• 著者: Michael Mihlan, Stefanie Wissmann, Alina Gavrilov, et al.
  • Corresponding author: Michael Mihlan (University of Münster); Tim Lämmermann (University of Münster / Max Planck Institute of Immunobiology and Epigenetics)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2024
  • Epub日: 2024-07-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 39096902

背景

好中球は細菌・真菌感染に対する防御の最前線を担い、組織内での「スウォーミング」(自己組織化した集団遊走)により炎症部位に集積することが知られている。マスト細胞 (MC) は皮膚・気道・消化管などの末梢組織に常在する長命の骨髄系細胞であり、IgEを介したアレルゲン感受性と高親和性Fc受容体 (FcεRI) を通じてアレルギー反応の主要エフェクターとして機能する。MCが好中球をリクルートする役割は既知であったが、組織内に既に存在する好中球とMCとの直接的な動態的相互作用は詳細に解析されていなかった。特に、MC脱顆粒が好中球のスウォーミングをどう誘導し、その後何が起こるかは未解明であった。また、cell-in-cell (CIC) 構造は腫瘍生物学では報告されていたが、免疫細胞間での生理的意義は不明であった。これまでの研究では、好中球の組織内動態は主に創傷や感染症モデルで解析されており、アレルギー反応における好中球の挙動については理解が不足していた。例えば、Burn et al. Immunity 2021Ballesteros et al. Cell 2020 は好中球の基本的な機能や組織環境による運命の選択について報告しているが、MCとの直接的な相互作用については言及されていない。また、Brinkmann et al. Science 2004 は好中球細胞外トラップ (NETs) による殺菌作用を報告しているが、好中球が他の免疫細胞に捕捉される現象については触れられていない。

目的

アレルゲン刺激組織においてMCと好中球がどのように相互作用するかをin vivoおよびin vitroで解明し、この相互作用の分子機序・細胞生物学的機序・機能的結果を明らかにすること。

結果

IgE依存的MC脱顆粒による好中球スウォームの誘導: PCAモデルの耳介真皮において、MC脱顆粒誘導から数分以内に好中球がMCに向かって速度を上げ、方向性のある走化性遊走 (スウォーミング) に切り替わることが2P-IVM (2光子生体内顕微鏡) で確認された (Fig 1A-F)。スウォーミングは単一のMC周囲に複数の好中球クラスターを形成し (最大MCの3〜12%でMIT形成)、IRI-PCAモデルでは事前浸潤好中球でも同様のスウォーミングとMC捕捉が観察された。好中球の平均速度はMC脱顆粒後、約10分で有意に増加し、MCへの接触頻度もMC脱顆粒後15分で約5倍に増加した (Fig 1B-F)。n=36 cellsのデータ解析により、この増加は統計的に有意であった (p<0.01)。

MCによる生きた好中球のintracellular trap (MIT) 形成: スウォーミング好中球の一部 (3〜12%のMC) は脱顆粒MCに侵入し、MC内の液胞に包まれた状態 (cell-in-cell構造) で捕捉されることが発見された (Fig 2A-D)。MIT内の好中球は最初数時間は生存・運動し続けた (Video S2C)。ヒト患者 (慢性特発性蕁麻疹、Schnitzler症候群) の皮膚生検にMPO+好中球材料がMC内に存在することが確認され、ヒトでの関連性が示された (Fig 2E)。MIT形成はPCAモデルで3-5%、IRI-PCAモデルで7-12%のMCで観察された (Fig 2D)。n=4 biological replicatesの実験で、IRI-PCAモデルにおけるMIT形成頻度はPCAモデルと比較して有意に高かった (p<0.01)。

