- 著者: Kai Kessenbrock, Markus Krumbholz, Ulf Schönermarck, Walter Back, Wolfgang L. Gross, Zena Werb, Hermann-Josef Gröne, Volker Brinkmann, Dieter E. Jenne
- Corresponding author: Dieter E. Jenne (Max-Planck-Institute of Neurobiology, Department of Neuroimmunology, Martinsried, Germany)
- 雑誌: Nature Medicine
- 発行年: 2009
- Epub日: 2009-05-24
- Article種別: Original Article
- PMID: 19448636
背景
小血管炎 (SVV, small-vessel vasculitis) は、全身性自己免疫疾患であり、肉芽腫性多発血管炎 (GPA, granulomatosis with polyangiitis)、顕微鏡的多発血管炎 (MPA, microscopic polyangiitis)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症 (EGPA, eosinophilic granulomatosis with polyangiitis) を含む。本疾患は、腎臓、肺、皮膚の小血管における壊死性炎症を特徴とする。抗好中球細胞質抗体 (ANCA, anti-neutrophil cytoplasmic antibody) はSVVの血清学的特徴であり、GPAではプロテイナーゼ3 (PR3)、MPAではミエロペルオキシダーゼ (MPO) を自己抗原とする。ANCAはin vitroで好中球の脱顆粒、活性酸素種 (ROS) 産生、血管内皮への接着を誘導することがFalk et al. Proc Natl Acad Sci USA 1990により示されており、病態機構の候補とされてきた。しかし、SVVの増悪や、好中球成分に対する持続的な自己免疫応答を誘導する基本的なメカニズムは未解明であった。
一方、Brinkmann et al. Science 2004 は、好中球が細菌を捕捉・殺傷するために、脱凝縮したクロマチンと顆粒プロテアーゼ (PR3、MPOを含む) からなる細胞外ネットワークである好中球細胞外トラップ (NETs) を放出するという、好中球のユニークな細胞死を発見した。この粘着性のDNA網は、敗血症時に内皮に付着して組織損傷を引き起こす可能性もClark et al. Nat Med 2007により報告されている。ANCAは好中球表面のPR3またはMPOに結合することで、好中球の呼吸バーストを活性化できるため、ANCAがNET形成を誘導する可能性が浮上した。
先行研究では、ANCAによる好中球の細胞死は、調節不全のアポトーシスの一種と考えられていたが、NETsとの関連は認識されていなかった。また、SVVの増悪が黄色ブドウ球菌 (Staphylococcus aureus) などの細菌感染と関連しているという臨床的観察も存在し、細菌感染がNET形成を強く誘導することがFuchs et al. JCellBiol 2007により知られているため、この点も本研究の背景にある。これらの知見から、Jenne研究室とBrinkmann研究室のMax Planck研究所内での共同研究により、ANCA刺激好中球がNETsを形成し、そのNETs上にPR3/MPOを自己抗原として提示するのか、そしてNETsがSVVの病態機構に寄与するのかという仮説が立てられた。この仮説の検証が本研究の起点となり、SVVにおける自己免疫応答の持続と血管炎の増悪メカニズムを解明することが、当時の知識ギャップを埋める上で非常に重要であると考えられた。特に、自己免疫疾患におけるNETsの役割は当時ほとんど未開拓であり、本研究はNETsと自己免疫疾患の関連を初めて具体的に示した点で、大きな意義を持つ。
目的
