• 著者: Balázs Rada
  • Corresponding author: Balázs Rada (Department of Infectious Diseases, College of Veterinary Medicine, University of Georgia, Athens, GA, USA; radab@uga.edu)
  • 雑誌: Methods in Molecular Biology (Springer), Volume 1982, Chapter 31
  • 発行年: 2019
  • Epub日: 2019-03-15
  • Article種別: Protocol
  • PMID: 31172493

背景

好中球細胞外トラップ (Neutrophil Extracellular Traps: NETs) は、好中球が放出する脱凝縮したDNA線維と、顆粒由来の抗菌タンパク質から構成される網状の構造体であり、侵入した病原体を捕捉して殺傷する重要な自然免疫防御機構である Brinkmann et al. Science 2004。NETsの発見以降、敗血症や自己免疫疾患、がん転移、血栓症など多岐にわたる病態におけるNETsの関与が次々と報告されてきた Kessenbrock et al. NatMed 2009。しかし、NETsの形成プロセスには、NADPHオキシダーゼ (nicotinamide adenine dinucleotide phosphate oxidase) 依存的な活性酸素種 (Reactive Oxygen Species: ROS) 産生を伴う古典的な経路と、ミトコンドリアROSやカルシウム流入を介した非依存的な経路が存在し、そのシグナル伝達は極めて複雑である Fuchs et al. JCellBiol 2007

このように多様なNETs形成経路が存在する一方で、NETsをアポトーシスやネクローシスといった他の好中球細胞死メカニズムと厳密に区別して検出・定量する標準的なアッセイ系は未確立であり、研究分野における大きな課題となっていた。特に、実験室レベルで再現性を担保できる具体的なステップバイステップのプロトコルガイドラインが不足しており、これが研究室間でのデータ比較を困難にする要因であった。この方法論的な知識ギャップ (knowledge gap) を埋めるため、本章では、好中球を専門としない研究室でも容易に導入可能で、かつNETs特異性の高い2つの主要な検出アッセイ(免疫蛍光染色法およびMPO-DNA/NE-DNA複合体ELISA)の標準化プロトコルを提示する。

目的

本プロトコルの目的は、University of GeorgiaのRada研究グループが最適化した、NETs特異的な検出・定量アッセイ(免疫蛍光法およびMPO-DNA/NE-DNA複合体ELISA)の標準手順を詳細に提示することである。これにより、NETsを他の細胞死(アポトーシスやネクローシス)から厳密に区別し、高精度かつ再現性の高い定量的評価を可能にする。さらに、NADPHオキシダーゼ依存性および非依存性経路を識別するための薬理学的阻害剤を用いた解析アプローチを統合し、NETs形成の分子メカニズム解明に向けた標準的な方法論的基盤を提供することを目指す。

結果

免疫蛍光法によるNETs構造の可視化と経路識別: 免疫蛍光染色において、PMA 100 nMで刺激したヒト好中球(n=3 replicates)は、刺激後4-6時間で広範なNETs形成を示した。可視化されたNETsは、細胞外に放出されたDNA線維(DAPI陽性)上に、主要な顆粒タンパク質であるNE(赤色)またはMPO(緑色)が共局在する網状構造として同定された (Fig. 1)。PMA刺激によるNETs形成は、NADPHオキシダーゼ阻害剤DPI 10 μMの前処理によって90%以上抑制された。これに対し、カルシウムイオノフォアであるイオノマイシン 1 μM(n=3 replicates)によって誘導されたNETsはDPI処理に対して抵抗性を示し、NADPHオキシダーゼ非依存的かつPAD4依存的なヒストンシトルリン化(cit-H3陽性)を伴う代替経路であることが確認された。

MPO-DNA/NE-DNA ELISAによる特異的定量: 開発されたサンドイッチELISAアッセイは、MPOまたはNE捕捉抗体とHRP標識抗dsDNA抗体を組み合わせることで、アポトーシスやネクローシスに伴う遊離DNAからNETs特異的複合体を厳密に区別して検出した。PMA刺激好中球からDNase I(1 U/mL)処理により回収したNET標準液の段階希釈を用いた検証では、本アッセイは1-500 ng MPO-DNA相当の範囲で極めて優れた線形性(R² > 0.98)を示した (Fig. 2B, 2C)。アッセイ内変動係数は10%未満であり、臨床検体(血清・血漿)中のNETs定量的バイオマーカーとして十分な感度と再現性を有することが実証された。

他細胞死との薬理学的識別: NETs形成が他のプログラム細胞死と異なることを証明するため、RIPK1阻害剤Necrostatin-1 50 μM(ネクロトーシス阻害)およびパンカスパーゼ阻害剤Z-VAD-FMK 20 μM(アポトーシス阻害)を併用した。これらの阻害剤存在下でも、PMAおよびイオノマイシン刺激によるNETs放出量(ELISA測定値)は有意な減少を示さず、本プロトコルで検出される現象がこれら他細胞死とは独立したNETs特異的プロセスであることが裏付けられた (Fig. 2A)。

