- 著者: David R. Gandara, Sarah M. Paul, Marcin Kowanetz, Erica Schleifman, Wei Zou, Yan Li, Achim Rittmeyer, Louis Fehrenbacher, Geoff Otto, Christine Malboeuf, Daniel S. Lieber, Doron Lipson, Jacob Silterra, Lukas Amler, Todd Riehl, Craig A. Cummings, Priti S. Hegde, Alan Sandler, Marcus Ballinger, David Fabrizio, Tony Mok, David S. Shames
- Corresponding author: David S. Shames (Genentech, Inc., South San Francisco, CA, USA)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-08-06
- Article種別: Original Article
- PMID: 30082870
背景
免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) は進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者において全生存期間 (OS) の有意な改善を示しているが、PD-L1発現のみではICIの治療効果を完全に説明できないことが報告されている Reck et al. NEnglJMed 2016。腫瘍変異負荷 (TMB) はネオアンチゲン量と相関し、ICI応答の予測バイオマーカーとして注目されている Rizvi et al. Science 2015。しかし、従来の組織ベースTMB (tTMB) 測定には、十分な組織検体の確保、侵襲的生検、全エクソームシーケンス (WES) による時間と費用といった課題が存在する。進行NSCLC患者の最大30%で診断時に適切な組織検体が得られないことが報告されており、非侵襲的な診断アプローチの必要性が高まっている。血液検体からcell-free DNA (cfDNA) を用いてTMBを推定する「bTMB」アッセイが提案されているが、大規模臨床試験におけるその予測能と定量的エビデンスはこれまで不足しており、その臨床的有用性については未解明な点が残されている。
目的
本研究の目的は、血液検体からcfDNAベースでTMBを定量する新規アッセイ (bTMBアッセイ) を開発し、抗PD-L1抗体であるアテゾリズマブで治療された進行NSCLC患者を対象としたPOPLAR (第II相) およびOAK (第III相) 試験のアーカイブ血漿検体を用いて、bTMBが治療効果 (無増悪生存期間 (PFS) およびOS) を予測しうるかを後方視的に検証することである。特に、bTMBがPD-L1発現とは独立した予測能を持つか、また両者を組み合わせることでより精度の高い患者層別化が可能となるかを評価することも目的とした。
結果
bTMBアッセイの分析的妥当性とtTMBとの相関: bTMBアッセイは、精度、信頼性、検出限界において良好な性能を示した。POPLARおよびOAK試験の組織検体と対応する血漿検体 (N=259) を用いた解析では、bTMBとtTMBの間に中等度の正の相関が認められた (Spearman ρ=0.64, 95% CI: 0.56-0.71, p<0.001) (Fig 1b)。この相関は、技術的差異 (bTMBはSNVのみ、tTMBはSNVとindelを含む) や腫瘍内異質性、検体特性 (DNA源、採取時期、腫瘍純度など) に起因する乖離があるものの、同一ctDNA検体を用いた比較ではSpearman ρ=0.93と高い一致度を示した (Fig 1c)。bTMBとtTMBのいずれも喫煙歴と強い相関を示し、高TMBは喫煙者に多く見られた。bTMBアッセイの変異検出における陽性一致率 (PPA) は93.4%、陽性予測値 (PPV) は93.5%であった。
POPLAR試験におけるbTMBの予測能: POPLAR試験のBEP (n=211) において、bTMB≥16のカットオフ値で患者の30%がbTMB-Highと分類された。bTMB-High群では、アテゾリズマブ群のPFSはドセタキセル群と比較して有意に改善し (HR 0.57, 95% CI: 0.33-0.99, p=0.044)、中央値PFSはアテゾリズマブ群で4.2ヶ月、ドセタキセル群で2.9ヶ月であった (Fig 2a)。OSについてもアテゾリズマブ群で改善傾向が認められた (HR 0.56, 95% CI: 0.28-1.13) (Fig 2b)。bTMB-Low群 (<16) では治療群間のPFS (HR 0.93) およびOS (HR 1.01) に有意差はなかった。PFSに対する治療とbTMB≥16の相互作用は有意傾向を示した (相互作用P=0.055)。
OAK試験におけるbTMBの検証: POPLAR試験で選択されたbTMB≥16のカットオフ値をOAK試験のBEP (n=583, EGFR/ALK変異陰性) に前方適用した。bTMB-High群 (全体の27%) において、アテゾリズマブ群はドセタキセル群と比較して有意なPFSの改善を示した (HR 0.65, 95% CI: 0.47-0.92, p=0.013) (Fig 3a-c)。6ヶ月PFS率はアテゾリズマブ群で28%、ドセタキセル群で16%であった。OSもアテゾリズマブ群で優位な傾向が認められた (HR 0.64, 95% CI: 0.44-0.92, p=0.017) (Fig 3d-f)。bTMB-Low群 (<16) ではPFS (HR 0.98) およびOS (HR 0.80) に有意差は認められなかった。PFSに対する治療とbTMB≥16の相互作用は有意であった (相互作用P=0.036)。bTMBスコアの増加とPFSアウトカムの間に明確な単調関係が観察された (Fig 4a)。
