• 著者: Everett J. Moding, Vignesh Natarajan, Barzin Y. Nabet, Suchintan Mukherjee, Henning Stehr, Johannes R. Bhatt, Sana Turki, Stefanie Krieg, Angela B. Hui, Vamsidhar Velcheti, Glenn Liu, Chih-Yi Liao, Billy W. Loo Jr., Heather A. Wakelee, Joel W. Neal, Sukhmani Padda, Hawazin Faruki, David E. Kozono, Melvyn Goldner, Steven H. Lin, Ash A. Alizadeh, Maximilian Diehn
  • Corresponding author: Steven H. Lin (University of Texas MD Anderson Cancer Center); Ash A. Alizadeh (Stanford University); Maximilian Diehn (Stanford University)
  • 雑誌: Nature Cancer
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-01-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34505064

背景

肺がんは世界的にがん関連死の主要な原因であり、その中でも非小細胞肺がん (NSCLC) は最も一般的な形態である Bray et al. CACancerJClin 2018。局所進行NSCLC(主にStage III)の標準治療は根治的化学放射線療法 (CRT) であるが、長期生存率は依然として低く、多くの患者が病勢進行を経験する。2018年のPACIFIC試験 Antonia et al. NEnglJMed 2018 により、durvalumabを用いた地固め免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) がCRT後の患者の無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) を有意に改善することが示され、CRT後のdurvalumab地固め療法がStage III NSCLCの新たな標準治療として確立された。PACIFIC試験では24ヶ月OS率の絶対差10.7%という有意な改善が示されたものの、全ての患者が均等に恩恵を受けるわけではなく、地固めICI施行例でも多くが再発に至る。これは、地固めICIの恩恵を受ける患者と受けない患者を識別する、より精度の高いバイオマーカーの必要性を示唆している。

既存のバイオマーカー、例えばPD-L1発現などはICIの効果予測において不完全であり、治療の個別化には限界がある。CRT後の微小残存病変 (MRD) の検出は、大腸癌や乳癌など複数の腫瘍種で再発予測に有用であることが報告されているが、局所進行NSCLCにおいてMRD状態と地固めICI効果の関連を系統的に評価した研究はこれまで不足していた。特に、CRTによって肉眼的病変が消失した、あるいは放射線治療による組織変化と区別が困難な場合、地固めICIに対する治療反応を標準的な画像診断で追跡することは困難であるという課題が残されていた。

近年、腫瘍から血中に放出される循環腫瘍DNA (ctDNA) を液体生検で検出・定量する技術が進歩している Newman et al. NatMed 2014。CAPP-Seq (Cancer Personalized Profiling by Deep Sequencing) は、患者個々の腫瘍特異的変異パネルを用いた超高感度ctDNA検出法であり、微少残存病変の検出感度において腫瘍組織に依存しない方法を大きく上回る。先行研究では、CRT後のctDNA MRD検出が局所進行NSCLCの再発を高い感度と特異度で予測することが示されている Abbosh et al. Nature 2017。しかし、これらのMRD陽性患者において地固めICIが臨床的アウトカムを改善できるのか、また治療中のctDNA動態がリアルタイムな治療反応のサロゲートマーカーとなりうるのかは未解明であった。本研究は、この知識のギャップを埋め、ctDNAに基づく治療個別化の可能性を探ることを目的とした。

目的

本研究の目的は、局所進行NSCLC患者においてCAPP-Seq (Cancer Personalized Profiling by Deep Sequencing) ctDNA解析を用い、以下の2点を検証することである。(1) 根治的化学放射線療法 (CRT) 後のctDNA微小残存病変 (MRD) 状態が、地固め免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の治療ベネフィットを予測するバイオマーカーとして機能するかを検証する。具体的には、CRT後ctDNA不検出患者と検出患者における地固めICIの有無による無増悪期間 (FFP: Freedom From Progression) の差を評価する。(2) 地固めICI施行中のctDNA動態(ctDNA濃度が「増加」または「減少」するパターン)が、治療反応・非反応の早期識別マーカーとなりうるかを評価する。これにより、ctDNA動態が地固めICIの治療効果をリアルタイムで予測し、治療の個別化に貢献する可能性を示すことを目指す。

