- 著者: Gabriel Sollberger, Robert Streeck, Falko Apel, Brian Edward Caffrey, Arthur I Skoultchi, Arturo Zychlinsky
- Corresponding author: Gabriel Sollberger (University of Dundee, School of Life Sciences / Max Planck Institute for Infection Biology, gsollberger001@dundee.ac.uk)
- 雑誌: eLife
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-06-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 32391789
背景
好中球は自然免疫の最も豊富なエフェクター白血球であり、恒常状態でもヒトでは 1 日あたり最大 2×10^11 個が骨髄から血流へ供給される。好中球は骨髄内で造血幹細胞から顆粒球前駆細胞を経て分化する顆粒球造血 (granulopoiesis) の過程で、貪食・脱顆粒・好中球細胞外トラップ (neutrophil extracellular trap, NET) という抗菌エフェクター能を獲得する。NET 形成には完全な成熟が必須であることが示されており (Fuchs et al. JCellBiol 2007、Papayannopoulos et al. NatRevImmunol 2018)、分化過程の制御因子を理解することは抗菌防御の理解に直結する。顆粒球系統決定は C/EBPα や C/EBPε が好中球方向を駆動し、GATA-1 や GATA-2 が好酸球・好塩基球・肥満細胞方向を誘導するという転写因子の拮抗で規定される。骨髄球分化に伴う転写・タンパク質発現の動態は近年マルチオミクスで詳細にマッピングされており、好中球特異的プログラムの輪郭が明らかになっている (Hoogendijk et al. CellRep 2019)。
分化はこうした転写因子活性だけでなくエピジェネティックなクロマチン変化にも依存する。リンカーヒストン H1 はヌクレオソームに結合してクロマチンをさらに凝縮させ、ヒトとマウスには 11 種類の H1 サブタイプ (うち 5 つ H1.1-H1.5 が体細胞性かつ複製依存性) が存在する。H1 サブタイプは種を超えて高度に保存されており機能的差異の存在が示唆される一方、1 つあるいは 2 つの H1 を欠損したマウスは生存・繁殖可能で形態異常を示さないなど冗長性も大きい (Fan et al. 2003)。しかし、ヒト免疫細胞の成熟と機能における H1 サブタイプの体系的関与を扱った研究は 不足 しており、特に好中球分化や NET 形成における個別 H1 サブタイプの役割はこれまで全く報告されていなかった点が大きな gap in knowledge であった。
目的
ヒト前骨髄球細胞株 PLB-985 を用いた CRISPR/Cas9 全ゲノムノックアウトスクリーニングにより、好中球の成熟および NET 形成に必要な遺伝子を網羅的に同定し、とりわけ予期せず浮上したリンカーヒストン H1 サブタイプが顆粒球造血の系統決定 (好中球 vs 好酸球) において果たすサブタイプ特異的な役割と、その分子機構を解明することを目的とした。
結果
スクリーニングの妥当性とヒット同定:PMA 誘導性 NET 形成が完全分化を要求することを利用し、生存細胞の濃縮を読み出しとして全ゲノム CRISPR/Cas9 スクリーニングを実施した (Fig 1f)。NET 形成に必須として既知の CYBB・NCF1・MPO がヒットとして再同定され、顆粒球造血に重要な C/EBP ファミリーの CEBPD も検出されたことでアプローチの妥当性が確認された。予想外に、最高ランクの 20 遺伝子のうち 2 つがリンカーヒストン H1 ファミリーであり、HIST1H1E (H1.4) は 100% の sgRNA が濃縮され (2 倍以上の overrepresentation を 50% 超で要求する基準を満たす) 最も高い median enrichment を示した (Fig 1g)。
H1.2/H1.4 欠失は分化を介して好中球機能を障害:PLB-985 では他のサブタイプより H1.2 と H1.4 の mRNA が高発現していた (Fig 2a)。スクリーニング結果を検証するため H1.2 (2 sgRNA 由来の 2 クローン) と H1.4 (1 sgRNA 由来の 2 クローン) の欠損株を作製したところ、いずれも 100 nM PMA に対する細胞死が減弱し (Fig 2c、n=3 independent experiments)、ROS 産生効率が低下し、MPO 発現も減少した。一方で貪食能は保たれており、全てのエフェクター機能が一律に障害されるわけではないことが示された。これらは H1.2 と H1.4 が PLB-985 の成熟好中球様細胞への分化に必要であることを示唆する。
