• 著者: Takuto Tokuhiro, Akane Ishikawa, Haruka Sato, Shunya Takita, Ayuri Yoshikawa, Ryoko Anzai, Shinichi Sato, Ryohei Aoyagi, Makoto Arita, Takumi Shibuya, Yasuaki Aratani, Shigeomi Shimizu, Masato Tanaka, Satoshi Yotsumoto
  • Corresponding author: Masato Tanaka (mtanaka@toyaku.ac.jp); Satoshi Yotsumoto (yotsumoto@toyaku.ac.jp) — Laboratory of Immune Regulation, School of Life Sciences, Tokyo University of Pharmacy and Life Sciences, Tokyo, Japan
  • 雑誌: Frontiers in Cell and Developmental Biology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-09-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34568331

背景

好中球細胞外トラップ (NET) は、脱凝縮したクロマチンDNAとミエロペルオキシダーゼ (MPO) や好中球エラスターゼ (NE) などの顆粒内容物から構成される網状構造である。NETは病原体除去に寄与する一方で、自己免疫疾患、血栓症、癌転移などの病態生理学的プロセスにおいて病原的な役割を果たすことが報告されている。NET形成はNETosisと呼ばれる好中球特異的な細胞死を伴い、細胞膜および核膜の崩壊と消失を特徴とする。活性酸素種 (ROS) の産生がNETosisの引き金となることは広く知られているが、ROS産生の下流における詳細な分子経路、特にリン脂質酸化と顆粒プロテアーゼの協調機構については未解明な点が多かった。例えば、MPOはNET形成におけるクロマチン脱凝縮にNEと協調して関与し、その酵素活性は不要であると報告されているが、MPO阻害剤を用いた研究ではMPO酵素活性がNETosisに不可欠であるという対照的な見解も示されており、MPOの役割に関する課題が残されていた。また、Papayannopoulos et al. NatRevImmunol 2018Fuchs et al. JCellBiol 2007などの先行研究によりNET形成のメカニズムが徐々に明らかになっているものの、リン脂質酸化がNETosisの実行にどのように関与するかの詳細なメカニズムは不明であった。特に、MPOの酵素活性がリン脂質酸化を介してNETosisを駆動する直接的な証拠、および酸化リン脂質とNEがクロマチン脱凝縮に相乗的に寄与する物理的メカニズムについては、知識ギャップが残されている状況であった。

目的

本研究は、PMA、免疫複合体 (IC)、リポ多糖 (LPS) 刺激下で誘導されるNETosisおよびNET形成において、リン脂質酸化、MPO酵素活性、および好中球エラスターゼ (NE) の個別の役割とそれらの協調作用を詳細に解析することを目的とした。特に、MPOの酵素活性がリン脂質酸化を介してNETosisを駆動するメカニズムを解明し、酸化リン脂質とNEがクロマチン脱凝縮に相乗的に寄与する機構を明らかにすることで、NET関連疾患の治療標的としての可能性を評価することを目指した。

結果

脂質過酸化はNETosisに必須であることの証明: ヒト好中球において、脂質特異的抗酸化剤TroloxがPMAまたは免疫複合体 (IC) 誘導性のNETosisをそれぞれ有意に抑制した (PMA誘導性でp<0.005, IC誘導性でp<0.005, one-way ANOVA) (Figure 1B)。一方、フェロトーシス阻害剤であるFerrostatin-1およびDeferoxamineはNETosisに対し最小限の効果しか示さなかった (Figure 1A)。これは、NETにおける脂質酸化がフェロトーシスとは異なる経路で生じることを示唆する。また、TroloxはPMAまたはIC刺激による好中球の脂質過酸化を完全に抑制した (Figure 1E, F)。PMAまたはIC刺激により、BODIPY 581/591 C11の平均蛍光強度 (MFI) が有意に増加したが、Trolox処理によりその増加は完全に抑制された (Figure 1F, p<0.01)。この実験では、n=12 samples in 4 experimentsで解析が行われた。

