R7まで6年間の primary + 4 lung/2 bone/1 LN metastases + 6 plasma を解析。PyClone (subclonal copy number-corrected cancer cell fraction)・CAPP-seq による phylogenetic reconstruction、coverage 250-600×。Erlotinib → rociletinib 治療歴。機能実験: HCC827 (EGFR exon19del NSCLC細胞株) に CTNNB1 p.Ser37Phe (PIK3CA cooperationのため WNT pathway gain-of-function 変異) ・PIK3CA p.Gly106Val を単独/共発現で overexpression。Immunoblot (PARP/cleaved-PARP、p-AKT/AKT)・cell viability assay (DMSO control比)・cell growth/invasion/migration assays・β-catenin target gene qPCR (MYC, CCND1, LEF1, HOXB9)。Erlotinib (100 nM)・rociletinib (100 nM)・vehicle 添加で薬剤感受性比較、群間は ANOVA + Bonferroni correction。Clonality解析: mutational allele frequency / max MAF ≥ 0.2 を clonal、<0.2 を subclonal と定義。