Article data
Antibody Fc/FcR Interaction on Macrophages as a Mechanism for Hyperprogressive Disease in NSCLC Subsequent to PD-1 Blockade
- 著者: Lo Russo G, Moro M, Sommariva M, Cancila V, Boeri M, Centonze G, Ferro S, Ganzinelli M, Gasparini P, Huber V, Milione M, Porcu L, Proto C, Pruneri G, Signorelli D, Sangaletti S, Sfondrini L, Storti C, Tassi E, Bardelli A, Marsoni S, Torri V, Tripodo C, Colombo MP, Anichini A, Rivoltini L, Balsari A, Sozzi G, Garassino MC
- Corresponding author: Gabriella Sozzi / Marina Chiara Garassino (Fondazione IRCCS (Istituto di Ricovero e Cura a Carattere Scientifico: 学術研究治療機関) - Istituto Nazionale dei Tumori, Milan, Italy)
- 雑誌: Clinical Cancer Research
- 発行年: 2019
- Epub日: 2018-09-11
- Article種別: Original Article
- PMID: 30206165
背景
免疫チェックポイント阻害薬 (ICI: Immune Checkpoint Inhibitor) は、進行非小細胞肺がん (NSCLC) の治療体系を劇的に変化させた。Borghaei et al. NEnglJMed 2015 や Carbone et al. NEnglJMed 2017 などの大規模臨床試験において、抗 programmed death-1 (PD-1) / programmed death-ligand 1 (PD-L1) 抗体は従来の化学療法と比較して優れた生存ベネフィットを示している。しかし、長期的な治療効果を享受できる患者は全体の約 20% に留まる。さらに深刻な問題として、ICI 治療開始後に腫瘍の増殖が逆説的に加速する「超急速進行 (HP: Hyperprogressive Disease)」と呼ばれる現象が報告されている。先行研究において、HP は様々ながん種で 9% から 29% の割合で発生することが示されており、極めて予後不良な経過をたどることが知られている (Champiat et al. ClinCancerRes 2017)。
これまで、HP の予測因子や発生メカニズムに関する研究は、T 細胞を中心とした適応免疫系や、MDM2/4 遺伝子増幅、EGFR 遺伝子変異などの腫瘍側の遺伝子異常に焦点を当てて行われてきた。しかし、HP を事前に予測するための確実な病理学的特徴やバイオマーカーは確立されておらず、その生物学的な詳細メカニズムは依然として 未解明 である。特に、腫瘍微小環境における自然免疫系の役割、とりわけ腫瘍関連マクロファージ (TAM: Tumor-Associated Macrophage: 腫瘍随伴マクロファージ) の関与については、これまでの研究では十分に検討されておらず、解析が 不足している という 課題 があった。Gordon et al. Nature 2017 は、TAM 上の PD-1 発現がその貪食能を抑制することを示しており、PD-1 経路の遮断が自然免疫細胞に予期せぬ影響を及ぼす可能性を示唆している。また、肺がんの初期病変における自然免疫の不均一性も指摘されているが (Lavin et al. Cell 2017)、治療後の超急速進行における役割は手薄な領域であった。そこで本研究では、抗 PD-1 抗体の Fc 領域とマクロファージ上の Fc 受容体 (FcR) との相互作用が、マクロファージの M2 様分極を誘導し、HP を引き起こす駆動源になっているのではないかという仮説を立てて検証を行った。
目的
本研究の目的は、進行 NSCLC 患者における ICI 治療後の HP の発生頻度、臨床的特徴、および組織学的な特異性を明確にすることである。特に、治療前の腫瘍組織における免疫細胞の浸潤パターンや表現型を詳細に解析し、HP 患者に特異的な病理学的特徴を見出すことを目指した。さらに、T 細胞を欠損した前臨床マウスモデル (athymic nude (胸腺欠損ヌードマウス) および SCID (Severe Combined Immunodeficient: 重症複合免疫不全) マウス) や患者由来異種移植 (PDX: Patient-Derived Xenograft: 患者由来異種移植) モデルを用いて、抗 PD-1 抗体の Fc 領域とマクロファージ上の FcR との相互作用が、T 細胞非依存的に HP 様の腫瘍増殖加速を誘導する因果的メカニズムであるかを実験的に検証し、HP を予測するための新規バイオマーカーおよび治療標的を同定することを目的とした。
