• 著者: Gale D, Heider K, Ruiz-Valdepenas A, Hackinger S, Perry M, Marsico G, Rundell V, Wulff J, Sharma G, Knock H, Castedo J, Cooper W, Zhao H, Smith CG, Garg S, Anand S, Howarth K, Gilligan D, Harden SV, Rassl DM, Rintoul RC, Rosenfeld N
  • Corresponding author: Nitzan Rosenfeld (Cancer Research UK Cambridge Institute, University of Cambridge) / Robert C. Rintoul (Department of Oncology, University of Cambridge)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2022
  • Epub日: 2022-03-17
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 35306155

背景

早期NSCLC (非小細胞肺癌: non-small-cell lung cancer) に対する根治的治療後、約30-50%の患者が再発する。現行の術後モニタリングは主にCT画像に依存しており、再発の臨床的検出時点では腫瘍量がすでに相当量に達していることが多い。MRD (微小残存病変: minimal residual disease) の早期検出手段が乏しいことが課題であった。

ctDNA (循環腫瘍DNA: circulating tumour DNA) を含む液体生検は非侵襲的なMRD検出ツールとして急速に発展してきた。先行研究として、Abbosh 2017 (Abbosh et al. Nature 2017) はTRACERxコホートで早期NSCLCの進化的クローン構造をctDNAで追跡できることを初めて示した。また Moding 2020 (Moding et al. NatCancer 2020) はCRT (化学放射線療法: chemoradiotherapy) 後の局所進行NSCLCでctDNA動態が免疫療法ベネフィットを予測することを示した。さらにChaudhuri 2017 (Cancer Discov) は主に放射線療法・CRT後のstage I-III NSCLC患者 (n=40) でMRD陽性率94%・リードタイム中央値5.2ヶ月を報告した。他癌腫においてもctDNA連続モニタリングが転帰と相関することが報告されており (Dawson et al. NEnglJMed 2013)、患者特異的アッセイの高い特異度・感度が示されてきた (Cibulskis et al. NatBiotechnol 2013)。

これらの先行研究は放射線療法中心の局所進行期でのエビデンスが中心であり、手術が主体の早期病期 (stage I-II) での大規模な検証は未確立かつ不明であった。

何が足りなかったか: 手術が主体の早期NSCLCコホート (stage I-II多数) を対象とした大規模な患者特異的アッセイによるシリアルctDNA解析のエビデンスはまだ不足していた。特に、最大48アンプリコンを用いた高感度patient-specificアッセイの精度、リードタイム、臨床特異度が手術主体コホートでまだ検証されておらず、ランドマーク時点のctDNA検出とその後の転帰との関係は未確立であった。

目的

LUCID (LUng Cancer Circulating tumour DNA) 試験 (NCT04153526) において、患者特異的RaDaR (Residual Disease and Recurrence) アッセイを用いたシリアルctDNA解析により、(1) 術後ランドマーク時点のctDNA検出がOSおよびRFS (再発フリー生存: recurrence-free survival) を予測できるかを検証し、(2) ctDNA検出と臨床的再発のリードタイム、(3) アッセイの臨床的特異度を評価する。

結果

治療前ctDNA検出率とステージ依存性: 治療前血漿サンプルが利用可能な78例 (n=78 patients) 中、ctDNA検出率は全体で51% (40/78)。ステージ別ではstage I 24% (10/41)、stage II 77% (17/22)、stage III 87% (13/15) と進行に伴い上昇した (Fig 2A)。組織型別では扁平上皮80% (20/25) 対腺癌29.8% (14/47) と顕著な差異 (Fig 2B)。検出されたctDNAの中央値eVAF 0.049%で、62.5% (25/40) がeVAF<0.1% (1000 ppm)、30% (12/40) がeVAF<0.01% (100 ppm) という超低濃度だった (Fig 2C)。治療前ctDNA陽性はOS HR 2.97 (95%CI 1.30-6.80、P=0.01)、RFS HR 3.14 (95%CI 1.49-6.60、P=0.003) と有意な予後因子だったが、ランドマーク解析より予測力は低かった (Fig 4C, D)。