結果

CRT後ctDNA不検出群の良好な転帰と地固めICIのベネフィットの可能性: コホート2(ICI施行群)において、CRT後(pre-consolidation ICI時点)でctDNAが不検出であった患者は13例(59%)であった。この群の1年FFPは80%と極めて良好な転帰を示した。同様に、コホート1(ICI非施行群)でCRT後ctDNA不検出であった12例の1年FFPも比較的良好であり、両群間のFFPに統計的有意差は認められなかった(P=0.23)。この結果は、CRT後ctDNA陰性患者は地固めICIから大きな恩恵を受けない可能性を示唆する (Fig. 3c)。しかし、このctDNA陰性群においても、1例(LUP893)で地固めICI関連の致死的肺炎(Grade 5)が発生した。剖検では残存腫瘍は認められず、この症例はctDNA陰性患者への地固めICIが毒性リスクなしに省略できるという結論の危険性を示している。PACIFIC試験での地固めICIの24ヶ月OS絶対差10.7%に基づく試算では、ctDNA陰性患者112 patientsに地固めICIを施行して初めて1例が恩恵を得る計算となる。

CRT後ctDNA検出群における地固めICIの有効性: CRT後ctDNAが検出された患者群において、コホート2(ICI施行群、pre-consolidation ICI時、n=9 patients)の1年FFPは、コホート1(ICI非施行群、n=17 patients)のCRT後ctDNA検出群よりも有意に良好であった(P=0.04)(Fig. 4a)。コホート1のCRT後ctDNA検出群では、17例中16例(94%)が追跡期間中に遠隔転移を来した。この結果は、地固めICIが検出可能な微小残存病変 (MRD) を持つ患者の予後を改善する、初の系統的なエビデンスを提供するものであり、MRD陽性患者が地固め療法の恩恵を受けるターゲット集団であることを示唆する。

地固めICI中のctDNA「増加」パターンは一次耐性を予測: 地固めICI開始後早期(early on-consolidation ICI時点、中央値11週)にctDNA濃度が「増加」した患者は5例(ICI施行かつpost-CRT ctDNA評価可能群のうち50%)であった。これら5 patients全員がICI開始から4.5ヶ月以内に病勢増悪を来し、1年FFPは0%であった。CRT後ctDNA不検出群との比較では、1年FFP 0% vs 87.5%であり、ハザード比 (HR) は84.4(95% CI 12.3-579.9, P<0.0001)と極めて高いリスクを示した (Fig. 2c)。このctDNA増加群のFFPは、コホート1(CRT後ctDNA検出・ICI非施行群、n=17 patients)と統計的に同等であり(P=0.47)、地固めICIが一次耐性を示す患者の転帰を改善しないことを示唆する (Fig. 4e)。代表症例(LUP840)では、Stage IIIB扁平上皮癌に対しCRT後にctDNA濃度は低下するも検出可能であった。ICI開始1.5ヶ月でctDNA濃度が13-foldに上昇し、3週後のCTで胸膜転移が確認された。ctDNAは画像診断より平均4.1ヶ月先行して増悪を検出した (Fig. 4d)。

