- 著者: Jean Albrengues, Mario A. Shields, David Ng ほか多数, Mikala Egeblad
- Corresponding author: Mikala Egeblad (Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY, USA)
- 雑誌: Science
- 発行年: 2018
- Epub日: 2018-11-09
- Article種別: Original Article
- PMID: 30262472
背景
がん患者では原発腫瘍の治療後に播種した癌細胞が遠隔臓器で長期間 (数年〜数十年) 休眠状態にとどまり、ある時点で覚醒・増殖を開始して転移再発を来すことが臨床的に重大問題となっている。乳がん患者では血中CRP (C-reactive protein、C反応性蛋白) 高値と無病生存期間の短縮が関連し、慢性炎症が休眠→転移移行に関与することが疑われてきた。大規模コホート研究であるPierceら (J Natl Cancer Inst 2014) やWuら (Cancer Causes Control 2013) の解析では、現在および過去の重喫煙が乳がん再発・死亡リスクを有意に増加させることが示され、マウスモデルでもタバコ煙曝露が肺転移を約2倍増加させることが報告されていた。好中球が炎症性がん細胞覚醒に必要であることはDe Cockらの実験で示されていたが、好中球がどのように休眠解除を引き起こすかの分子機序は不足していた。
好中球はNETs (好中球細胞外トラップ、neutrophil extracellular traps) — クロマチン繊維に各種プロテアーゼが結合した細胞外構造物 — を感染防御に用いるが、非感染性炎症疾患・血栓・創傷治癒障害でも病的役割を持つことが明らかになっていた。術後ストレスや細菌感染によるNETsが転移を促進することはCools-Lartigueら (Cools-Lartigue et al. JClinInvest 2013) やTohmeら (Tohme et al. CancerRes 2016) によって示されており、さらにParkら (Park et al. SciTranslMed 2016) はがん細胞自身がNETs誘導を引き起こすことを明らかにしていた。しかし、これらはいずれも「NETs→転移促進」という現象レベルの観察に留まり、炎症時のNETsが休眠がん細胞の覚醒を直接引き起こすか否か、NETsに含まれるNE (好中球エラスターゼ、neutrophil elastase) やMMP9 (matrix metalloproteinase 9) がどの ECM (細胞外マトリックス、extracellular matrix) 成分を切断して覚醒シグナルを産生するか、および downstream でどのintegrin経路を活性化するかは gap in knowledge として残されていた。
目的
炎症性刺激 (LPS (リポポリサッカライド、lipopolysaccharide)・タバコ煙) によって誘導されるNETsが休眠状態にあるがん細胞を覚醒させる分子メカニズムをマウスモデルで解明し、NETs-ECMリモデリングを標的とした覚醒抑止の治療的概念を検証すること。
結果
LPS持続投与・タバコ煙曝露がNETs形成を介して休眠がん細胞を覚醒: D2.0R細胞は240日間マウス肺内で単細胞・非増殖 (Ki67陰性) 状態を維持した。LPS 1回投与では覚醒は生じなかったが、3回鼻腔内投与 (day 7・10・13) では肺内にMPO+・シトルリン化ヒストンH3+のNETsが4時間以内に形成され (24時間後も持続)、BLI定量でD2.0R転移巣が有意に増加した (n=10/群、p<0.001 vs vehicle)。FUCCIによる活生イメージングでは、最初のLPS投与から5日後 (day 11) にD2.0R細胞が赤 (G0/G1) から黄 (G1/S transition) に変化し始め、高いNE活性および好中球浸潤と相関した。day 14に小クラスター、day 21に確立した転移巣が形成された (Fig. 1)。タバコ煙曝露では最高濃度群 (75 ± 11 mg/m³) でのみNETsが形成されて覚醒が生じ (n=12、p<0.001 vs フィルター空気群)、PAD4阻害薬 (20 mg/kg) で有意に抑制された (n=8)。抗Ly6G抗体による好中球除去はLPS誘発・タバコ煙誘発の両覚醒を完全に防止した。RapidCaPマウス前立腺がんモデルでもLPS 3回投与で5匹中3匹 (60%) に肺転移が発生したのに対しPAD4阻害薬群では0/5匹 (0%) であった (p=0.02、Fisher’s exact test)。MCF-7細胞の自然播種・原発腫瘍切除モデルでもLPS誘発NETs覚醒が確認された。