ランドマークctDNAと生存アウトカム (主要解析): ランドマーク時点でサンプルが利用可能な59例 (n=59 patients) のうち10例 (17%) でctDNAが検出された。ctDNA陽性10例は全員が一次腫瘍の臨床的再発をきたした (特異度・PPV ともに100%)。ランドマークctDNA陽性はOS HR 5.48 (95%CI 2.18-13.76、P=0.00029) (Fig 4A) およびRFS HR 14.8 (95%CI 5.82-37.48、P=1.4×10⁻⁸) (Fig 4B) と極めて強力な予後予測因子であった。ランドマーク陰性49例のNPV: RFS 75.5% (37/49)、OS 65.3% (32/49)。

ctDNA検出と臨床的再発のリードタイム: 治療終了≥2週間後の観察期間中にctDNAが事前検出され後に臨床的再発が確認された12例における、ctDNA検出から臨床再発確認までの中央値リードタイムは212.5日であった。200日以降に再発した20例のうち8例 (40%) でリードタイム中央値402.5日と、遅発再発例ほど早期にctDNAで予測できる傾向があった (Fig 3B)。

観察期間全体のctDNA解析: 治療終了≥2週の230サンプル (n=77 patients) を解析。ctDNA陽性は20患者 (77例中26%) から検出、そのうち18患者が臨床的再発をきたした (PPV=95%、特異度=98.7%; 152サンプル中150サンプルが真陰性)。全観察期間のctDNA陽性とRFSの相関: HR 9.81 (95%CI 4.75-20.29、P=7×10⁻¹⁰) (Fig 4E)。治療前ctDNA陽性かつ術後観察期間ctDNA陽性の亜集団 (n=30 patients) ではHR 18.2 (95%CI 3.9-85.13、P=2.2×10⁻⁴) と最大のHRが得られた (Fig 4F)。

術後1-3日のctDNA検出: 術後1-3日のサンプルを採取した48例のうち12例 (25%) でctDNAが検出されたが (中央値eVAF 0.0026%=26 ppm)、そのうち6例のみが後に再発した。術直後のctDNA検出は一過性である可能性があり、MRD評価には治療終了後2週間以降の測定が適切であることが示された。

アッセイ性能: RaDaRアッセイの臨床的特異度>98.5% (サンプルレベル)、PPV=95%、臨床的再発に対するRaDaRの感度 (観察期間): 再発28例中18例 (64.3%)。eVAFは0.0011% (11 ppm) という超低濃度でもctDNA検出が可能であった。アッセイ設計成功率: 97.8% (88/90例、組織利用可能患者)、全100例に対して88% (手術患者98.6%、非手術患者63.3%)。患者ごとに最大48のtumor-specific amplicons (中央値39 amplicons) を設計したRaDaRアッセイは、低循環腫瘍DNA分率を高感度・高特異度で検出できるpatient-specific多重PCRベース設計であり、汎用panelベースアッセイと比較して早期NSCLC対象では偽陽性率を大幅に低減している。

単一時点での感度 (ランドマーク): ランドマーク時点でサンプルを採取し後に再発した22例のうちctDNA陽性は10例 (感度45.4%)。ランドマーク時点または観察期間全体でのctDNA陽性を合わせた感度: 28例中18例 (64.3%)。複数回測定によって感度が向上することが示されており、サーベイランスプログラムへの適用可能性を支持する。治療前ctDNA陰性患者では、ランドマーク時点でctDNA陽性となったのは1/29例、観察期間全体では4/37例のみであり、治療前陰性例での偽陽性リスクが極めて低いことが確認された。

考察/結論

LUCID試験は患者特異的RaDaRアッセイを用いたシリアルctDNA解析が早期NSCLCの術後MRD検出に極めて有用であることを実証した。RFS HR 14.8というランドマーク時点でのハザード比は、ctDNA MRD検出の強力な再発予測能を示す最も強力なエビデンスの一つであり、中央値212.5日 (約7ヶ月) のリードタイムは術後補助療法や早期再治療の介入判断に直接応用できる可能性がある。

先行研究との差異: 先行研究であるChaudhuri 2017 (Cancer Discov) が放射線療法・CRT後患者 (stage I-III、n=40) でMRD陽性94%・リードタイム中央値5.2ヶ月を報告したのと異なり、本研究は手術主体のコホートでより早期病期 (stage I-II多数) に焦点を当て、さらに長いリードタイムと高い特異度を示した点に独自性がある。Abbosh 2017のTRACERxコホート (Abbosh et al. Nature 2017) はclonal evolutionの追跡が主目的であったのと異なり、本研究は大規模な術後MRD予測の臨床エビデンスを提供した。治療前ctDNA陽性かつ治療後ctDNA陰性であった16例のうち再発は2例のみ (NPV 87.5%) という知見は、ctDNA陰性化が根治達成のサロゲートマーカーとなりうることを示唆し、術後補助療法の脱エスカレーション戦略の科学的根拠を提供する。