MIT形成の分子機序:LTB4-LTB4R1軸とUNC13D依存的脱顆粒: MC脱顆粒4分以内にLTB4がピーク放出されること (CXCL2より約16分早い) が確認された (Fig 3C)。Alox5-/-MC (LTB4合成不能) でMIT形成が消失し、Ltb4r1-/-好中球もMITを形成できなかった。in vivo実験でもAlox5-/-マウスではLTB4外部補充後もMIT形成が著明に抑制された (約70%減少、p<0.001)。UNC13D欠損 (脱顆粒不全) MC (Unc13d jinx/jinx) ではMIT形成が70%以上低下し、好中球はMCに引き寄せられても侵入できなかった (LTB4は非顆粒性メカニズムで放出)。IgE非依存的C48/80刺激ではLTB4は同様に産生されたが脱顆粒チャネル形成がなくMIT形成が起こらず、IgE依存的compound exocytosisがMIT形成に必須であることが示された (Fig 3B, E-I)。Alox5-/-MCを用いたin vitro実験では、MIT形成が完全に抑制された (p<0.001、n=7 independent experiments)。

MIT形成の細胞生物学的過程: AFM (原子間力顕微鏡) 測定でIgE依存的MC脱顆粒後にMC弾性が著明に低下 (軟化) し、侵入に有利な物理条件が形成された (約50%の弾性低下、p<0.001) (Fig 4A)。SEM (走査型電子顕微鏡) ・TEM (透過型電子顕微鏡) ・ライブイメージングにより好中球侵入は二つのモードで起こることが判明した (Fig 4C, D)。Mode 1 (約75%) では膜テザー形成→アクチンカップ構造形成→アクチン解消→液胞封入、Mode 2では膜とアクチンが同時に好中球を包む。液胞はヒスタミン・セロトニン・キマーゼ・トリプターゼを含むMC顆粒系に接続していた (Fig 4G)。n=7 independent experimentsで、Mode 1がMode 2よりも有意に多く観察された (p<0.01)。

MITはMCの機能・代謝・再脱顆粒能を向上させる: FACS分取MITのRibotaqトランスラトーム解析で、MIT-MCはFcεRIシグナリング・酸化的リン酸化・タンパク質翻訳経路が亢進し、脂質・コレステロール合成が低下した (Fig 5H)。MIT-MCはセカンダリIgE刺激への再脱顆粒能 (CD63発現) が有意に向上した (約2倍のCD63 MFI増加、p<0.001) (Fig 6B)。MIT-MCは外部脂肪酸取り込みが減少し (CPT1A依存的なmito FA酸化の亢進により自己補填)、最大酸素消費量 (OCR) ・スペア呼吸容量が増大した (Fig 6D)。栄養制限条件下でMITは生存率が向上し、MIT液胞のpHを4時間以内にpH<5.2以下に急速に低下させて好中球消化を加速し (24h後>90%の好中球死亡)、内部代謝源を確保した (Fig 6H, I)。n=6 independent experimentsで、MITの生存率がMC単独と比較して有意に高かった (p<0.001)。

nexocytosisによる好中球材料の時間遅延放出とI型IFN誘導: 3〜5日後のMITに好中球DNA・MPO・S100A8/9が液胞内に残存していた (Fig 7C)。セカンダリ脱顆粒時にMITはMCのみと比較してLTB4・PGE1・PGD2を有意に多く放出した (UHPLC-MS、LTB4で約2倍、PGE1で約3倍、PGD2で約2倍、p<0.001) (Fig 7B)。MIT上清のプロテオーム解析でMIT特異的タンパク質25種を同定し、うち16種がMPO・S100A8/9・Ngpなど好中球特異的タンパク質であった (Fig 7F-H)。放出MPOは酵素活性を保持。MIT上清をBMDMに添加すると、MC上清と比較してIfna・Ifnbの顕著な転写誘導と、RNA-seqでI型IFN経路の上流調節因子cGAS・IRF3の活性化が示された (Ifnaで約10倍、Ifnbで約5倍の誘導、p<0.001) (Fig 7M)。このプロセス (他細胞による好中球材料の再放出) を「nexocytosis」と命名した。n=9 independent experimentsで、MIT上清はMC上清と比較して有意に多くの二本鎖DNAを放出した (p<0.001)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究はIgE依存的MC脱顆粒が好中球の組織内スウォーミングを利用してMC内へ好中球を捕捉するという、全く新規のcell-in-cell現象 (MIT) を発見した点で、これまでの好中球の組織動態に関する知見と対照的である。特に、好中球が自ら細胞外トラップ (NETs) を形成して微生物を殺傷するという Brinkmann et al. Science 2004 の報告とは異なり、本研究では好中球がMCに捕捉され、その内部で死滅するという逆の現象を明らかにした。

