• 著者: Jian Lin, Chen Sang, Bin Xiang, Xia Shen, Junmei Zhao, Shengshi Xu, Jiaomeng Pan, Youpei Lin, Liangqing Dong, Qianqian Chu, Guoming Shi, Jian Zhou, Jia Fan, Mao Zhang, Qiang Gao
  • Corresponding author: Qiang Gao (gaoqiang@fudan.edu.cn); Mao Zhang (zhang.mao@zs-hospital.sh.cn) (Liver Cancer Institute, Zhongshan Hospital/Jinshan Hospital, Fudan University, Shanghai, China)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2026
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 41949259

背景

肝内胆管癌 (iCCA) は、肝細胞癌に次いで頻度の高い原発性肝悪性腫瘍であり、世界的にその罹患率と死亡率は増加傾向にある (Banales et al. 2020)。外科的切除のみが唯一の根治的治療法であるが、80%以上の患者が診断時に切除不能な進行期に達している (Moris et al. 2023)。近年、TOPAZ-1 (gemcitabine, cisplatin, and durvalumab) 試験やKEYNOTE-966 (gemcitabine, cisplatin, and pembrolizumab) 試験などの第III相臨床試験により、ゲムシタビン・シスプラチン併用化学療法に免疫チェックポイント阻害薬 (ICB) である抗PD-1/PD-L1抗体を上乗せする治療法の有効性が示されたが、その生存期間延長効果は限定的である (Kelley et al. 2023)。このため、iCCAにおける免疫療法抵抗性を駆動する腫瘍微小環境 (TME) の詳細な機序解明が喫緊の課題となっている。

がん細胞における代謝再プログラミングは、TME内の抗腫瘍免疫を抑制し、免疫療法の治療効果を著しく減弱させることが知られている (Vander Heiden et al. 2017)。特に、オメガ-6多価不飽和脂肪酸であるアラキドン酸 (AA) 代謝経路と、その下流産物であるプロスタグランジンE2 (PGE2) などのプロスタノイドは、骨髄系細胞の機能を修飾して免疫抑制的環境を形成する (Wang et al. 2021)。シクロオキシゲナーゼ (COX) 酵素、特にシクロオキシゲナーゼ2であるCOX-2 (cyclooxygenase-2) は遊離AAをプロスタグランジンH2に変換し、これがPGE2の産生を制御する (Wang and DuBois 2018)。PGE2はTME内の免疫回避を強力に促進し、ICB抵抗性を付与することが報告されているが (Zelenay et al. 2015)、iCCAにおける具体的な細胞間相互作用は未解明な部分が多い。

KRAS変異はiCCAの主要なドライバー変異の一つであり、骨髄系炎症を惹起して免疫抑制的TMEを形成し、ICB抵抗性をもたらすことが示唆されていた (Lin et al. 2022)。しかし、KRAS変異と骨髄系細胞の代謝的相互作用、特に多形核骨髄由来抑制細胞であるPMN-MDSC (polymorphonuclear myeloid-derived suppressor cell) の機能に与える影響については、詳細な分子メカニズムの解明が不足しており、これまで十分な研究が行われてこなかった。本研究は、この知識のギャップ (knowledge gap) を埋め、KRAS変異iCCAにおける新規の免疫抑制機序を明らかにし、治療抵抗性を克服する新たな治療戦略を提示することを目指した。

目的

本研究の目的は、iCCAの多層オミクスデータを用いた代謝的サブタイピングにより、予後不良な患者群を規定する代謝的特徴を同定することである。特に、KRAS変異と連関するTME内の免疫抑制機序を詳細に解明することを目指した。具体的には、KRAS変異がPMN-MDSCの動員と機能に与える影響を検証し、AA代謝経路を介してCD8+ T細胞の抗腫瘍活性を抑制する分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。さらに、この代謝・免疫抑制軸を標的とした治療的脆弱性を同定し、COX-2-PGE2-EP4 (prostaglandin E receptor 4) 軸阻害と抗PD-1療法の併用効果をマウスモデルおよび患者由来腫瘍断片であるPDTF (patient-derived tumor fragment) プラットフォームを用いて評価し、臨床応用可能な予測バイオマーカーを確立することを目的とした。

