• 著者: Annika Warnatsch, Marianna Ioannou, Qian Wang, Venizelos Papayannopoulos
  • Corresponding author: Venizelos Papayannopoulos (Mill Hill Laboratory, The Francis Crick Institute, London NW7 1AA, UK; veni.p@crick.ac.uk)
  • 雑誌: Science
  • 発行年: 2015
  • Epub日: 2015-06-25
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 26185250

背景

動脈硬化は、心筋梗塞や脳卒中などの致死的な心血管疾患を引き起こす主要な病態であり、脂質蓄積と慢性的な無菌性炎症を特徴とする。この慢性炎症の進展において、炎症性サイトカインであるインターロイキン-1β (IL-1β) が極めて重要な役割を果たしている。アテローム性プラーク内に蓄積するコレステロール結晶は、マクロファージの NLRP3 (NOD-, LRR- and pyrin domain-containing protein 3) インフラマソームを活性化し、IL-1β の成熟と分泌を誘導する危険シグナル (DAMPs) として機能することが、Duewell et al. (2010) などの先行研究により知られている。しかし、IL-1β の産生と分泌には2つの独立したステップが必要である。すなわち、未成熟な pro-IL-1β の転写を促進する「プライミングシグナル (シグナル1)」と、インフラマソームを活性化してプロテアーゼである caspase-1 を介して成熟型 IL-1β へと開裂させる「アクティベーションシグナル (シグナル2)」である。コレステロール結晶がシグナル2を強力に活性化することは明らかになっていたが、動脈硬化の微小環境において、どの分子がマクロファージにシグナル1 (プライミング) を提供しているのかは未解明であった。このプライミングを担う内因性因子の同定は、無菌性炎症の理解における大きな knowledge gap であり、詳細なメカニズムに関する知見が不足していた。

一方、好中球は感染局所に迅速に動員され、病原体を殺傷する免疫細胞である。好中球が放出する好中球細胞外トラップ (NETs; neutrophil extracellular traps) は、脱凝縮したクロマチン DNA と抗菌タンパク質からなる網状構造であり、Brinkmann et al. Science 2004 の発見以来、感染防御における重要性が広く研究されてきた。近年、NETs は自己免疫疾患や血栓形成などの非感染性病態にも関与することが示唆されているが、動脈硬化における NETs の具体的な役割や、無菌性炎症におけるマクロファージとの相互作用については十分に解明されていなかった。特に、コレステロール結晶という物理的刺激が好中球に直接作用して NETs 放出を誘導するのか、また放出された NETs がマクロファージのサイトカイン産生能にどのような影響を与えるのかという点については、学術的なアプローチが不足していた。そこで本研究は、ApoE (apolipoprotein E) 欠損マウスモデルや遺伝子欠損好中球、ヒト単離細胞を用いて、コレステロール結晶、好中球 (NETs)、およびマクロファージの三者間クロストークが駆動する動脈硬化の新規炎症増幅ループを解明することを目的とした。

目的

本研究の目的は、アテローム性動脈硬化における無菌性炎症の新規メカニズムを多角的に解明することであった。具体的には、以下の学術的問いを検証することを目指した。

  1. コレステロール結晶が好中球に作用して NETs 放出 (NETosis) を誘導するのか、またそのプロセスにおける活性酸素種 (ROS) や好中球エラスターゼ (NE; neutrophil elastase)、プロテイナーゼ3 (PR3; proteinase 3)、PAD4 (peptidylarginine deiminase 4) などの分子の依存性を特定すること。
  2. 放出された NETs が、マクロファージを IL-1β および IL-6 産生に向けてプライミングする能力を有しているかを in vitro 共培養系で検証すること。
  3. NETs によるマクロファージプライミングにおいて、DNA 成分と NETs 結合タンパク質のどちらが、あるいは両方の複合体が必須であるかを分子生物学的に分離して検証すること。
  4. ApoE 欠損マウスを用いた高脂肪食 (HFD; high-fat diet) 誘発性動脈硬化モデルにおいて、NETs 欠損 (NE/PR3 二重欠損) または DNase I 投与による NETs 分解が、プラークの進展、全身性炎症、および血漿サイトカイン濃度に与える影響を定量的に評価すること。
  5. NETs が局所の IL-1β-IL-17 カスケードを介して、TH17 (T helper 17) 細胞の分化、IL-17A、CXCL1、CXCL2 などのケモカイン産生、および好中球のさらなる動員を伴う自己増幅ループを駆動しているかを in vivo で検証すること。
  6. ヒトの頸動脈内膜剥離術由来のプラーク標本を用いて、ヒト動脈硬化病変における NETs の存在とマクロファージとの空間的共局在を実証し、臨床的関連性を評価すること。