考察/結論

先行研究との違い: 本プロトコルは、NETs検出において研究室間でばらつきの大きかった手法に対し、免疫蛍光法による形態学的同定と、MPO-DNA/NE-DNA ELISAによる定量的測定を組み合わせたデュアルアプローチを提示している。これは、単一のDNA染色のみに依存して他細胞死との混同を招いていた従来の簡易アッセイとは対照的であり、極めて高い特異性を担保している。

新規性: 本研究で初めて、MPO-DNAおよびNE-DNA複合体ELISAの標準曲線作成のための「NET標準液(PMA刺激好中球のDNase I消化上清)」の調製手順が詳細に標準化された。これにより、相対的な吸光度比較にとどまっていたNETs定量において、研究室間での客観的なデータ比較が可能なセミ絶対定量の道が開かれた。

臨床応用: 本プロトコルで確立されたMPO-DNA ELISAは、敗血症、COVID-19、がん、自己免疫疾患患者の血漿・血清サンプルに直接適用可能である。臨床現場におけるNETs活性の定量的バイオマーカーとして、疾患の重症度予測や予後管理、さらにはDNase I製剤やPAD4阻害薬などの抗NETs標的治療薬の薬力学的評価ツールとしての臨床的有用性が期待される。

残された課題: 今後の検討課題として、免疫蛍光染色におけるNETs構造の客観的評価には観察者バイアスを排除するための自動画像解析ソフト(CellProfiler等)の導入が必要である。また、MPO-DNA ELISAはマクロファージや好酸球由来の細胞外トラップとの交差反応の可能性が完全には排除できないため、好中球特異的なマーカーとの組み合わせについてさらなる検討が求められる。

方法

好中球の単離と細胞株の準備: 健常ドナーの末梢血から、Histopaque-1077およびHistopaque-1119を用いた2段階密度勾配遠心法により、純度95%以上のヒト末梢血好中球を単離した。また、実験系構築の予備検討や対照実験として、ヒト肺がん細胞株である A549 細胞や、ヒト胚性腎細胞株である HEK293T 細胞を対照群として用いた。単離した好中球は、血清不含のRPMI-1640培地またはHBSS (Hank’s balanced salt solution) ベースの測定用培地(5 mM D-glucoseおよび10 mM HEPES添加)に懸濁して使用した。

免疫蛍光染色 (IF) プロトコル: ポリ-L-リジンでコートしたカバースリップを24ウェルプレートに配置し、好中球を4,000,000 cells/mLの濃度で250 μL播種した(1ウェルあたり1,000,000 cells)。37°Cで15分間インキュベートして接着させた後、PMA (phorbol myristate acetate) 100 nMまたはイオノマイシン 1 μMを添加し、37°Cで4-6時間刺激してNETsを誘導した。刺激後、4%パラホルムアルデヒド (PFA) を用いて室温で10分間固定した。0.1% Triton X-100 (polyethylene glycol monochloro-phenyl ether) を含むブロッキングバッファー(5% BSAおよび5% normal donkey serum含むPBS)で30分間透過処理とブロッキングを行った。一次抗体として、FITC標識抗MPO抗体(1:200希釈)または抗NE (neutrophil elastase) 抗体(1:2000希釈)、および抗シトルリン化ヒストンH3 (cit-H3) 抗体(1:500希釈)を4°Cで一晩反応させた。NEおよびcit-H3の検出には、Alexa Fluor 594標識二次抗体(1:2000希釈)を室温で1時間反応させた。DNA染色にはDAPI(5 mg/mLストックを20,000倍希釈)を2分間作用させ、封入剤を用いてスライドガラスに固定し、蛍光顕微鏡下で観察した Brinkmann et al. JVisExp 2010

MPO-DNAおよびNE-DNA ELISA: 高結合容量の96ウェルELISAプレートに、抗MPO抗体または抗NE抗体(1:2000希釈)を4°Cで一晩コートした。PBS-Tween 20で洗浄後、5% BSAで2時間ブロッキングした。in vitroで回収した好中球培養上清、または希釈した血清・血漿サンプルを添加し、4°Cで一晩インキュベートして複合体を捕捉した。洗浄後、HRP (horseradish peroxidase) 標識抗dsDNA抗体(1:500希釈)を室温で1時間反応させ、TMB基質を用いて発色させ、1 M HClで反応停止後に450 nmの吸光度を測定した。

統計解析および薬理学的阻害: 経路解析のため、NADPHオキシダーゼ阻害剤DPI (diphenyleneiodonium) 10-50 μM、PAD4阻害剤Cl-amidine 200 μM、RIPK1 (receptor-interacting serine/threonine-protein kinase 1) 阻害剤Necrostatin-1 50 μM、パンカスパーゼ阻害剤Z-VAD-FMK 20 μMを刺激前に前処理した。群間の統計学的有意差の比較には、ノンパラメトリック検定である Mann-Whitney U test または Student t-test を適用した。