結果

代謝サブタイピングによる予後不良グループの同定: FU-iCCAコホート (n=215 patients) のプロテオゲノミクスデータに基づくGEMs解析により、iCCAは3つの代謝サブグループに分類された。このうち、MG1サブグループ (n=88 patients) は最も予後不良であり、他のサブグループと比較して生存期間が有意に短縮していた。生存解析において、MG1は独立した予後不良因子であることが示された (HR 3.16, 95% CI 1.92-5.2, p=6.2e-06) (Figure 1C)。経路濃縮分析の結果、MG1はシクロオキシゲナーゼ/アラキドン酸 (COX/AA) 代謝経路および下流のプロスタノイド合成経路が高度に活性化していることが判明した (Figure 1B)。この代謝分類は、702遺伝子シグネチャーを用いることで、Job’sコホート (n=152 patients) およびJusakul’sコホート (n=108 patients) においても極めて高い再現性をもって検証された。

MG1サブグループとKRAS変異の強固な関連: ゲノム変異との相関解析において、KRAS変異はMG1サブグループで極めて高頻度に認められた (p=2.3e-04) (Figure 1D)。KRAS変異陽性患者は、野生型 (WT) 患者と比較して、腫瘍組織におけるCOX/AA代謝シグネチャースコアが有意に高かった (Figure 1F)。さらに、LC-MSおよびELISA解析により、KRAS変異患者の血漿中PGE2レベルはWT患者と比較して有意に高値を示した (Figure 1G)。マウスモデル (AYK) においても、RNA-seq解析によりすべてのAYK腫瘍がMG1サブグループに分類され、COX/AA代謝経路が最上位の活性化経路として同定された (Figure 1H, 1I)。LC-MSを用いた定量分析では、AYK腫瘍組織内のPGE2レベルはAYコントロールと比較して約3倍に増加しており (Figure 1K)、MALDIイメージングでも腫瘍局所におけるPGE2の強い集積が確認された (Figure 1L)。また、腫瘍間質液 (TIF) 中のPGE2濃度は2.3-foldに増加し、基質であるAAレベルは4.1-foldに減少していた (Figure 1M)。

PMN-MDSCがCOX/AA代謝活性化の主要な駆動源であること: scRNA-seq解析により、TME内におけるCOX/AA代謝シグネチャーは、腫瘍細胞や線維芽細胞ではなく、主にPMN-MDSCサブポピュレーションに濃縮されていることが明らかになった (Figure 2A, 2B)。AYK腫瘍から分離した各種細胞のウェスタンブロット解析において、PMN-MDSCは他の免疫細胞 (M-MDSC、マクロファージ、T細胞、B細胞、NK細胞) やCD45-細胞と比較して、圧倒的に高いCOX-2タンパク質発現を示した (Figure 2D)。さらに、LC-MS分析により、腫瘍浸潤PMN-MDSC内のPGE2レベルは、骨髄 (BM) や脾臓 (SP) 由来の同細胞と比較して著しく高値であり、腫瘍内の他の細胞種と比較して約5-fold高いことが示された (Figure 2E)。多重免疫染色 (mIHC) でも、COX-2発現はCD66b+好中球/PMN-MDSCと極めて強く共局在しており、特にKRAS変異陽性のヒトiCCA組織において顕著であった (Figure 2H)。