NET-CM誘発in vitro覚醒とNETs構造の必須性: 3D Matrigel培養系でNET-CM (LPS・PMA・fMLP誘発) は休眠D2.0R・MCF-7細胞の増殖を約600%に増加させた (n=3 independent cell culture experiments; BLI at day 14) (Fig. 2)。脱顆粒条件 (c5a誘発) やNETs非産生条件のCMでは覚醒が生じなかった。PAD4阻害またはDNase I処置でNETs産生を阻止するとCMはもはや覚醒を誘発しなかった。CSEもin vitroで好中球からNETs産生を用量依存的に誘導し (LPS中和薬タウロリジンまたはPAD4阻害薬で阻止)、NET-CMは覚醒を誘発した。LPS・PMA・fMLP・c5aをがん細胞に直接添加しても覚醒は生じず、NETs構造そのものが覚醒誘発の必須因子であることが確認された。
NE→MMP9逐次切断によるラミニン111リモデリングが覚醒エピトープを産生: NET-CM内の3種のNETプロテアーゼ (CG (カテプシンG、cathepsin G)・NE・MMP9) のうち、NE阻害またはMMP9阻害のみが覚醒を消失させ (CGは無関係)、NE-KOまたはMMP9-KO好中球由来NET-CMも覚醒を誘発しなかった (Fig. 3)。NET-CMはラミニン111を切断したが (SDS-PAGE確認)、脱顆粒・不活化条件CMでは切断なし。rNEのみでもラミニン切断は生じたが覚醒は誘発されず、rNE→rMMP9の逐次添加 (NE先行) のみが覚醒を誘発し、逆順 (rMMP9→rNE) では生じなかった (n=3) (Fig. 4)。NET-CM内のNE・MMP9の実測定濃度 (NE 120 ng/ml、MMP9 6 ng/ml) では覚醒が生じず、高濃度 (各2 μg/ml) では覚醒が生じたことから、NET DNA足場がプロテアーゼを基質近傍に濃縮する機序が示唆された。NET DNA はラミニン111に他のECM蛋白質 (コラーゲンIV・フィブロネクチン等) と比較して優先的に結合し (p<0.05)、DNase Iで足場DNAを除去するとラミニン切断活性が消失した。NE・MMP9はDNase I処置後も可溶性蛍光基質への活性は保持しており (活性は保存)、DNA足場が酵素を基質へ局所的に集積させる「足場依存的プロテアーゼ局所濃縮」機序が確立された。非変性・非還元ゲルでは rNE+rMMP9処置ラミニン111の見かけの分子量が低下し、断片化より三次元構造変化が示唆された。TSP-1 (サーベコンジン1、thrombospondin-1) もNET-NE/MMP9の基質であり、LPS誘発肺炎症後のin vivoで分解された。TSP-1分解単独では覚醒は生じないが、intact TSP-1が切断ラミニン111による覚醒を部分的に抑制していたことから、TSP-1分解がラミニンリモデリングと並行して覚醒許容ニッチを形成すると考えられた。
Integrin α3β1→FAK/ERK/YAP経路の活性化が増殖覚醒シグナルを伝達: NET-CMはD2.0R・MCF-7細胞でactive integrin β1 (0.2 kPa hydrogel上) とKi67を共活性化させ、NE・MMP9活性依存性であった (Fig. 5)。Western blottingでNET-CM処置後10日目のD2.0R細胞でpFAK (Y397)・pERK1/2・pMLC2のリン酸化が確認され、NE阻害またはMMP9阻害でリン酸化が消失した。integrin β1・FAK・MEK・MLCK・ミオシン・YAPの各化学的阻害またはRNA干渉で覚醒が完全に阻止された (n=3)。複数のα integrin isoform (α1・α3・α5・α6・αv) のshRNAスクリーニングでintegrin α3 (ITGA3) のみのノックダウンが覚醒を特異的に阻止し、integrin α3β1がNET-リモデリングラミニンの受容体であると同定された。in vivoでもintegrin β1またはYAP shRNA発現D2.0R細胞 (ドキシサイクリン誘導) でLPS誘発覚醒が有意に抑制された (n=5、p<0.01 vs 対照)。in vivo LPS誘発肺炎症後のラミニン切断は好中球除去・NET形成阻害・NE/MMP9阻害のいずれでも消失した (Western blot、肺組織ライセート解析)。