新規性: 本研究で新たに初めて大規模に示されたのは、手術主体の早期NSCLC (stage I-II主体) において患者特異的48アンプリコンRaDaRアッセイがランドマーク時点で100% PPV・>98.5%特異度を達成することであり、これは術後MRD検出のnovelな大規模エビデンスである。リードタイム中央値212.5日は術後補助療法の適応判断に実際的に利用できる水準であり、これまでの先行研究と比較してより長いリードタイムを示した。また術後1-3日のctDNA検出が再発と相関しないという知見も新知見である。

臨床応用: 臨床的意義として、ctDNA MRD陽性を契機とした術後補助療法の個別化が重要な方向性として示された。具体的にはctDNA陽性者への積極的介入 (免疫療法・化学療法の追加) とctDNA陰性者への過剰治療回避が考えられる。現在MERMAID試験 (durvalumab vs プラセボ、ctDNA MRD陽性早期NSCLC対象) などでこの仮説が検証されており (Moding et al. NatCancer 2020)、本研究はその科学的基盤を強固にするものである。

残された課題と今後の展望: 主要な限界として、(1) 試験デザインが治療後9ヶ月のルーティンサンプリングのみで、それ以降の再発 (~18ヶ月超) では検出力が低下する可能性、(2) 腫瘍WESが必要という実施上の制約 (非手術患者の33.3%でアッセイ設計できず)、(3) 費用対効果・実装可能性の未評価が挙げられる。今後の研究では、ctDNA MRD陽性を契機とした介入が実際に転帰を改善するかを大規模ランダム化比較試験で検証することが必須である。stage Iでの術前ctDNA検出率が24%と低く、この集団での感度強化も今後の課題である。更なる検討として、複数回測定によるサーベイランスプログラムの最適化や、他癌腫での患者特異的アッセイ展開 (Powles et al. Nature 2021) も重要な方向性である。

方法

LUCID試験 (NCT04153526) において、stage IA-IIIBの早期NSCLC患者100例を登録した。そのうちFFPE (ホルマリン固定パラフィン包埋: formalin-fixed paraffin-embedded) 腫瘍組織が利用可能な90例にWES (全エクソームシーケンス: whole exome sequencing) を実施し、RaDaRアッセイ設計・検証に成功した88例 (n=88 patients、88%) を主解析対象とした。

患者背景: stage I 48.9% / stage II 28.4% / stage III 22.7%。腺癌62.5%、扁平上皮28.4%。治療: 手術のみ n=61 patients (69.3%)、手術+術後補助化学療法/放射線療法 n=8、CRT n=19。追跡期間中央値3年 (range 42日-5年)。

アッセイ設計: 腫瘍WESによりSNV (一塩基変異: single nucleotide variant) を患者ごとに中央値328個 (IQR 205-491) 同定し、各患者に最大48アンプリコンのカスタムRaDaRアッセイをInVisionプラットフォーム上で設計。CHIP (クローン性造血不確定変異: clonal haematopoiesis of indeterminate potential) 由来変異をバフィーコートDNAとの比較でフィルタリング。合計363血漿サンプル (中央値4サンプル/患者) を解析。NGS (次世代シーケンス: next-generation sequencing) プラットフォーム: NovaSeq 6000 (Illumina)、PE150シーケンシング。中央値6,030,997リード/サンプル、各変異の中央値カバレッジ174,669リード。cfDNA (無細胞DNA: cell-free DNA) はQIAamp Circulating Nucleic Acid Kitで抽出後、ddPCR (BioRad QX200) で定量 (中央値8,360 amplifiable copies/サンプル)。eVAF (推定変異アレル頻度: estimated variant allele fraction) を統計モデルで算出。

ランドマーク時点定義: 「治療終了後2週間から4ヶ月以内の最初のサンプル」。統計: Cox比例ハザードモデルによるHR、Kaplan-Meier法、サンプルレベルのPPV (陽性適中率: positive predictive value)・NPV (陰性適中率: negative predictive value) 算出。