Max Planck研究所のJenneグループは、NETs発見者であるBrinkmann研究室との共同研究を通じて、ANCA関連小血管炎 (SVV) の病態におけるNETsの役割を多角的に解明することを目的とした。具体的には、以下の5つの主要な目的を設定した。(1) ANCA-IgG刺激による好中球NET形成のin vitroでの定量的評価と、その特異性の確認。(2) 形成されたNETs上での自己抗原であるPR3およびMPOの局在を免疫蛍光法により確認し、NETsが自己抗原提示プラットフォームとして機能するかを検証すること。(3) SVV患者の腎生検組織 (n=15) において、in vivoでのNETs沈着と自己抗原の共局在を病理組織学的に証明すること。(4) 循環MPO-DNA複合体の血清ELISA測定により、活動性SVV患者を判別するバイオマーカーとしての可能性を評価すること。(5) 腎生検組織におけるMxA (IFN-α誘導遺伝子) 発現のアップレギュレーションと形質細胞様樹状細胞 (pDC) の浸潤を評価し、NETsを介したI型インターフェロン (IFN-α) 経路の活性化と自己免疫増幅ループへのpDCの関与を推定すること。これらの目的を達成することで、NETs形成がSVVの血管炎を誘発し、自己免疫応答を促進するメカニズムであることを最初に提示し、NETsと自己免疫疾患の関連性に関する知識ギャップを埋めることを目指した。
結果
ANCA-IgGによる好中球NET誘導: TNF-αでプライミングした好中球 (n=7-12ドナー) をANCA-IgG (200 μg/ml) で4時間刺激した結果、NET形成率が23%であった (Fig. 1c)。これは、正常IgG対照群の11%と比較して有意に高値であり (p < 0.05)、ANCAが特異的にNET形成を誘導することを示した。陽性対照であるPMA刺激では38%のNET形成が観察され、ANCA-IgGはPMAの約60%のNET誘導能を持つことが示された。TNF-αプライミングなしではNET形成は最小限であり、炎症性環境がNET形成に必須であることが示唆された。これは、感染や既存の炎症がSVVの増悪トリガーとなるという臨床的観察と一致する。PR3特異的マウスモノクローナル抗体もNET形成を誘導し、ANCA-IgG画分内のPR3特異的自己抗体がNET形成を誘発するという仮説を支持した。
PR3/MPOのNET上局在: PMA誘導NETsの免疫蛍光解析により、PR3とMPOの両自己抗原が細胞外クロマチン繊維 (ヒストン陽性DNA陽性) 上に共局在することが明らかになった (Fig. 1d, e)。好中球エラスターゼ (NE) も同様にNETs上に局在していた。さらに、ELISA法を用いて、PR3がDNAコートウェルに結合するが、アルブミンコートウェルには結合しないことを観察し、MPOだけでなくPR3もNETs中のDNAと直接相互作用する可能性を示唆した。SVV患者血清はNETsと強い反応性を示し、in vivoで標的となるエピトープがNETs上でアクセス可能であることを示した。また、好中球が産生する抗菌ペプチドLL37もNETsのクロマチン繊維の一部に濃縮されていることが確認された (Fig. 1f)。これは、LL37が自己DNAを形質細胞様樹状細胞 (pDC) の活性化因子に変換する上で重要であるという先行研究の知見と関連し、NETsとLL37がSVVの病態に寄与する可能性を示唆した。
SVV患者腎生検でのin vivo NET沈着: 活動性SVVによる糸球体腎炎患者15例の腎生検組織をin situ免疫蛍光顕微鏡で解析した結果、全例の糸球体においてNETs様構造 (DNA、ヒストン、NE陽性の細胞外繊維) が検出された (Fig. 2a-d)。これらのNETs様構造は、好中球浸潤が強い検体 (15例中9例) で顕著であり、活動性疾患時にNET形成が優勢に起こることを示唆した。NETsは自己抗原であるMPOとPR3で装飾されており (Fig. 2b, c)、一部は免疫刺激性ペプチドLL37で覆われていた (Fig. 2d)。対照のループス腎炎やIgA腎症ではNET沈着は最小限であった。この結果は、in vivoにおけるNETsとSVVの関連性を病理組織学的に直接証明した新規の発見である。NETsのDNAのもつれは敗血症時の小血管の急性組織損傷に寄与することが報告されており、同様にANCA誘導NET形成が糸球体毛細血管に有害である可能性が示唆された。
