• 著者: Ivan Ballesteros, Andrea Rubio-Ponce, et al.
  • Corresponding author: Ivan Ballesteros・Andres Hidalgo (CNIC, Madrid / LMU Munich)
  • 雑誌: Cell
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-11-05
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33098771

背景

好中球は、古典的に「短命な炎症防御細胞」とみなされてきた。血中半減期は約12時間と推定されており、この短命性ゆえに組織特異的な遺伝子適応は不可能と考えられていた (Hidalgo et al. 2019)。一方、組織常在型マクロファージが組織ごとに固有の長期適応転写プロファイルを獲得することは広く知られており、組織環境シグナルが骨髄由来前駆細胞の可塑性を支配することが示されていた (Gosselin et al. Cell 2014Lavin et al. Cell 2014)。例えば、肺マクロファージはサーファクタント清掃、腸管マクロファージは免疫寛容、脾臓マクロファージは鉄リサイクルといった組織特異的機能を持つことが報告されている (Lavin et al. 2015)。しかし、共通の骨髄起源を持ちながら組織特異的性質を獲得しうるかについては、好中球については全く未検討であり、知識ギャップが残されていた。

癌、脳卒中、心筋梗塞などの病態では、好中球が多様な転写プロファイルを示すことが報告されている (Coffelt et al. NatRevCancer 2016、Cuartero et al. 2013、Ma et al. 2016)。また、循環血中の好中球サブポピュレーションにおける表現型の多様性と可塑性も示唆されている (Sagiv et al. CellRep 2015)。しかし、健常組織における好中球多様性と非古典的機能の全貌は不明であり、好中球が組織環境に応じて適応する能力については未解明な点が多く残されている。特に、好中球の短命性という認識が、組織特異的な遺伝子適応を妨げるという仮説を強化し、この分野の研究が手薄であった。本研究は、この未解明な領域に焦点を当て、好中球の組織内での挙動と機能の多様性を体系的に解明することを目的とした。

目的

本研究の目的は、健常組織における好中球の生存期間を正確に定量化し、複数の組織において好中球が固有の転写、クロマチン、およびタンパク質プロファイルを急速に獲得するかを検証することである。さらに、組織固有の好中球機能、特に血管新生や造血恒常性維持といった非免疫的役割を同定することを目指した。最終的に、肺における好中球の組織特異的リプログラミングの分子機序を解明し、組織環境が好中球の運命をどのように共選択するかを明らかにすることを目的とした。この研究を通じて、好中球が単なる短命な炎症細胞ではなく、組織の生理的需要をサポートする多様な機能を持つことを実証する。

結果

組織依存的な好中球生存期間の定量化: 新規に作製したiLy6GtdTomマウスを用いたパルスラベルと非線形回帰解析により、好中球の組織内半減期が組織依存的に異なることが判明した。肝臓ではt1/2=8.71時間、血液では約10.1時間、肺では約10時間、腸では約15時間、皮膚では18.4時間であった (Figure 1B)。これらの結果は、好中球が「循環半減期12時間」という古典的推定よりも大幅に長い期間、組織に滞在することを示唆した。平均寿命は各組織で28〜61時間に及び、好中球が組織環境に適応するのに十分な時間があることを示唆した。また、胎生期 (E15.5) にタモキシフェン処置でラベルされた好中球は出生後Day 1では少数検出されたが、Day 7では消失し、成体組織の好中球は成体骨髄造血由来のみであることが確認された (Figure 1C、n=3独立繁殖群)。