結果
臨床コホートにおける超急速進行の発生頻度と極めて不良な予後: ICI 治療を受けた評価可能な NSCLC 患者 152 例のうち、独自の臨床・放射線学的基準により 39 例 (25.7%) が HP と判定された。残りの症例は、奏効 (R) 32 例 (21.0%)、安定 (SD) 42 例 (27.7%)、進行 (P) 39 例 (25.7%) であった。生存解析において、HP 患者の生存期間中央値 (OS) は 4.4 vs 17.7 months (95% CI 3.4-5.4 vs 13.4-24.1, p<0.0001) と非 HP 患者と比較して著しく短縮していた。通常の進行 (P) を示した患者の OS 中央値が 8.7 months であったことと比較しても、HP 患者の予後は極めて不良であった。大規模臨床試験である CheckMate-057 における OS の HR 0.73 (95% CI 0.59-0.89, p=0.002) や、CheckMate-227 における PFS の HR 0.58 (95% CI 0.41-0.81, p<0.001) などの良好な治療効果と比較して、本コホートにおける HP 群の予後は極めて不良であった。なお、全コホート 152 例中 108 例 (71.0%) が観察期間中に死亡した。また、HP 患者と非 HP 患者の間で、臨床的背景因子に統計学的な有意差は認められなかった (Fig. 1)。
治療前組織におけるCD163+CD33+PD-L1+マクロファージの特異的集簇: 治療前腫瘍組織の IHC 解析を行った 35 例 (HP 11 例、非 HP 24 例) において、腫瘍浸潤リンパ球 (TIL: Tumor-Infiltrating Lymphocyte: 腫瘍浸潤リンパ球) (CD3+, CD4+, CD8+) や制御性 T 細胞 (Treg: Regulatory T cell: 制御性T細胞) (FOXP3+), CD138+ 形質細胞 (PC: Plasma Cell: 形質細胞), CD123+ 形質様樹状細胞 (pDC: Plasmacytoid Dendritic Cell: 形質様樹状細胞) の密度には群間有意差を認めなかった。しかし、HP 患者 11 例の全例 (100%) において、肺胞マクロファージ様の上皮様形態を示す CD163+ マクロファージが、腫瘍病巣内で密集したクラスターを形成している特徴的な所見が観察された (Fig. 1)。これらのマクロファージは、CD163、CD33、および PD-L1 を同時に共発現する「完全免疫表現型 (CD163+CD33+PD-L1+)」を有しており、非 HP 患者と比較して統計学的に極めて有意に高頻度であった (p<0.0001) (Fig. 2)。また、この集簇マクロファージは M2 マーカーである ArgI を一貫して強発現していた (Fig. 1)。さらに、腫瘍内 MPO+ 骨髄系細胞密度は HP と直接相関し (p=0.0497)、腫瘍細胞の PD-L1 発現は HP と逆相関した (p=0.0457)。一方、MDM2/4 遺伝子増幅の頻度には HP 群 (3/11 例) と非 HP 群 (6/17 例) の間で有意差を認めなかった。
T細胞欠損マウスモデルにおける抗PD-1抗体の腫瘍増殖促進とFc領域依存性: H460 細胞株を移植した athymic nude マウスにおいて、抗マウス PD-1 抗体 (RMP1-14、n=6 mice/group) を腹腔内または腫瘍周囲に投与したところ、対照群と比較して腫瘍増殖が有意に促進された (p<0.01) (Fig. 3)。IHC 解析により、抗 PD-1 抗体投与群の腫瘍内では F4/80+ マクロファージおよび ArgI+ 細胞の浸潤が有意に増加していた。ここで、Fc 領域を除去した抗 PD-1 F(ab’)2 フラグメントを投与したマウス群 (n=6 mice/group) では、全長抗体で観察された腫瘍増殖の促進効果が完全に消失した (Fig. 3)。この結果は、抗 PD-1 抗体による HP 様の腫瘍増殖促進が、PD-1 遮断そのものではなく、抗体の Fc 領域を介した機序に依存していることを示している。さらに、FACS 解析により、抗 PD-1 抗体投与群では CD45+ 白血球の浸潤が増加しているものの、B220+ B細胞、Gr-1+ 顆粒球、NKp46+ NK (Natural Killer: ナチュラルキラー) 細胞の密度には有意な変化がないことが確認された。
