• 著者: Weijie Guo, Jingyun Luan, Xuejie Huang, et al.
  • Corresponding author: Yuxuan Miao (University of Chicago, Ben May Department of Cancer Research)
  • 雑誌: Cancer Cell
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2025-11-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 41349542

背景

腫瘍幹細胞 (tumor-initiating stem cells: tSC) は、免疫療法後の癌再発の主要な起源であることが知られている。しかし、tSCが腫瘍微小環境 (TME) 内の免疫細胞を操作し、治療抵抗性を確立する分子機序は十分に解明されていなかった。特に、tSCが免疫療法後の腫瘍-間質界面で、どのような細胞状態の腫瘍関連好中球 (TAN) を保護ニッチとして形成するのかは不明であった。この領域には知識のギャップが残されている。

腫瘍関連好中球 (TAN) はTMEに多数存在し、免疫抑制的または免疫活性化的な機能をもつ可塑性の高い集団である。近年、抗PDL1+CD40アゴニスト療法により、TANが抗腫瘍活性を獲得できることが示された (Gungabeesoon et al. Cell 2023)。しかし、一部のTANがこの再プログラミングに抵抗する機序と、tSCとTANのクロストークの詳細は未解明であった。例えば、Ribas et al. Science 2018Mellman et al. Nature 2011といった先行研究は免疫チェックポイント阻害療法の成功を示しているが、多くの患者が治療後に再発を経験しており、その原因となる免疫抵抗性メカニズムの理解が不足している。また、Batlle et al. NatMed 2017が指摘するように、癌幹細胞の免疫回避メカニズムは未だ十分に解明されていない。これらの先行研究は、tSCが免疫回避において果たす役割の重要性を示唆しているものの、tSCが特異的に免疫細胞の機能を調節し、免疫療法抵抗性を引き起こす詳細な分子経路については、これまで十分に報告されていなかった。

本研究は、tSCが免疫療法後の癌再発を駆動する保護ニッチを形成する分子メカニズムに焦点を当てた。特に、SOX2高発現tSCが腫瘍-間質界面のTANのインターフェロン (IFN) 応答を空間的に抑制する経路を特定し、その治療標的としての可能性を探ることを目的とした。この領域における知識のギャップを埋めることが、より効果的な癌免疫療法の開発に繋がると考えられる。

目的

本研究の目的は、抗PDL1+CD40アゴニスト免疫療法が腫瘍関連好中球 (TAN) の可塑性に与える影響を、異なるTANクラスターレベルで詳細に解明することである。具体的には、SOX2高発現腫瘍幹細胞 (tSC) が腫瘍-間質界面において、近傍のTANのインターフェロン (IFN) 応答を空間的かつ選択的に抑制する分子経路 (FADS1→アラキドン酸→PGE2) を同定することを目指した。FADS1 (fatty acid desaturase 1) は、多価不飽和脂肪酸の合成に関わる酵素であり、その発現がtSCにおいてどのように制御され、TANの機能に影響を与えるかを明らかにすることも重要な目的とした。

さらに、この同定された経路を標的としたCOX-2阻害薬と免疫療法の併用療法の有効性を、DMBA/TPAによる自然発症皮膚扁平上皮癌 (SCC) マウスモデルおよびヒト頭頸部扁平上皮癌 (HNSCC) 検体、皮膚扁平上皮癌 (CSCC) 検体を用いて検証することを目的とした。これにより、免疫療法後の癌再発を駆動する保護ニッチ形成のメカニズムを解明し、新たな治療戦略の開発に貢献することを目指す。

結果

免疫療法に対するTANクラスターの差異的応答: scRNA-seq解析により、腫瘍関連好中球 (TAN) を4つのクラスター (T1〜T4) に分類した。T1はTnfrsf23+/Cd14+/Cd101+の成熟pro-tumor表現型、T4はArg1+/Siglec-F+/LY6E^loの未熟免疫抑制表現型を示した。抗PDL1+CD40アゴニスト治療後、T1〜T3クラスターではIFN応答遺伝子 (Ly6e, Sell, Il12a, Tnf, Gbp3) が誘導され、免疫刺激性表現型に転換した (p<0.01)。一方、T4クラスターはこの再プログラミングに抵抗し、Arg1, Il4i1, Ccl22等の免疫抑制遺伝子を高発現し続けた。S100A8-Cre; R26-LSL-DTRマウスで免疫療法中にTANを除去すると、CD4+ T細胞のIFNγ産生・GZMBが有意に低下し (p<0.01)、腫瘍制御効果が著しく減弱した (n=18 mice vs 10 mice)。IFN受容体dKOマウス (Ifnar1/Ifngr1 dKO) で好中球のIFN応答を選択的に遮断すると、免疫療法による腫瘍排除が消失した (n=20 mice vs 10 mice、p<0.0001)。これは、IFN応答がTANの抗腫瘍機能に不可欠であることを示唆する (Fig 1, Fig 2)。