NET-リモデリングラミニン特異的ブロッキング抗体chiAb28が覚醒を防止: rNE+rMMP9処置ラミニン111で免疫したラットから単クローン抗体Ab19・Ab25・Ab28を取得した。Ab28はNET-リモデリングラミニンのみを特異的に認識し (intact ラミニン111は非認識、Ab19・Ab25は両者を認識)、3種の抗体はいずれもNET誘発integrin β1活性化とD2.0R覚醒をin vitroで阻害した (Fig. 6)。マウスキメラ抗体chiAb28 (200 μg/マウス、3日毎) をLPS誘発・タバコ煙誘発の両in vivoモデルに投与すると、対照IgG2a群と比較して転移巣が有意に減少した (p<0.001、タバコ煙モデルn=11)。in vivoイメージングでNET-リモデリングラミニンエピトープ (Ab28染色) はLPS 3回投与後にのみ検出され (1回投与後は検出されず)、FUCCI解析でS/G2/M期 (緑色) またはクラスター形成細胞は全例がリモデリングラミニン近傍に位置し、G0/G1期 (赤色) 細胞はintact ラミニン近傍のみに分布した (182細胞解析、Fisher’s exact test p<0.0001)。
考察/結論
本研究は、炎症→NETs形成→NET DNA上でのNE/MMP9足場依存的局所濃縮→ラミニン逐次切断 (NE先行→MMP9) →新規三次元構造変化エピトープ産生→integrin α3β1結合→FAK/ERK/MLCK/YAP活性化→休眠がん細胞増殖という転移再発を誘発するシグナルカスケードを完全に解明したものであり、これまで報告されていない炎症→休眠覚醒の直接経路を示した点が本研究の核心的な新規性である。
既報の研究ではintegrin β1シグナルが休眠解除に重要であることは示されていたが (Malladi et al. Cell 2016)、どのような生理的刺激がこの経路を活性化するかは不明であった。本研究はNET-リモデリングラミニンが生理的な覚醒stimulusとして機能することをin vivo・in vitro両系で証明し、「炎症→NETs→覚醒」の回路をintegrin/ECM機構と直接連結した。これは既報のNETs研究 (転移促進における循環腫瘍細胞の捕捉や術後ストレスによる肝転移促進) と異なり、長期休眠状態にある播種がん細胞をNETsが再活性化するという機序を初めて示した点で対照的である。さらに、NET DNA足場が酵素を基質に近接させることで soluble protease (NE 120 ng/ml、MMP9 6 ng/ml) では不可能な切断効率を実現する「足場依存的プロテアーゼ局所濃縮」機序は、ECMプロテオリシス生物学の新規概念として重要である。
臨床応用の観点では、PAD4阻害薬 (関節リウマチ・SLE治験中)、DNase I (嚢胞性線維症治療薬dornase alfaとして臨床承認済み)、sivelestat (抗NE薬)、抗MMP9薬の再目的化 (repurposing) の可能性が具体的に示された。特にchiAb28がNET-リモデリングラミニン特異的エピトープを標的とし、正常integrin β1シグナルを保存したまま選択的に覚醒を抑止した点は、臨床的意義が高い新規抗体療法の概念実証 (proof-of-concept) を提供する。また本研究はNETs阻害がTRALI (輸血関連急性肺傷害、transfusion-related acute lung injury) など他のNET関連病態にも適用できる可能性を示唆した。
残された課題として以下の点が重要である。第一に、感染や喫煙→NETs→転移再発という連鎖がヒトがん患者において前向きに成立するかどうかの疫学研究が必要であり、今後の検討でNETs血中バイオマーカー (血漿NE-DNA複合体等) と再発リスクの相関を検証すべきである。第二に、本研究はマウス乳がん・前立腺がんモデルに限定されており、骨・脳・肝臓など他の休眠ニッチや他の固形がん種でのNET-覚醒機序は未検討である。第三に、適応免疫系 (T細胞・NK細胞) との相互作用が本実験系では明確でなく、LPS誘発グルコルチコイド増加による免疫抑制が覚醒を後押しする可能性も否定できない。第四に、chiAb28・DNase Iナノ粒子・PAD4阻害薬の臨床化には、感染防御への影響を含む長期毒性評価が必要であり、更なる検討が求められる。
方法
動物モデルと細胞株: 乳がん休眠モデルとして、mCherry-ルシフェラーゼ発現マウスD2.0R細胞 (休眠性) またはヒトMCF-7細胞 (ATCC HTB-22; 休眠性) をそれぞれBALB/cまたはヌードマウスに静脈内投与し、240日後も単細胞・非増殖として肺に定着した休眠状態を確立した。転移性対照としてD2.A1細胞を使用した。前立腺がんモデルとしてRapidCaPモデル (Pten loxP/loxP; Trp53 loxP/loxP マウスへの前立腺内Luc-Creレンチウイルス注射) を用いた。KOマウスとしてNE KO (#6112、Jackson Laboratory) およびMMP9 KO (#7084) マウスから好中球を単離した。