組織特異的転写・クロマチン多様性の同定: CyTOF (39抗体パネル) 解析では、骨髄、血液、脾臓、肺、腸、皮膚の好中球が固有のtSNEクラスターに分布し、組織間で明確な表現型の多様性があることを示した (Figure 2A, 2D)。scRNA-seq (7,490細胞) では、5つのクラスターが同定され、クラスター0/1/2は骨髄・脾臓の未熟〜成熟好中球に対応し、クラスター3/4は血液・肺の好中球に対応した (Figure 2E)。肺好中球は血液型遺伝子 (Il1b (Interleukin-1 beta)/Ptgs2) に加えて、Vegfa (Vascular endothelial growth factor A) やTnfaip3 (Tumor necrosis factor alpha induced protein 3) といった肺特異的遺伝子を新たに発現した (Figure 2F)。バルクRNA-seq解析では、各組織に固有の転写シグネチャが同定され、組織固有の差次発現遺伝子は好中球転写産物の1〜6.5%の範囲であり、組織常在マクロファージの1.3〜3%と同等のオーダーであった (Figure 3A)。UpSet plot解析では、各組織固有遺伝子は最小の組織間オーバーラップを示し、特に皮膚と腸で最多の独自遺伝子数が検出された (Figure 3B)。ATAC-seq解析では、骨髄から血液への遷移で最大のクロマチン変化が生じ (PCA解析、PC1 67.8%)、さらに血液から肺への遷移でも有意なクロマチン再構成が確認された (Figure 3D, 3E)。k-meansクラスタリングにより、肺でアクセシビリティが低下するクロマチン領域群 (C1) と上昇する領域群 (C3) が同定され、C3に関連する転写因子としてJunBが肺特異的に濃縮されていた (Figure 3F)。タンパク質レベルでも多様性が確認され、脾臓好中球でCD74・CR2が高く、肺好中球でCD14・Il1bが高かった (ANOVA with Tukey、p<0.001、Figure 3I)。

組織特異的プログラミングは循環血中に先存在しない: 血中好中球のscRNA-seq解析では、組織固有シグネチャ (脾臓、肺、腸、皮膚) を持つ亜集団は循環血中には事前に存在せず、骨髄シグネチャ高発現の独立クラスターのみが存在した (Figure 4A)。パラバイオーシス実験では、パートナー由来 (循環経由) の好中球もホスト由来の組織好中球と同一の組織特異的プロファイルをtSNE空間で占有し、組織固有パターンが循環前ではなく組織到達後に刻印されることが実証された (Figure 4C)。骨髄好中球の気管内・脾内移植実験では、16時間以内にCXCR2、Il1b、CD11bが肺/脾臓特異的プロファイルに転換した (特定遺伝子は3時間で変化、CD74、CR2等は16時間で変化、Figure 4E, 4F)。このプログラミングは組織特異的であり、骨髄好中球を腹腔に移植しても肺プロファイルは獲得されなかった (Figure S4H)。

組織固有の非古典的機能の実証: IPA (Ingenuity Pathway Analysis) 解析では、骨髄・血液の好中球は細胞遊走・免疫応答経路が主要であったが、肺・腸の好中球は血管新生・軸索成長、皮膚では上皮成長経路が主要であった (Figure 5A)。好中球減少モデル (MRP8CRE; iDTR、7日間DT処置) では、生後4週齢および照射後の肺内皮細胞 (CD31+Ki67+) 増殖が著明に抑制された (Student’s t test、p<0.05、n=3 mice)。4週齢マウスの腸管でも好中球減少により血管形成が障害された (Figure 5F)。照射後の好中球除去は、好酸球、単球、B/T細胞、NK細胞、マクロファージを含むほとんどの造血系細胞の回復を著明に遅延させた (Figure S5D)。これらの機能は、古典的な炎症防御機能とは異なる組織恒常性維持機能であることが示された。

肺でのCXCL12+ニッチ依存的CXCR4リプログラミング: Cxcl12レポーターマウスの共焦点イメージングにより、CXCL12+血管周囲パッチが確認され、好中球はCXCL12+構造から中央値で有意に短い距離に位置していた (n=569好中球、481乱数点、3マウス、Student’s t test、p<0.01、Figure 6C)。CXCR4 DN (MRP8CRE; CXCR4^fl/fl) マウスのNanostring解析 (肺固有37遺伝子パネル) では、肺特異的シグネチャが完全に消失し、血液型シグネチャは正常のままであった (Figure 6A, 6B)。CXCR4 DNマウスでは、照射後の肺内皮増殖抑制が再現され、好中球が肺のCXCL12+ニッチでCXCR4依存的に血管修復機能を獲得することが確認された (n=5 mice/群、Tukey、p<0.001、Figure 6D)。Intravital microscopyにより、CXCR4 DN好中球の肺血管内移動速度と直進性が異常であることも確認された (n=4 mice、Figure 6F)。これらの結果は、CXCR4が好中球をリプログラミング部位に誘導するために必要であることを示唆した。

考察/結論

本研究は、好中球が血中半減期約10時間という短命にもかかわらず、組織環境シグナルに応じて固有の転写的、クロマチン的 (ATAC-seq)、機能的プロファイルを急速 (タンパク質は3〜16時間以内) に獲得できることを多層的解析で初めて体系的に実証した。これは、マクロファージの組織適応パラダイムを好中球に拡張するものであり、好中球が長期組織滞在なしに組織特異的機能をコード化できることを示した点が、これまでの研究と異なり独自性の中核である。先行研究では腫瘍や炎症状態での好中球多様性が示されていたが、本研究は健常定常状態での組織特異的多様性を最初に体系化し、転写、クロマチン、タンパク質、機能の4レベルで並列検証した点で方法論的新規性が高い。