SCIDマウスPDXモデルにおけるNivolumab誘発性腫瘍進行とマクロファージ除去による抑制: ヒト PD-1 を認識する Nivolumab (IgG4) を用いて、SCID マウスに EGFR L858R 変異を有する PDX302 を移植したモデル (n=8) で検証した。Nivolumab 投与により、対照群と比較して腫瘍増殖が有意に加速し (p<0.01) (Fig. 4)、FACS 解析において肺への腫瘍細胞転移率が対照群の 0.87±0.33% から Nivolumab 投与群で 3.88±1.99% へと約 4.4倍 (4.4-fold) に有意に増加した (p=0.0286) (Fig. 4)。腫瘍内では F4/80+CD206+ の M2 様マクロファージが線維化領域に集簇していた (Fig. 4)。Nivolumab F(ab’)2 フラグメント投与群ではこの増殖促進および転移促進効果は消失した (Fig. 4)。さらに、クロドロネート投与によりマクロファージを除去した群では、Nivolumab による腫瘍増殖促進効果が有意に抑制された (p<0.05) (Fig. 4)。また、EGFR 野生型および KRAS G12C 変異を有する PDX305 モデル (n=8) では、Nivolumab 投与による腫瘍増殖の促進や肺転移の増加は観察されず、モデル間での反応性の不均一性が示された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、ICI 治療後の HP 現象を適応免疫系や腫瘍側の遺伝子異常のみから説明しようとした これまで の報告 と異なり、自然免疫系、特に TAM の機能変化という新たな視点からその発生メカニズムを解明した。CheckMate 試験や KEYNOTE 試験などの大規模臨床試験の生存曲線で見られる治療初期の早期死亡の過剰は、適応免疫の活性化プロセスだけでは説明がつかず、本研究が示した自然免疫系の関与を強く支持している。
新規性: 本研究は、T 細胞を欠損した前臨床マウスモデルを用いることで、抗 PD-1 抗体の Fc 領域がマクロファージ上の FcR (特に抑制性受容体である FcγRIIb) と相互作用し、T 細胞非依存的にマクロファージを M2 様の腫瘍促進的表現型へと分極させ、腫瘍増殖および転移を加速させるというメカニズムを 本研究で初めて 実証した。また、HP 患者の治療前組織において、CD163+CD33+PD-L1+ の完全免疫表現型を有する上皮様マクロファージが密集クラスターを形成しているという特異的な病理学的特徴を 新規 に同定した。
臨床応用: 本知見は、ICI 治療開始前に HP の高リスク患者を同定するための実用的なバイオマーカーとしての 臨床応用 が期待される。治療前の生検組織において CD163+CD33+PD-L1+ 上皮様マクロファージの集簇を検出することは、不適切な ICI 投与を回避し、患者の予後悪化を防ぐための強力な意思決定ツールとなり得る。さらに、FcγRIIb への結合能を低減させた Fc 改変型抗 PD-1 抗体の開発や、CSF-1R (Colony-Stimulating Factor 1 Receptor: コロニー刺激因子1受容体) 阻害薬や STAT3 (Signal Transducer and Activator of Transcription 3: シグナル伝達物質・転写活性化因子3) 阻害薬などの M2 マクロファージ分極阻害剤との併用療法といった、HP を克服するための 臨床的意義 の高い新たな治療戦略の確立につながる。
残された課題: しかしながら、本研究にはいくつかの limitation および 今後の課題 が存在する。第一に、本研究で用いた HP の定義は単一施設の後向きコホートに基づいて策定された独自基準であり、真の HP 頻度を過剰評価している可能性があるため、現在進行中の前向き臨床試験による検証が必要である。第二に、前臨床モデルにおいて EGFR L858R 変異を有する PDX302 モデルで最も顕著な HP 様増殖が観察されたが、臨床コホートにおける EGFR 変異例が極めて限定的であったため、特定の遺伝子変異とマクロファージ集簇との関連性については十分に解明されておらず、残された課題 となっている。さらに、FcγRIIb 以外の FcR サブタイプの関与についても詳細な検証が求められる。
方法