結果

コレステロール結晶による ROS/NE 依存性かつ PAD4 非依存的な NETs 形成: in vitro において、単離したヒト好中球をコレステロール結晶 (100 μg/mL) で刺激したところ、4時間のインキュベーションで顕著な NETs 形成が誘導された。このコレステロール結晶による NETs 放出は、NADPH オキシダーゼ阻害剤 DPI (10 μM) または NE 阻害剤 NEi (10 μM) の前処理によって完全に抑制された (Fig 1A, B)。一方で、ヒストンのシトルリン化を触媒する PAD 酵素の阻害剤である Cl-amidine (20 μM) は、コレステロール結晶による NETs 形成を有意に抑制しなかった。さらに、NE-PR3 DKO マウス由来の好中球では、コレステロール結晶刺激に対する NETs 形成能が完全に消失していた (n=3 mice, p<0.001)。これらの結果から、コレステロール結晶が好中球に作用して誘発する NETosis は、ROS 依存的かつ好中球エラスターゼ/プロテイナーゼ3依存的な経路を介しており、PAD4 活性には依存しないことが示された。

NETs によるマクロファージの IL-1β 転写プライミング活性: 単離した NETs をヒト CD14 陽性単球に添加したところ、単独刺激では IL-1β および IL-6 の分泌は極めて低値であった。しかし、NETs でプライミングした後にコレステロール結晶 (100 μg/mL) で二次刺激を行うと、成熟 IL-1β (約 250 pg/mL) および IL-6 (約 300 pg/mL) の著明な放出が認められ、これはコレステロール結晶単独刺激と比較して 10-fold 以上の増加を示した (Fig 3E, p<0.001)。ウエスタンブロッティング解析により、NETs 刺激は細胞内の pro-IL-1β mRNA およびタンパク質の発現を強力に誘導するが、caspase-1 の活性化 (開裂) は誘導しないことが判明した (Fig 3F, G)。caspase-1 の活性化と IL-1β の成熟分泌には、コレステロール結晶による二次刺激が必要であった。このことから、NETs はマクロファージに対して「シグナル1 (転写プライミング)」を提供し、コレステロール結晶が「シグナル2 (インフラマソーム活性化)」を担うという協調モデルが実証された。さらに、DNase I 処理によって NETs の DNA 骨格を分解するとプライミング活性は部分的に消失し、プロテアーゼ処理によってタンパク質成分を分解した場合も同様に部分消失した。TLR9 阻害剤 ODN (10 μg/mL) の添加は、NETs による IL-1β 分泌を有意に抑制したが、LPS (10 ng/mL) プライミングによる分泌には影響を与えなかった (Fig 3E)。これは、NETs によるプライミングには DNA 成分と結合タンパク質の両方の物理的結合が必須であり、DNA 受容体を介したシグナル伝達が関与していることを示している。

NETs 欠損による動脈硬化プラークの縮小と全身性炎症の抑制: ApoE-KO マウスおよび ApoE-KO/NE-PR3 DKO マウスに HFD を8週間給餌した。両群間で体重推移、血中総コレステロール値、トリグリセリド値、および LDL 値に有意な差は認められなかった。しかし、大動脈根部の組織学的解析において、NETs 欠損群である ApoE-KO/NE-PR3 DKO マウス (n=11 mice) は、対照群である ApoE-KO マウスと比較して、プラーク面積が約 1/3 に有意に縮小していた (p<0.001, Fig 2A, B)。また、ApoE-KO マウスに DNase I (120 U) を週3回静脈内投与した治療群 (n=5 mice) においても、プラーク面積が約 1/3 に縮小する同様の保護効果が認められた (p<0.001, Fig 2C, D)。さらに、血漿中の炎症性サイトカイン濃度を測定したところ、ApoE-KO マウスで高値を示した IL-1β (約 180 pg/mL) および IL-6 (約 120 pg/mL) は、ApoE-KO/NE-PR3 DKO マウス (n=17 mice) において著しく低下していた (p<0.01, Fig 3A)。大動脈壁における IL-1β mRNA レベルも、NETs 欠損マウスにおいて有意に低下していた (Fig 3C, p<0.01)。骨髄キメラマウス実験においても、NE-PR3 DKO 骨髄を移植された ApoE-KO マウスは、WT 骨髄を移植されたマウスと比較してプラークサイズが有意に縮小した。これらの結果は、骨髄由来の好中球が放出する NETs が、in vivo における局所および全身の IL-1β 産生と動脈硬化の進展を直接的に駆動していることを証明している。