地固めICI中のctDNA「減少」パターンは良好な治療反応を予測: 早期ICI中にctDNA濃度が「減少」した患者は5例(50%)であった。この群の1年FFPは100%であり、94%の患者が遠隔転移を認めなかった。ctDNA減少群のFFPおよび遠隔無増悪期間 (FFDP) は、コホート1(CRT後ctDNA検出・ICI非施行群)と比較して有意に良好であった(FFP P=0.003, FFDP P=0.005)(Fig. 5a,b)。遠隔転移発生率は、ICI減少群で0/5 patients(0%)であったのに対し、コホート1のctDNA検出群では16/17 patients(94%)であり、Fisher’s exact検定でP=0.005と有意差が認められた (Fig. 5c)。代表症例(LUP803)では、Stage IIIA腺癌に対しCRT後ctDNAが検出されたが、2ヶ月のICI中にctDNAが消失し、追跡11ヶ月で増悪は認められなかった (Fig. 5d)。別の症例(LUP787)では、CRT後ctDNAが減少傾向を示し、3ヶ月のICI中に一時的に陰性化したが、14ヶ月後に再び上昇し、CRT開始22ヶ月後に孤立性局所再発を来した (Fig. 5e)。

TMBとctDNA動態の関連: CRT後のctDNA検出の有無(P=0.32)およびICI中のctDNA増減パターン(P=0.84)のいずれも、前治療時の腫瘍変異負荷 (TMB) と有意な相関を認めなかった (Extended Data Fig. 3)。この結果は、TMBが本研究のコンテキストにおいてICI反応を予測するバイオマーカーとして機能しなかったことを示している。

考察/結論

本研究は、局所進行NSCLCの根治的化学放射線療法 (CRT) 後の治療個別化における液体生検 (CAPP-Seq ctDNA) の有用性を初めて系統的に示した重要な概念実証 (proof-of-concept) 研究である。本研究から3つの主要な結論が導かれた。

新規性: 本研究で初めて、全身療法(本研究では免疫療法)が検出可能な微小残存病変 (MRD) を持つ患者の臨床的アウトカムを改善できる可能性を示した。これは、ctDNA MRD陽性患者が地固め療法による改善可能なターゲット集団であることを示すものとして、局所進行NSCLCの治療戦略にとって本質的な意義を持つ新規な知見である。

先行研究との違い: これまでの研究では、CRT後のMRD検出が再発予測に有用であることは示されていたが、そのMRDを持つ患者に対して地固めICIが実際にアウトカムを改善できるかについては未解明であった。本研究は、この点において先行研究 Abbosh et al. Nature 2017 と異なり、地固めICIがMRD陽性患者の予後を改善する初の系統的エビデンスを提供した。また、腫瘍変異負荷 (TMB) がICI反応予測に無効であったことは、液体生検動態がより直接的な治療反応モニタリング手段であることを支持する点で、既存のバイオマーカー研究と対照的な結果である。

臨床応用: 第1に、CRT後ctDNA不検出患者(全体の約59%)は地固めICIの有無によらず1年FFP 80%と良好な転帰を示し、この集団における地固めICIの大きな恩恵がない可能性を示唆した。これは、地固めICIの省略による毒性回避の可能性を提示する臨床的意義を持つ。しかし、致死的肺炎事例が示すように、ctDNA陰性でも毒性リスクはゼロではなく、「ctDNA陰性ならICI省略可」という結論を出すには大規模無作為化試験が必要である。PACIFIC試験での全体的な生存改善を背景に、ctDNA陰性患者のICI省略には偽陰性MRDのリスク(8.3%の偽陰性)も考慮すべきである。第2に、CRT後ctDNA陽性患者(全体の約41%)が地固めICIから有意に利益を得ており(P=0.04)、この集団への地固めICIの積極的な臨床応用が妥当である。第3に、地固めICI中のctDNA動態(中央値11週時点)が、responders(減少群:FFP 100%)とprimary resistanceを示すnon-responders(増加群:FFP 0%、HR 84.4, 95% CI 12.3-579.9)を極めて明確に識別し、画像評価より平均4.1ヶ月先行した。このHR 84.4という圧倒的なリスク比は、ICI中のctDNA上昇がICI無効・腫瘍増殖の確実なシグナルであることを示し、早期治療変更の判断基準となりうる。これは、リアルタイムな治療効果モニタリングと治療個別化の臨床応用において極めて有用な知見である。