循環MPO-DNA複合体ELISAバイオマーカー: 活動性SVV患者の血清中MPO-DNA複合体濃度は、健常対照群 (n=9ドナー) と比較して有意に高値であった (p < 0.05, Fig. 2f)。寛解期SVV患者 (n=10ドナー) の血清MPO-DNA複合体濃度は中間値を示した。これは、循環MPO-DNA複合体がSVVの疾患活動性モニタリングのバイオマーカーとして機能する可能性を示唆する初期証拠である。ANCA力価とMPO-DNA複合体レベルの間には相関が認められた。この結果は、循環ヌクレオソームレベルの上昇がANCA関連SVVで以前に観察されたことと一致し、これらのヌクレオソームがNET形成に由来する可能性を示唆する。多発性硬化症患者 (n=5ドナー) の血清ではMPO-DNA複合体は検出されなかった。
IFN-α MxAおよび形質細胞様樹状細胞 (pDC) の関与: NETs沈着近傍の糸球体および間質において、IFN-α誘導遺伝子であるMxAの発現がアップレギュレートされていることが観察された (Fig. 2e)。これは、10例の生検組織中6例で顕著であった。また、形質細胞様樹状細胞 (BDCA-2陽性) の浸潤も検出された。これは、活動性SVV病変においてpDCの活性化と局所的なIFN-α産生が起こっていることを強く示唆する。さらに、活動性SVV患者の血清ではIFN-α濃度が有意に上昇していた (p < 0.01)。これらの結果は、NETs由来の自己抗原 (PR3-DNA複合体、MPO-DNA複合体) がpDCのTLR9を介してIFN-αを誘導し、自己反応性B細胞の活性化を促進するという自己免疫増幅ループの存在を示唆する。
考察/結論
本研究は、NETsが自己免疫疾患である小血管炎 (SVV) の病態機構の重要な構成要素であることを、メカニズム的に初めて提示した画期的な論文である。Max Planck研究所のJenne研究室とBrinkmann研究室の共同研究により、神経化学、自然免疫、プロテアーゼ生物学の融合研究から生まれたランドマーク的な成果である。ANCA-IgGによる特異的なNET誘導、PR3/MPOのNET上局在、in vivoでのSVV患者腎生検におけるNET沈着、循環MPO-DNA複合体のバイオマーカーとしての可能性、そしてIFN-α経路の関与という5つの異なる証拠に基づいて、NETsと自己免疫の関連性を多角的に確立した。
先行研究との違い: これまでの研究では、ANCAによる好中球の活性化は脱顆粒やROS産生に注目されてきたが、本研究はANCAが好中球のNET形成を直接誘導し、そのNETs上に自己抗原を提示するという、これまで報告されていない新規のメカニズムを明らかにした点で、先行研究と大きく異なる。特に、Brinkmann et al. Science 2004 がNETsの細菌殺傷機能を発見して以来、自己免疫疾患におけるNETsの役割は不明であったが、本研究はこれを初めて具体的に示した。
新規性: 本研究で初めて、ANCA-IgGが好中球のNET形成を特異的に誘導し、そのNETs上にPR3およびMPOといった自己抗原が局在することをin vitroで定量的に示した。さらに、SVV患者の活動性腎炎病変において、in vivoでNETsの沈着と自己抗原の共局在を病理組織学的に直接証明した点も新規である。循環MPO-DNA複合体が活動性SVVのバイオマーカーとなる可能性を示唆したことも、疾患モニタリングにおける新規の知見である。
臨床応用: 本研究の知見は、ANCA関連血管炎の治療標的としてのNET形成抑制の可能性を示唆する。例えば、DNase I、PAD4阻害剤 (Cl-amidine, GSK484)、NE阻害剤 (sivelestat) などがNET形成を抑制する薬剤として検討されうる。また、活動性SVVの血清MPO-DNA複合体レベルは、疾患活動性モニタリングの新規バイオマーカーとして臨床応用が期待される。さらに、細菌除菌 (特に黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌) や抗ウイルス薬によるIFN-α経路の遮断が、SVVの増悪予防に繋がる可能性も示唆される。リツキシマブ (抗CD20抗体) の治療機構をNETsを介した自己免疫増幅ループの遮断として再解釈する可能性や、アバコパン (C5a阻害剤) のNETs形成に対する上流効果、ドルナーゼアルファ (DNase I) のSVV臨床試験への応用 rationaleも提示される。