KRAS変異によるPMN-MDSC動員とPGE2-COX-2正のフィードバックループ: メカニズム解析において、KRAS変異腫瘍細胞はNF-κB経路の活性化を介してケモカインCXCL5の発現を強力に誘導することが示された (Figure 4E, 4F)。PMN-MDSCはCXCL5の受容体であるCXCR2を高発現しており (Figure 4B)、CXCL5-CXCR2軸を介して腫瘍局所へ動員される。さらに、腫瘍細胞由来のPGE2は、PMN-MDSCにおける脂質輸送体FATP2およびCD36の発現を増強し、外因性AAの取り込みを促進した。安定同位体標識AA-d5を用いた追跡実験 (n=3 replicates, p<0.001) では、PGE2刺激によりPMN-MDSC内のAA-d5取り込みが亢進し、COX-2発現の上昇を伴ってPGE2-d5の産生が自己増幅的に促進されることが実証された (Figure 5I-5K)。この腫瘍細胞とPMN-MDSCの間に形成されるPGE2-COX-2正のフィードバックループが、TMEにおける極度なPGE2蓄積を誘導する。AA補充実験では、KRAS変異モデル (AYKおよびKP19) において腫瘍増殖が約2.5-foldに促進されたが、好中球特異的Ptgs2欠損マウス (Ptgs2 fl/fl Ly6g cre, n=6 mice) ではこの促進効果が完全に消失した (Figure 5L-5N)。

PGE2-EP4軸によるCD8+ T細胞抑制と治療介入の相乗効果: TME内に蓄積したPGE2は、CD8+ T細胞上に発現するEP4受容体 (PTGER4) を介して、その増殖および細胞傷害活性 (IFN-γ、グランザイムB産生) を強力に抑制した。in vitro殺傷アッセイ (n=3 replicates) において、PMN-MDSCによるT細胞抑制効果は、セレコキシブ (COX-2阻害) またはEP2/EP4拮抗薬の添加により有意に解除された (Figure 3G, 3H)。また、Ptger4をノックアウトしたCD8+ T細胞の adoptive transfer (n=5 mice, p=0.003) は、野生型T細胞と比較して、腫瘍増殖を有意に抑制した (Figure 3K, 3L)。 KRAS変異iCCAマウスモデル (n=8 mice) において、セレコキシブまたはEP4拮抗薬 (MF498) と抗PD-1抗体の併用療法は、単剤療法と比較して極めて強力な相乗的抗腫瘍効果を示し、腫瘍重量を約70%減少させ、生存期間を著しく延長した (Figure 6D-6F, 6N-6P)。この治療効果は、CD8+ T細胞枯渇マウスおよびRag1-/-マウスにおいて完全に消失したことから、CD8+ T細胞依存的であることが証明された (Figure 6G, 6K)。さらに、KRAS変異を有するヒトiCCAのPDTFモデル (n=4 donors) においても、セレコキシブと抗PD-1抗体の併用により、CXCL1やCXCL5などの炎症性メディエーターの分泌が減少し、IFN-γ、CXCL9、CXCL10などの免疫活性化サイトカインの産生が著しく増加した (Figure 7E)。

考察/結論

本研究は、KRAS変異型iCCAにおいて、腫瘍細胞とPMN-MDSCの間に形成されるPGE2-COX-2正のフィードバックループが、TMEにおける強力な免疫抑制環境を構築し、CD8+ T細胞の抗腫瘍活性をEP4受容体経由で阻害するという新規の分子機序を解明した。

先行研究との違い: これまでの肺がんなどの研究では、腫瘍細胞自身が産生するCOX-2/PGE2が直接的に免疫抑制に関与することが報告されていた (Boumelha et al. 2024)。これと異なり、本研究では、KRAS変異がまずCXCL5-CXCR2軸を介してPMN-MDSCを動員し、動員されたPMN-MDSCが腫瘍由来PGE2の刺激によって自身のAA取り込みとCOX-2発現を増幅させ、TMEにおけるPGE2産生の主たる源泉となるという、細胞間相互作用を介した代謝・免疫再プログラミング機構を明らかにした。この点は、間質細胞や骨髄系細胞が豊富なiCCAの微小環境特性を強く反映した所見である。