MPO欠損は脂質過酸化依存性NET形成を消失させる: MPO欠損マウス好中球 (n=3 mice) では、PMAとDDS (4,4’-diaminodiphenyl sulfone) 刺激によるNETosisおよびNET形成が完全に消失した (p<0.001) (Figure 3E, F)。野生型マウス好中球 (n=3 mice) では、PMAとDDS刺激により脂質過酸化が誘導され、9-HODE (9-hydroxyoctadecadienoic acid) および13-HODE (13-hydroxyoctadecadienoic acid) などの酸化リン脂質が有意に増加したが、MPO欠損好中球ではこれらの増加は観察されなかった (Figure 3I)。これは、MPOが酸化リン脂質産生の上流酵素として必須であることを示す。また、LPS鼻腔内投与マウスモデルにおいて、MPO欠損マウスの肺ではcitH3レベルが野生型マウスと比較して有意に減少した (p<0.01) (Figure 3J)。このin vivo実験では、各群n=5 miceが用いられた。

MPO酵素活性がNETosisに不可欠であることの証明: 15種類のMPO阻害剤のIC50値とNETosis抑制効果の間に強い正の相関が認められた (Figure 4A)。MPO欠損HL-60細胞に野生型MPOを再構成するとNETosisが回復したが、酵素活性を欠損させたD96A変異体MPOでは回復しなかった (p<0.05からp<0.001) (Figure 4O)。この結果は、MPOがその酵素活性を介してリン脂質を酸化し、NETosisの実行に寄与することを遺伝学的に証明した。MPOの濃度依存的なMDA (malondialdehyde) 産生が確認され、MPO酵素活性が直接脂質過酸化を誘導することが示された (Figure 4C, p<0.05)。この実験では、n=4-7 samples in 3 experimentsでMDAレベルが評価された。

NEはNETosisには不要だがNET形成には必要であることの証明: NE欠損HL-60細胞 (n=3 clones) では、PMA刺激によるNETosis (SYTOX Green陽性化) は野生型細胞と同程度に誘導された (Figure 5C)。しかし、citH3陽性細胞の数はNE欠損HL-60細胞で有意に減少した (p<0.05) (Figure 5G)。これは、NEがNETosisの実行段階ではなく、クロマチン脱凝縮段階に選択的に寄与する異なる役割を持つことを示唆する。NE欠損HL-60細胞では、NE酵素活性がほぼ完全に消失した (Figure 5B, p<0.001)。

酸化リン脂質とNEがクロマチン脱凝縮に相乗的に寄与することの証明: 単離した核を用いたアッセイでは、oxPAPC単独またはNE単独よりも、oxPAPCとNEの併用がクロマチン脱凝縮 (p<0.01) およびDNA放出 (p<0.001) を有意に増強した (Figure 6B, C)。また、oxPAPCはNEによるヒストンH4分解を促進する効果を示した (p<0.001) (Figure 6D, E)。これらの結果は、酸化リン脂質とNEが異なるメカニズムを介して物理的に相乗的に核の構造変化を促進することを示している。核のクロマチン領域は、oxPAPCとNEの併用により約2.5-foldの増加を示した (Figure 6B)。

oxPAPCの直接添加によるMPO非依存性NETosis誘導: oxPAPCを野生型およびMPO欠損HL-60細胞に直接添加すると、両細胞で同程度にNETosisが誘導され、Troloxによっても抑制されなかった (Figure 4R, S)。oxPAPC添加により、SYTOX Green陽性細胞の割合が野生型HL-60細胞で約80%、MPO欠損HL-60細胞で約75%に達した (Figure 4S)。この結果は、oxPAPC自体がMPOの下流で最終的なエフェクターとして作用し、NETosisを直接誘導することを示す。この実験では、n=3 triplicate samplesが用いられた。

考察/結論

本研究は、NET形成におけるMPOの二重の役割を確立した。一つは、MPOがその酵素活性に依存してリン脂質過酸化を駆動し、NETosisの実行を制御する役割である。もう一つは、MPOが酵素活性非依存的にNEの放出を促進し、クロマチン脱凝縮を助長する役割である。酸化リン脂質とNEは、それぞれ核膜の損傷によるエントロピー的な膨潤(脂質損傷)とヒストンの分解(プロテアーゼ活性)という異なるメカニズムを介して、相乗的に核の崩壊を引き起こすことが示唆された。