bTMBとPD-L1発現の独立性: OAK試験において、bTMBとPD-L1 IHC発現 (TC3/IC3) の間には有意な相関は認められなかった (Fisher’s exact testで非有意)。bTMB≥16とPD-L1 TC3/IC3の両方が陽性の患者は全体のわずか30名 (bTMB≥16患者の19.2%、TC3/IC3患者の29.1%) であった (Fig 5b)。Coxモデルを用いた解析では、PD-L1状態を調整してもbTMB状態がPFS HRに影響を与えることが示された (bTMBの相互作用HR 0.66, 95% CI: 0.45-0.97, p=0.035)。bTMB≥16かつPD-L1 TC3/IC3の両陽性群では、アテゾリズマブ治療によるPFS (HR 0.38, 95% CI: 0.17-0.85) およびOS (HR 0.23, 95% CI: 0.09-0.58) の改善が最も顕著であった (Table 1)。PD-L1 TC0/IC0かつbTMB≥16の患者群でも、PFSの改善傾向が認められた (HR 0.68, 95% CI: 0.37-1.25)。
考察/結論
新規性: 本研究は、血中腫瘍変異負荷 (bTMB) が進行非小細胞肺癌 (NSCLC) 患者におけるアテゾリズマブ単剤療法のPFS予測バイオマーカーであることを、大規模第III相試験であるOAK試験で検証した点で新規性が高い。POPLAR試験での仮説生成とOAK試験での前方視的検証という2段階アプローチにより、bTMB≥16のカットオフ値が治療効果予測に有用であることが再現性をもって示されたのは本研究で初めてである。
先行研究との違い: これまでの研究では組織ベースのTMB (tTMB) が主に用いられてきたが、本研究は非侵襲的な血液ベースのbTMBアッセイがtTMBと同等の予測能を持つことを示した点で、従来の診断アプローチと異なる。また、bTMBはPD-L1発現とは独立した予測能を有することが示され、両者を組み合わせることでより効果的な患者層別化が可能となる可能性が示唆された。これは、現在のPD-L1単独での治療選択アルゴリズムに対し、新たな補完的アプローチを提供するものであり、先行研究とは対照的な結果である。
臨床応用: 本研究の知見は、組織生検が困難な患者や組織検体量が不十分な患者にとって、非侵襲的な血液検査のみで免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 治療の恩恵を受ける可能性のある患者を特定できるという点で、臨床応用に大きな意義を持つ。特に、bTMBとPD-L1の両方が陽性の患者で最も高い治療効果が認められたことは、個別化医療の推進における臨床的有用性を示唆する。この結果は、臨床現場における治療選択の新たな指針となる可能性がある。
残された課題: 今後の検討課題として、bTMBカットオフ値 (本研究の16) は使用したアッセイに最適化されており、他社パネルや他がん種での適用には再最適化が必要となる点が挙げられる。また、腫瘍のDNA放出量や腫瘍内異質性に起因する偽陰性の可能性、および低腫瘍量患者におけるbTMBアッセイの感度限界も今後の検討課題である。さらに、一次治療NSCLC (BFAST試験で検証中) や他がん種におけるbTMBの有効性検証、および治療経過中のbTMB動態モニタリングによる効果判定や耐性早期検出の可能性も今後の研究方向性として重要である。
方法
bTMBアッセイの開発と検証: bTMBアッセイは、FoundationOne CDx (F1 CDx) と同様のハイブリダイゼーションキャプチャー法を用い、394遺伝子 (約1.1 Mbのコーディング領域) を標的とした。cfDNA中の体細胞変異を検出する際、アレル頻度0.5%以上を閾値とし、既知のドライバー変異および生殖細胞系列SNPを除外した。アッセイの分析的妥当性は、精度、信頼性、検出限界 (LOD) を評価し、tTMBとの一致度解析を実施した。tTMBとの比較では、POPLARおよびOAK試験の組織検体と対応する血漿検体を用いた。同一ctDNA検体を用いた比較では、bTMBとtTMBのSpearman相関係数が0.93と高い一致度を示した。
臨床検体の解析: POPLAR試験 (NCT01903993) はアテゾリズマブ対ドセタキセルを比較した第II相オープンラベル多施設ランダム化比較試験であり、二次治療以降のNSCLC患者287名が対象であった Fehrenbacher et al. Lancet 2016。OAK試験 (NCT02008227) は同様の患者850名を対象とした第III相オープンラベル多施設ランダム化比較試験である Rittmeyer et al. Lancet 2017。両試験からベースライン血漿検体を用いた。bTMB評価可能患者数 (BEP) はPOPLARで211名、OAKで794名 (うちOAKの主要解析ではEGFR/ALK変異陰性患者583名) であった。各BEPは、最低800倍のシーケンスカバレッジと1%以上の腫瘍含有量 (MSAF) を達成した検体で構成された。
カットオフ値の探索と検証: POPLAR試験のデータを用いて、bTMB値のカットオフを6、10、14、16、20と段階的に設定し、PFSとの相関を検討した。POPLARで最も強い予測能を示したカットオフ値 (bTMB ≥ 16) をOAK試験で前方視的に検証した。
統計解析: OSおよびPFSの比較には、各バイオマーカー評価可能集団 (BEP) およびそのサブグループにおいて、層別化なしの単変量Cox比例ハザードモデルを用いた。ITT集団では、無作為化層別因子で層別化したCoxモデルを用いた。主要評価項目はOSであり、PFSは副次評価項目であった。多重比較補正は適用せず、全てのP値は両側検定とした。生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定した。