腫瘍-間質界面における空間的免疫抑制ニッチの同定: GeoMx空間トランスクリプトミクスとRNAscope (n=30 ROIs)・MHC II IF染色 (n=36 ROIs) により、抗PDL1+CD40アゴニスト治療後、腫瘍間質部のTANではGbp2+/MHC II+の免疫活性化表現型が顕著に増加した一方、腫瘍-間質界面のTANはIFN応答が有意に低く (p<0.01)、免疫抑制状態を維持していた。SOX2^High SCC細胞との混合移植 (7:3比率) 実験では、SOX2^High細胞周囲のMHC II+ TAN率が有意に低く (n=40 ROIs、p<0.01)、CD4+ T細胞とTANのinteractionも減少した (n=30 ROIs、p<0.01)。ヒトHNSCC検体でも、SOX2^High腫瘍領域の界面でHLA-DR+ TAN率が低く (n=30 patients、p<0.05)、CD4+ T細胞浸潤数も少なかった (n=50 patients、p<0.05)。これらの結果は、SOX2^High tSCが腫瘍-間質界面で免疫抑制ニッチを形成することを示唆する (Fig 3, Fig 4)。

SOX2→FADS1→アラキドン酸→PGE2経路の同定: tSCのバルクRNA-seq解析で、脂肪酸デサチュラーゼ1 (FADS1) がSOX2高発現細胞で2倍以上上昇していることが判明した。CUT&RUN解析により、SOX2がFads1プロモーター領域に直接結合することが確認された (Fig 6B)。SOX2^High腫瘍間質液 (TIF) の定量マス分析では、アラキドン酸 (AA) が有意に濃縮されていた (Fig 7A)。Fads1 CRISPRノックアウトにより、SOX2^High条件下でもTANのLY6E/MHC II発現が回復し、IFN刺激 (IFNα+IFNγ) に対するGbp2/Ifit3発現誘導が正常化した (n=8 replicates、p<0.01)。逆に、SOX2^Low細胞へのFads1強制発現単独で、TANのIFN応答阻害が再現できた。これらのデータは、SOX2がFADS1を介してAA産生を促進し、TANのIFN応答を抑制する中心的な役割を果たすことを強く支持する (Fig 6)。

EP2/EP4経路を介したTAN特異的IFN抑制: EP2/EP4二重ノックアウトマウスにSOX2^High SCC細胞を移植したところ、免疫療法後のTANのLY6EとMHC II発現が回復し、IFN応答性T4クラスターのみが正常化された (他のLY6G陰性骨髄球系細胞には影響なし)。これにより、プロスタグランジンE2 (PGE2) がTAN特異的にEP2/EP4受容体を介してIFN→STAT1シグナルを抑制することが示された (Fig 7F-I)。

Sox2 cKOモデルによるニッチ機能の検証: Sox2 cKO (K14CreER; Sox2^flox/flox) SCCでは、免疫療法後の再発が完全に消失した (n=12 mice vs 14 mice)。scRNA-seqでSox2 cKO腫瘍の全TANがIFN応答性のT1様クラスターへ転換し、heterogeneityが消失した。Sox2 cKO腫瘍ではGbp2+ TAN (n=60 ROIs、p<0.01)・MHC II+ TAN (n=100 ROIs、p<0.01) が著増し、腫瘍内部へのCD4+ T細胞浸潤が増加した (n=90 ROIs、p<0.01)。SOX2^High vs SOX2^Low SCC腫瘍は対照抗体処置時は同等増殖したが、免疫療法後はSOX2^High腫瘍のみが急速再発した (Fig 5G)。好中球除去によりSOX2^High tSCの死亡 (active Caspase3+) が有意増加した (n=100 ROIs、p<0.01) (Fig 5J)。

COX-2阻害薬との免疫療法併用: SOX2^High腫瘍に対して抗PDL1+CD40アゴニストにアスピリンまたはセレコキシブ (COX-2阻害薬) を組み合わせると、腫瘍体積が有意に縮小し (p<0.01)、免疫療法後再発が抑制された。n=8 mice/群の腫瘍成長曲線では、COX-2阻害薬+免疫療法群は免疫療法単独群と比べて再発腫瘍体積が約50%以上減少した (Fig 7J)。

考察/結論

本研究は、SOX2高発現腫瘍幹細胞 (tSC) が腫瘍-間質界面で近傍の腫瘍関連好中球 (TAN) のインターフェロン (IFN) 応答を空間的に抑制し、免疫療法後の再発を駆動する保護ニッチを形成するという新規コンセプトを提唱した。このSOX2→FADS1→アラキドン酸 (AA) →プロスタグランジンE2 (PGE2) →EP2/EP4→IFN-STAT1シグナル抑制というカスケードは、特定の腫瘍幹細胞サブセットが免疫細胞機能を細胞接触なしにパラクリン的に制御する仕組みを初めて解明した点で独自性が高い。