臨床コホートの構築と HP の定義: 2013 年 7 月から 2017 年 12 月の間に、イタリア・ミラノの Fondazione IRCCS (Istituto di Ricovero e Cura a Carattere Scientifico: 学術研究治療機関) - Istituto Nazionale dei Tumori にて ICI 治療を受けた進行 NSCLC 患者 187 例の後向きコホートを構築した。このうち、少なくとも 2 サイクル以上の ICI 投与を受け、臨床評価が可能であった 152 例を解析対象とした。HP の同定には、多職種チームによって策定された独自の臨床・放射線学的基準を用いた。具体的には、①治療失敗までの期間 (TTF: Time-to-Treatment Failure: 治療失敗までの期間) < 2 ヶ月、②標的病変の径和がベースラインから 50% 以上増加、③既存病変のある臓器における 2 個以上の新規病変の出現、④新たな臓器への遠隔転移の出現、⑤治療開始 2 ヶ月以内における ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group Performance Status: 東部共同腫瘍臨床グループ全身状態) の 2 以上の悪化、の 5 項目のうち 3 項目以上を満たす症例を HP と定義した。
免疫組織化学 (IHC) および分子解析: 治療前の腫瘍組織標本が利用可能であった 35 例 (HP 11 例、非 HP 24 例) を対象に、IHC (Immunohistochemistry) 解析を実施した。T 細胞サブセット (CD3, CD4, CD8, FOXP3 (Forkhead Box P3)), 骨髄系細胞マーカー (CD163, CD33, Myeloperoxidase: MPO (ミエロペルオキシダーゼ)), チェックポイント分子 (PD-1, PD-L1), および機能性マーカーである Arginase-I (ArgI (Arginase-I: アルギナーゼI)) の発現と分布を評価した。また、遺伝子発現プロファイリング (GEP: Gene Expression Profiling: 遺伝子発現プロファイリング) 解析および RT-qPCR (Reverse Transcription Quantitative Polymerase Chain Reaction) を用いて免疫関連遺伝子の発現を定量した。さらに、MDM2 (Mouse Double Minute 2) および MDM4 (Mouse Double Minute 4: マウス二重微小染色体4) の遺伝子増幅を検出するため、30 例の FFPE (Formalin-Fixed Paraffin-Embedded: ホルマリン固定パラフィン包埋) 組織を用いて蛍光 in situ ハイブリダイゼーション (FISH (Fluorescence In Situ Hybridization: 蛍光インシチュハイブリダイゼーション)) 解析を行った。
前臨床マウスモデルを用いた検証実験: T 細胞非依存的なメカニズムを検証するため、8-9 週齢の雌性 athymic nude マウスにヒト NSCLC 細胞株 H460 (ヒト大細胞肺がん細胞株) を皮下移植したモデル、および SCID マウスにヒト NSCLC 細胞株 (H460, PC9 (EGFR変異肺腺がん細胞株)) や PDX 組織 (PDX302, PDX305, PDX111, PDX220) を移植したモデルを用いた。マウスには、抗マウス PD-1 抗体 (RMP1-14 (rat monoclonal antibody clone RMP1-14: ラットモノクローナル抗体クローンRMP1-14)、n=6 mice/group) または抗ヒト PD-1 抗体 (Nivolumab、n=4 mice/group) を投与し、腫瘍体積の経時的変化を測定した。Fc 領域の関与を証明するため、Fc 領域を欠損させた F(ab’)2 フラグメントを用いた治療群を設けた。また、マクロファージの関与を検証するため、クロドロネート含有リポソームを投与してマクロファージを除去した条件下での Nivolumab 治療実験も実施した。
フローサイトメトリー (FACS) および統計解析: マウスの腫瘍組織および肺組織をシングルセルに解離し、FACS (Fluorescence-Activated Cell Sorting: 蛍光活性化セルソーティング) 解析を用いて浸潤免疫細胞サブセット (CD11b, Ly6G, Ly6C, F4/80, CD49b (Integrin alpha 2: インテグリンα2)) の同定、および肺へのヒト腫瘍細胞転移率を定量した。統計解析には、カテゴリ変数の関連性評価に Cochran-Mantel-Haenszel chi-square test を用い、生存曲線の比較には Kaplan-Meier 法および log-rank 検定を用いた。マウスの腫瘍増殖曲線の比較には Mixed models ANOVA を、2 群間の比較には Mann-Whitney U test を使用した。