新規性: 本研究は、iCCAにおける多層オミクス解析に基づき、KRAS変異と高度に連関する予後最悪の代謝サブグループ (MG1) を新規に同定した。さらに、腫瘍細胞由来のPGE2がPMN-MDSCのFATP2およびCD36を介したAA取り込みを促進し、これが自己増幅的なPGE2-COX-2フィードバックループを形成してTME内のPGE2濃度を極大化させるという、これまで報告されていない代謝的増幅機構を本研究で初めて示した。

臨床応用: 本研究の知見は、KRAS変異iCCA患者に対する免疫療法の治療成績を向上させるための臨床応用に直結する。COX-2阻害薬であるセレコキシブは、すでに臨床現場で広く使用されている安全な既存薬であり、抗PD-1抗体との併用療法は極めて実現可能性が高い戦略である。また、PTGS2 (COX-2) 発現レベルが、胆道系腫瘍において免疫療法抵抗性と最も強く相関するバイオマーカーであることが示され、治療効果予測や患者選択における臨床的有用性が期待される。

残された課題: 今後の検討課題 (limitation) として、Ly6g-Creの特異性がPMN-MDSC以外に及ぶ可能性を排除するため、S100a8-Creなどの代替モデルを用いた検証が必要である。また、PGE2シグナルがPMN-MDSC内でCOX-2発現を直接誘導する下流の転写因子やエピジェネティックな制御機構は未解明であり、今後の研究で解明されるべきである。さらに、本併用療法の有効性を検証するための、KRAS変異iCCA患者を対象とした多施設共同前向き臨床試験の実施が強く望まれる。

方法

コホートと多層オミクス解析: 復旦大学iCCAコホート (FU-iCCA, n=215) の全エキソーム解析 (WES)、RNA-seq、およびプロテオミクスデータを統合した。ゲノムスケール代謝モデル (GEMs) を用いて個別化代謝反応ネットワークを構築し、PageRankアルゴリズムおよび非負値行列因子分解 (NMF) を用いて3つの代謝サブグループ (MG1: n=88, MG2: n=38, MG3: n=89) に分類した。

動物モデルと遺伝子操作: 流体力学的尾静脈注射 (HDTVi) 法を用いて、C57BL/6JまたはFVB/Nマウスの肝細胞にmyrAKTおよびYAP S127Aを過剰発現させ、KRAS G12D変異の有無によりAYモデルおよびAYKモデルを構築した。また、p19Arfに対するCRISPR-Cas9ゲノム編集とKRAS G12Dの組み合わせによりP19およびKP19モデルを構築した。PMN-MDSC特異的Ptgs2欠損マウスを構築するため、Ptgs2-floxedマウスとLy6g-Creマウスを交配し、Ptgs2 fl/fl Ly6g creマウスを作製した。

細胞株とin vitro機能解析: ヒトiCCA細胞株としてICC772、ICC892、およびHuCCT1を用いた。また、分化させたHL-60細胞株を用いた。活性化OT-I CD8+ T細胞とOVA発現KP19腫瘍細胞、および腫瘍由来PMN-MDSCを共培養するT細胞殺傷アッセイを実施した。PGE2受容体EP4の役割を評価するため、CRISPR-Cas9を用いてPtger4をノックアウトしたOT-I CD8+ T細胞を調製した。安定同位体標識アラキドン酸 (AA-d5) を用いて、PMN-MDSCにおけるAA取り込みとPGE2-d5産生をLC-MS/MSにより追跡した。さらに、shRNA (short hairpin RNA) を用いて標的遺伝子のノックダウンを行った。

治療介入実験と統計解析: 腫瘍担持マウスに対し、セレコキシブ (COX-2阻害剤, 1 mg/dose, i.p.、連日)、EP4拮抗薬MF498 (10 mg/kg, i.p.、連日)、抗PD-1抗体 (200 μg/dose, i.p.、週2回) を単剤または併用で投与した。統計解析には、生存時間解析としてKaplan-Meier法およびlog-rank検定を用い、多群比較にはone-way ANOVA、2群間比較にはStudent t-testまたはWilcoxon rank-sum testを用いた。