炎症誘発プロトコル: LPS (大腸菌O111:B4由来、0.25 mg/ml、50 μl) をday 7・10・13に麻酔下で鼻腔内投与 (3回、持続炎症モデル) または1回のみ (急性炎症対照) とした。タバコ煙モデルでは3R4F研究用タバコを用いて75 ± 11 mg/m³の粒子濃度で6時間/日・5日/週・3週間マウスを曝露し (一酸化炭素濃度215 ± 36 ppm)、3段階の濃度でNETs形成と覚醒を評価した。
介入とin vivo評価: 好中球除去 (抗Ly6G抗体1A8、200 μg/マウス)、PAD4 (タンパクアルギニンジミナーゼ4、protein arginine deiminase 4) 阻害薬GSK484 (20 mg/kg)、DNase I (15,000 units/kg、フリーまたはナノ粒子コーティング)、NE阻害薬sivelestat (50 mg/kg)、MMP9阻害薬SB3-CT (selective MMP-2/MMP-9 gelatinase inhibitor; 50 mg/kg) をそれぞれ腹腔内投与した。転移量はBLI (bioluminescence imaging、生物発光イメージング、IVIS Spectrum) で3日毎に定量化した (n=5〜12マウス/群)。
細胞周期in vivoイメージング: FUCCI (fluorescence ubiquitination-based cell cycle indicator; 蛍光ユビキチン化細胞周期指標) レポーター発現D2.0R細胞をLysM-EGFP (lysozyme M promoter-driven EGFP) 好中球マウスに投与し、開胸後に共焦点顕微鏡で活生イメージングを実施した。NE 680 FAST (fast-activating near-infrared fluorescent probe for NE activity) プローブ (4 nmol、静脈内) でNE活性を蛍光追跡した。
in vitro 3D培養系: D2.0R・MCF-7細胞をMatrigel (Corning #356231) またはマウスラミニン111 (mLN-111、R&D Systems 3446-005-01) コートウェルで3D培養し、LPS・PMA・fMLP (formyl-Met-Leu-Phe) またはCSE (タバコ煙抽出物、cigarette smoke extract) で誘導したNET-CM (NET conditioned medium; NET馴化培地) を添加し、14日後にBLIで増殖を評価した (n=3)。PAD4阻害薬・DNase Iは好中球活性化時に添加した。
プロテアーゼ機能解析: 精製mLN-111 (90 μg) をNET-CM・rNE・rMMP9 (各2 μg/ml) と37°C・6時間インキュベーション後にSDS-PAGEで切断産物を分析した。NEとMMP9を逐次添加 (NE→MMP9 vs MMP9→NE) して覚醒活性を比較した。NET DNA のECM結合選択性は蛍光dsDNA結合assayで評価した。
integrinシグナル解析: D2.0R細胞でintegrin α1・α3・α5・α6・αv各isoformをshRNAでノックダウンし、NET-CM処置後の覚醒をBLIで評価した。FAK (焦点接着キナーゼ、focal adhesion kinase)・MEK・MLCK (ミオシン軽鎖キナーゼ、myosin light chain kinase)・YAP (yes-associated protein) の化学的阻害またはsiRNA/shRNAノックダウンで経路依存性を確認した。Western blottingでpFAK (Y397)・pERK1/2・pMLC2を検出した。
抗NET-リモデリングラミニン抗体: rNE+rMMP9 (各2 μg/ml) で6時間切断したmLN-111 (6 mg) をSprague Dawleyラットに5回ブースト免疫し、ラット骨髄腫YB2/0 (rat myeloma cell line) との融合でハイブリドーマを樹立した。Ab19・Ab25・Ab28 (anti-NET-remodeled laminin antibody clones) の3クローンを選別し、Ab28をマウスIgG2aキメラ抗体 (chiAb28) に変換してin vivoで評価した (200 μg/マウス、3日毎、静脈内)。
統計: in vivo BLI定量は一元配置ANOVA (Tukey法)、in vitro BLIは二元配置ANOVA (Tukey法)、一部はDunnett法を使用。RapidCaPモデルはKaplan-Meier曲線+log-rank (Mantel-Cox) 検定、転移型分布はFisher’s exact testを用いた。FUCCIデータ (182細胞) もFisher’s exact testで解析した。GraphPad Prism v7を主に使用し、p<0.05を有意とした。