これまでの研究では、TANの可塑性がTGF-βやG-CSFなどのTME因子によって決定されることが示されていたが、本研究はSOX2高発現tSCという空間的に特定の腫瘍細胞サブセットが界面TANのクラスター状態を決定することを実証した点で、先行研究とは異なる知見を提供した。40,500細胞のscRNA-seq解析で4つのTANクラスターを同定し、lineage tracing、条件付きノックアウト (cKO)、CUT&RUN、空間トランスクリプトミクスを組み合わせた多層的アプローチにより、この機序を立体的に確立した点も方法論的貢献として高く評価される。本研究で初めて、SOX2がFADS1のプロモーターに直接結合し、AA産生を促進することで免疫抑制ニッチを形成するという新規メカニズムが明らかになった。

本知見は、COX-2阻害薬 (アスピリン・セレコキシブ) が既存の臨床使用可能薬であり、頭頸部扁平上皮癌 (HNSCC) や皮膚扁平上皮癌 (CSCC) への免疫療法との組み合わせ臨床試験に直接移行できる可能性が高いことを示唆しており、臨床応用への大きな意義を持つ。Ifnar1/Ifngr1 dKOマウス (n=10 mice vs 20 mice) での腫瘍排除消失実験は、IFN応答が好中球機能の核心であることを遺伝学的に裏付けた。SOX2高発現tSCの検出やFADS1・PGE2発現量は、免疫療法抵抗性の予測バイオマーカーとなりうる。

残された課題として、ヒト腫瘍における界面TAN-tSCクロストークの個体差・癌種間差のさらなる解明、AA以外のFADS1基質 (EPAなど) の免疫調節への寄与の評価、およびCOX-2阻害薬と免疫療法の併用における前向き臨床試験での有効性・消化管毒性の検証が求められる。また、FADS1阻害薬 (SC-26196など) も新たな介入ポイントとなりうる。この経路の解明は、tSCを標的とした次世代免疫療法設計の新たな視座を提供し、免疫抵抗性の空間的基盤の理解を大きく前進させた。

方法

DMBA (7,12-dimethylbenz[a]anthracene)/TPA (12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate) による自然発症皮膚扁平上皮癌 (SCC) マウスモデルおよびSOX2^High/Low PDVC57 SCC細胞株の移植モデルを用いた。免疫療法後の腫瘍からtotal CD45+細胞40,500個をsplit-pool combinatorial barcoding法によりscRNA-seqで解析し、14,006個の好中球を4クラスター (T1〜T4) に同定した。scRNA-seqデータはGEO: GSE278435に、バルクRNA-seqデータはGEO: GSE278429, GSE278430, GSE303056に、空間トランスクリプトミクスデータはGEO: GSE278436に、CUT&RUN-seqデータはGEO: GSE278426にそれぞれ寄託された。

Ly6G-CreER; R26-LSL-tdTomatoマウスによるlineage tracingで既存TANの表現型変化を追跡した。ITGA6+CD80+ tSCとnon-tSCをバルクRNA-seqで比較し、tSC特異的転写因子1,170遺伝子を同定した。Sox2条件付きノックアウト (cKO: K14CreER; Sox2^flox/flox) マウス (C57BL/6Jバックグラウンド) を使用し、タモキシフェンを3日間腹腔内投与してSox2を欠損させた。Fads1 CRISPRノックアウト、EP2/EP4二重ノックアウト (Lyz2Cre; Ptger2^flox/flox; Ptger4^flox/flox) マウスで機序を検証した。

GeoMx空間トランスクリプトミクスとRNAscopeで腫瘍内TANの空間分布を解析した。GeoMx解析では、K14+癌細胞、CD31血管、CD140a癌関連線維芽細胞の相対位置を用いて腫瘍領域を区別した。ヒトHNSCC (頭頸部扁平上皮癌) およびCSCC (皮膚扁平上皮癌) 検体で免疫蛍光 (IF) 染色を実施し、マウス結果とのトランスレーション性を確認した。統計解析には、Student’s t検定、Mann-Whitney U検定、二元配置分散分析 (two-way ANOVA) およびSidakの多重比較検定を用いた。RNA-seqデータ解析にはLove et al. GenomeBiol 2014のDESeq2パッケージ、Wu et al. Innovation(Camb) 2021のclusterProfilerパッケージ、Hao et al. Cell 2021のSeuratパッケージを使用した。CUT&RUN解析にはZhang et al. GenomeBiol 2008のMACS2を用いた。