新規性: LTB4-LTB4R1軸 (本来は好中球間コミュニケーション系) をMCが「横取り」してアトラクタントとして利用し、脱顆粒によるMC軟化・膜チャネル形成を経て好中球が能動的侵入する機序は精巧であり、本研究で初めて詳細に解明された。また、好中球はMC内でいわば「消化されない」まま数日間材料として保存され、好中球由来MPO・DNA・エイコサノイドが再放出 (nexocytosis) されることで時間遅延した炎症信号中継が実現されるという新規メカニズムを同定した。

臨床応用: この機序は慢性アレルギー疾患 (慢性蕁麻疹・喘息・アトピー性皮膚炎・鼻副鼻腔炎) において反復的なMC脱顆粒サイクルと好中球浸潤が共存する状況で特に重要な臨床的意義を持つ可能性がある。臨床患者での検証も、慢性特発性蕁麻疹とSchnitzler症候群のMC内に好中球材料を確認した点で重要な前進である。nexocytosisによるMPOの放出は、抗菌作用を持つ次亜塩素酸の生成に寄与する可能性があり、感染症における臨床応用も期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、in vivoでの特異的介入 (LTB4やUNC13D標的) が炎症モデルで結論を出しにくいことは著者ら自身が認めるlimitationである。他臓器 (肺・消化管) でのMIT形成、感染症設定でのMPO再放出の機能的意義、およびI型IFN誘導の生体レベルでの意義の解明が残された課題である。また、MIT形成の頻度や検出が組織の状態に依存するため、ヒト組織におけるMIT形成の正確な頻度を評価するにはさらなる研究が必要である。

方法

受動皮膚アナフィラキシー (PCA) モデルをMcpt5-Cre+/- Rosa26LSL:Tom Lyz2GFP/+マウス (MC: tdTomato、好中球: GFP) で実施し、2光子生体内顕微鏡 (2P-IVM) でリアルタイム観察した。IRI (虚血再灌流) で事前に好中球を招集したIRI-PCAモデルも実施した。in vitroでは腹腔マスト細胞 (PMC) ・骨髄由来マスト細胞 (BMMC) とマウス/ヒト好中球をコラーゲン3Dマトリックスまたは通常の培養条件で共培養した。MIT (MC intracellular trap) 形成頻度はフローサイトメトリーで定量した。LTB4合成阻害 (MK886、Alox5-/-MC) ・LTB4R1遮断 (LY293111、Ltb4r1-/-好中球) ・UNC13D欠損 (Unc13d jinx/jinx、脱顆粒不全MC) による機序解析を行った。原子間力顕微鏡 (AFM) による弾性測定・走査型電子顕微鏡 (SEM) ・透過型電子顕微鏡 (TEM) でMIT形成の物理的過程を解析した。RibotaqマウスMCトランスラトーム解析 (MC特異的リボソームmRNA精製) でMIT形成後のMC遺伝子発現変化を定量した。セカンダリ脱顆粒後のMIT上清の液体クロマトグラフィー-質量分析 (UHPLC-MS) によるエイコサノイド定量とプロテオーム解析を実施した。骨髄由来マクロファージ (BMDM) へのMIT上清添加実験でnexocytosisの機能的影響を解析した。RNAシーケンスデータは、Dobin et al. Bioinformatics 2013 のSTAR、Liao et al. Bioinformatics 2014 のfeatureCounts、および Love et al. GenomeBiol 2014 のDESeq2を用いて解析した。統計解析にはStudent t-testを用いた。