残された課題: 本研究のlimitationとして、サンプルサイズの限界(n=65 patients)、後向き/非無作為化デザイン、化学療法/放射線療法/ICIレジメンの非均一性が挙げられる。これらの要因は、未測定の交絡因子が臨床的アウトカムに影響を与えた可能性を否定できない。また、CAPP-Seqの高感度という特異性は、他のctDNA検出手法への結果の外挿を制限する可能性がある。今後の検討課題として、ctDNA MRD誘導型地固め療法の前向きランダム化試験の設計が不可欠である。特に、CRT後ctDNA陰性患者におけるICIの非劣性を検証する大規模試験は、致死的毒性のリスクを考慮すると実施が困難である可能性も指摘される。このような懸念に対処するため、CRT後ctDNA不検出患者に対しては、連続的なctDNAモニタリングを行い、ctDNAが後に検出された場合に地固めICIを開始するというアプローチが考えられる。

方法

本研究は、多施設後向き・前向きコホート研究として実施された。対象は、American Joint Committee on Cancer (AJCC) 第7版Stage IIB-IIIBの切除不能な局所進行NSCLC患者65例である。患者は2つのコホートに分類された。コホート1(地固めICI非施行群、n=37 patients)は、durvalumabの規制当局承認前の標準治療としてCRT単独を受けた患者群である。このうち17例は以前の研究で報告された患者である。コホート2(地固めICI施行群、n=28 patients)は、CRT後に地固めICIを受けた患者群であり、22例(79%)がdurvalumabを、6例がDETERRED試験(NCT02525757)の一環としてatezolizumabを投与された。

放射線療法は中央値66 Gyを30分割で実施され、同時化学療法はcarboplatin+paclitaxelが両コホートで最も一般的であった。地固めICIはCRT終了から中央値4週間後に開始され、予定期間は12ヶ月であった。追跡期間はCRT開始から中央値19ヶ月であった。ベースラインの患者特性に両コホート間で有意差は認められなかった(Supplementary Table 1)。

ctDNA解析にはCAPP-Seq (Cancer Personalized Profiling by Deep Sequencing) 法が用いられた。腫瘍特異的変異パネルを設計するため、腫瘍組織(11例)またはCRT前血漿(54例)から変異が同定され、各患者に特異的なモニタリングパネルが構築された。合計218検体の血漿および組織サンプルが解析された。ctDNAモニタリングは、コホート1ではCRT前と治療後4ヶ月以内(post-CRT)に実施された。コホート2では、CRT前、地固めICI開始前(pre-consolidation ICI、CRT終了後中央値1週間)、および早期ICI中(early on-consolidation ICI、中央値11週)に血漿サンプルが採取された。ctDNA濃度はhaploid genome equivalents per mL (hGE/mL) で定量された。ICI中のctDNA動態は、pre-consolidation ICIからearly on-consolidation ICIの間でctDNA濃度が2倍以上変化した、または統計的に有意な差(信頼区間の非重複)が認められた場合に「増加」または「減少」と定義された。

主要評価項目は無増悪期間 (FFP: Freedom From Progression) および遠隔無増悪期間 (FFDP: Freedom From Distant Progression) であり、RECIST 1.1基準に基づいて画像診断により定義された。腫瘍組織またはCRT前血漿からの変異同定が不可能であった13例(20%)はctDNAモニタリング解析から除外された。また、1例(LUP464)はcfDNAインプット不足のためpre-consolidation ICIサンプルが解析から除外された。CAPP-Seqから推定された腫瘍変異負荷 (TMB) の中央値は6.2非同義変異/Mbであった。

統計解析には、Kaplan-Meier法、log-rank検定、Mantel-Haenszel HR、およびFisher’s exact検定が用いられた。統計的有意水準はP < 0.05とされた。パワー計算では、CRT後ctDNA検出かつICI中にctDNAが減少する患者群のFFPが、CRT後ctDNA検出かつICI非施行群と比較して改善するという仮説に基づき、各群16 patientsで80%の検出力を持つとされた。