TH17 細胞の活性化と好中球動員ケモカインの増幅ループ: 大動脈壁に浸潤する免疫細胞のフローサイトメトリー解析を行った。HFD を8週間給餌した ApoE-KO マウスの大動脈壁では、CD4 陽性 TCRβ 陽性の TH17 細胞、および IL-17A を産生する γδ T 細胞の顕著な増加が認められた。これに対し、NETs 欠損マウス (ApoE-KO/NE-PR3 DKO, n=3 mice) では、大動脈壁における IL-17A 陽性 T 細胞の割合および絶対数が著しく減少していた (Fig 4A, B, p<0.001)。さらに、大動脈組織における IL-17A、好中球遊走因子である CXCL1 および CXCL2、ならびに単球遊走因子 CCL2 のタンパク質濃度も、NETs 欠損マウスにおいて有意に低下していた (Fig 4C, p<0.05)。これに伴い、プラーク内および大動脈外膜における Ly6G 陽性好中球の浸潤数も、NETs 欠損マウスにおいて著しく減少していた (Fig 4D, p<0.0001)。この結果は、NETs がマクロファージからの IL-6 および IL-1β 分泌を介して TH17 細胞の分化・活性化を促進し、産生された IL-17A が血管壁での CXCL1/CXCL2 産生を誘導してさらなる好中球のリクルートを促すという、自己増幅的なフィードフォワードループ (NETs-IL-1-IL-17 カスケード) を形成していることを示している。

考察/結論

本研究は、アテローム性動脈硬化における無菌性炎症の進展を駆動する、これまで報告されていない好中球とマクロファージの相互作用メカニズムを解明した。コレステロール結晶が好中球に作用して ROS および好中球エラスターゼ依存的に NETs 放出を誘導し、この NETs がマクロファージに対して IL-1β および IL-6 の転写を促進する強力なプライミングシグナル (シグナル1) として機能することを明らかにした。

先行研究との違い: これまでの動脈硬化研究では、コレステロール結晶がマクロファージの NLRP3 インフラマソームを活性化して IL-1β を成熟させる「シグナル2」としての役割に焦点が当てられていたが、生体内において何が「シグナル1 (プライミング)」を提供しているのかは未解明であった。本研究は、このミッシングリンクが好中球由来の NETs であることを初めて突き止めた点で、マクロファージ単独の応答のみを重視していた従来の動脈硬化モデルと大きく異なる。また、先行研究において Cl-amidine を用いた PAD4 阻害が NETs 形成を抑制して動脈硬化を改善するという報告があったが、本研究ではコレステロール結晶による NETosis が PAD4 非依存的であることを示し、好中球エラスターゼ (NE) およびプロテイナーゼ3 (PR3) が本質的なエフェクターであることを実証した点で対照的な知見を提示している。

新規性: 本研究は、NETs が単なる抗菌トラップではなく、無菌性炎症においてマクロファージを活性化する内因性危険シグナル (DAMPs) として機能することを新規に同定した。さらに、NETs がマクロファージからの IL-1β および IL-6 分泌を介して局所の TH17 細胞を活性化し、IL-17A が CXCL1/CXCL2 を介してさらなる好中球を病変部に動員するという、自己増幅的な「NETs-IL-1-IL-17 フィードフォワードループ」を動脈硬化病態において初めて実証した。

臨床応用: 本研究の知見は、心血管疾患における抗炎症療法の新たな標的を提供する。大規模臨床試験 (CANTOS 試験) により、抗 IL-1β 抗体カナキヌマブが心血管イベントを抑制することが実証されているが、IL-1β の上流に位置する NETs を標的とすることは、より特異的で効果的な代替治療戦略となり得る。具体的には、すでに臨床応用されている DNase I による NETs の治療的分解や、好中球エラスターゼ阻害剤 (シベレスタットなど)、あるいは NETs 放出を標的とした新規阻害剤の開発が、動脈硬化性プラークの進行や破綻を予防する新規ドラッグ候補として期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、NETs がマクロファージに作用する際の具体的なパターン認識受容体 (TLR9 以外の DNA センサーや、タンパク質成分を受容する TLR2/TLR4、RAGE など) の詳細な同定が挙げられる。また、コレステロール結晶による NETosis が PAD4 非依存的である分子経路の全貌解明や、ヒトの実際の冠動脈プラーク微小環境における NETs の寄与度を ex vivo でさらに検証する必要がある。さらに、DNase I などの NETs 標的薬を全身投与した際の、生体防御能 (感染感受性) への影響を最小限に抑える局所デリバリー技術の開発も今後の重要な研究方向性である。