H1 サブタイプ間の対照的な分化制御:分化マーカー CD11b は H1.2/H1.4 欠損で d3・d7 ともに低下した一方、残る 3 つの体細胞性サブタイプ H1.1 (HIST1H1A)・H1.3 (HIST1H1D)・H1.5 (HIST1H1B) を欠損させると逆の表現型を示し、特に H1.1 と H1.5 欠損で d3 から CD11b 発現が著明に亢進した (Fig 3a,b)。H1.2/H1.4 欠損クローンは d7 まで増殖を続け生存性も高かったのに対し、H1.1/H1.3/H1.5 欠損細胞は増殖が抑制され生存性が低下した。単球系細胞株 THP-1 では H1 欠損が NLRP3 インフラマソーム依存性 IL-1β 放出に影響しなかったことから、効果は骨髄球分化全般ではなく好中球分化に特異的であると結論された。
好酸球様転写プログラムの誘導:RNA-seq の PCA で H1.2/H1.4 欠損クローンは d7 でも対照の d3 と近接クラスターを形成し分化遅延を裏付け、逆に H1.1/H1.3/H1.5 欠損は d3 で対照 d7 とクラスター化し分化促進を示した (Fig 4c)。分化前 (d0) の差次発現解析では、H1.2/H1.4 欠損細胞で好中球遺伝子 (MPO・ELANE・PRTN3・CTSG・AZU1) が強く下方制御される一方、好酸球関連遺伝子 (galectin-10/CLC・IL5RA・GATA1・GATA2・EPX) と GATA-1 シグネチャが p<0.05・logFC>2 で有意に上方制御されていた (Fig 4d,e)。この上方制御は H1.2/H1.4 欠損に特異的で他のジェノタイプには認められず、系統運命が分化開始前の未分化段階で既に好酸球方向へ偏倚していることを示した。eosinophil マーカー Siglec-8 と galectin-10 タンパクの上昇も確認された。
GATA-2 依存性のレスキュー:H1.2/H1.4 欠損株では GATA1・GATA2 がともに上昇し、d0 の発現量は好中球様運命をとる能力と逆相関した。GATA-2 のみの欠失が PLB-985 の成熟を亢進させた一方 GATA-1 欠失は効果がなく、二重欠損レスキュー実験で GATA-2 (GATA-1 ではなく) の破壊が H1.2/H1.4 欠損細胞の ROS 産生と CD11b 発現を回復させた (Fig 6a-d、n=3 independent experiments)。GATA-2 阻害剤 K-7174 でも同様に CD11b と ROS が回復し、AQP9 上昇・MPO 低下という成熟マーカーの逆転が確認された。応答は scr. 対照より H1 欠損細胞で強く、ベースラインの GATA-2 高発現と整合した。これにより H1.2/H1.4 が少なくとも一部 GATA-2 の制御を介して運命決定と好中球分化を司ることが示された。
in vivo マウスでの系統偏倚の検証:H1.2/H1.4 二重欠損マウスでは循環・骨髄の好中球比率は野生型と同等であった (全血好中球 Gr1+CD115-、wt n=15 vs H1.2/H1.4-/- n=14、Ly-6G 陽性で n=4) が、恒常状態で循環好酸球 (SiglecF 陽性、n=4) が有意に増加し in vivo でも好酸球偏倚が存在した (Fig 5c)。骨髄 lineage 陰性幹細胞をサイトカイン (IL-3 20 ng/ml、IL-5 50 ng/ml、GM-CSF 10 ng/ml ほか) 存在下で 6 日間分化させる ex vivo アッセイでは、H1.2/H1.4 欠損細胞が好酸球表面マーカーを上昇させ好中球マーカーを低下させ PLB-985 の表現型を再現した (Fig 5d-f)。加えて欠損マウスでは CD62L+CXCR4+ の若い好中球が減少し顆粒度が増すなど老化マーカーの異常、CXCL1 上昇・IL6 低下・カゼイン刺激後の IL-17 上昇といったサイトカイン環境の撹乱が認められた。5 μM A23187 も別経路の NET 誘導刺激として細胞死を惹起した。
考察/結論
本研究は、従来クロマチン凝縮を担う冗長な構造因子と見なされがちであったリンカーヒストン H1 が、サブタイプ特異的かつ相互に対照的な役割で顆粒球造血の系統決定 (好中球 vs 好酸球) を制御することを 本研究で初めて 機能的に示した点で novel である。H1.2/H1.4 欠失が分化を抑制し H1.1/H1.3/H1.5 欠失が分化を促進するという二方向性は、H1 全体を「転写の一般的抑制因子」とみなす既報 (Schlissel and Brown 1984) や、三重欠損胚性幹細胞でわずか 38 遺伝子しか差次発現しないとした報告 (Fan et al. 2005) とは異な り、分化依存的な文脈ではサブタイプ間で機能が鋭く分岐することを実証した。乳がん細胞では H1.2/H1.4 共欠失がインターフェロンシグネチャを誘導すると報告されているのに対し、本研究の好中球系では明瞭なインターフェロン応答を伴わず GATA-2 依存的な好酸球プログラムが前面に出た点も 対照的 であり、H1 の効果が細胞種特異的であることを浮き彫りにした。
