• 著者: Jose M. Adrover, Carlos del Fresno, Georgiana Crainiciuc, Maria Isabel Cuartero, Maria Casanova-Acebes, Linnea A. Weiss, Hector Huerga-Encabo, Carlos Silvestre-Roig, Jan Rossaint, Itziar Cossio, Ana V. Lechuga-Vieco, Jaime Garcia-Prieto, Monica Gomez-Parrizas, Juan A. Quintana, Ivan Ballesteros, Sandra Martin-Salamanca, Alejandra Aroca-Crevillen, Shu Zhen Chong, Maximilien Evrard, Karl Balabanian, Jorge Lopez, Kiril Bidzhekov, Francoise Bachelerie, Francisco Abad-Santos, Cecilia Munoz-Calleja, Alexander Zarbock, Oliver Soehnlein, Christian Weber, Lai Guan Ng, Cristina Lopez-Rodriguez, David Sancho, Maria A. Moro, Borja Ibanez, Andres Hidalgo
  • Corresponding author: Andres Hidalgo (Centro Nacional de Investigaciones Cardiovasculares Carlos III, Madrid, Spain)
  • 雑誌: Immunity
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-02-19
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30709741

背景

好中球は血中の最多白血球であり、病原体を効率よく排除する反面、過活性化によって宿主に重篤な血管傷害を引き起こす可能性がある。抗微生物防御と血管保護という相反する要求をいかに調整するかという問いに対し、これまで明確な分子機構は未解明であった。先行研究では、好中球が循環中に表現型を変化させ「老化 (aging)」することが知られており、老化好中球はCXCR4^hi CD62L^loという特徴的な表現型を示す (Casanova-Acebes et al. 2013)。この老化プロセスが昼夜リズムに従うことも示唆されていたが、内在性の分子制御機構と生理的意義については不明であった。当時の主要な仮説では老化が外来因子 (腸内細菌叢、ROS等) によって駆動されると考えられていたが (Zhang et al. 2015)、本研究は好中球に内在する自律的タイマーの存在を示した。免疫細胞の特性が分子時計によって制御されるという研究 (Druzd et al. 2017; Nguyen et al. 2013; Silver et al. 2012) はある一方で、好中球の老化を制御するメカニズムとその生理的意義は未解明であり、このギャップが残されている。特に、好中球の短寿命という特性を考慮すると、真の概日時計ではなく、骨髄から放出される好中球集団全体で概日振動を制御する細胞タイマーの存在が不足していた。

目的

好中球に内在する時間計測機構 (タイマー) の分子実体を同定し、その制御によって免疫防御と血管保護がいかに時間的に調整されるかを解明する。具体的には、Bmal1 (brain and muscle aryl hydrocarbon receptor nuclear translocator-like 1)/CXCR2 (C-X-C chemokine receptor type 2)/CXCR4 (C-X-C chemokine receptor type 4) 軸が昼夜による好中球老化を制御するかを遺伝学的に証明し、老化状態の違いが感染・心血管疾患モデルに与える影響を評価する。

結果

好中球内在性タイマーの発見:Bmal1-CXCL2-CXCR2 軸: 循環好中球の転写プロファイルをZT5とZT13で比較した結果、1,300以上の遺伝子が昼夜で変動し、時計遺伝子 (Bmal1 [Arntl]、Clock の昼間上昇; Per2 の低下) や遊走・炎症関連経路が制御されていた (Figure 1A, 1B)。老化の正の調節因子としてBmal1とCXCR2、負の調節因子としてCXCR4を同定した。Arntl^ΔN (Bmal1欠損) および Cxcr2^ΔN (CXCR2欠損) マウスでは循環好中球のCD62L高値が持続 (老化欠如)、Cxcr4^ΔN (CXCR4欠損) マウスではCD62L低値が持続 (構成的老化) し、いずれも昼夜変動が消失した (Figure 2A, 2C)。Bmal1は好中球内でCxcl2遺伝子プロモーターのE-box配列に直接結合し (ChIP確認)、CXCL2のオートクライン分泌を促進してCXCR2を通じた老化を駆動した (Figure 2F)。Cxcl2^-/-好中球は老化が障害され、CD62L発現が約2.5-fold increaseした (p < 0.001)。これらの結果は、Bmal1がCxcl2の発現を制御し、CXCR2を介して好中球の老化を誘導するという、細胞内在性のタイマーの存在を強く支持する。

老化に依存した好中球の遊走特性の昼夜スイッチ: パラバイオシス実験で新鮮好中球 (Arntl^ΔN) と老化好中球 (Cxcr4^ΔN) の遊走を直接比較した (Figure 3A)。老化好中球は定常状態組織へのクリアランスが維持された一方、炎症組織への浸潤が著明に低下した (p < 0.001)。生体内顕微鏡では、老化好中球は血管内ローリング (遊走の律速段階) が障害されており、これが炎症部位への遊走低下の原因であることが示された (Figure 4B)。Arntl^ΔNマウスでは、野生型と比較して炎症組織への好中球浸潤が2.5-fold increaseし、その一方で恒常性クリアランスは強く障害された (Figure 3B)。これらの結果は、好中球の老化状態がその組織への遊走様式を昼夜で切り替えることを示している。

微絨毛崩壊がローリング障害の分子基盤: 老化好中球のSEM解析で細胞表面微絨毛数が著明に減少し (ZT5 vs ZT13で有意差, p < 0.001)、これに対応してコルチカル β-アクチンの分布が低下した (Figure 4C, 4D)。微絨毛はP-セレクチンリガンドを流体剪断力下で提示するために必要な構造であるため、その消失によりセレクチン依存性ローリングが障害される。一方、定常状態における好中球の組織クリアランスはローリング非依存的な接着メカニズムで起こり、老化によって微絨毛が失われても維持されることが確認された (Figure 4E, 4F)。Cxcr4^ΔNマウスの好中球では、野生型と比較して微絨毛数が約50%減少し、コルチカルβ-アクチンの分布も顕著に低下した (n=23-29 cells per group)。