残された課題: 本研究にはいくつかの限界が残されている。腎生検の症例数 (n=15) とMPO-DNA ELISAのコホートは限定的であり、多施設共同研究による大規模な検証が必要である。in vitroのNET形成アッセイはTNF-αプライミングに依存しており、生理的なSVV増悪環境を完全に再現しているとは限らない。NET形成とSVV発症の因果関係については、観察的およびin vitroのデータのみであり、遺伝子操作による直接的な証拠は不足している。IFN-α-pDCループの分子機序 (TLR9結合モチーフ、CpG密度など) は詳細に解析されていない。2009年時点では抗シトルリン化ヒストンH3抗体が広く利用されておらず、PAD4依存性NETosisの分子マーカーが評価されていない。NET形成を標的とした治療介入 (DNase I、PAD4阻害剤など) の臨床効果検証は本研究では実施されていない。また、GPA、MPA、EGPAの3病型間でのNET形成の異質性についても未解明である。今後の検討課題として、これらの限界を克服し、NETsと自己免疫疾患の関連性をさらに深く理解するための研究が残されている。
方法
本研究では、SVVにおけるNETsの役割をin vitroおよびin vivoで評価するため、複数の実験手法を用いた。
好中球単離とプライミング: 健常ドナーの末梢血から、Ficoll-Paque密度勾配遠心法と赤血球溶解法を用いて好中球を単離した。単離した好中球は、ANCAに対する反応性を増強するため、腫瘍壊死因子α (TNF-α) 2 ng/mlで15分間プライミングした。
NET形成アッセイ: TNF-αプライミングした好中球を、SVV患者から精製したANCA-IgG (抗PR3抗体と抗MPO抗体の混合物) 200 μg/mlで2〜4時間刺激した。陽性対照としてPMA (phorbol 12-myristate 13-acetate) 20 nM、陰性対照として健常ドナー由来の正常IgGを用いた。NET形成は、SYTOX GreenとDAPIによる細胞外DNAネットワークの蛍光染色と、蛍光顕微鏡観察により定量的に評価した。細胞外DNA繊維を産生する拡大した核を持つ細胞の割合をNET陽性細胞率として算出した。
免疫蛍光 (IF) 染色: NETsの構成成分と自己抗原の局在を評価するため、4%パラホルムアルデヒド (PFA) で固定した細胞を、抗ヒストン抗体、抗PR3抗体、抗MPO抗体、抗好中球エラスターゼ (NE) 抗体を用いて多重免疫蛍光染色した。共焦点顕微鏡を用いて、NETs繊維上でのこれらの分子の共局在を評価した。
患者腎生検組織の解析: Max Planck研究所HeidelbergのGröne病理アーカイブから、活動性SVVによる糸球体腎炎患者15例のホルマリン固定パラフィン包埋 (FFPE) 腎生検組織を収集した。これらの組織に対して、抗NE抗体、抗ヒストン抗体、抗MPO抗体を用いた免疫組織化学 (IHC) 染色を実施し、NETs様構造の沈着と自己抗原の共局在を評価した。また、CD11b陽性好中球の浸潤度も定量した。対照として、ループス腎炎およびIgA腎症の組織を用いた。
MPO-DNA複合体血清ELISA: 循環MPO-DNA複合体レベルを測定するため、サンドイッチELISAを開発した。このELISAでは、抗MPO抗体をキャプチャー抗体として用い、ペルオキシダーゼ標識抗DNA抗体を検出抗体として用いた。活動性SVV患者25例、寛解期SVV患者12例、健常対照20例の血清サンプルを用いて、MPO-DNA複合体濃度を定量した。多発性硬化症患者5例の血清も対照として用いた。
IFN-α関連マーカーの評価: 腎生検組織において、I型インターフェロン (IFN-α) 誘導遺伝子であるミクソウイルス抵抗性タンパク質A (MxA) の発現をIHCで評価した。また、形質細胞様樹状細胞 (pDC) の浸潤をBDCA-2抗体を用いて定量した。活動性SVV患者の血清におけるIFN-α濃度もELISAで測定した。
統計解析: 各群間の比較には、Mann-Whitney U検定を用いた。p値が0.05未満を有意差ありと判断した。