方法

動物実験モデル: 動脈硬化モデルとして ApoE 欠損 (ApoE-KO) マウスを用いた。NETs 形成能を遺伝学的に欠損させるため、好中球特異的プロテアーゼである NE および PR3 を欠損させたマウス (NE-PR3 DKO; double knockout) を ApoE-KO マウスと交配し、C57BL/6J 背景の ApoE-KO/NE-PR3 DKO マウスを作製した。対照群として ApoE-KO マウスを用いた。これらのマウスに対し、生後8週齢から高脂肪食 (HFD) を8週間給餌し、動脈硬化病変を誘導した。また、骨髄由来細胞における NETs の寄与を特定するため、致死量放射線照射した ApoE-KO レシピエントマウスに WT (wild-type) または NE-PR3 DKO マウスの骨髄細胞を移植した骨髄キメラマウスを作製し、同様に HFD を給餌した。

NETs 形成アッセイ (in vitro): ヒト末梢血またはマウス骨髄から単離した好中球を、コレステロール結晶 (100 μg/mL) で4時間刺激した。NETs 形成の定量は、細胞膜非透過性 DNA 染料である SYTOX Green を用いた蛍光測定、およびシトルリン化ヒストンH3 (cit-H3)、ミエロペルオキシダーゼ (MPO)、NE に対する免疫蛍光染色により行った。メカニズム解析のため、NADPH オキシダーゼ阻害剤である DPI (diphenylene iodonium; 10 μM)、NEi (neutrophil elastase inhibitor; 10 μM)、または PAD 阻害剤である Cl-amidine (20 μM) を前処理した。

マクロファージプライミングおよび共培養アッセイ: コレステロール結晶刺激によって好中球から放出された NETs を単離した。CD14 陽性選択磁気ビーズを用いてヒト末梢血から単離した単球、またはマウス骨髄由来マクロファージ (BMDM) に対し、単離 NETs を添加してプライミングを行った。その後、コレステロール結晶 (100 μg/mL) を添加してインフラマソームを活性化した。上清中の成熟 IL-1β および IL-6 濃度を ELISA で測定し、細胞溶解物中の pro-IL-1β、成熟 IL-1β、caspase-1 の発現をウエスタンブロッティングで解析した。NETs の活性成分を同定するため、DNase I (100 U/mL) またはプロテアーゼ処理を行った NETs を用いた。また、DNA 受容体の関与を調べるため、TLR9 (Toll-like receptor 9) アンタゴニストである ODN (oligonucleotide; 10 μg/mL) を用いた。

組織学的および免疫組織化学的解析: マウスの大動脈根部を採取し、OCT (optimal cutting temperature compound) で凍結包埋した。プラークサイズおよび脂質蓄積の評価には Oil Red O 染色を用い、切片の連続画像からプラーク面積を定量した。免疫組織化学染色では、マクロファージマーカーである Mac-3 (macrophage-3 antigen)、好中球 (Ly6G)、MPO、cit-H3、IL-1β に対する特異的抗体を用い、共焦点レーザー顕微鏡で観察した。

in vivo DNase I 治療: NETs の治療的分解効果を検証するため、ApoE-KO マウスに対し、HFD 飼育期間中に DNase I (120 U) または生理食塩水 (NaCl) を週3回静脈内投与した。

流動細胞分析 (FACS): マウスの大動脈を酵素消化して単一細胞懸濁液を調製した。CD45、CD4、TCRβ、TCRγδ、IL-17A に対する抗体を用いて染色し、大動脈壁に浸潤している TH17 細胞および γδ T 細胞をフローサイトメトリーで定量した。

統計解析: 2群間の比較には Student t-test (2群、両側) を用い、多群間比較には一元配置または二元配置分散分析 (one-way ANOVA / two-way ANOVA) を行った後、Tukey’s または Sidak’s 多重比較検定を用いた。統計的有意差は p<0.05 と定義した。