感染防御における昼夜差の制御: Candida albicans全身感染実験では、マウスの活動期末期 (ZT13、若い好中球優位) に感染させると、ZT5 (老化好中球優位) 感染に比べて体重減少が軽度で腎臓の真菌負荷が低く、生存率が改善した (p < 0.001) (Figure 5B)。この昼夜差はArntl^ΔNマウスでは消失した (Figure 5C)。構成的老化 (Cxcr4^ΔN) マウスは感染に顕著な抵抗性を示し (腎臓真菌負荷で有意に低値, p < 0.001)、これは好中球数の増加ではなく老化状態によって決定されることが、AMD3100 (CXCR4拮抗薬) 投与による単純好中球増多実験で確認された (Figure 5G)。n=10-21 mice per groupで解析した結果、Cxcr4^ΔNマウスの体重減少は野生型と比較して有意に抑制された (p < 0.01)。

心血管保護における好中球タイマーの役割: 急性心筋梗塞モデルでの梗塞サイズはZT5 (老化好中球優位) の方がZT13より有意に大きかった (p < 0.001) (Figure 6B)。Cxcr4^ΔN (構成的老化) マウスでは梗塞サイズが著明に増大し、早期死亡率が100%に達した (Figure 6C, 6D)。Arntl^ΔN (老化欠如) マウスでは梗塞サイズが縮小した。この反応は好中球によって媒介されており (好中球除去で改善)、NETs阻害薬では防げなかったことから血管内の好中球-内皮相互作用を介した機序が示唆された。n=4-11 mice per groupで解析した結果、Cxcr4^ΔNマウスの梗塞サイズは野生型と比較して約2.5-fold increaseした (p < 0.001)。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、Bmal1 → Cxcl2 (C-X-C motif ligand 2) → CXCR2シグナルが好中球老化を昼夜で制御し、CXCR4がこれに拮抗するという三者からなる好中球内在性タイマーを確立した。これは、従来の研究で好中球の老化が機能低下を意味するとみなされてきたことと異なり、老化が「適応的な保護的状態変化」であることを示した。また、先行研究 (Zhang et al. 2015) では腸内細菌叢が好中球老化を外因的に制御するとされていたが、本研究のキメラ実験ではこの内在性プログラムが細胞自律的であることを証明した。

新規性: 本研究で初めて、好中球に内在するBmal1/CXCR2/CXCR4軸が日周期的な老化を制御するタイマーとして機能し、感染防御と血管保護のバランスを調整することを新規に同定した。老化好中球は炎症部位への遊走は低下するが、組織の定常状態クリアランス機能は維持されており、これを「保護的老化 (protective aging)」という新概念で説明した。

臨床応用: 臨床的含意として、心血管イベント・感染症の発症率は時間依存的に変動することが知られており (朝に心筋梗塞が多い等)、好中球タイマーの乱れがその分子基盤の一つである可能性が示された。治療戦略として、CXCR2アゴニストで老化を促進することで感染感受性の高い患者の防御を強化する、あるいはCXCR4アンタゴニストで老化を遮断することで心血管リスクを低下させる「クロノプログラミング」が提唱された。

残された課題: ヒトの好中球でも昼夜変動が確認されたが、マウスとは活動周期が逆転しているにも関わらず老化は両種とも朝にピークを示した。この種間差の意義は不明であり、ヒト疾患への直接応用に際してはさらなる検討が必要である。また、老化プログラムを制御する下流の分子イベント (アクチン重合の制御機序、微絨毛崩壊の実行因子等) は本研究では解明されておらず、今後の重要課題として残されている。

方法

好中球特異的コンディショナルノックアウトマウスを複数作製した。具体的にはhMRP8-Creドライバーを用いた Arntl^ΔN (Bmal1欠損)、Cxcr2^ΔN (CXCR2欠損)、Cxcr4^ΔN (CXCR4欠損) の3系統のC57BL/6マウスを作製し、骨髄移植キメラで細胞内在性の解析を行った。好中球老化の指標としてCD62L (L-セレクチン)・CXCR4・CXCR2の表面発現を測定し、BrdU (5-ブロモ-2’-デオキシウリジン) 標識を用いた動態解析を実施した。

転写解析 (RNA-seq) をZT5 (Zeitgeber time 5) とZT13 (Zeitgeber time 13) の2時点 (老化ピークと若い好中球優位の時点) で実施し、老化関連遺伝子プログラムを同定した。RNA-seqデータ解析には、Li et al. BMCBioinformatics 2011 および Robinson et al. Bioinformatics 2010 を用いた。クロマチン免疫沈降 (ChIP) でBmal1のCxcl2プロモーター結合を確認した。パラバイオシスモデルで異なる老化状態の好中球の in vivo 遊走特性を直接比較した。機能解析には (1) Candida albicans 全身感染モデル (腎臓への播種)、(2) 急性心筋梗塞モデル (左前下行枝の虚血再灌流)、(3) ゾイモサン誘発腹膜炎、(4) 脳虚血モデルを使用した。走査型電子顕微鏡 (SEM) による好中球表面微絨毛の形態解析と、生体内蛍光顕微鏡による血管内好中球ダイナミクス観察も実施した。統計解析には one-way ANOVA、unpaired t-test、paired t-test、Log-rank test、two-way ANOVA を用いた。