新規性の核心は、H1.2/H1.4 が GATA-2 の発現・活性を抑制することで好酸球様プログラムを抑え好中球運命を確保する「系統決定ゲートキーパー」として働くという機構的洞察にある。GATA-2 の遺伝的破壊または薬理学的阻害が欠損表現型を十分にレスキューしたこと、応答が H1 欠損細胞でより強かったことが、この因果性を支持する。臨床的含意としては、好酸球が病態を駆動する疾患 (喘息、好酸球増多症候群、好酸球性食道炎) や、H1 変異が報告される骨髄系腫瘍 (骨髄異形成症候群・急性骨髄性白血病) において、H1 サブタイプ発現の不均衡が好中球・好酸球バランスの撹乱を介して病態を形成しうるという橋渡し研究の仮説を提供する。
残された課題として、第一に H1 サブタイプが GATA2 遺伝子座をどのように選別・占有して発現を抑制するのか (プロモーター/エンハンサー直接結合か H3K9me2 等のコアヒストン修飾を介する間接効果か) という分子機構が未解明であり今後の検討を要する。第二に、二重欠損マウスでは循環好中球数が正常に保たれており、サイトカイン環境の撹乱や好中球ターンオーバー変化による in vivo 代償機構の定量的理解が limitation として残る。とりわけ CD62L+CXCR4+ の若い好中球の減少は概日的に制御される好中球老化プログラム (Adrover et al. Immunity 2019) との接点を示唆し、H1 欠損が老化時計に及ぼす影響の解析が次の論点となる。第三に、ヒトとマウスで GATA1/GATA2 の相対的寄与が異なる可能性があり、種差を含めた更なる検討と future research が、H1 欠損が恒常状態・炎症下の顆粒球造血と好中球老化に及ぼす意義の解明に必要である。
方法
モデルにはヒト二倍体骨髄性白血病細胞株 PLB-985 (Tucker et al. 1987、RRID:CVCL_2162、STR 認証・マイコプラズマ陰性) を用い、ジメチルホルムアミド (dimethylformamide, DMF) 0.5% を含む分化培地で 7 日間 (d0-d7) 培養して好中球様細胞へ分化させた。分化細胞は活性酸素種 (reactive oxygen species, ROS) 産生、表面マーカー CD11b 発現、Escherichia coli 貪食能、phorbol 12-myristate 13-acetate (PMA) 誘導性 NET 形成・細胞死 (SYTOX Green 蛍光) で評価した。全ゲノムスクリーニングでは 1 遺伝子あたり 5-6 本の single-guide RNA (sgRNA) を含むレンチウイルスライブラリー (Shalem et al. 2014、GeCKO) を MOI <1 で導入し、d7 に 100 nM PMA で 16 時間刺激後の生存細胞を fluorescence-activated cell sorting (FACS) で回収・シーケンスした。同定 sgRNA の 50% 超が PMA 群で 2 倍以上濃縮された遺伝子をヒットと定義した。
個別ノックアウト株は lentiCRISPRv2 で作製し、限界希釈クローニングと OutKnocker 解読で out-of-frame indel を確認した。GATA-1 (anagrelide) / GATA-2 (K-7174) 阻害剤および GATA1/GATA2 sgRNA を用いたレスキュー実験を実施した。RNA-sequencing は STAR 2.5.2b で hg38.87 へマッピングし edgeR で差次発現解析、主成分分析 (principal component analysis, PCA) と tmod による遺伝子モジュール濃縮解析、Blueprint のヒト一次好中球分化データセットとの concordance 解析を行った。in vivo 検証には H1.2/H1.4 二重欠損マウス (Fan et al. 2003、Arthur Skoultchi 提供) を用い、カゼイン腹腔内注射 (7%、1 ml) による無菌性腹膜炎モデルと、骨髄 lineage 陰性前駆細胞をサイトカイン (IL-3/IL-5/IL-9/GM-CSF/SCF) 存在下で 6 日間培養する ex vivo 分化アッセイを実施した。循環白血球の比較は two-tailed unpaired t 検定で行った。