先行研究との違い: これまでの研究では、MPOがNEの放出やクロマチン脱凝縮に酵素活性非依存的に関与すると報告されていたが、本研究はMPOの酵素活性がリン脂質酸化を介してNETosisの実行に必須であることを初めて明確に示した点で、これまでの知見と異なる。また、Warnatsch et al. Science 2015Albrengues et al. Science 2018などの研究がNETの病態生理学的役割を強調する中で、本研究はNETosisの分子メカニズムに新規な脂質過酸化経路を組み込んだ。

新規性: 本研究で初めて、MPOがリン脂質酸化を介してNETosisを誘導し、酸化リン脂質とNEが協調してクロマチン脱凝縮を促進するという新規なメカニズムを同定した。特に、単離核アッセイにより、酸化リン脂質とNEが物理的に相乗効果を発揮し、クロマチン脱凝縮とDNA放出を促進することを直接的に可視化した点は、これまで報告されていない重要な知見である。

臨床応用: 本知見は、NET関連疾患の治療戦略に臨床的含意を持つ。リン脂質過酸化阻害剤とNE阻害剤の併用療法が、アテローム性動脈硬化症、癌転移、自己免疫疾患におけるNET病態に対し、NE単独阻害よりも優れた治療効果をもたらす可能性が示唆される。また、本研究は脂質酸化がフェロトーシスとは独立した細胞死経路であることを示しており、フェロトーシスを標的とした薬剤がNET治療には不適である可能性を示唆する。MPO阻害薬は血管炎やアテローム性動脈硬化症の治療標的として開発が進められており、本研究の結果はこれらのMPO阻害薬がNET病態にも応用可能であるという臨床応用の可能性を提供する。

残された課題: 今後の検討課題として、リン脂質過酸化が核膜破綻を引き起こす具体的な分子メカニズム(特定の過酸化脂質種と膜力学の関係)は未解明である。また、Troloxは非特異的な抗酸化剤であり、その臨床応用における投与量や安全性は未確立である。本研究はPMA、IC、LPS刺激に限定されており、他のNETosis誘導因子(血小板、細菌直接刺激など)に対する一般化可能性は未検証である。さらに、PAD4によるシトルリン化と脂質過酸化の時間的協調関係も未解明な課題として残されている。

方法

試験デザイン: ヒトおよびマウスの初代好中球、CRISPR/Cas9システムを用いてMPOまたはNEを欠損させたHL-60細胞株、およびC57BL/6Jマウスの鼻腔内LPS投与モデルを用いた。 主要手技:

  1. NETosisの定量: SYTOX Green (SYTOX Green Nucleic Acid Stain) を用いた高コンテンツイメージングにより、細胞膜の破綻を伴うNETosisを定量した。
  2. 脂質過酸化の検出: BODIPY 581/591 C11 (BODIPY 581/591 C11) およびTBARS (Thiobarbituric Acid Reactive Substances) アッセイを用いて脂質過酸化レベルを評価した。
  3. 脂質メディエーターの定量: リピドミクス解析により、9-HODE (9-hydroxyoctadecadienoic acid) および13-HODE (13-hydroxyoctadecadienoic acid) などの酸化リン脂質を定量した。
  4. 遺伝子改変細胞の作製: CRISPR/Cas9システムを用いてMPOまたはNEを欠損させたHL-60細胞株を作製し、NETosisおよびNET形成への影響を評価した。
  5. MPO変異体の機能解析: MPO欠損HL-60細胞に野生型MPOまたは酵素活性を欠損させたD96A変異体MPOを再構成し、その機能回復を評価した。
  6. 単離核アッセイ: 単離した核を用いて、酸化リン脂質 (oxPAPC) とNEがクロマチン脱凝縮およびヒストンH4分解に与える影響を評価した。
  7. in vivoモデルでの検証: C57BL/6J野生型マウスおよびMPO欠損マウスにLPSを鼻腔内投与し、肺におけるNET形成を評価した。また、抗酸化剤Troloxのin vivo効果を検証した。
  8. タンパク質解析: ウェスタンブロット法により、シトルリン化ヒストンH3 (citH3) などのタンパク質発現レベルを解析した。
  9. MPO酵素活性阻害剤の評価: 15種類のMPO阻害剤について、MPO酵素活性阻害能とNETosis抑制能の相関を解析した。 統計解析: 2群間の比較にはunpaired two-tailed Student’s t-testを、多群間の比較にはone-way ANOVAを用いた。