組織固有転写産物の1〜6.5%という推定値は、組織常在マクロファージ (1.3〜3%) と同等のオーダーであり、好中球が思いの外に大きな組織適応能力をもつことを示す。肺でのCXCL12+ニッチ依存的リプログラミングの発見 (n=569好中球の近傍距離解析) は、腫瘍・感染症における肺好中球機能解析に重要な文脈を提供し、TAN (腫瘍関連好中球) の機能的多様性の一部が腫瘍進入前に宿主組織が刻印したプログラムによって規定される可能性を新規に示唆する。実際に、腺癌肺でのscRNA-seq投影解析では、腫瘍存在下でも肺型シグネチャが維持されており、組織プログラミングが腫瘍状態を超えて作用することが示唆された。新生期・照射後の好中球除去 (MRP8CRE; iDTR) で肺内皮増殖 (Ki67+CD31+) が有意に抑制されることは、好中球が炎症防御以外に組織血管恒常性の維持という新たな非古典的役割を担うことを機能レベルで実証した。この発見は、抗好中球療法の臨床応用において、血管修復機能の喪失も副作用として考慮すべきであることを示唆する。

残された課題として、(1) 肺以外の各組織での上流プログラミングシグナルの同定、(2) 腫瘍組織での健常組織プログラムとTME (腫瘍微小環境) シグナルの競合・階層関係の解明、(3) 組織特異的好中球プログラムを応用した新規治療法 (特定組織ニッチを標的とした好中球機能再プログラミング) の開発が求められる。本研究のlimitationとしては、in-depth解析を好中球が豊富な組織に限定した点が挙げられる。

方法

新規マウスモデル iLy6GtdTom (Ly6g遺伝子座にタモキシフェン誘導型CreERTを挿入し、Rosa26-LSL-tdTomatoレポーターと交配) を作製し、単一タモキシフェン投与で骨髄からの好中球波を同期的にラベルし、その消失動態を追跡した。このデータに基づき、数学モデルによる組織別半減期 (t1/2) 計算を実施した (Figure 1B)。パラバイオーシスモデルを用いて組織間好中球キネティクスを解析し、組織への浸潤後にプロファイルが獲得されることを検証した (Figure 3A)。実験には6-12週齢のC57BL/6マウスを使用し、すべての実験手順は地域の動物管理倫理委員会によって承認された。

好中球の表現型解析には、CyTOFによる39抗体パネルを使用し、6組織 (骨髄、血液、脾臓、肺、腸、皮膚) の好中球表現型を比較した (Figure 2A)。転写プロファイルの解析には、scRNA-seq (シングルセルRNAシーケンス) を実施し、7,490個の好中球 (骨髄 6,800、脾臓 380、血液 264、肺 147個) を5クラスターに分類した (Figure 2E)。パラバイオーシスで単離した組織別好中球のバルクRNA-seq (6組織) とATAC-seq (クロマチンアクセシビリティシーケンス) でクロマチン状態を解析した (Figure 3A, 3D)。ATAC-seqデータはBowtie2を用いてmm10マウスゲノムにマッピングされ、MACS2でピークコールされた。

機能的意義の検証には、MRP8CRE (Myeloid-related protein 8 Cre); Rosa26 iDTRマウスによる誘導性好中球減少モデルを使用し、好中球減少が血管新生や造血回復に与える影響を評価した (Figure 5E)。肺でのリプログラミング機序解析には、Cxcl12 (C-X-C motif chemokine ligand 12) レポーターマウスの共焦点イメージングとCXCR4 DN (MRP8CRE; CXCR4^fl/fl) マウスを用いたNanostring解析を実施した (Figure 6A, 6C)。胎生期E15.5タモキシフェン処置 (iLy6GtdTom) により、成体組織に長寿命胎生期好中球が存在しないことを確認した (Figure 1C)。統計解析には、Student’s t検定、Mann-Whitney検定、ANOVA with Tukey多重比較検定を用いた。RNA-seqデータ解析には、Ritchie et al. NucleicAcidsRes 2015 および Robinson et al. Bioinformatics 2010 パッケージが使用された。